《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》34 『ほしのぎんか』

うす。

今日はよ。

ちっと俺が「ヤンキーになった日」の話をしようと思ってよ。

それにはよ。

まずはこの話を聞いてほしいのよ。

昔々のことだよ。

あるところに、心の優しいガキがいたのよ。

こいつには両親がいなくてよ。

すげー貧乏だったの。

持っているものは自分が著ている服と、ヒトカケラのパンだけよ。

それだけ持って、野原を歩いていたわけ。

そしたらよ。

向こうから腹を空かせたジジイが歩いて來たのよ。

ガキはよ。

自分も腹が減って死にそうなのに、持っているパンをそのジジイにあげちゃうのよ。

んで、また歩いてたらよ。

今度は寒くて仕方がないっつって、また別のガキが泣いてるのよ。

ガキはよ。

それは可哀想だっつって、自分の著ている服をいで、そいつに著せてあげるのよ。

そんな調子でよ。

の子はどんどん自分のものを人にあげていってよ。

最後には下著まで渡しちまって。

すっぽんぽんになっちまうのよ。

んでよ。

いよいよどうしようもなくなって、ガキは夜空を見上げんのよ。

そしたら空には一面の星があってよ。

ガキは綺麗だなって思って見惚れんのよ。

するとよ。

その星が銀貨となって降り注いだのよ。

神様が、この優しいの子に助けを與えたんだな。

そのガキはその銀貨で服と食べを買ってよ。

幸せに暮らしたらしいぜ。

……俺はよ。

このガキこそ『ホンモノ』だと思うのよ。

人間はよ。

自分がつれぇとき、しんどいときはなかなかそうは出來ねえ。

それが出來る奴こそがホンモノよ。

……実はよ。

俺の中學のときのダチにもよ。

この『ホンモノ』がいたのよ。

そいつの名前はヨシダって言ってよ。

クソみてーに真面目で正しい奴だったぜ。

正直に言うとよ、最初のころはよ。

俺はあんまり好きじゃなかったのよ。

なんつーか、正論ばっか言う奴でよ。

難しいことばっか言ってて。

ただのカッコつけだと思ってたわけよ。

でもよ。

ヨシダのクラスでいじめられてるやつがいたんだけどよ。

ある日、ヨシダはそれが我慢できなくて、いじめっ子たちに一人で立ち向かったわけ。

でも、やっぱり多勢に無勢でよ。

いじめっ子には勝てなかった。

そしたらよ。

次の日から、ヨシダがターゲットになったんだよ。

ま、よくある話だよな。

いじめっ子は一人じゃ勝てねえからよ。

徒黨を組んでヨシダをイジメ始めたの。

弁當に蟲れられたり、便所で水かけられたり、あとは単純に毆られたりよ。

正直、最初にいじめられてる奴より遙かにエスカレートしてたぜ。

……俺はよ。

そん時、ヨシダの味方にはなれなかった。

けねー話だけどよ。

やっぱ怖くてよ。

積極的にイジメることはなかったけど、シカト決め込んでたのよ。

ま、同罪だよな。

んで、ある日のことよ。

俺が一人で家に帰ってたらよ。

ヨシダが校門のとこでうずくまってんのよ。

俺は見ちゃいけねーもんを見ちまった気分になってよ。

足早にヨシダの橫を通り過ぎようとしたわけよ。

そしたらよ。

「みゃー」

って鳴き聲が聞こえてくんのよ。

貓だよ。

ヨシダの腹の下に、野良貓がいたのよ。

「おい、その貓、どうしたんだ」

って俺が聞くとよ。

「いじめられてたんだ」

って、ヨシダはそれだけ答えたのよ。

その時よ。

俺ぁ、こいつぁすげー奴だと思ったぜ。

これが『ホンモノ』だってな。

自分がひでー目にあってんのによ。

まだ他人を助けんのかって。

こりゃあただのカッコつけじゃねーよって。

……でもよ。

現実は「ほしのぎんか」みてーに甘くねえのよ。

いくら正しい行為をしたってよ。

ヨシダには神様も現れねーし、奇跡も起きねえわけ。

こいつはこんなにもすげー奴なのによ。

明日も明後日も、無視されて悪口言われて、毆られるのよ。

俺はヨシダをどうにかしてやりてえと思った。

俺ぁバカだからよく分かんねえけど。

こんなのはありえねーって思ったわけ。

でもよ。

俺はヨシダみてーな「ホンモノ」じゃねえんだ。

毆られたりすんのもイジメられるのも嫌なの。

中坊の俺には、そこまでのはなかったのよ。

だからよ。

ニセモンの俺は、ニセモンらしくやるしかねーと思ったわけ。

その日、家に帰るとよ。

俺ぁまず、年玉を貯めてた豚さん貯金箱をぶっ壊したのよ。

そんですぐにマツキヨにブリーチ買いに行ってよ。

出來るだけ派手な金髪にしたんだ。

それからホームセンターに金屬バット買いに行って。

帰りに知り合いの兄貴がやってる床屋で、バリバリのリーゼントにしてもらったの。

俺は、そうしねえと戦えなかったのよ。

俺は次の日から、ヤンキーとして學校に行ったのよ。

いきなりヤンキーデビューよ。

文句あるやつはかかって來いよってなもんでよ。

金屬バット持って教室にったよ。

クラスの奴らは大笑いしたぜ。

いじめっ子も笑ってた。

俺ぁ、そいつんとこ行ってよ。

思いっきり金屬バットで、そいつの機をぶったたいてよ。

ぶったたいてぶったたいてぶったたきまくってよ。

「今度俺を笑ったやつはぶっ殺す。あと、ヨシダをイジメたやつもぶっ殺す」

っつったのよ。

俺ぁその瞬間から、完全にヤンキーとして振舞うようにしたのよ。

堂々とタバコも吸ったし、廊下もガニで歩いたし、制服もだらしなく著崩した。

ちょっかい出してくる奴の喧嘩も、全部かったぜ。

ダセーしカッコわりーし、最悪の中學生だよな。

自分でもそう思うぜ。

でもよ。

そうしてるに、ヨシダへのいつの間にかいじめは終わってた。

そのおかげで停學になりまくったけどよ。

おまけに、卒業まで俺にはヨシダ以外のツレはいなくなったけどよ。

ま、悪くねえ中學時代だったぜ。

つーわけでよ。

俺ぁ、そっからズルズルヤンキーやってるってわけ。

最初はニセモンのヤンキーだったけどよ。

今はちったぁ本に近づいてっと思うぜ。

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