《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》21 『牛に引かれて善寺參り』

……うっす。

あ?

今日はリーゼントじゃないのかって?

そうなんだよ。

今日はちっと落ち込んでてよ。

いやー世の中にはよ、んな“罠”があるよな。

オレオレ詐欺もあるし、ねずみ講なんかも気をつけねーといけねーよ。

……でもよ。

じゃあこの世で一番の罠はなんだっつったらよ。

俺ぁ――

夢の中のトイレだと思うのよ。

俺ぁちいせえ頃、おねしょする時はいっつも夢の中で小便してたのよ。

途中で夢だと気づけばいいんだけどよ。

まだガキのころはよ、たまに夢と同時にやっちまうんだ。

ありゃ本當にトラップだぜ。

社會のどんな罠より狡猾だぜ。

……いや、実はよ。

ここだけの話だけどよ。

俺ぁその罠に――

昨晩、久々にハマっちまったぜ。

まさか大人になって寢小便かましちまうとはな。

さすがに自分でもドン引きだぜ。

カーチャンはもっと引いてたけどな。

でも親父はなぜか妙に優しかったぜ。

とにかくよ。

だから今日の俺ぁ――

リーゼントにする資格がねーんだ。

やっぱ昨日スイカ食べ過ぎたのが敗因だぜ。

おめーもトイレの夢を見たときは気をつけろよ。

じゃ、今日も早速始めんべ。

すんげー昔、あるところによ。

スーパー強なババアがいたワケ。

このババア、噓ばっかついてよ、人から金をだまし取って生活してたワケ。

そんなある日、ババアの持ってた著をよ、牛が頭にひっかけて逃げちまうんだ。

ババアはケチだからよ、そのまま善行寺っつー寺まで追いかけるのよ。

でよ。

このババア、その善寺でえれぇ坊さんにあってよ。

信心に目覚めたの。

んで、そっからは真面目になったらしいのよ。

いや、災い転じて福をなすじゃねえけどよ。

悪いことが起こっても、それがきっかけで人生がよくなるってことはあるんだよ。

実は俺もよ。

この善寺婆さんと同じような験したことがあるわけ。

ある日のことだよ。

俺が焼きたてのメロンパン買いに道を歩いてたらよ、の子が迷子になってたのよ。

こりゃ大変だっつって、俺ぁ番に連れていったワケ。

その途中よ、の子は道々、んな話を聞かせてくれたの。

の子はすげーいろんな昔話知っててよ。

そんですっかり仲良くなっちまって。

番に行くのも忘れて、夢中になって路上で話しまくってたのよ。

そしたらよ……

警察に逮捕されちまったよ。

なんか、通行人に通報されちまったらしくてよ。

完全に変態野郎と間違えられちまったワケ。

結局、俺ぁ番に連れていかれてよ。

いくら弁明しても聞いてくれねーわけよ。

やっぱり見た目がよくねーんだろうな。

金髪リーゼントの上下ジャージ野郎が、稚園児と熱心に話してたんだからよ。

もう最初から犯罪者扱いよ。

でもよ。

その時、番にでっけー聲が鳴り響いたのよ。

「そのお兄ちゃんは、おっきなお友達なんだよ!」

ってよ。

まあその表現もちょっと誤解されそうだけどよ。

とにかくの子のその一言おかげでなんとか助かったワケよ。

その子は泣きじゃくってよ。

俺が友達だってことを警察に必死に訴えてくれたぜ。

……もう気付いたべ?

そうよ。

そのの子こそ――

俺の師匠、マドカさんよ。

それから、俺ぁマドカさんに弟子りしてよ。

昔話に目覚めたワケ。

世の中、思ってもみなかったことから良い方に導かれるってこともあるもんだべ。

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