《冥府》生存へ紡ぐ道行
鬼の襲撃から4時間ばかりが経過し、夜が明けて來た。空は相変わらずの曇り空で霧も濃い。
負傷した隊員たちは小隊指揮所のある中央家屋で治療をけ、かろうじて2名が戦線復帰。殘る2名は意識はあれど無闇にかせる狀態ではなく、最後の1人に至っては未だ意識不明だった。
鬼の攻撃で死亡した2名の隊員は、風呂場に防水シートを被せた狀態で安置されている。そして、ある異変に気付いた井上一曹が小田一尉へ報告を行っていた。
「通気確保のため風呂場の窓を開けようと中にった所、2人のが消失していました。所には安置後、自分がずっと居ましたので他の人間は出りしていません」
風呂場の窓は子供なら出り可能なサイズだが、どうやっても大人が通れる事はなさそうだ。音もなく消えてしまった2人のは何所へ行ってしまったのか。考えても答えが出るような問題ではない。
「この事は口外するな。風呂場への立ちりも一曹以外はずる」
「了解」
何事もないかのように指揮所のある居間へ戻った2人の元へ塚崎が現れた。例の小屋から音がしたとの報告をける。
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「危険が無いか確認のため、中を検めても宜しいでしょうか」
「分かった、慎重にな」
塚崎は2名の隊員を引き連れて小屋へ向かった。小田と井上もその後に付いて行く。石森二尉は2時間ほど前に寢始めたばかりなのであえて起こさなかった。
例の小屋を前に、塚崎と2名の隊員が警戒しながら近付く。外見上は一切変化をじられないが、かなり大きな音だった。部で何かしらの異変が起きている事が予想される。
「どっちか引き戸を開けてくれ。俺が中にる」
塚崎の右側に居た隊員が真っ先に引き戸へ取り付いた。ハンドサインの指示でゆっくり引き戸を開けると、塚崎が部へライトを照らしれながら踏み込んだ。
特に異変は見けられないが、最初に井上一曹が中の人數を數えた際は6名との報告だった事を思い出す。
(……2人多いな)
人數は8人に増えていた。しかも新たに増えたであろう2人は他の者と服裝の違いが分かる。上半はだが、見慣れた迷彩柄のズボンを履いていた。他同様に蹲ってき聲をらすその2人を抱き起こして確認する。
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塚崎はこの真実をどう報告するか思案に明け暮れ、暫く中に留まっていた。不審に思った隊員が呼び掛ける聲によって正気に戻り、足早に外へと飛び出す。
「陸曹長、どうでした」
「……気にするな。問題はない」
安堵する隊員を余所に、小田は塚崎の表から何かを汲み取っていた。この場を一旦解散させ、塚崎は小田と共に指揮所へ篭った。當然、井上一曹もその場に臨席する事となる。
「陸曹長、遠慮せずに事実だけ喋ってくれ。俺にも何となく予想は出來てる」
小田はそう言うが、塚崎の口は重たかった。暫しの沈黙が続き、塚崎は俯いたままようやく喋り出す。
「一曹の報告では部に6名が居るとの事でした。しかし中を検めた所、2人増えていました」
「……2人?」
井上が怪訝な表になる。だが次の瞬間には何かを察したらしく、顔が悪くなった。
「ま、まさか」
「そうだ。鬼に殺された関口一士と小倉士長が、他の連中と同じ狀態になっていた。2人共あの棒でやられて損傷が激しかったのに、その傷も見えなかった。1度死んだ後にああやって現れると言う事はつまり……」
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言葉を選ぶ塚崎を2人が見つめる。頭の中では組み上がったようだが、口にしていいものかと逡巡していた。
「陸曹長、言ってくれ」
「……あの世か、もしくは地獄から送り返されたんじゃないかと」
3人を冷たい何かが包み込んでいく。この異世界は果たして何なのか。誰かにだけ都合の良い空間になっている事はじ取れている。ではその「誰か」とは一。
「以後、あの小屋の中に居る者たちを亡者と呼稱。そして我々を襲ったあの存在を正式に鬼として、同時に敵として認めようと思う。次に鬼と遭遇した場合は可能な限り接を回避、戦は避ける旨を各班に伝えて貰えるか」
「分かりました、全員に伝えます」
「関口と小倉に関しては緘口令を敷く。2人とも、頼むぞ」
「了解」
塚崎は各班へ伝えるために外へ出た。そして井上は小田に連れられて2階へ上がる。
「一曹、別で頼みがある。いや、命令か」
「何でしょう」
ため息と共に座り込む小田の向かい側に井上も座る。小田はかなり深刻な顔をしながら語り始めた。
「これは自論だが、こっちに來た以上は何らかの方法で元の世界に戻る可能は殘されていると思う。我々が最初にあの鬼と遭遇したのは向こう側でだった。であれば、どうにかしてこっち側と向こう側を行き來する方法があるとは思わないか」
井上は一瞬、とんでもない命令をされるのではと考えた。小田一尉の人柄は正直よく知らないし、どちらかと言えば小隊陸曹の塚崎や所屬を預けさせて貰っている第4班長こと林二曹との絡みが多いため、小田の事を完全には把握していなかったのだ。
もしかすると、部下を失った事で錯した一尉はここで自殺を図り、それをもって向こう側へ戻ると言う解釈を思い付いてしまった可能も高い。
「……自分も何かしら方法はあると思います。しかし、鬼に殺されれば亡者と化して甦ってしまう可能は高いでしょう。だからと言って自ら命を絶てば向こうに戻れるなんて」
「待ってくれ、そんな飛躍した事を言うつもりはない。ようするに、向こう側へ続く出り口を探してしいんだ。今から約10時間、山の中にってその捜索をしてしい。護衛は2人つけるから、3人の特務班として行してくれないか」
小田は誰よりも全員が可能な限り生き殘る可能を考えていたようだ。これならば自分も文句はない。
「了解、暗くなる前に何かを見つけられるよう努力します」
その後、第2班から植田三曹。第4班から宮下士長が選ばれ、井上を臨時班長として3名の特務班が編された。
その3人は各班長と石森に見送られて靜かに集落を離れ、小隊が歩いて來た道を逆戻りしながら元の世界へ繋がる何かを探すために、行を開始した。
特務班が集落を離れて2時間後、意識不明だった3班の柏原二曹が心肺停止により死亡。風呂場に安置したは関口と小倉同様に消失し、亡者の居る小屋でまた音がしていた。
小田は石森と塚崎に詳細を話し、消失の件は特務班の井上を含めた4人の共有する極事項となった。
その頃、特務班は小隊がこっちの世界で再合流した際の地點に到達。周囲をくまなく探したが、それらしいは何も見つけられなかった。
3人は霧の濃い山中をひたすら進み、小隊が元々の目的地としていた仮想のヘリ墜落現場へ到著する。
「何もありませんね一曹」
宮下士長が絶するように話し掛けた。だがまだ時間はある。ここで諦めるのは早計過ぎだ。
「悲観していても始まりません、進みましょう。植田さん、先導頼みます」
「呼び捨てでいいですよ一曹殿。年は食ってますけど階級はそちらが上ですし」
「では植田三曹、お願いします」
「いやそうじゃなく……まぁいいか」
植田としてはタメ口で構わないと言いたかったようだが、上手く伝わらなかったらしい。3人はそのまま下山し、山の向こう側へと辿り著いた。
さっきまで生い茂っていた森が急に竹林へ変わり、霧も薄れて見通しが利き始める。急に変わったその景観に、3人とも違和をじて足を止めた。集落と山中に漂っていた不気味な空気も薄れている。
「士長、右を頼む。一曹は後方をお願いします」
「分かりました」
「了解」
植田と宮下の2人が前に出て、井上は後方警戒に當たった。ゆっくりと竹林の中を進んで行く。
時代劇か何かの世界に來てしまったような覚を味わいつつ、3人はその足を進めた。集落を出て既に4時間が経過しており、そろそろ何らかの報を得たい所である。
「前方、何かあります」
宮下が報告する。竹林の中に、人工らしきが見えた。植田も井上もそれを眼で確認する。警戒しつつそこまで行くと、人工の正は古びた木製のお社だった。燈篭のようなは存在せず、社だけが竹林の中に佇んでいるのは不思議な景である。それに魅せられた井上は中を覗き込もうと近付いた
「……何の神様を祀ってるんでしょうね」
「さぁ、俺たちをこんな目に遭わせるような意地の悪い神様じゃないですか。それじゃなきゃ悪魔の類かもしれないですね」
「神社と悪魔は結び付かんだろ、悪霊系じゃないか?いや、寧ろあの鬼じゃ……」
そんな會話をしている最中に突然、後方から「誰可」とばれた。井上はお社の影にを隠し、植田と宮下は慣れた作で地面に伏せて89式を構え直す。
よく目を凝らすも「誰可」とんだ存在は、一切視認出來なかった。張り詰めた空気が支配していき、3人の張が高まっていく。
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