《【10萬PV!】磁界の王はキョンシーへ撲滅を告げる》① お代はキスで

「……ちっ。まただ」

「キョウカ、舌打ちは行儀悪いデスよ?」

京香は第六課の自分のパソコンに屆いた連絡に強く舌打ちをした。

メールの文面はシンプルであり、本日未明、素狩りの被害が再びあったというだ。

狩りとは言ってしまえば拐事件である。先日の伽藍堂の死もこれの被害者だった。

攫う理由は一つしかない。

「ヤマダ、この被害者は生きていると思う?」

「ほぼ確実にアリ得ません。もうとっくにキョンシーにっテイルか、バラされているでショウ。素のランクは?」

「D-」

「ならバラされているデしょう。ゴミ捨て場か路地裏を當たってミレば、遠カラズ見つかると思いマス」

「そうよね」

淡々としたヤマダの言葉に京香はやる瀬なく天井を仰いだ。

今頃、この被害者のは丁寧にバラされ、殘るのは皮と脂肪くらいに違いない。

「頻度が上がっていますな」

「セバスさんもそう思う?」

ヤマダの隣で資料を漁っていたセバスチャンの言葉に京香は同意した。

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ここはシカバネ町であり、夜中獨りで歩くというのは自殺行為に等しい町である。

シカバネ町の住民達という最高級の寶石を掠め取ろうと至る所に魔の手がびている。

だが、それにしてもこの素狩りのペースは異常だった。

先月までは一週間に一人か二人のペースで素狩りと思われる行方不明事件が発生していた。

それが今月にってからは一週間に七人か八人のペースである。

「嫌なじね。絶対ろくでもない事しようとしてる奴らが居るわ」

「トころデ、京香、正義バカは?」

「朝、顔を見せたらそのままパトロールに行ったわ。目を見る暇も無かった」

キョンシーを止める方法の一つとして、所有者が目を見て命令を下すというがある。キョンシーは基本的に生認証であり、そのデバイスが目に組み込まれているのだ。

所有者である京香の虹彩は霊幻に登録されている。蘇生符の奧に隠された目さえ見る事ができればあのキョンシーの暴走を止められるのだが、これが中々に難しい。

いざとなれば最終手段があるのだが、それは京香にとって避けたい行為だった。

「それじゃあ、アタシ行ってくるわ」

「何処にデスか?」

「アタシの頭じゃ考えても埒が明かないし、便利屋の所」

「正義バカは連れて行かナクて良いのですカ?」

「居たら余計にこじれるから丁度良いわ」

ヤマダは京香が何処へ行こうとしているのか悟ったようだ。

「キョウカ、薔薇の花束でも持って行けばドウですか? 近くに良い花屋が有るンですよ」

「嫌よ。アタシ未だ壽退社したくないもの」

ヤマダの軽口をいなし、京香はアタッシュケース片手に第六課の部屋を出て行った。

「きょうかきょうかきょうかきょうかー! 久しぶりだな久しぶりなのだな! 私は寂しかったぞ! お前のしのフィアンセ、葉隠(はがくれ) スズメは寂しかったぞー!」

「は・な・れ・ろ!」

シカバネ町西部。とある日本邸宅の大広間にて、京香は真っ黒な著、葉隠 スズメにギューッと腰辺りを抱き締められていた。

スズメは相も変わらず細くい黒髪を腰ほどまで無造作にばしている。小さな大和子と言った風貌で、黙ってさえいれば日本人形の様な印象を與えるだった。

葉隠邸。それがこの豪奢な日本邸宅の呼び名であり、スズメはただ一人此処で暮らしているで、尚且つ京香の協力者だった。

スズメの外見は一見して小學生のの様であったが、京香と大同年代である。

ギュ、ギュ、ギュ~~~!

「やかましい! 抱きつきに強弱をつけるな!」

「何故剝がす!? 何故剝がすのだきょうか! しのフィアンセだろう!?」

「ち・が・う!」

「良いから一緒に暮らそう! きょうかの生涯賃金くらいならダブルスコアであげるから! な!」

あ~ん! 騒ぐスズメの額を押さえ京香は眉を顰めた。

半ばこうなる事は分かっていたけれども、だからと言ってげんなりしない訳では無い。

京香はさっさと本題にる事にした。

「スズメ、あんたに依頼を持ってきたわ」

「興味ない。今ここにきょうかが居る以上に大切な事があるだろうか、いや、無い」

「反語使うな、イラッと來るから」

――どうしたもんかしらね?

京香は再び抱き付いて來たスズメの頭を押しながら思案する。

ここまでの反応は珍しかった。普段のスズメならば十分程度突撃してくれば、満足するかどうかはともかくとして仕事の話が出來るというのに、今日は妙にしつこい。

――意外とヤマダの軽口が馬鹿にらなかったかも。

「スズメ、もしも今日、アタシが薔薇の花束を土産に持って來てたらどうした?」

「あるのか!?」

「無い。もしもの話」

「そんなの海辺が見える教會と新居を購するに決まっているだろう! 喜べきょうか! 明日はハネムーンだ!」

「オーケー、アタシの判斷は何も間違っていなかったわ」

このまま帰ってしまおうか。だが、そうしてしまったらここまで來たのが無駄骨にる。

そして、何より、このスズメはきょうかの依頼ならばほぼ百パーセントで功させるのだ。むざむざ使わないのは惜しい。

「スズメ、そんなにアタシの依頼を聞きたくない? 金なら第六課(うち)の予算から出すわよ?」

「きょうかの頼みならば聞いてやりたい! だが、私が聞いたらきょうかはこの場から去ってしまうのだろう? 目の前にきょうかが居る、それ以外何も要らない! 久々に會えたのだ! 私が満足するまで一緒に居よう!」

「あんた満足しないじゃない」

――……しょうがないか。

やれやれと京香は嘆息する。

「スズメ、もしも私の依頼を聞いてくれたら、好きな場所に一回キスしてあげる。それならどう?」

ピタッとスズメのきが止まった。

「……本當か?」

「本當。人のれて大丈夫な場所なら何処でもキスしてあげる」

「……依頼の容を聞こうか」

「ここ最近頻発している素狩りの犯人を捜したいの。直近一ヶ月でシカバネ町に來た猟者の居場所を見つけて」

「了解。ちょっと待ってて」

パンパン!

スズメが二回拍手を打った。するとトコトコトコ。メイド服を來た八の子供のキョンシー達がそれぞれノートパソコンを抱えて大広間へとってくる。最後にってきた一はノートパソコンと共にスズメの仕事道である〝オクトパス〟を持っていた。

オクトパスとは八本の端子が繋がった半球型のヘルメットである。

スズメを中心に円を描くように背を向けて子供のキョンシー達は正座して座り、それぞれノートパソコンを開いた。

「きょうかー、せもたれー」

「はいはい」

言われるがまま京香はスズメを抱き締めるように座り、スズメが重を預けてくる。

「~~♪」

機嫌良く鼻唄を奏でながら、スズメはオクトパスを被った。

途端、オクトパスからびていた八本の端子がうねうねと手の様に蠢き出し、キョンシー達の頭へと突き刺さる。

髪で見えなくなっているが、このキョンシー達はスズメ用の特別製であり、旋のところに脳と直結した電極のけ口があるのだ。

端子が刺さった瞬間、キョンシー達はピクッと震え、一斉にコンマ一秒のズレもなくノートパソコンへのタイピングを始める。

オクトパスを使ったキョンシーの同時多角的作。それを活用した超高速ハッキング。スズメにしかできない特殊技能だった。

「それじゃあ、監視カメラと通信履歴を漁るとしよう。きょうか、もうし抱く力を強く」

「はいはい、仰せのままに」

機嫌を損ねては困る。京香は素直に要求を飲んだ。

カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。カタカタカタカタ。

八つのタイピング音が鳴り響く。

京香は一自分は何処にキスをせがまれるのだろうかと、ぼんやり考えた。

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