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第六課のオフィスにてヤマダはカタカタ、パソコンと向かい合っていた。

上司たる京香から命じられた件(くだん)の野良キョンシー二を捜しているのだ。

京香と霊幻が第二課のワトソンの護衛に駆り出されたのは昨日。帰ってくるのは明日の朝七時頃。

「セバス、紅茶ヲ」

「はい、お嬢様」

執事たるセバスに奉仕とサポートを命じながら、ヤマダはモニターに表示したシカバネ町南部の地図を睨んだ。地図上では百數のイエローマーカーが點滅している。

ヤマダの席は第六課にあるが、人間的素質は第二課に向いている。

即ち、調査と諜報、そして推理と推測。

「何処に居るのカ、じゃ失敗スル」

思考を纏める為の獨り言。キーボードとマウスでカタカタカチカチ。

マップ上のイエローマーカーを中心に監視カメラの有効範囲を意味する円が浮かんでいく。

「けれど、何処に居ナイのか、なら、分かル」

野良キョンシー達の潛伏場所は監視カメラの範囲外。

「まだ場所は絞れナイか」

南區には潛伏できる場所が多過ぎる。

充が野良達を取り逃がした地點をヤマダは見る。西區と南區の境目。ここから南區へ渡るルートはそう多くない。

「正義バカと同ジ強化をケタキョンシー」

屋を渡って走れるか？　いや、工業地帯でそんなことをすればすぐに警報裝置が作する。

「そもソも、その裝置自が作シナイんでシタ」

となれば逃走経路は無數にある。

「困りましタ。ドウしましょう？」

その時、ふとヤマダの頭にとある方法が思い付いた。

「ふーム」

腕組みして目を瞑り、今思い付いた手法を味する。

手元にあるのは

①　南區の監視カメラと警報裝置の位置。

②　最後に野良キョンシーが観測された地點。

③　野良キョンシーは周囲の電子機をジャミングする。

④　野良キョンシーは金銭を強奪している。

の四つの報。

「メンドウです。やってしマイましょう」

メールボックスを開いてカタカタカタ。

ヤマダは第二課と第三課へとあるデータを自分へ送る様にメールを送信した。

返信が來るのは早くて二時間後だろうと脳で試算する。

送られてきたデータ次第では無茶なお願いをする事にる。

「セバス、オヤツにしましょウ」

「仰せのままに。本日のお茶菓子はマドレーヌでございます」

「エクセレント」

＊

午後八時。

ヤマダはセバスを連れてシカバネ町南部を歩いていた。

地點で言えば中央部から南部への境目をし過ぎた場所。

白と黒を基調としたメイド姿で可らしいミニバックを片手に歩くヤマダの姿は、給仕がお忍びで夜の街を徘徊している様に見えた。

ヤマダの様な見目麗しいがシカバネ町をこの時間に歩くのは自殺行為にしか見られない。

攫われ、犯され、ばらされる。

「ワタシが攫わレタら、何処のパーツが殘るデショウね」

フフフとヤマダは楽しげに笑った。

「お嬢様、戯言を言うのはお止しになってください。私の命に代えてもその様な事は起こらないのですから」

セバスは何でも無い様に嘯いた。

ヤマダはその言葉に頬とと腹が熱くなる。

良い。その言葉がしかったのだ。思えばセバスとも長い付き合いだった。生まれる前から自分と共にあり、自分に盡くす事を絶対の存在理由とした好々爺。

ヤマダはセバスに歪んだを向けていた。

セバスにはそのが理解できないだろう。

それはセバスがキョンシーだからという訳ではなくて、仮にセバスが人間でも同様だった。

ヤマダは自分のが誰にも理解されない事を良しとしていた。

「なら、セバス、ワタシを守りなサイ。その全ゼン霊を賭けテ。タダし、死ぬ事もコワレる事も許しまスガ、ワタシの前からイナクなる事だけはユルシマせん。良いですネ？」

「意に、お嬢様」

ゾクゾク。まるで背筋をされた様にヤマダのが粟立った。

――おっと、いけないいけない。落ち著かなくては。

ヤマダはコホンと軽く咳払いをした。

デートではないのだ。今、ヤマダが南區に來ているのは仮説の正否を問う為である。

「さて、そうコウ話しテいるにソロソロです。セバス、準ビは？」

「萬全でございます」

ヤマダの視線の先、そこには南區のとある自販機があった。