《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》31 『ハーメルンの笛吹き』
……うす。
わり。
今日はちっとブルーなのよ。
あ?
なにがあったのかって?
いつもわりーけどよ。
ちっと聞いてくれるか。
いやよ。
世の中にはんながあるよな。
キャバクラもそうだし、ギャンブルなんかもそうよ。
どれもついつい甘いに負けちまいそうになるよな。
……でもよ。
じゃあこの世界で一番のはなんだっつったらよ。
俺ぁ――
コンビニの「おにぎり100円セール」だと思うのよ。
コンビニののぼりに「今だけ! 100円セール!」とか書かれたらもうだめよ。
俺ぁ無意識にハンドル切ってよ。
気付いたら店よ。
んで、いつもは手が出ねえ高めのおにぎりを手にしてんのよ。
今日もよ。
もう晝めし食ってるのに、いくらおにぎり3つ買っちまったぜ。
……まあ、うめえからいいんだけどよ。
うし。
んじゃ、今日も始めっか。
これ、ちょー昔のことな。
ある村が大量のネズミに襲われて困ってたのよ。
するとよ。
どこからかフラッと笛吹き男が現れてよ。
村人にこう提案するわけよ。
「私がネズミを一匹殘らず駆除して差し上げましょう。その代わり、功したら報酬を頂きます」
村人は困ってたからよ。
即答で「おねがいします」って頼むわけよ。
契約が立するとよ。
笛吹き男はすぐに笛を吹きだしたのよ。
そしたらよ。
街中のネズミが笛の音に釣られて出てきたのよ。
笛吹き男はそのまま川へと移して、ネズミを全員溺死させてしまうわけ。
見事にネズミの駆除に功したからよ。
當然、男は村人たちに報酬をもらおうとするワケ。
そしたらよ。
ケチな村人たちは急に報酬を渡すのが嫌になってよ。
約束を反故にして、男にビタ一文払わず、それどころか恩人である男を村から追い出してしまったのよ。
ヒデエ奴らだよ。
すると、だよ。
次の日、男がまた現れて、笛を吹き始めたのよ。
そしたら今度はよ。
村の子供たちが笛の音にられてよ。
笛吹き男について行っちまったのよ。
それから、男と子供たちは姿を消し、二度と村には戻ってこなかったってよ。
いやよ。
世の中にはすげー力を持ったやつがいるもんだよな。
この笛吹き男の力は本だよ。
……ただよ。
恐ろしい力を持ったやつと言えば――
うちの妹の「ヤヨイ」の方が上だよ。
いやよ。
前にも言ったけどよ。
うちの妹、黒魔的な能力があんだけどよ。
その能力が最近――
シャレにならねーじになって來てんのよ。
いや、こないだよ。
いきなり妹の部屋から、この世のものとは思えねえ“斷末魔”みてえな悲鳴が聞こえて來たのよ。
んでよ。
急いでヤヨイの部屋の前に行ったのよ。
そしたら、すぐに制服姿のヤヨイが部屋から出てきたんだけどよ。
ヤヨイのやつ――
何故か全、緑のまみれなのよ。
濡れ方がどう見ても返りなのよ。
けどよ、そんなのの生はこの地球上にいねえだろ?
俺ぁよ。
まじテンパっちまってよ。
「ど、どうしたんだよ、大丈夫なのかよ」
って聞いたのよ。
そしたらヤヨイのやつ、にぃ、って微笑んでよ。
こう言ったのよ――
「大丈夫よ、お兄ちゃん。今回の『浸食』は私が食い止めたから」
こえーよ!
浸食ってなんだよ!
うちの妹は一どこの何と戦ってんだよ!
……俺がそうビビってたらよ。
また部屋から奇聲が聞こえるわけ。
今度はまた地獄の主みてーな、恐ろしい聲だぜ。
俺ぁそれを聞くだけでちびりそうになったぜ。
一方、ヤヨイはというとよ。
いっそ嬉しそうな顔で舌なめずりしてんのよ。
んで、懐から見たこともねえ形の見たこともねえ金屬を取り出してよ。
こう言うのよ――
「くくく。奴め。まだ喰い足りないか。ようし、いいだろう。それじゃあ敢えていに乗ってやる。ソッチの世界に乗り込んで、今度こそ、のヒトカケラも殘らぬよう殺(ヤ)ってやるわ」
だからこえーよ!
ソッチの世界ってなんだよ!
こっちの世界以外に世界があんのかよ!
お前の部屋はどこと繋がってんだよ!
つかなんでそんなに好戦的なんだよ!
そもそもお前はなんの使命を帯びてんだよ!
聖杯戦爭でもしてんのかよ!
どんなサーヴァントと契約してんだよ!
……ってことでよ。
これ以上ヤバそうならよ。
おめーにもマジで一回、妹の部屋を見てもらおうと思ってんのよ。
その時は、マジで頼むぜ。
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