《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》12 『ヘンゼルとグレーテル』

ある村にヘンゼルとグレーテルっていう兄妹がいて家がビンボーだから二人は森に捨てられたんだってよ。

……びっくりしたか?

今日はいきなり始めてみたぜ。

驚いたべ?

しかしひでー話だよ。

俺ぁよ、こういう話聞くとマジ許せねーんだ。

食わせていけねーならガキなんて作るんじゃねーよ!

ガキどもが一何したって言うんだよ!

偉ぇやつはこういう事件を何とかしろよ!

……わり。

怒りのあまりちょっと社會を斬っちまったぜ。

え?

仰る通りだけどさっきからチャックが開いてる?

……うるせー。

開けてんだよ。

でよ。

二人は森の中を彷徨い歩くわけ。

人気のない森よ。

……こえーよな。

マジでこえーよ。

自分に置き換えたら超こえーよ!

え?

見知らぬ森に取り殘されたら怖いよねって?

ちげーよ!

そうじゃねえよ!

俺ぁよ……

“妹と二人きりになるの”がこえ―んだよ!

森とかそういうのはどうでもいいんだよ!

妹が怖ぇんだ!

どういうことかって?

いやよ。

実はよ。

俺には年の離れた妹がいるのよ。

今中學生でよ。

ヤヨイって名前なワケ。

まあ、可い顔してるよ。

キレーな黒髪でよ、日本人形みてーだっつってよ、昔は親戚中から褒められたもんだよ。

別にヤンキーってわけでもねーしな。

じゃあなんで怖いのって?

いや、それがよ。

……あいつ、すんげーオカルトに詳しいのよ。

黒魔とかが大好きなんだよ。

いっつも分厚くて黒ぇ本持ち歩いてんの。

夜中とか、ロウソク焚いて、床に魔法陣とか書いて部屋でなんかやってんのよ。

んで、なんか召喚の儀式してんだよ。

時々、部屋から「んぎゃぴー」って鳴き聲がすんだよ。

あれは一なんの鳴き聲なんだよ。

あ?

なにもそんなにビビらなくても?

……あのよ。

俺ぁよ、どんな不良も怖くねーよ。

どんなつえーやつでもかかってこいってなもんよ。

でもよ……。

ヤヨイだけはチビるくれーこえーんだよ!

分厚い前髪で顔はほとんど見えねーしよ!

気付いたらいつの間にか背後にいるしよ!

時々、背中におぶさってるしよ!

ほとんど上下せずにホバリングみてーにして歩くしよ!

……いや、もちろん妹のことはしてるけどさ。

ちょっと趣向がホラーすぎんのよ。

でよ。

ヘンゼルとグレーテルは森の中を彷徨うのよ。

そしたらよ、ババアが住んでる家を見つけるんだよ。

で、寄りのない二人はそこでお世話になることを決めるワケ。

でもよ。

そのババアはよ、実は悪い魔でよ。

なんと……

子供を集めては殺して食べてたのよ。

怖えよ。

超怖えよ。

でもよ。

多分、うちの妹の方がつえーよ。

妹がもしこの狀況になってみろよ。

ヤヨイは絶対、この魔をやっつけちまうぜ。

あいつは心優しい奴だけどよ、悪ぃ奴には容赦しねーんだ。

何度も言うがよ。

ヤヨイの黒魔は……本なのよ。

と、言うのもよ。

俺ぁ昔……見ちまったんだよ。

昔、近所にワルで有名なチンピラがいてよ。

みんな迷してたのよ。

そんなある日、ヤヨイはそいつの藁人形作ったのよ。

んでそれを魔方陣に置いて、呪文を唱えたワケ。

そしたら次の日よ、チンピラの自慢のリーゼントがよ……

サラッサラヘアーになってたのよ。

その日から、チンピラがどんなきついパンチパーマをかけても次の日にはサラサラに戻るのよ!

ヤヨイの力は本なんだよ!

……結局よ。

チンピラはカッコつかなくてよ、真面目に働くようになったよ。

でよ。

ヘンゼルとグレーテルの方もよ、まあなんだかんだあって、魔を倒して二人とも一緒に幸せに暮らしたんだって。

両方とも、マジで結果オーライだよな。

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