《お月様はいつも雨降り》第三従零目
<登場人>
靜寂秋津 (しじまあきつ)
就活中の大學生、謎の企業からの姿をした人型端末『シャン』を贈られる。
シャン
『月影乙第七発展汎用型』の人型端末
小野なな子 (おのななこ)
『小町』という別名をもつコスプレーヤー兼アングラ界のアイドル アキツとは同じゼミ
鹿みやび (しかないみやび)
アキツが救おうとした子高生
菅原 治 (すがわらおさむ)
気な格で人の心に遠慮なく踏み込んでくる小野なな子親衛隊員 アキツとは同じゼミ
柿本海人 (かきもとかいと)
眼鏡をかけ鋭い観察眼をもった小野なな子親衛隊員 アキツとは同じゼミ
小泉 廉 (こいずみれん)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している
大椛マサハル (おおなぎまさはる)
アキツの小學校の同級生 カエデと活を共にする
上野カエデ (うえのかえで)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の男タイプの『月影人形』と共に行している
播磨ヒロト (はりまひろと)
アキツの小學校の同級生
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鳥羽口ツカサ (とばぐちつかさ)
ヒロトの妹
佐橋ユキオ (さはしゆきお)
アキツの小學校の同級生
大熊サユミ (おおくまさゆみ)
アキツの小學校の同級生
名栗ワカナ (なぐりわかな)
アキツの小學校の同級生
湯岐ジュン (ゆじまたじゅん)
アキツの小學校の同級生
諏訪山マモル (すわやままもる)
アキツの小學校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行している
森脇イツキ (もりわきいつき)
ベンチャー企業『クトネシリカコーポレーション』の代表取締役
アキツの小學校の同級生
モリワキルナ
イツキの雙子の姉でアキツの小學校の同級生
「あんた、よくも図々しく生きていたわね、スパイの癖に」
部屋から出ていこうとしていたカエデは、大型スクリーンに投影された青年の顔を見るなり言葉を吐き捨てた。
「君からそういわれるほど自分では落ちぶれたとは思っていない、むしろ、君たちが社會から孤立しないように守っていた、そう言えば納得してくれるかい?」
レンの言葉にマサハルはスクリーンに目をやることなく、腕を組んだまま下を向き黙っている。
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「何が守っているって?ヨーロッパで起きていた事象はあんたたちの仕業でしょ」
「あれはただの実験の結果だ、元はと言えばこの災害の原因はすべてイツキ……君が源だよ、もう日本だけで何人死んだんだ?百人じゃきかないだろ、こうしている間に、客人は殺害を継続しているよ、犠牲者を數える目の前のカウンターはまだきを止めていない、君らの方こそ正義の味方のふりは止め、私たちに協力したほうが解決の糸口は見付けられる……何事にも組織だよ、なぁ、イツキ、俺には君が企業の最高経営責任者ではなくただのカルトの指導者にしか見えないよ」
イツキは言葉を返すことなく微笑んでいる。
「昔の友人が教えてあげようと言うんだ、これから二十四時間以にアメリカ大統領の直々の要請によって、日本政府が君の企業の全施設及び設備を差し押さえに來るよ、今、この俺と繋がっている獨自ネットワークを除いて午前零時をもってすべて遮斷されるよ、臺灣の地下工場も同様さ、その前に、俺たちと手を組むことで君があの頃からんでいる真の平和も実現できる、共に戦おう」
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黙っているイツキに代わり、隣に座るヒロトが口を開いた。
「東アジア共同統合軍の最年の大佐どの……その飾りのような今の待遇に君は満足しているのかい?統合軍とはいっても某一國の傀儡軍だがね、俺たちの兵の報を売り渡してどれだけいい生活ができているんだい」
質問されたレンは小さく首を振って否定した。
「ヒロト、いや、そこにいる親なる友人、僕と新しい未來を創るのならいつでも歓迎するよ、最高の待遇でね、僕たちならきっとうまくやれるよ、あの頃のように」
「わたしたちのルナはそれをんではいない、それがわたしからの最終的な答えだ」
レンの投げかけに微笑んでいたイツキが言葉を発した。
「そうか、殘念だ……いや、こうなることも決まっていたのかもな」
「君の親切には謝する……大佐どの」
通信を遮斷した部屋に鬱な空気が流れている。
「この會社、なくなったらあんたどうするのよ?それにわたしたちも……」
さっきまでの勢いがなくなったカエデがイツキに向かって震えるような聲で言った。
「ヒロト、ユキオ、マモル、ワカナ、君たちの家族を用意していたシェルターへ避難させなさい、それをジュンとサユミにも……殘りの各エリアのシェルターにはできるだけ多くの避難民を、もちろんペットも一緒にね、社員にも伝えてほしい、生存者が多いほどわたしたちの未來への可能に繋がる」
「俺はイツキと殘る」
今まで黙っていたマサハルが口を開いた。
「マサハル!」
カエデが驚きの聲を上げた。
「とてもじゃないが客人の使いが出るの制を米國や日本政府ができるとは思えない、それがレンの統合軍ならなおさらのことだ、俺も殘って戦うよ、いい武、いっぱいもらえたんでね、々と試してみたいってのもあるし」
マモルがのんきそうに言った。
「あんたたち誰を相手にして戦おうっていうのよ!正気なの?」
「答えは出ている……俺たちの世界を壊そうとする連中だ……それが、客人であろうが、人間であろうが俺は認めない」
そう言ってマサハルは椅子から立ち上がった。
「マサハルとマモルの二名のみ、わたしの次の仕事の補助に関する許可をします、これより二時間後、『袖の月影』全システムを解放します、最高のクラスメートのこれからの幸せを願っています」
カエデが三人と別れた時に最後に見たのはイツキ、マサハル、マモルが靜かに笑った顔であった。
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迷っていた僕はシャンのシステムネットワークへの接続を止めさせた。
「どうしてなのじゃ?」
「ほら、よくアップデートした新しいシステムが原因で不合が出るみたいになるんじゃないかって、だって、それを制できるのはシャン本人じゃなくて、システムの接続先だと思うから、それでシャンが変になったら、今以上に僕にはどうすることもできない、僕にもよく分からないけど、でも今はともかく別の方法を考えたい」
「そう言われればそうじゃ、システムのアップデートは上様が家出してからしばらくしてないからのぅ、接続するということはすべてをさらけ出してしまう、つまり一糸まとわぬ全でヌメヌメの手をもった無脊椎に立ち向かうようなモノじゃ」
「ヌメヌメって、別の表現はないの」
「たいした意味じゃない、じゃが、わしのことを失敗してくれて嬉しいという度合いは急激に高まったのは事実じゃ、わしの心のアップデータは上様が持っているんじゃないかと思っておる」
し照れたようにシャンが僕の顔を見てほほ笑んだ。
「利用できる通網の制限値が増加している、既に各方面からの路線の渋滯が起きておるな……おっ!」
考え込んでいたシャンは近くのバイク用品店の駐車場にたむろする買い客に気付いたみたいだ。
「あの者らに頼もう」
そこにはライダーの周りにたむろする男たちや全にいかついプロテクターを付けた中年男、レースにそのまま出られるようなスポーツタイプのバイクにまたがる青年などが、楽しそうな時を過ごしていた。
「やっぱり速そうなバイクに乗っている人がいいの?」
「いや、ほら、あそこの者がふさわしいぞ、上様、すぐに頼んでみろ」
シャンが指定したのは、し離れたところで缶コーヒーのブラックを飲み、空を見て呆けた表をしている頭の禿げあがった老人であった。
「え?あの人?あっちの人の方がいいんじゃないか」
僕はライダーズジャケットを著た見るからに新品のバイクにまたがる青年を指さした。どう見ても老人のバイクは古臭く、何よりも薄汚れた革ジャンにジーンズ姿でネイキッド型のバイクに寄りかかる姿勢はどうにも頼りになりそうにはなかった。
「わしの分析結果からじゃ」
僕はあまり納得がいかなかったが、シャンの言うようにその老人に聲を掛けた。
「あの、お願いがあるんですけど、新幹線とかが止まってしまって、どうしても戻らなきゃならない用事ができて……ガソリン代とか、手間賃とか費用とかは必ずお支払いします、できたら、僕を氷川市まで乗せていってほしいなんて頼みを聞いてもらえないでしょうか」
そう言っている自分でも都合のいい勝手な願いだと思っている。
「氷川市?今、騒ぎが起きている街か、そんな所へどんな用事なんだ」
老人は先ほどのし呆けた表ではなく、睨みつけるような表で僕を見た。
「あの……そこで困っている友達がいて……」
「その友達は男かか……」
「です」
「彼か?」
「そんな関係じゃないですが……」
「彼でもないのに、お前にとってそんなに大切なことなのか」
「は、はい、それは間違いなく……一人でいた僕に違う生き方や考え方を教えてくれた大事な人なんです」
聞いていた老人はコクリとうなずき、欠けた歯の隙間に見える銀歯を輝かせながら笑った。
「乗れ」
「いいんですか!」
「ああ、だが、メットはかぶれ、そこの店で買ってこい、エスジーマークが付いていないとだめだ、メットの値段は頭の値段だ」
老人が運転するバイクはとてつもなく速かった。連なる車の渋滯の列を難なくすり抜け、僕の的には新幹線、いや、戦闘機の速度をはるかに超えていた。
「お前の名前は」
「し、しじまアキツです」
「あの、お名前を聞いても、うわっ!」
老人はさらにマフラーから音を鳴らし、スピードを上げる。
「俺の名前か……ふっ、しいて言うのなら『北風』のシンヤだ」
僕は一瞬、目が點となった。なんか、だいぶ昔の映畫で見たような言い回しだった。
「俺のこの速さに目を回さないでついてこられるなんて、お前はバイクが好きなのか?」
「嫌いじゃないです」
「好きか、嫌いかと聞かれたら、その二つのどちらかで答えろ、変に回りくどい男にはなるな、俺のようにな」
「す、好きです」
僕にとって、はじめて出會うタイプの人だった。しかし、悪い人でないのは間違いない。この人がいなかったら僕はまだあの場所にいたのかもしれない。
「好きならお前もいつかバイクに乗れ、この人は噓をつかない、走れる奴が乗れば速く、遅い奴が乗れば遅くなる」
二百キロ近く離れた街にいたのが噓のような時間の覚だった。その分、頭の中がずっと揺れている。
インターチェンジを下り、國道から分岐した市街地の道を走る。
僕にとって見知った街のいつもの景だった。
「殘念だが、あそこでマッポどもの通行止めだ、ここで降りろ」
「ありがとうございます、本當に謝しています」
僕は背負っていたリュックから財布を取り出した。
「必要ない、ただ、俺はいつものように走りたかっただけだ」
「それじゃ、あまりにも……」
「しかし、それほど言うのなら、一枚だけはもらっておく……で、できれば零がいっぱい付いている方でもかまわない、いや、さっき言ったように急に走りたかっただけだからな」
僕からお金をけ取った北風さんはなんか気まずそうにしている。
「未來の彼によろしく伝えてくれ、それとバイクの免許は若いうちにとっておけ、いつか、橫浜から神戸までモーニングコーヒーを俺のおごりで飲みに行こう……ゴッドスピード」
僕の差し出した一萬円札を指に挾んだまま走り去る北風さんの姿は本當に神様のように見えたし、いつか平和な世界が本當に來るのなら、免許を取ってみようと心の底から思った。
「ほら、わしの言う通りだったじゃろ」
シャンがリュックから顔を出した。
「どうしてシャンには分かったの?」
「エンジンからマフラーにかけての無理のないパイプの焼け合、端まで適度に使用したタイヤの狀態、その他、誰が見ても、あの集団の中じゃ本當の走り屋じゃ、ひとつ気にらないのは、なな子が上様の未來の彼と言うところじゃな、そこだけは年相応じゃ」
シャンがすました顔で僕に話した。
「ここから約二キロ先の地點で暴れていた客人の使いがきを止めている、すぐに裏道に迂回じゃ」
「どうしてきを止めたの」
「次の客人のための地形、警察の武、生の數と位置、そういう全ての報収集じゃろ、あやつらは一つとして無駄なきはせぬ存在じゃ……そして、もう一つは、客人にとっての天敵が近くにいる、こっちの方がメインの要因じゃろうな」
「天敵?」
「要するに、客人の使いにとっての上様とわしのようなモノじゃ」
「シャンの仲間ってこと?」
「仲間というよりロット番號が違う同じ工業品じゃな」
そう言うまでシャンが人形だというのを僕はずっと忘れていた。
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