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「お嬢様、到著いたしました」

「結構遠かっタですネ」

ヤマダはセバスが運転する車に乗って半日、栄大學を訪れていた。

栄大學は日本で一、二を爭うキョンシー研究を行っている大學であり、ヤマダはここのとある教授に話があった。

それというのも、京香が帰ってきた後に確認したワトソンがサイコメトリーした映像が理由である。

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ワトソンが読み取った部屋には二の野良キョンシーが暮らしていた。

天原記念研究所の二號館の地下、真っ白な部屋の奧に置かれた真っ白なベッドに、首を嵌められた全く同じ顔をした二のキョンシーがいつも寄り添って腰掛けていた。

逃亡するまでの一ヶ月間、來る日も來る日も、壁に背を預けた一方がもう一方を抱いて、そのままほとんどぎもせず日がな一日過ごしている。

行が変わるのは三日に一度。白を著た科學者達が現れる時だけ。

科學者達が來た時、抱きかかえていたキョンシーは苛烈に立ち上がり、抱かれていたキョンシーの前に立って科學者達から守ろうとする。

その姿は姉が妹を守ろうとする様にも見えた。

姉であろうキョンシーの蘇生符が微かに発している。ＰＳＩを発しようとしているのだ。

だが、科學者達が燃える事は無い。首がＰＳＩ発を阻害し、姉のキョンシーは科學者達が連れて來た數のキョンシーに取り押さえられ、妹のキョンシーが外へと連れ出される。

キーキー！　と、姉のがび妹へ手をばすが、このキョンシーの改造は一般的なキョンシーと同じだ。ＰＳＩが使えない狀態で振り払える筈が無い。

妹のキョンシーは半日ほどで部屋に戻され、また姉の腕に抱かれベッドに座る。

そんな代わり映えの無い日々が続き、最後、京香が燃え落ちる研究所を訪れる數時間前、姉と妹に嵌められた首が突然ショート――おそらく妹のキョンシーがＰＳＩでやったのだ――を起こし、炎で部屋が包まれたのだ。

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この映像を見たヤマダが注目したのは野良キョンシー二ではなく科學者達だ。

キョンシー達の行にも々と考えるべき所はあったが、何よりもキョンシー犯罪対策局として必要なのはここに居る妹のキョンシーのＰＳＩの詳細である。

度々映像に登場する科學者の一人、もじゃもじゃヒゲに白髪の老人。その顔にヤマダは見覚えがあった。

この老人の名前は、高原(たかはら)　一彥(かずひこ)。栄大學の元教授だった。

キョンシー、とりわけＰＳＩ研究は研究者の個に強く依存する分野だ。

研究者毎に専門とするＰＳＩは異なり、求めるゴールは千差萬別。

高原の栄大學時代最後の研究は超作を可能とするエレクトロキネシスの開発。

日本で有數のエレクトロキネシスの専門家が高原だ。

ヤマダは栄大學に居る高原の元弟子の平野(ひらの)　鉄治(てつじ)と會う約束を取り付けていたのだ。

「高原先生の話でしたよね？　退職してもう十年にりますねぇ」

栄大學は四箇所の敷地にキャンパスを持つ巨大な大學であり、それぞれの敷地に二十程度の建があった。

その建の一つ十三階建ての三十一號館の七階、７１１號室の平野研の居室にヤマダとセバスは訪れていた。

居室の四人掛けの大機には學生が持ってきたのであろう菓子類が置かれ、本棚には教科書と実験ノート、そして何冊かの漫畫本が置かれている。

前方に座る平野へ返事する前にコホン、とヤマダは軽く咳払いをした。

「はい。私達、キョンシー犯罪対策局は現在、高原一彥の報を集めております。特に、彼が研究していたＰＳＩについて」

流暢な日本語がヤマダの口から流れた。意識を割くのは面倒ではあったが、ヤマダは片言以外でも話せるのだ。

「詳細は守義務があるから話せません。平野先生が知っている限り、高原一彥が作ろうとしていたＰＳＩはどの様なでしたか？」

「高原先生の研究が知りたいと言われても、ネットで調べればいくらでも出てきますよ。日本で有數のエレクトロキネシスの専門家だったんですから」

「ええ、知っています。大脳皮質とエレクトロキネシスの作の関係の論文は見事でした。まさか海馬と大脳皮質に作への相関が見つかるなんてその當時は思いもしませんでしたね」

さらりとヤマダは移中に読んだ高原一彥の若い頃の論文を口にする。平野は驚き、興味深そうにヤマダを見た。

「中々、お詳しい。高原先生はそれでこの大學の教授にったんですよ」

「そして、あなたは高原研究室に配屬された」

「幸いなことに希が通りましてね」

平野は昔を懐かしむように眼を細め、手元の茶を飲んだ。

「平野さん、あなたが時間的にも度的にも最も高原一彥の寵をけた研究者です。どうでしょう？　高原一彥から何か聞いたことはありませんか？　キョンシーのＰＳＩについて。それも高原一彥が目指したゴールについて。ＰＳＩのジャンルはエレクトロキネシスや神応系で」

薦められた茶菓子をそつなく斷り、ヤマダは平野へと問いを続ける。

世間話をしに來たのではない。速やかに報を集めるのがヤマダの目的であった。