「あの馬鹿、どこ行っちまったんだろうな」

珍しく弦が運転中に喋りだした。

とはいえ傍から聞けば聲量は小さく、下手をすれば獨り言と思われてもおかしくはない。

だが、助手席に座っていた弓はその発言が自分へ向けられている事を分かりきっている。

そして祖父に気を使わせてしまう程に意気消沈していた事に、そこで初めて気付いた。

「うん……。沿矢君、あそこが気にらなかったのかなぁ」

「…………さぁな」

弓に悪気はないのだが――あの宿を沿矢に紹介した弦は、孫のその発言で靜かに心痛めた。

何時も通り仕事に行く直前、弓が弦に沿矢の様子を見に行きたいと伝えた時は、弦はまさか孫があの輩に気があるのではないかと危懼した。

しかし、よくよく考えてみれば弓の周りには同世代の知り合いは殆どいない。

故に、単純に寂しさ故の事だろうと思い至り宿に向かうのを了承した。

だが宿に著いてみれば既に沿矢の姿はなく、主人も先程起きたばかりで気付いたのはし前だと言う。

部屋のカンテラや予備の蝋燭が無くなっており、バケツも何故か窓から投げ捨てられていた。

そこまで見れば用品を盜んだ輩なのだが、テーブルの上には用品代を上回る六ボタが置かれており、結局沿矢が何をしたかったのか誰も分からなかった。

弓は沿矢に會えなかった事に思いのほか気を落としており、この様子では仕事中にミスをされては適わんと自宅に戻っている最中だ。

弦も別に沿矢を悪く思ってはいない。

あの歳にしては禮儀を弁えており、孫に目を向ける事も無かった。

ただし他人に無防備な所が多く、あまり長生きできるタイプではない事をじ取っていた。

だからあまり沿矢と親しくなってほしくはなかったのだ。

だが……この調子では奴がいた方がまだマシだったと、弦は橫目で弓を見て靜かに溜め息を吐いた。

「な!? 弓! 摑まってろ!!」

「きゃっ! な、何?」

突如、道端に何かが降って來て弦は大きくハンドルを切った。

何とかそのを避け、バックミラーで確認すると、重さ數キロはありそうな鉄板が道路に突き刺さっている。

まさか攻撃をけたのか? 弦は素早く周囲を見渡して愕然とした。

街中に《鉄の雨》が降り注いでいる。

先程のような大は滅多にないが、細かい金屬片や何かの機械の部品や基盤が空から落ちてくる。

車が突然の軌道変更で甲高い悲鳴を上げる、流石にあれ全部を避けきるのは不可能だ。

なんとか大通りを抜け、弦は建の間にある裏路地に車を止めて降りる。

勿論武を攜帯する事を忘れてはいない。

弦はライフルの安全裝置を切りながら、ゆっくりと大通りへ顔を覗かせて様子を伺う。

軽い乾いた音が目立って聞こえるが、たまに雷が落ちた様な轟音を響かせて大きいも降って來る。

「じーじ……一どうなってるの?」

近くに歩み寄ってきた弓が困して呟く。

普段は使わない呼び方を使っている事から不安が伺える。

弦はその不安を拭ってやりたかったが、首を振って答える事しかできない。

「俺にも分からん。……こんなの初めてだ」

周りを見渡すと自分達と同じ様に路地裏や、建に逃げ隠れて騒ぐ人達が多い。

と、その中の一団に指差す人達を見つけ、弦もその方向に目を向けた。

そして、弦は自分の正気と眼を疑った。

「な……! ゴミ山が、消えて……いく」

「う……そ……っ」

弓は勿論の事、いつも冷靜沈著を心掛けている弦でさえ、目の前の景を見て聲の震えを抑える事はできなかった。

複數あるゴミ山の一つ、その下部から大小を問わずが勢いよく弾け飛び、空を舞っている。

耳を澄ますと、あそこから腹の底に響くような重い音が聞こえてくる。

ゴミ山が次々に鉄屑を吐き出して小さくるにつれ、その音は逆に大きくなり、気付けば耳を澄ます必要もなくなっていた。

弦は思わずその景に見とれてしまっていた。

朝日の輝きをけ、空を舞う鉄屑達はなんと幻想的か!

まるで初めて雪を見た子の様に、弦は夢中になってその景を目に焼き付ける。

次第にゴミ山は小さくなって建の影に埋もれ、姿が見えなくなっていく。

それを安堵するべきか、殘念に思うべきか、一瞬弦は迷ってしまった。

そんな弦の思いに答えたかの様に一際大きく轟音が響き渡り、最後に大量の鉄屑が弾き飛ばされた。

その鉄屑達は今までより高く飛び、そして勢いづいていた。

一つは隣にあったもう一つのゴミ山を崩し、さらにもう一つは廃墟の一部を削り取ってしまう程だった。

廃墟はその一撃がトドメとなったのか、長らく何世紀に渡ってそのを支えて來たが剝がれ落ちていく。

弦はその景を眺めながらすぐに脳で地図を思い描き、あそこに住む住人はいない事を確認する。

もしかしたら寄りの無い奴が居たりするかもしれんが、治安が悪いあの周辺に好んで住む輩はないはずだ。

一つの廃墟がまるで消えたゴミ山の代わりを務めるかの様に、そのを瓦礫の山へと変えていく。

土煙が空に大量に舞い上がっていき、それがまるで鉄の雨に架かった虹の様に弦は思えてしまった。

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「なになになになに～～～?! 何なのよぉ!! ねぇねぇねぇ!! 何だと思う?!?!」

「俺が知る訳ないだろうが!」

「僕にも見せて……」

ヤウラのメイン居住區を囲む壁《玄甲》と名付けられている中の一室では、ある騒ぎが沸き起こっていた。

いや、よく耳を澄ませれば他の部屋からも沸き立つ聲や戸いの聲が聞こえてくる。

歳は下から數えて十から十七歳と言った所だろうか、人種や歳の差を考慮されず纏められた彼等は酷く落ち著きが無い。

無理も無い、毎日つまらない授業や訓練を早起きしてける。

この日常の繰り返しの中で育っている彼等にとって、窓の外の景は刺激的すぎた。

目下に見えるヤウラの外居住區、荒れ果てた廃墟が目立つその中でも一際に異彩を放つ場所、ゴミ山。

そのゴミ山の一つが鉄屑を吐き出しながら徐々に消えていっているのだ。

彼等が縋りついている窓は強化ガラスであり。

幸か不幸か……外を響き渡る轟音に気がつかない。

ヤウラをいずれ守る為。

そうい時に壁に連れて來られた大半は外居住區出であり、あそこがどんな場所であるかを覚えている者は多い。

だから目の前の異常事態に興を覚えるのも無理は無い。

「そう……分かった。攻撃ではないのだな?」

『はい、ゴミ山周辺に落ちた弾頭等は確認されておりません』

彼等をけ持つ教育係――武市 詩江(タケイチ シエ)も窓の外を眺めながら、安全確認の為に壁部に設置されている通信機を使って狀況を摑もうとしていた。

「だったら、目の前の景は一何なんだ……?」

切れ目のある瞼をさらに細め、爪を噛みながら詩江は靜かに毒ついた。

ふと、みっともないから治そうと努力していた癖が再発していた事に気付き、さらに詩江の苛立ちを募らせる。

『それは分かりませんが……。調査隊を送るべく、メンバーを編している最中です』

詩江の獨り言に反応して、通話先の男が報を伝えてくる。

その言葉を聞き詩江は目のを変えた。

「そうか! 報がり次第……。いや……その隊に志願する! いいか?! 今すぐに向かう!」

『え、えぇ?! じゅ、授業中ではないのですか?!』

「っ……おい! お前達!! 今日は自習だ!! ただし、銃の手れは怠るなよ! 次の訓練で使うからな!!」

突然の吉報に教室はさらに歓喜の聲で盛り上がった。

詩江はその生徒達の態度にけない思いを抱きつつも、どこかで穏やかな気持ちをじ取ってもいた。

たまにはこんな日があってもいいはずだ。

彼等はいずれ自分の手元を離れていく、その時になって良い先生であったと思われればどんなに嬉しいだろう。

飴と鞭だ。これは決して自分の為だけではなく、彼等の事を考えての事であると詩江は心の中で言い訳をしていた。

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「狂人が!! あれほど目立つなと言っただろうに!!」

玄甲部にある左達が住まうフロアの一室で、窓から外を眺めながら一人の男が憤慨していた。

念にセットしていたオールバックがれるのも構わずに、男はヒステリックに頭を掻き毟る。

その男――魅竹 春由(ミタケ ハルヨシ)は不意にネジが切れた様にきを止めた。

「どうする? 確実に調査がされるはず……。ゴミ山だけならまだしも、その周辺住民に聞き込むような事があれば私の関與が疑われる……っ!」

春由は壁の側のメイン居住區で生まれ、何不自由なく過ごしてきた。

自分達を囲う鉄壁と尊厳さを放つビル郡を見る度に、安堵と誇り高い気持ちが同時に自の中を駆け巡っていくのが心地良かった。

父が軍人である事が理由ではなく、ただ純粋にこの景を守りたいとの正義に似た熱意をに隊した。

隊して間もない頃、教が壁から外を眺める事を許可してくれた。

そして――現実を知った。

罅割れ、乾いた大地は地平線を埋め盡くし。

外の居住區では人がボロ切れを纏って慘めに生活している。

言葉には聞いていた、だが見ると聞くのではこんなにも違うものなのか?

自分の周りで同期生達が悲痛に顔を歪め、項垂れる。

心のどこかでは世界は未だに綺麗で、希に満ち溢れている。

そんな子供染みた妄想に溺れていたのかもしれない。

ただ一人、春由だけは毅然と外の景を眺め、決意をのに打ち立てていた。

壁の側は――自分達だけの楽園だ。ここだけは守り通さないといけない。

その日から春由の側に確固たる信念が宿った。

決意をめた春由は優秀な績を収め、瞬く間に出世の道を歩んでいった。

そして階級が上がるにつれ、自分達が置かれている狀況が良くない事に気付いていく。

ヤウラは陸にある。

一説では此処は元々山岳地帯の近くにあり、天然の要塞でもあったらしい。

前世界で巻き起こった戦爭でそれらは消失したが、玄甲の高い迎撃能力でメイン居住區全と外居住區の一部を守りきったのだと言う。

代わりに全ての迎撃兵を使い果たし、部に収容されていた大量の兵は全て反撃に持ち出され、返っては來なかった。

迎撃兵の損失と反撃兵の喪失で玄甲は今ではタダの見てくれだけ、文字通り壁でしかないのだ。

つまり、此処を守るには大量の兵士が必要だ。

ヤウラを守る兵士はとても壁の側の人間だけでは足りない。

必然的にそれ等を補う為に、外居住區から徴兵せざるをえなかった。

何故こうも必死なのか? それには理由がある。

ヤウラの北には二つの都市があった。

北に《ハタシロ》北西に《ヤハツキ》である。

十數年前、この二つの都市の間で爭いが起こった。

町と町を繋ぐほどの通信は、前世界で起きた戦爭に使われていた宇宙からの電波妨害用の衛星が未だ健在であり、不可能であった。

故にソレが起こったと知ったのは爭いが始まってから二ヵ月後、このヤウラに命からがら辿り著いたヤハツキの住民からの証言であった。

都市同士の爭いの詳細を知るには何もかもが手遅れであり、偵察の部隊を出す事を決めた時には既に爭いは終わっていた。

結果はヤハツキの消失と言う形で幕を下ろしていた。

偵察に出た部隊からの証言だと、ヤハツキの建造は全て壊滅させられていたとされる。

逆にハタシロの建造には変化は見られず、一方的な爭いとなった事だけが浮き彫りとなった。

それを知ったヤウラを取り仕切っていた前市長――船 善は如何なる自にも対応できるよう、戦力の増強を求めた。

ハンターが持っていた車や戦車は勿論、スカベンジャーが探し當てた前世界の兵、それ等を資金のある限り必死にかき集めた。

兵士も外居住區に住む者、子供を含めて徴兵と言う形で問答無用に壁へ連行し、このヤウラの戦力を徹底的に底上げした。

この崩壊した世界には統一された法などありはしない。

あるのは小さい町や、都市別で決めた獨自の法であり、ハタシロの暴を非難する人間は何処にもいない。

だから――備えるのだ。

理不盡な言いに屈しない為に、圧倒的な力に耐える為に。

ただ、それらの行いが壁の側と外側に住む者達の亀裂を決定的なにした。

その日一日だけでも生きていくのに必死な彼等である。

壁の向こう側に住まう奴等の備え等という、起こらないかもしれない出來事に協力などできるものか!!

次第に小競り合いが発生し、時には大きな暴にもなった。

時には壁に通じる線路に発が仕掛けられていた事もあり、あやうく大慘事となる所であった。

善は自らが行った行為は間違ってないとしつつも、外ととの亀裂を鎮める為に辭任した。

そして新たに市長となった――宮本 栄一郎は問答無用の徴兵制度を取り消した。

代わりにある程度の借金を軍が請け負う代わりに隊してもらう制度と、また志願した時の年齢が若いほど隊時に貰えるボタが増幅する新制度を取りれた。

さらには決まった日に食事を配給する等の、積極的に外側の住民に歩み寄る姿勢を取った。

――ふざけるな!!

春由はその弱な姿勢に憤慨した。

彼には理解できなかった、このヤウラを守る事に協力しない外の住民達を。――いや、理解しようともしなかった。

しでもいい、戦力の増強をしなくては――彼は自分の佐と言う階級を元に行を起こした。

配給される食料の幾つかを橫流しという形で確保し、それを利用すべくこの町に來たばかりの教會の子供達に目を付けた。

あの一帯は人住みもなく、影でくには最適だった。

ただ予想外だったのが、徴兵する為に吹っ掛けた借金の一萬という額を彼等が払えてしまいそうになった事だ。

流石に保護者の仕事等を邪魔するには目立ちすぎる、代わりにゴミ山の資源集めを妨害する為に一ヶ月前に雇ったのが迫田 甲とその取り巻きだった。

ただあの男はただのチンピラかと思いきや、昔は様々な都市や町で騒ぎを起こしており《壊し屋》などと言う異名すらあった。

それに気付き、目立つのは止す様にと態々危険を承知で釘を差しに行ったにも関わらず――!!

「くそぉ! チンピラ風が!! 黙って従う事すらできんのか!!!」

春由は枕元に置いておいた酒ビンを手で弾き飛ばし、近くにあった椅子を蹴り倒す。

子供が癇癪を起こした時の様に春由はに當り散らす。

ただ鍛え上げられた彼がそれ行うにはし力が強すぎる、折角幾帳面に整えていた部屋の中は酷い有様になってしまった。

しばらくして、春由は呼吸を整えると窓の外のゴミ山を睨み付けた。

「……殺すしかない。チンピラ共も、教會の連中もだ。大丈夫、上手くいく。次はもっと賢くやるんだ……」

自分に言い聞かせる様に春由は何回も同じ事を呟く。

そして覚悟を決めたのか、頭の中の出來事を現実にすべく顔を上げ、自分の私兵に連絡を取る為に壁の通信機に手をばした所でインターホンが鳴った。

春由はさっそく自分の行が阻害された事に苛立ちを隠せず舌打ちを鳴らす。

とはいえ不審に思われない為に無視する訳にもいかない、そのまま通信機の隣にあるインターホンにばしていた手を著けた。

『し、いいかな?』

「……準將。こんな時間にどうされましたか?」

畫面に映った首元にある階級章ではなく、その人の顔を見て春由は聲をくした。

今もっとも會いたくない相手であったからかもしれない。

『話は中でしたい、開けてくれないか?』

「……お恥ずかしながら、し部屋が散らかっております。申し訳ございませんが玄関先で用件を伺います」

春由は無禮にも相手の返事を待たずにインターホンを切って、玄関に歩みを進める。

苛立ちを隠す様に深呼吸を數回行って、チェーンを外し、鍵を開けた。

すると突然鼻っ面に衝撃をけて春由の視界にが散る。

痛い、等と思う暇もなく地面に倒れこむと同時に顔へ銃を突きつけられた。

涙で霞む視界の先で、制服姿の兵士が無表に見下ろしながら引き金に指を添えている。

突然の事態ではあったが春由の中では恐れより怒りが上回り、が滴る鼻を抑えながら涙目で相手を睨み付けた。

「な、何をする!!」

「魅竹佐、今日この場を持って反逆罪で君を逮捕する」

準將の階級章を著けた白髪の男は魅竹を見下ろしながら、そう告げた。

まるで己が罪の宣告をけたかの様に、悲痛な聲で。

「なにを……何を言ってるんだ父さん!!!」

春由が苦痛に顔を歪ませながら、白髪の男にんだ。

父――そう呼ばれた男、魅竹 照(ミタケ テル)は懐から一枚の寫真を取り出して息子によく見える様に突きつけた。

寫真には、迫田とその取り巻きと共に春由が路地裏で一緒に居た場面が寫っていた。

その寫真を見て春由は一瞬を詰まらせたが、すぐに反論を口に出す。

「それが何だって言うんだ?! 軍人だからって街中で因縁つけられただけさ!! 俺とその連中には何の関係もないんだよ!!」

「そうか? なら食料の橫流しや、教會の人達に無理矢理背負わせた借金の話でもするか?」

父の鋭い言いに春由は絶句してしまった。

全てばれていた、その事にそこでようやく悟る。

「佐、誤解するな。君は実に巧妙に隠蔽工作をしていた。ただ壊し屋程の大がヤウラに來れば、監視は付くに決まってる。お前はその男の恐ろしさを知らず、無謀にも接してしまったのだ。そのおかげで君の不正に気付けたのだがね。……ただ、おで優秀な監視員とはもう連絡が取れなくなってしまった。噂どおり厄介な男の様だ」

春由は既に父の言葉など聞いてはいなかった。

今彼の心中に渦巻いているのは、この場面をどうやって切り抜けるか、ただそれだけだった。

春由は父の瞳を見つめると、懇願する様にを震わせながら言葉を発した。

「俺はただ……この町を、ヤウラを想って必要な事をやっただけだ! みんな言ってるじゃないか!! 外の連中は何もわかっちゃいないって!!そうさ……だからこそ俺達が守ってやらなくちゃいけないんだっ!! 別にいいじゃないか!! あんなゴミ溜めで慘めに生きていくよりも、此処でヤウラの為に盡くしていく方が奴等だって幸せさ!! 父さんなら分かってるだろ?! 俺はこの場所をしてるんだよ!!! だからっ!!」

支離滅裂だが、春由の言いには心打つものがあった。

噓で塗り固めた口からようやく出てきた、彼の本心が混じっていたからかもしれない。

ただ、父である照は瞼を伏せると辛辣に言い放った。

「いくらお前がヤウラをしても、ヤウラはもうお前をさない。この町の法を破った時に、お前はこの町に拒絶されたのだ」

「っ……あぁぁぁぁ…………!」

これ以上、言う事は無い。

照が兵士に頷いて見せると、すぐさま兵士は春由の手首に手錠をして廊下に連れ出していった。

項垂れた春由は抵抗する素振りも見せず、ただ涙を流しながら憔悴しきっていた。

部屋の中に照は一人殘り、足を進めて部屋の奧に足を踏みれると荒れ果てた慘狀が眼にり眉を顰めた。

日が上がったばかりというに、まるで一日中働きつかれた時の様にベッドへ照は腰を落ち著ける。

照の唯一の救いは、春由が最後は大人しく連行に従ってくれた事だ。

彼がようやく自分の過ちに気付けたのなら、それはとても喜ばしい事だ。

ふと、一枚の寫真が床に落ちているのが眼にった。

のろのろと腰を上げてそれを拾い上げると、照は目頭を押さえた。

遠い昔の在りし日に、メイン居住地のビルが全て一できる展臺で撮った寫真。

自分が小さい春由を抱え笑い合っている姿。

寫真の中に寫る小さな幸せが、もう二度と自分には手にできない様に思えて、照は靜かに涙を流した。

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ヤウラ外居住地の更に外側の一角に目立つ建がある。

何故なら其処は、外居住區で一番高い建だからだ。

荒くれ者達でさえ滅多に近づかない――否、近づけないその三十階建てのビルは組合所と呼ばれている。

布切れを纏って歩く大半の住民とは違い、そこに足を踏みれる者達はまともな服裝であり、それどころか大小問わず火で武裝した者ばかりだ。

組合所の周りには、前世界のである車や戦車等の兵が數臺ほど並んでいる。

一見すると寶の山だが、それを奪いとろうとする輩はいない。

何故ならそれ等に手を出す事は、此処では破滅を意味するからだ。

組合所はハンター、又はスカベンジャーと呼ばれている者達が集う場所だ。

この過酷な世界に殘された廃墟の中でを探し當てたり、迷い歩く機械を打ち倒しその部品を奪い取る等。

そんな危険極まりない事を平気でやってのける無謀者ばかりだ。

様々な危険を乗り越えて、様々な験をしてきた彼等であるが、そんな彼等でも度肝を抜かれる事がある。

このビル程とは言わないが、町を一すれば必ず視界にる程にでかいゴミ山が徐々に消えていってるのだ。

まるで初めて展臺に來た子供の様に、彼等は最上階の窓辺に近づいてゴミ山を眺めている。

「うわ……。何あれ、どうなってんの? ウォーマシンでも暴れてるわけ?」

爛々とまるでしいを眺めるの様に目を輝かせながら、彼――キリエ・ラドホルトは呟いた。

何が起きているのかをよく確かめる為か、ゴミ山を違う角度から覗き込もうとする度に赤の長いポニーテールがつられて揺れく。

うんうん可く唸りながら窓の外を眺める彼の周りには、一人を除いて誰も居ない。

あの景を一目見ようと、ここ組合の三十階には人が所狹しと集まってきている。

しかし、彼の半徑三メートル程にはまるで見えない壁でもあるかの様に空間に開きがある。

「ウォーマシンなんて見た事ないくせに、よく言うぜ」

唯一、彼に並び立つ中年の男が呆れ顔で彼にツッコミをれる。

気だるげそうに立って窓の外を眺めてはいるが、その眼差しは鋭さを帯びている。

「はぁ……やっぱ海の向こうに行かなきゃ會えないのかなぁ。ウォーマシン……戦ってみたいなぁ」

「あのさ、ウォーマシンだぞ?? 個人でどうこうできたら世界は終わってねぇんだよ」

「うーん……生まれるのが數百年早ければ…………」

「……もういい、お前と話してると疲れる」

男はキリエに構うのをやめると、窓の外を眺めるのに集中した。

キリエは熱っぽい溜め息を零すと、ゴミ山に潤んだ眼差しを向けた。

まるで意中の相手を眺めるのように。

「ああ……♪ あそこで一何が起きてるの……?」

キリエがゆっくりなぞった指先で、小さく強化ガラスに罅がった。

その事に気付く者はおらず、皆靜かにゴミ山に視線を向けるだけだった。

鉄の雨が降り注いだこの日を境に、確かに何かが変わり始めた。

それがこの荒廃した世界にどんな変化を與えるのか――まだ誰も分からない。

はい、何か々出てきましたね。

主人公視點だけでは分からない事も多いですからね。

書いてて思ったのが、第三者視點って結構むずかしいです。

主人公視點だと結構スラスラ書いて、足りない部分に付けしていくか。

蛇足かな? と思った所を削ぎ落とすかで楽なんですが……。