《ヤンキーが語る昔ばなしシリーズ》39 『まんじゅうこわい』

ういっす。

いやー、さみぃさみぃ。

うっかりしてる間によ、季節はすっかり冬だな。

いきなりだけどよぉ。

俺、冬が大嫌ぇなのよ。

どれくらい嫌いかっつーと、そりゃもうお灑落なショップ店員の視線くれー超嫌ぇなワケ。

それじゃあなんでそんなに嫌いかって言うと、だよ。

ちっと長くなるけど聞いてくれよ。

まず第一によ。

寒ぃからなのよ。

當たり前だけどよ。

これがもう単純に嫌なワケ。

耳とかいてーしよ。

すぐ風邪ひくし。

ほんと最悪だべ。

それから第二によ。

冬はなんつーかよ。

その、あれだよあれ、その……

…………うん。

まあ、「寒いから」以外に特に理由なかったけどよ。

とにかく嫌ぇなワケ。

でもよ。

そんな冬嫌いの俺でも、唯一、テンションの上がる出來事があんのよ。

それじゃあこの世界で一番楽しい冬のイベントと言えば何かって言えばよ。

俺ぁ――

『鍋』だと思うのよ。

気の合うもんどうして一つの鍋を囲んでよ。

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みんなでくだらねー話をしながら、の芯まで溫まんのよ。

水炊きに味噌鍋にすき焼き。

いや、どいつもこいつもたまらねえじゃねえか。

……ただよ。

実は俺、その楽しい『鍋』がすげー怖ぇのよ。

とにかく怖くて怖くてたまらねえんだ。

もう、鍋を見るのも嫌なのよ。

あ?

そりゃどうしてかって?

いやよ。

それがどうしてかって言う前によ。

まずはこの話を聞いてくれよ。

うっし。

それじゃ、今日も始めんべ。

バッキバキに昔のことだよ。

あるところによ。

ヤンキーが集まって、みんなで「怖いもの」の話してたんだよ。

ヤンキーどもはみんな「チャカがこえー」だの「ドスのほうがやべー」だの言ってんだけどよ。

その中に一人、「まんじゅうが怖い」って言うにーちゃんがいたの。

ヤンキーどもはよ。

まんじゅうが嫌いたぁどういう了見だって問いただしたんだけどよ。

そいつはただ「まんじゅうがこえぇんだ」ってブルブル震えるだけなのよ。

でよ。

実はそのヤンキーどもはいたずら好きのろくでなしどもでよ。

いつも誰かを怖がらせて遊んでたのよ。

それで、ある日、まんじゅう嫌いのやつを怖がらせてやろうってんでよ。

そいつの部屋に、まんじゅうを山ほど放り込んでやったのよ。

ヤンキーどもはさぞ驚くかと思ったらよ。

中で、にーちゃんはまんじゅうを味そうにパクパク食ってんのよ。

そんでにっこり笑って「俺は今は溫かいお茶が怖い」つったのよ。

いや、このにーちゃん、チョー頭いいぜ。

多分、いい大學出てるぜ。

つまり、だよ。

にーちゃんは「怖い」と言ったものでヤンキーどもが嫌がらせをしてくるって知ってたんだな。

だから本當は大好の「まんじゅう」を、あえて怖いつって、まんじゅうをただで手にれようとしてたワケ。

なはは!

もう気付いたべ?

さっき俺が鍋が怖いっつったけどよ。

それは実は「好き」の裏返しだったってわけだよ。

鍋が怖いって言えば、いたずら好きのオメーが「鍋」をご馳走してくれると思ってよ……

なーんつってよ!

傑作だべ?

……って話を、おめーにしようと思ってたんだけどよ。

ちっと事が変わったのよ。

昨日のことだよ。

実はよ、うちの家族で『鍋パーティー』をしようって話になってよ。

カーチャンが「好きな食材をみんなで持ち寄ろう」ってことになったワケ。

俺ぁテンションマックスでよ。

エノキとアンコウを買って、家に帰ったのよ。

でよ。

いよいよみんなで鍋に食材をれようってなった時によ。

カーチャンが「馬路村のポン酢買い忘れた」とか言ってよ。

急遽、スーパーに出かけて行ったの。

そしたらよ。

またうちの親父がよ、「どうせなら電気を消して、闇鍋にしよう」とか余計なこと言い出したわけ。

俺もよ。

浮かれてたしよ、おう。いいぜって安請け合いしちまったんだけど――

それが運の盡きだったよ。

俺も親父も、“アイツ”の存在を忘れてたのよ。

……そうです。

我らが不思議、妹の『ヤヨイちゃん』です。

どうやら、ヤヨイも食材を用意してたようでよ。

親父が電気を消した途端に。

まず、あいつがその食材を鍋にぶち込んだみたいなのよ。

暗闇の部屋中に「ピギャー」とか「プギュルプギュル」とかワケわかんねー鳴き聲がし始めてよ。

すんげー臭いが部屋中に充満して。

電気をつけたときには、鍋はどす黒い濃い紫になってんのよ。

ぼこぼこと煮えたぎる鍋の中には見たことのねえ生きが浮かんでんの。

それはもう地獄みてーでよ。

文字通りに――

「闇の鍋」が完してたよ。

俺と親父は中から汗が噴き出してよ。

こりゃマジでヤベーつって、恐れ戦いたぜ。

「さ。召し上がれ」

だっていうのによ。

ヤヨイは何事もなかったように小皿に正不明のをよそって。

俺に突き出すわけ。

皿の中ではよ。

羽の生えたムカデみてーなのとかまっ黃蟲みてーなのがうじゃうじゃ蠢いてるのよ。

俺は手が震えたよ。

どう見ても“あっちの世界”の生なワケ。

「大丈夫。新鮮だし魔力回復には持ってこいだから」

妹はいつものように分厚い前髪で覆われた顔からそんな言葉を吐くんだけどよ。

俺にはそもそも魔力とかねーしよ。

あっても魔法なんて使ってねーんだから回復する必要もねーしよ。

悪いんだけど、食べらんねーって斷ったのよ。

「……食べてくれないんだ」

そしたらヤヨイから、不吉なオーラがあふれ出して。

それはもう、この世の悪寒を集めたような禍々しい念だよ。

俺はもう心臓が震えあがってよ。

けなくなっちまったぜ。

「……じゃあ、おとーさん」

次に、ヤヨイは親父にロックオンしたのよ。

親父はもう汗だくでよ。

しばらく黙ってぷるぷるしてたんだけど――

「手がったーーー!」

つってよ。

鍋をひっくり返して、逃げちまったのよ。

それを見てヤヨイは泣き出しちまうしよ。

辺り一面に化け鍋がぶちまけられるしよ。

もう無茶苦茶だよ。

俺もどうしていいかオロオロしてたのよ。

そうしたらよ――

そこにカーチャンが帰って來てよ。

「あんた、ヤヨイを泣かせるんじゃないよ!」

つって、間髪れずにジャイアントスウィングよ。

俺ぁ襖に突き刺さってよ。

ついに、本當に「鍋」が怖くなっちまったんだ。

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