《お月様はいつも雨降り》第三従二

<登場人

靜寂秋津 (しじまあきつ)

就活中の大學生、謎の企業からの姿をした人型端末『シャン』を贈られる。

シャン

『月影乙第七発展汎用型』の人型端末

森脇イツキ (もりわきいつき)

ベンチャー企業『クトネシリカコーポレーション』の代表取締役

アキツの小學校の同級生

モリワキルナ

イツキの雙子の姉でアキツの小學校の同級生

アキツの靴底に乾きかけたがその場所から引き留めるように粘り付く。

鳴り続く発砲音に混じり、男たちの悲鳴と車両が潰れていく様子が、朱の大鳥居の向こうで繰り広げられている。

「どうやるんだ」

大人形の剣によって引き起こされる風が、アキツの前髪を揺らした。

「あのからくり人形の深淵にる糸があるはずじゃ、その糸を切斷すればよい」

「その糸はのところ?だって、もう頭はないぞ」

「そのような目に見えるところではない」

シャンはそう言いながら元からアキツの頭の上に両手をのせ、肩の上に立った。

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「簡単に言うと心の中じゃな」

「心?そんなの無理だろ」

「そのためにわしたち月影型には、波長を同期させる能力が載せられている、ただ、それは電気信號をサーチしシンクロさせるだけであって、そこに存在するかのようなビジョンとして変換するのは、上様の頭の中だけじゃ、理解できたか?」

「うう……難しすぎて分からない、あの人の心を読むみたいなことか?」

「さすが上様じゃ、その才能に惚れ惚れするのぅ」

「お世辭はともかく、その糸は何で切斷すればいいんだ?」

「上様の言語表現の真似をすると難しすぎて分からぬ、予測値に基づく事象は想定されてはいるが、現実という時間軸においての検証データはない」

「それって功するかどうか分からないってことか」

「そうとも言えるが、ただ、それができるであろう、わしの大好きな上様がいて、その上様を守るために人なわしがいる」

「お前、何かする乙モードが起されていないか」

「正直なローデータじゃ……あと、三メートル近付いて」

「やってみる」

アキツが慎重に距離を詰めていた瞬間、周囲の景が変わり、夕焼けに染まった小學校の校庭に変わった。

「シャン、ここはどこなんだ」

何も答えはなく、アキツはそこにいるのが自分だけだと悟った。

「ここがシャンの言っていた心の中なのか」

遠くから汽笛と電車が通り過ぎる音が學校の周りに建つ民家の屋を渡っていく。車の音は時折聞こえるが、走る車両は一臺もない。何本も張り巡らされた電線には糸の切れた三角形の洋だこが絡みついたままでいる。

目の前には三階建ての鉄筋校舎が立ちはだかり、教室の窓の間に據え付けられた大時計の針が午後四時を指していた。

ジャングルジムや雲梯や半分土に埋まったタイヤなど見覚えのある校庭の遊にも人の姿は見えない。

鱗雲の広がる橙の空は秋の様相を見せてはいるが、周囲に生える桜の木の葉はまだ緑をしている。

「ここは僕が通っていた小學校だ……」

壁にかかるラッパ型のスピーカーに軽いノイズ音がる。

チャイムが鳴った。

ノイズ音が途絶えるとれ替わるようにトロンボーンの重奏の後にイングリッシュホルンのゆっくりとした旋律が流れる。それは下校の時間にいつもかかっていた曲、『遠き山に日は落ちて』であった。

「みなさん、下校の時間が過ぎました、教室に忘れをせず車に気を付けて家に帰りましょう」

のアナウンスの聲が緩やかな曲にかぶる。

「誰かいるんだ」

アキツは、校舎に駆け寄り靴れ箱の並ぶ児玄関の扉を開けた。

「また変わった……」

玄関に足を踏みれた瞬間にアキツは育館の中心に立っていた。

の開いたバスケットゴールのネット、前から二列目の點かない照明、窓枠が錆びた金網付きの窓、はがれかけた床のライン。

アキツの背中に軽くボールが當たった。

音を立てて床を転がるドッヂボール。

「はい、當たった、わたしの勝ち……」

後ろ手を組み、し傾けた顔を前に突き出すを見てアキツは目を丸くした。

「ルナ……どうして……どうして君がここにいるの?」

「お兄さん、どうしてわたしの名前を知ってるの?」

「僕だよ、シジマだよ、ボウ、ボウだよ」

は拾い上げたボールをに抱きながら、小さく聲をたてて笑った。

「ボウくんはそんなに大人じゃないよ、もしかして、お兄さんって、ボウくんのお兄さんなの?」

「違うよ、僕が……」

「鬼さん、こちら……」

はアキツに背を向けて育館の出口の扉に近付くと、もう一度振り向いた。

「ねぇ、かくれんぼしよう、わたしがこれから隠れるから、百まで數えたら探してね、時間は次のチャイムが鳴るまで、隠れていい場所は廊下と授業で使う教室だけ、ルールはしっかりと守ってね」

「ちょっと待って!」

アキツの引き留める言葉を無視し、育館から足早に出ていった。

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