《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》20 『すっぱいぶどう』
うーっす。
わっり、ちょっと遅れちまったよ。
いやー実はよー。
さっき地元の食堂で飯食ってたらよ。
いきなりテレビのロケがやってきたのよ。
でよ。
すんげー太ったオーバーオール著たおっさんがその店のレポートし始めて。
これがまた味そうに飯食うのよ。
俺ぁその食いっぷりに惚れちまってよ。
ついつい――
そのロケに參加しちまったよ。
おっさんも俺のこと、すんげー気にってくれてよ。
すっかり仲良くなっちまった。
おかげでロケは大功よ。
……ただよ。
そのおっさん、ちょっと言葉を間違って覚えてるみたいでよ。
ずっと「味い」を「まいうー」って間違えてるのよ。
俺ぁ「それ逆から読んでるぜ」って何度も訂正したんだけどよ。
結局、最後まで治らなかったぜ。
まあよ、人には口癖ってもんがあるからな。
俺もよ、コンビニでついついレジ橫にある月餅まんじゅう買っちまうのよ。
癖ってのはなかなか抜けねえな。
うし、じゃあ早速今日も始めっか。
すんげー昔の話よ。
昔、あるところに狐が住んでたのよ。
でよ。
この狐、手が屆かないとこにあるブドウが食いたくてたまらないワケ。
でも、結局どうやっても取れなかったんだよ。
でよ。
取れないとわかると、急に狐は態度を変えるわけよ。
「どうせあのブドウは酸っぱいに違いない。あんなもの、最初からほしくもなんともなかった」
ってよ。
この話を聞いてよ、俺は一人の男を思い出したのよ。
仕事の後輩のシンジって奴よ。
なかなかのイケメン君でよ。
よく働く、真面目な男なのよ。
で、このシンジ。
実は無類のアニメ好きでよ。
漫畫とかそういうのが大好きなわけよ。
もう死ぬほどそういうのしてんの。
よく分かんねーけど、オタクっつーのかな。
で、シンジはコミケってのに行くのを生きがいにしてるのよ。
目を輝かせながら「楽しみっす!」ってことあるごとに俺に言ってたワケ。
でもよ。
コミケまであと數日ってとこでよ。
急に大きい仕事がってよ。
休みを取ってたはずのシンジまで狩りだされちまったのよ。
當然、あいつはコミケに行けなくなった。
すげー落ち込むと思ってたけどよ、口をとがらせてこういうわけよ。
「いや、別にいいんすよ。今年のコミケは大したことなさそうっすから。つーか、実は俺、最初からそんなに行きたくなかったっすから」
そう言ってよ、いつも通り暮らしてたワケ。
まさに酸っぱいぶどうの狐だぜ。
でもよ。
やっぱりこういう強がりはよくねえぜ。
というのもよ、この後にこんなことがあったのよ。
ある日の仕事終わり。
俺ぁロッカーで泣いてるシンジを見つけたのよ。
聲をかけるとよ、あいつは號泣してしゃくり上げながらこう言ったよ。
「先……輩、俺……本當はコミケに行きたい……っす。死ぬ、ほ……ど、楽しみに、してたん……す」
もうひくほど泣いてんのよ。
涙と鼻水垂れ流してよ。
二十歳超えた男がガチ泣きしてんわけ。
俺ぁ思ったよ。
男がここまで泣いてんだ。
こいつをコミケに行かせてやりてーって。
だから親方に土下座してよ。
一日だけ、奴に休日をやってくださいって頼み込んだよ。
その代わり、自分が2倍、いや、3倍働きますって。
親方はよ、厳しいけど優しい人なのよ。
俺が30分頭を下げ続けると、しょうがねえっつって、休みをくれたよ。
んで、無事にシンジはコミケに行けたってワケ。
その時のシンジの幸せそうな顔を見てっとよ、こっちも嬉しくなっちまったぜ。
夢中になれるもんがあるってな、素敵なこったな。
でもよ。
狐みてーにあのまま拗ねてたらよ、シンジはコミケに行けてねーぜ。
やっぱ、好きなものは好きって正直に口に出すことは大事だぜ。
でよ。
あいつは律義な奴でよ。
世話になったからっつって、コミケで買って來たものの中から一冊、俺に分けてくれたのよ。
いや、俺ぁすげードキドキしたよ。
コミケがどういうとこかはシンジから聞いてたからよ。
なんでも、エロい本が山ほどあるらしいじゃねーか。
あそこはの坩堝(るつぼ)だって聞いてるぜ。
ってことでよ。
俺ぁ家に帰ってよ、ワクワクしながらその本を取り出してみたワケ。
いや、たしかにエロかった。
ここじゃ口に出せねーほどエロいことやってた。
でもよ……
なぜか絡んでんのが男同士なのよ。
なんでだよ!
なんで男なんだよ!
これがコミケのやり方かよ!
俺ぁ下ろしてたズボンを上げてよ。
ユミんとこいって、聞いてみたのよ。
そしたらあいつ、「あっ……ふーん」つって何かを察したような顔になってよ。
半笑いで俺からその本を取り上げていったわけ。
後で調べたらよ、コミケには普通のエロ本もあるみたいじゃねーか。
どういうことなんだよ。
ワケわかんねーよ。
とにかく、結局俺ぁ、コミケのエロ本手にらずよ。
……まぁ、別にいいけどよ。
どうせコミケのエロ本なんて大したことねーだろうしよ!
あーあ、そんなの最初からぜんっぜん、しくなくてよかったぜ!
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