《お月様はいつも雨降り》第二従七目
<登場人>
靜寂秋津 (しじまあきつ)
就活中の大學生、謎の企業からの姿をした人型端末『シャン』を贈られる。
シャン
『月影乙第七発展汎用型』の人型端末
小泉 廉 (こいずみれん)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している
大椛マサハル (おおなぎまさはる)
アキツの小學校の同級生 カエデと活を共にする
上野カエデ (うえのかえで)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の男タイプの『月影人形』と共に行している
播磨ヒロト (はりまひろと)
アキツの小學校の同級生
鳥羽口ツカサ (とばぐちつかさ)
ヒロトの妹
佐橋ユキオ (さはしゆきお)
アキツの小學校の同級生
大熊サユミ (おおくまさゆみ)
アキツの小學校の同級生
名栗ワカナ (なぐりわかな)
アキツの小學校の同級生
湯岐ジュン (ゆじまたじゅん)
アキツの小學校の同級生
諏訪山マモル (すわやままもる)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している
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森脇イツキ (もりわきいつき)
ベンチャー企業『クトネシリカコーポレーション』の代表取締役
アキツの小學校の同級生
モリワキルナ
イツキの雙子の姉でアキツの小學校の同級生
帰り道、僕はヒロトが小さなの子の手を引いて商店街を歩いているところに行き會った。
「ボウ、今日はよく會うなぁ、ルナと帰るんじゃなかったの?」
「だからルナとはそんなんじゃないよ、今度、そんなこと言ったら許さねぇよ」
「あはは、ごめん、分かったよ」
「おにいちゃん、このこだぁれ?おともだち?」
そう聞いてきたのはヒロトの橫にいたのは一年生の名札を付けたおさげ髪のの子だった。
「ツカサはボウと會ったことなかったかもね、ボウ……あれ苗字はど忘れした」
「しじま」
僕はわざとあきれた顔をつくってそう答えた。
「そう、しじまあきつ、お兄ちゃんとおなじクラスだよ、ほら、あいさつをして」
「鳥羽口(とばぐち)ツカサです」
おずおずと名前だけ言ったそのの子は細い眼をさらに細くして照れくさそうに笑っている。
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「この子は?」
「僕の妹だよ」
「だって、苗字違うじゃん、どうして?」
僕の質問に、ヒロトはその場を笑ってごまかしていた。の子に急かされてヒロトはし気まずそうに夕方の買い客でにぎわう商店街の人の流れの中に消えていった。
次の日に僕はこっそりレンに昨日のヒロトのことについて聞いてみた。
「ああ、それね、三年生の時にヒロトに新しいお父さんが出來ただろ?」
「覚えてない」
「お前、いつもボーっとしてるから忘れたんだろ?あの家はヒロトだけ名前が違うんだって」
「え、どうして?みんな同じ苗字にすればいいのに」
「そんなの知らないよ、でも何か々あるみたいなこと、うちのママが前に言ってた」
「ふうん」
僕はし後になって同じことをイツキにも聞いてみた。
「でも、みんな幸せだったらそれでいいと思うよ、どんな時でも家族の心がつながっていることが一番大切だと思うから」
そう答えた時のイツキはし寂しそうな眼をしていた。
「ボウもさ、もうそのことは誰にも聞かない方がいいと思うよ、誰にでも言いたくないことがあるんじゃないかな」
「分かった、イツキがそう言うなら」
僕は何でイツキが寂しそうな顔をしたのか不思議だったけど、イツキにそう言われてからこのことを話題にすることはなかった。
時々、廊下で會うヒロトの妹は僕のことを覚えていて、僕の顔を見るとかわいい笑顔を見せてくれた。
それからしばらくして、僕たちの教室を騒がせる出來事が起こった。
六時間目の道徳の授業中、教頭先生が慌てた様子で黒板の所にいた擔任の先生を廊下に呼び、何かを早口で説明していた。
教室に戻ってきた擔任は、すぐにヒロトに家へ帰るよう指示し、僕たちにはこの時間が終わるまで自習しているよう短く伝えた。
しばらくして戻ってきた擔任の先生にマモルが質問した。
「先生、ヒロトどうしたんですか?」
「あ、いや、家の用事だ、それと今日はまだ學校に殘っている四年生以上は集団下校になるから、みんな帰りの準備は急ぎなさい」
先生はいつもと違って、何か慌てているような口ぶりだったが、すぐに話題を切り替えて授業にった。
僕は、その時に前にイツキが言っていた『誰にでも言いたくないこと』の意味がし分かったような気がした。
帰りの會の時間になって、集団下校の理由は事故防止のためだと先生は教えてくれた。
家に帰ってきてから僕はテレビのアニメがる前の流れていたニュースで、ヒロトのお母さんと妹が通事故で亡くなったことを知った。事故を起こしたトラックは、人をたくさん殺してみたいと思っていた男の運転だったことをアナウンサーが説明していた。
「人を多く殺せば幸せが訪れるなんて、世の中には怖いことを考える人がいるものですね」
男のコメンテーターのあっさりとした言葉で、次のニュースに切り替わった。僕はテレビを見ているようで全く見ていなかった僕の頭にヒロトの妹の笑顔だけが殘っている。とても可哀そうだけれど、悲しいという気持ちがおきない何か変なじだけがしている。
僕の近な人が亡くなったのはそれが初めてだった。
二週間くらいしてから、ヒロトが登校してきた。暗い顔をしたままのヒロトを見て、僕やクラスのみんなはどう話し掛けていいか分からないでいる中、イツキとルナだけは普段通りに聲を掛けていた。
その二人の姿を見て僕はイツキのようにはうまくできなかったけれど、できるだけいつもしているような聲を掛けようと思った。それはマサハルやカエデも同じことを思っていたようだった。
それからヒロトは僕以上に、イツキとよく話すようになっている。僕もイツキとは気が合ったので、信頼できる仲間が増えたような気がしていた。
ヒロトは知りのイツキによく質問をしていたし、勉強もまるで格が変わったように人一倍頑張っている。僕たちは育館に通じる渡り廊下のベンチに座っている。
「すごいねヒロト、テストに合格したのが、またイツキとルナとヒロトの三人だけなんて」
「たまたまだよ」
「イツキもヒロトもルナも大人になったら何にでもなれるね」
近くで僕の言葉を聞いていたイツキは笑った。
「ボウだってできるよ、人間は十パーセントしか能を使っていないというのは噓みたいだけど、脳の働きをよくコントロール出來たら、もっと、々なことが出來るのは間違いないみたい」
「そんな薬あるの?あるんだったらすぐに飲みたいよ」
「ヒロトが作ってくれるんじゃない?」
イツキが冗談っぽく言った。
「ううん、僕がしたいのは……やっぱやめとく」
「教えてよ」
「えへへ……」
ヒロトが悲しそうに笑った。この表を彼がした時は、多分、亡くなった妹に関係することなのかなと、にぶい僕にも何となく分かった。
「ヒロト、ボウ、僕がいつかみんなの夢をかなえてみせるよ、だから、みんな僕が困っていたら助けてくれる?」
イツキの頼もしい言葉に僕もヒロトも了解した。
「あーあ、また、いつもの三人組、何がそんなに楽しいのかな」
ボールを持ったルナがベンチの後ろに立っていた。
「ボウの新しいバナを聞いていたとしたらどうする、別の好きな子ができた話とか」
イツキが珍しく冗談を言ったと同時に、ルナのボールがイツキの頭の上に落ちた。
「何さ!」
顔を赤くしながらルナは育館に戻っていった。
唖然とする僕の顔を見てヒロトとイツキはおなかを抱えて笑っている。
(そんなこともあったな……)
その時、目の前の景が揺らぎ、僕の全が深く暗いに落ちた覚に包まれた。
気が付くと、僕は乗客の乗っていない列車の座席で窓にもたれかかるようにして寢ていた。
「上様、急じゃ!」
ルナの聲がしたような気がした。
「ルナ、どこにいるんだ?」
「何をまだ寢ぼけておるのじゃ、わしじゃ」
抱えていた上著から小さなシャンがモソモソと顔を覗かせた。
僕はその時になってようやく気付いた。髪のこそ違っているけれど、人形のシャンの顔は夢の中で再會したルナの顔そっくりだったことに……。
「客人(まろうど)の使いが東京に現れて、多くの犠牲者がでたようじゃ」
「まろうど?」
僕の頭の中は占めていた霧が風で流されていくように徐々に現実に戻ってきた。
「あれからどのくらい経ったの?」
「いいとこ三十分じゃ、寢ながらも時々笑っていていい気なもんじゃ、急事態ゆえ、一度起こした」
僕のスマホのネットニュースはどれも東京の事件を速報で報じている。
「何じゃこりゃ……で、どうしよう?」
「もう!それはこっちが聞きたいがゆえに起きてもらったのじゃ」
「そう言われても……」
「とりあえず逃げるか、自分の楽しみのために戦うか、誰かを守るために戦うか、悲観して自死か、考えつく中から好きなのを選べばよい、それによってわしのプログラムも対応しやすいよう順次書き換える」
「戦うったって武なんかないだろ、それに何、こいつら、マネキン?マネキンと戦うの?向こうは何で、どんな理由で攻めてくるんだ」
「そんなにいっぺんに聞かれても分からぬ、武はマスターが格納している場所の地図すべてセキュリティが外されてオープンになったからの、上様は橫取り好きなのを選び放題じゃ」
「武って、警察に捕まるだろ」
「このペースでやられたらその警察もほとんどあてにならぬ、自衛隊がくのも時間がかかりそうじゃからのう、大きいのが來る前にどれだけ使いを駆逐できるかが勝負の分かれ道じゃな」
「つまりそれって」
「うむ、戦(いくさ)じゃな」
「そんな簡単に言うなよ」
「心配ご無用、『上様を守りともに戦うため』それがわしの大切な使命じゃからの、上様とお目通りした時にそう伝えていたはずじゃ」
僕たちが乗っていた電車は二駅進んだところで全面運休となった。
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