《お月様はいつも雨降り》第二従零目
<登場人>
靜寂秋津 (しじまあきつ)
小學五年生のどこにでもいる男子
小泉 廉 (こいずみれん)
アキツの小學校の同級生
大椛マサハル (おおなぎまさはる)
アキツの小學校の同級生
上野カエデ (うえのかえで)
アキツの小學校の同級生
播磨ヒロト (はりまひろと)
アキツの小學校の同級生
佐橋ユキオ (さはしゆきお)
アキツの小學校の同級生
大熊サユミ (おおくまさゆみ)
アキツの小學校の同級生
森脇イツキ (もりわきいつき)
アキツの小學校の同級生
モリワキルナ
イツキの雙子の姉でアキツの小學校の同級生
「スケベ森の木が全部切られてたって」
「ユッキ、もう前から工事が始まってたよ、マンションが建つんだって」
中休み、ユキオが大ニュースとばかりに隣のクラスから飛び込み話し出したのを、レンは驚くことなく軽い返事でその會話を斷ち切った。
「えっ、知ってたの?」
「ザリ沼も埋め立てられてデパートになるってよ」
「デパート?」
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「ショッピングモールって言うんだよ」
ヒロトの言葉だけじゃなく、たいがいレンは誰かの言葉よりも新しい報を上乗せする。それが、原因でマサハルはよく怒り出すが、別に嫌われてはいない。どちらかというとレンから聞いた言葉をマサハルは他のまだ知らないやつに聞かせて自慢げに話す方が多い。
ボロボロになったのの人が載っていた本があったのがスケベ森、アメリカザリガニが採れたどぶがザリ沼、どちらも僕たちが一年生の頃から遊んでいた場所だ。
僕が住んでいるところは、そんなに都會でも田舎でもないと思う。電車だって十分待てばすぐに來るし、高速道路だって通っている。それでも雑木林がなくなって、うるさい婆がいた駄菓子屋さんもなくなって、多くなったのは人と車だけ、學校の橫の道路は二倍ぐらいに広くなって歩道橋ができたくらいだ。
今日は朝から雨。育館が使えるのは他の學年だから、ぼくたち五年生はグラウンドで遊ぶこともできなくて、だらだらとした話で時間をつぶしている。
「それよりもさ、ほら、組長の家あるじゃん」
親分の家とは、レンの家の近くにある高い塀に囲まれた家だった。うちの學校の卒業生が、あそこにはやくざの組長が住んでいるという噂を流してから、僕たちの中では、その大きな門と家のある場所は『組長の家』と呼ばれていた。
「トラックが何臺もとまっててさ、前を通ったら見たことのない僕と同じくらいの子たちが出てきたんで會って話したんだ」
「ええっ、話しかけたの?」
「向こうから、學校の場所を聞いてきたんだ、その子たち、転校してくるんだってさ」
そばで違う話をしていた子も興味をもったらしく、すぐにレンの周りに集まってきた。
「ねぇ、その子たちって男の子、の子、兄弟なの?」
カエデはマサハルを押しのけてレンの正面に座った。
「どれだと思う?」
「男と男!」
「レンだったらすぐに誰でも話すことができるからの子二人」
早速、クイズの時間となった。
「男とと男」
「それ三人だろ」
「男と男と犬」
「犬は余計だよ」
「ねぇねぇ、男の子だったらカッコいい人?」
サユミが変な質問した頃には、もう僕たちの周りは人だかりになっていた。
「早く、正解を言えよ!」
マサハルが我慢できずにレンの機を両手でガタガタと揺らした。
「じゃぁ、言うよ……」
チャイムが鳴ると同時に擔任の先生が教室にってきた。いつもだったら五分経っても來ない時があるのに、こんな楽しい話をしている時に限って早いのが不思議だった。
「おぅい、早く座れ!」
いつも決まったスポーツメーカーのジャージしか著ない擔任は、持ってきた教科書を教卓の上に置き、僕たちに席に著くよう促した。
「今日から転校生がうちのクラスにるぞ、それも二人だ」
學級から驚きと喜びの聲が上がった。
「れ」
擔任の聲に教室の扉が開き、子が二名ってきた。ただ、それは僕が間違っていた。
一人は腰まである長い黒髪を白いリボンで二つに結んだ笑顔がかわいいの子。
もう一人は、顔の似た男子の僕から見てもしカッコよく見える男。
「靜かにしろよ」
クラスの子からの黃い聲をマサハルはわざとらしく注意した。
「自己紹介はそれぞれでしてもらおうか、それじゃ……」
「私から話します。モリワキルナと言います、よろしくお願いします、みなさんと早く仲良くなりたいです」
その子の何気ない表や仕草にがし締め付けられたような気がしたのは僕だけではないはずだ。
「森脇イツキ」
男の方はそれだけ言って不機嫌そうにしている。ただ、さっきのの子と違い、その仕草はクラスの全員の子の心を見事に止めたようだった。
この時のどこにでもある出會いが僕の……僕らの未來を大きく変えたことに僕はまだ気付いていない。
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