《お月様はいつも雨降り》第二従三

<登場人

上野カエデ (うえのかえで)

アキツの小學校の同級生 シャンと同型の男仕様の『月影人形』と共に行している

長井 (ながいしげよし)

公安調査庁公安調査 連続破テロ事件の犯罪組織を追う

組織犯罪と思われる連続破テロ事件は続いている。

業を煮やした日本政府は厳戒態勢の中、閣府、法務省、國家公安委員會、防衛省等、機関関係者による合同対策會議を霞が関において連日行っていた。

「どうせカルトや過激派のテロなのだろう、それが何で逮捕するのにこのように時間がかかるのだ、君たちがもっている報があれば微罪で検挙したり何かしたりすれば解決など早いだろうに」

年老いた政治家の一人は、説明している公安委員會の役人に毒づき、他の関係省庁が行ったこれまでの説明にもあらん限りの暴言を振りまいている。

「お前たち、稅で給料もらっている自覚はあるのか?」

「まぁまぁ、大臣、ここはもっと話を聞いてあげましょうよ」

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深々と椅子に座った議員は慣れたように、大臣と呼ばれる老人を制しながらも、さっきの老人以上に強い口調で攻め立てた。

「とはいえ、これじゃ國民が納得するような回答ではありませんね、あなたたちには日本の中樞を擔っているという意識はあるの?ほら、ここのいくつかの複數外資企業の関與、これだって、どこのどういう企業でということがまったく分からないじゃないの、もっと未確認のことも含めてすべて報告してちょうだい、ただ裁だけ整えればいいってものじゃないのは、エリートともてはやされた皆さんならお分かりのことでしょ、人形のような玩を使った可能?そしたら、玩メーカー全部あたればいいじゃないの、どうしてそのような簡単なことができないの?」

議場の高い天井に延々と響くの金切り聲を耳にしながら、役人たちはその説明に追われていた。

その議場から數本の道路を挾み、緑の濃い公園がある。その中の施設のひとつに今の時代には珍しい常設の野外音楽堂がある。

役人が怒鳴られている同じ時、扇形をした音楽堂のステージ上に若手の弦楽奏者たちが集い、聴きなじみのあるクラシック音楽を奏でていた。

ステージを取り囲むように設置してあるベンチ席のほとんどは空席であったが、それがかえってしく流れる旋律に広がりをもたせていた。

「これ何て曲なの」

最後列の椅子に一人で座る若いは、そう言って大きなあくびをした。の周囲に人の姿はない。ただ、傍らには近くの百貨店名がプリントされたショッピングバックが一つだけ置かれていた。

「ヨハネス・ブラームス弦楽五重奏曲第二番ト長調作品百十一、第四楽章ヴィヴァーチェ マ ノントロッポ プレストです」

「退屈ね」

「はい、お嬢様のおっしゃる通り、私にもただの時間に同期させた鋸歯狀波の強弱にしかじられません」

「マサハルたちはもう準備ができたのかな?」

「すべてマスターのプラン通りです」

「ねぇ、何でボウは私たちと一緒に戦ってくれないのかな、みんなとした約束を忘れちゃったのかな、だってあの時、ボウが一番悲しんでいたのに」

「ご心配なく、マスターはまもなく合流するとの予測を既に立てています」

「あなた、分かってない、ボウは前から予測できない奴なのよ……一番馬鹿なくせして」

「失禮いたしました、カエデお嬢様」

「それでもマスターの予測を信じるしかないのかな……」

「はい、マスターは絶対神です」

「あなたたちお人形さんにとってはね、私にとってはただの……」

第四楽章を終え、五人の奏者は観客席に深々とお辭儀をした。はその姿へおざなりな拍手で応えた。

突然、振と大きな発音が公園の木々の枝を激しく上下に揺らした。

同じような振が二度、三度と繰り返される。

「うふ……始まった……この方がずっといい曲ね、それじゃ、こっちも準備をしましょう」

「承りました、お嬢様」

ショッピングバックが倒れ、中からフロック・コートを纏う青年の姿をした人形が表れた。あわてて避難する音楽堂の観客や演奏者たちはその存在に気付くことはない。

「六十秒後、第二波が來ます」

「ねぇ、どうせなら前のステージの上でやってみてよ」

「お嬢様のおみとあらば」

人形は高速で通路を進み、ステージ周辺の機材を守ろうとする音響擔當の者たちを青い瞳で睨んだ。

若者たちは膝からゆっくりと崩れ落ち、そのままステージ上に倒れた。

「それではお嬢様、國土防衛組曲『雨夜月(レイニーナイトムーン)』の演奏を開始いたします」

カエデと呼ばれるの雰囲気を殘したは微笑みを浮かべ、小さく拍手しながらつぶやいた。

「みんな本當はこういうことがしたかったんだろうな……」

公安調査の長井がその連絡をけた時、彼は都下のある施設で警察庁の公安部職員と関係調査の詳細を詰めていたところであった。

公安部でも木戸浦調査のような不明者がこの二か月あまりで急激に増加している。

「やはりあの関係か……」

「しかし、証拠があまりにもない」

長井の攜帯端末に著信音が鳴った。

「この忙しい時に……」

信した長井は自分の耳を疑った。

「すまん……もう一度言ってくれ」

そこにいた數名の職員にもほぼ同時刻に急連絡がった。

「そんなこと、ありえないだろう……霞が関が……霞が関がやられるなんて」

ベテランを自負する長井の額に冷たい汗がじんわりと浮いた。

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