《俺+UFO=崩壊世界》敗者の末路

先程まで俺は『やだ……私、見られてる?』ってなじだったのだが、今では『貴様!! 見ているなッ!!』と言った風である。

迎撃地點への案の道中、武市さんが食獣を思わせる笑みをチラつかせながら俺を見ている事に気付けたからだ。

背後を振り返らず、どうやってその事に気付けたのかと問われれば、単純に俺には《見えて》いるからだ。

宮木伍長から借りけたレイルガンとゴーグルの機能を駆使し、俺は肩に置いてあるレイルガンの銃口をし背後に倒して狀況を把握したのである。

とはいえゴーグルの右半分に映った視界の上下は反転してるし、徒歩の揺れの所為で畫像がブレるわで気分が最悪ですの。

一般市民の皆様は余程の理由が無い限り、背後が気になったらレイルガンを使わず普通に振り返って見る事をお勧めします。

ともあれ、おで武市さんが俺に興味津々であろう事は確認できた。

俺が底なしのナルシストなら『おや、あの麗しいレディは僕に惚の字なのかな?』と勘違いするだろう。

しかし、武市さんは組合所で迫田のに何が起こったかを調査していた様子だった。

故に彼が俺に興味を抱いているのは、俺にまたもや疑いを持っているからだろうな。

俺の失言で一度は危うかったが、何とか乗り切れたのに……ついてねぇぜ。

狀況は當然最悪だ。

俺がHAもどきである武鮫を裝備していると分かったなら、武市さんは俺が迫田を倒してもおかしくはないと考えているはずだ。

普通なら武鮫の様な一部裝著型HAで、迫田の様な全裝著型HAに対抗できる可能はかなり低いとは思うのだがな……。

背後の彼の表を見る限り、僅かでも可能があるなら諦めないタイプの様だ。どこぞの主人公なの? それだと僕チン負けちゃうんですが。

そもそも迫田を倒したというか……殺したのが俺だってばれたらどうなるのかなぁ?

田中さんは賞金がどうこう言ってたし、罪に問われる事はないのか?

いや、仮に事聴取をけて、その際に武鮫を調査されれば偽者だと一発で分かるであろう。

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そうなれば重さ數キロ。下手すりゃ十キロを余裕で超えてるであろう、タダの鉄腕を軽々と裝備していたと分かれば俺の異常がバレてしまうじゃないか。

里津さんはそうなれば軍に徴兵されるかもと言ってたが、最悪軍で人実験でもされそうだよな。

もしかしたら俺の怪力を軍が見込んで、にピッチリ吸い付く間モッコリスーツと丸っこい盾を持たされ、『キャプテン・ヤウラ』として活躍する事を期待される可能があるかもしれんが、まぁ限りなくその線は低いと言う事は明らかだろう。勿論、そんなオファーをけても困るがな。

この世界、と言うかヤウラには黙権やジュネーブ條約に似た法があるかも分からないし……。うぅ、困ったなぁ……。

俺がなら『ふぇぇ』って涙目になってる所だが、今の俺は背後からけるプレッシャーの所為で吐き気に似た『おぇぇ……』ってじで気分が最悪である。

パワ○ロだったら絶不調であり、試合開始前に選手をれ替える事は間違いないのだが、今はタダ黙々と迎撃地點へと歩みを進める事しかできない。

そうこうしているに駐屯地のキャンプ場から離れ、荒野に幾重も張り巡らされた塹壕が視界にってきた。

木の板じゃなく、鉄板で土が通路へ零れ落ちない様に補強している所を見ると、やはり緑溢れる様な自然はヤウラ周辺には無いのだろうか?

むぅ、下手すれば世界全が荒野になっていると言う可能もあるか? いや、空気は吸えてしるなぁ……。よう分からんですわ。

そんな事を考えながら最初の塹壕を飛び越え、さらに先へと歩を進めようとしたら案の為に先頭を歩いていた兵士が足を止め、背後を振り返った。

てっきり此処で迎撃するのかと思いきや、彼は最後尾にいる訓練兵達を連れた武市さんへ向けて聲を掛ける。

「教殿!! 流石に最前線への見學はご遠慮願いたいのです。申し訳ありませんが、此処で訓練兵達と待機してくださりませんか……?」

言葉の後半がトーンダウンしたのは、恐らく武市さんの方が階級が高いからかな?

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そう思うと兵士の視線も心なしか、落ち著かない様に細かくきを見せている気がしないでもない。

「ん……了解した。お前達、ここで待機だ! 戦闘を注視するのにあまり夢中になるなよ! あくまで慎重にな。を乗り出した所に流れ弾が飛んできて負傷しても、別段おかしくはない位置にいるんだからな」

意外にも、武市さんは素直に兵士に了承の意を返すと訓練兵達に指示を出し始めた。

それを見て安堵の息を僅かに零した兵士と共に、俺も靜かにで下ろす。

よかったぁ。流石にこのまま間近で武市さんの視線をじたまま、迎撃できる神狀態ではなかったからな。

一部の特殊な癖の持ち主達は見られてる方がモチベーションが上がるらしいが、生憎俺にはその様な隠れた部分は無かったらしい。

俺はし気を取り直し、また歩みを再開した兵士の後を追う。

と、その途中で土を盛大に巻き上げる音が聞こえて周囲を見回すと、一臺の戦車が駐屯地から荒野へ発進している様子が見えた。

その戦車の周りを數名の兵士が囲み、小走りで駆けている。どうやら彼等が俺達の迎撃が失敗したら後始末をしてくれる部隊っぽい。

やはりそういう景を見ると、『襲撃』なんて言う異常事態に彼等が慣れきっている事が分かる。

俺が元居た場所だと異常事態と言えば、々學校の校庭に犬が迷い込んでくる事が関の山だってのによ。

今では荒野から街に向かって無人兵が突撃してくる様な場所にを置いてるんだからな。人生って不思議だよね。

「よし、此処でいい。各自、しでも線が被らないように散開して狙撃位置に著いてくれ。迎撃に失敗したら塹壕に伏せて軍が撃破するのを待つか、を低くして素早く通路を駆け戻るかは個人の判斷に任せる。では、幸運を」

そう言うと兵士は、小走りで來た道を駆け戻っていく。

同業者達は兵士に返事をする事も無く、ただ淡々と塹壕にを下ろし、各々散らばって武を構え始める。

俺も線が被らない様にとのアドバイスを元に、彼等の傍からし離れて狙撃位置を探す。

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勿論、ド素人の俺には何処が最適な場所かなど分かるはずも無く、適當な位置に陣取ってレイルガンを構える。

暫くレイルガンのつまみを弄くりながら倍率を調整していると、急にゴーグルに表示されていたレティクルのが白から赤く染まる。

まさか早速壊れたのか? 一瞬脳裏を過ぎった不吉な考えに心臓が嫌な鼓を刻むも、それはすぐに靜まった。

ゴーグルに異常は無く、むしろ正常であったのだとレティクルが捉えたを見て分かったからだ。

時折砂塵で霞む視界の先、遠く荒野の果てから大量の土を巻き上げながら猛スピードで此方に近寄ってくる謎の

それを一言で表すのならば――『點』であった。何も遠くに居すぎて正が判別できないとかではない。

今の俺はゴーグルの倍率と優れた視力のおで正確にソレを捉える事ができている。だが、どこからどう見ても『點』なのだ。

と、突如近くから耳を鋭く突く銃聲が聞こえて來た。

チラリと橫目で其方に視線を向けると、し離れた場所に居た同業者、彼が地面に著けていた対戦車ライフルの周りが撃った時の反の所為かし土埃を上げており、それで彼が攻撃を開始したのだと理解する。

その直後にゴーグルに映る映像に急激な変化が起こり、意識を戻される。どうやら地面を走っていた點が大きく跳ねた様だ。

必然、その行の所為で大きく土埃が巻き起こったが、次の瞬間には土埃の中央に大きくが開き、僅かに向こう側の景が覗き見えた。

その景を確認し終えた後、俺の優れた聴力が同業者が放った僅かな舌打ちを捉え、それで最初の一撃を外したのだと悟る。

點は大きく宙に逃れて最初の攻撃を回避したが、跳ねたのならば落ちてくるはずだ。

俺は素早く落下地點を予測し、レイルガンの位置を変えようとした所で點から幾つもの線が飛び出してきた。いや、正確には《足》だった。

その姿を見て、瞬時に俺の心中に生理的嫌悪が沸き起こった。

一瞬で大きく積を膨張させ、突如大空に姿を見せたそれはまさしく蜘蛛(スパイダー)だ。どうやら……先程の高速移を丸めて行っていた様である。

不気味に赤くる八つの眼が真っ直ぐ此方へと向けられ、同じく八つの足はまるで風を捉え、しでも滯空時間を増やそうと言うかの様に大きく開いている。は黒く鈍い輝きを放ち、が開いた裝甲板から千切れたコードがはみ出しており、ソレが風で激しく揺れる。

生きである蜘蛛と機械である奴との違いがあるとすれば、空中に居る奴のの彼方此方から先の開いた棒が飛び出しており、それが銃口である事は明らかであった。

スパイダーが最高高度に達した瞬間、その幾重もの銃口が連して細かくき、此方へ向けられる。

その景を見て、俺は瞬時に奴は回避行の為だけに跳ねたのではなく、空から塹壕への線を確保する為の行でもあったのだと悟った。

だが、俺は愚かにもまもなく降り注ぐであろう猛攻を脳に思い描いてしまい、を僅かに直させてしまう。

「伏せろぉ!! チェーンガンの掃が來る!!」

「……ッ!」

俺と同じく奴の行の真意を見抜いた誰かが大聲上げた。

そのおで俺は意識を取り戻して直を解く事ができ、すぐさまレイルガンを抱える様にして塹壕に伏せる。

直後、腹の其処まで響くような轟音が周囲を包む。盛大に土が巻き上げられ、それがパラパラと小気味の良い音を立てながら塹壕へ雨の様に降り注ぐ。

銃撃が止み、遠くから大きいが落ちた音と響きをじ取り、奴が無事に地面への著地に功した事を知る。

俺はすぐさまレイルガンを抱え上げ、お返しにコイツの弾を叩き込んでやると意気込みながら塹壕から顔を出して唖然としてしまった。

周囲は猛攻のおで砂埃に満ちており、とてもじゃないがすぐには狙撃できる狀態ではなかったからだ。

「おいおい、まさか狙ってやったってのか……?」

俺はスパイダーの行が此処まで狙い済ましていた事に気付き、の中に焦燥が湧いてくるのを覚えた。

奴はまさしく《兵》だ。どうすれば相手の行を阻害できるかを瞬時に見極めている。

だが、此方も黙ってやられる訳には行かない。

俺は素早くレイルガンを抱えると、塹壕の通路を駆けて線が確保できそうな場所を探す。

とは言え、あまり時間を取られると相手に接近を許してしまう。俺は土埃の中から抜け出すと、すぐに其処が不安定な場所である事も気にせずレイルガンを構える。

スパイダーは細かく足をかしながら、攻撃が飛んでこない間に猛スピードで此方へと突進してくる。

このままでは不味い。俺は奴の撃破ではなく、とりあえず行を阻害する為に狙いを定め始める。

ゴーグルに表示されたレティクルはスパイダーに當たると白から赤へとを変化させる。

上手く狙いが定まらず、チラチラと白と赤の変更を繰り返していたが、俺は一つ覚悟を決める様に息を吐き、次にレティクルが赤くった瞬間、迷い無く引き金を引いた。

直後のレイルガンが放った音は、俺の予想に反して『キンッ』とした小さい音であった。

だが、確かにレイルガンから放たれたが一線として荒野の砂埃を引き裂きながら駆け巡り、スパイダーの機の左側面にある足二本を弾き飛ばした。

レイルガンの絶大な威力を証明するかの様に盛大に鉄と部品を撒き散らしながら、それ等は遠くへ跳ね飛んでいく。

その所為で奴がバランスを崩し、地面にらせた大音量が聞こえてくる。

しかし、奴は諦めていない。不安定な姿勢で此方へ反撃の銃撃を飛ばしながら、を大地に伏せたまま殘った足を用にかしてにじり寄って來る。

とは言えそんな有様で撃った弾が當たるはずも無く、俺から大きく外れた場所へと著弾して空しく乾いた音を立てる。

そのまま止めを刺してやろうと思った瞬間、レイルガンの廃熱口から盛大に蒸気が噴出して周囲を白く染め上げ、僅かに視界が遮られた。

思わず舌打ちを零した折、ゴーグルの右上に表示されていた白いバーがしずつ減を始める。

それと同時にレイルガンの姿が表示されていた場所の上に新たに《チャージ中》の文字が浮かび上がり、點滅を繰り返す。

構わず引き金を引こうとしても引き金は緩々として手ごたえが全く無く、先程の様にカチッとした確かなを指先に伝えてはくれない。

「れ、連できないのか!?」

超絶である威力の代償は、どうやら莫大な待ち時間である様だ。

予想外の展開に俺は戸いを隠せなかった。その揺ぶりは程外である事も構わず、咄嗟にホルスターのDFへと手をばした程である。

だが、俺が一人で泡を食っていると気盛んな聲が聞こえて來た。

「よくやった小僧!! MVPはお前だな!! 一番良い部品はテメェにくれてやるよ!!」

誰かが口にした言葉と同時に、幾つもの銃弾が銃聲を伴ってスパイダーに向かって放たれた。

それ等はまず不気味に赤くる八つの目の五つを打ち砕き、次に裝甲に多數の風を開けて中のコードも傷付けた様だ。

その事は、僅かに覗き見えた裝甲で輝く放電が示している。

だが――スパイダーは諦めない。しづつ歩みを進め、塹壕に向けて反撃の銃火を放つ。

しかし、センサー類をやられたであろうか、狙いが定まっていないようだ。

滅茶苦茶な軌道で放たれたソレはスパイダー自の近くにある地面を掘り返し、宙に放たれた弾はただ空を切るだけで終わる。

時折、スパイダーは銃弾をかわす為に地面を大きく跳ねて転がる事もあったが、その行は己のをただ悪戯に傷付けるだけのであった。

必死に行うその回避行で裝甲板が次々と剝がれ落ち、から覗き見える銃口は地面に押し潰されて捻じ曲がる。

どうやら……ダメージコントロールも出來ない程にAIの機能が低下しているらしい。

あとしでチャージが終わると言う所でまたもや荒野に眩いが走った。

ソレは瞬時にしてスパイダーの右側面の元近くを通過し、の一部ごと削り取る様にして三つの足を吹き飛ばした。

スパイダーはとうとう堪らずと言った様子で盛大な土埃を立てながら地面にを橫たえ、遠く離れた大地で空しく僅かに殘った無事な銃口をかして滅茶苦茶に撃ちまくっている。

恐らく、レイルガンを持っていたもう一人がケリを著けた様だ。

勝敗が決したと言う事は目の前の景を見れば明らかであり、俺は深く溜め息を零す。

すると其処でレイルガンの緩々だった引き金が張りを取り戻し、ソレと同時にチャージ中の文字が消えてゲージもきを止めた。

どうやら、ようやくチャージが終わった様だ。

戦闘を注視しながらだったのでよくは分からんが、恐らくチャージの時間は二十秒か三十秒くらい掛かったのかな?

レイルガンの威力が抜群であるとは分かったが、単獨での戦闘行為には向かない事は明らかだ。隙が大きすぎる。

今回の様な複數人でカバーできる環境ならば、レイルガンは最大の効果が発揮できる兵なのだろうな。

最初はどうなる事かと思ったが、気付けば五分とも経たずに迎撃戦は終わってしまった。

だが、今の俺はこの短い間で行われた戦闘で大変に疲れている。

ゴーグルのスイッチを押してスナイピングモードを解除した後で、塹壕にゆっくりと腰を下ろし、そのまま暫く立ち上がる事が出來ない。

銃弾が掠める覚は廃病院でも味わったが、やはり心臓に悪いよなぁ。大人しく依頼だけけてれば良かったのかな?

まぁおでスパイダーを撃破出來た。高額な部品を七名で分配できるとなると百式の二萬とまでは言わんが、ソコソコの稼ぎにはなるんじゃないか?

俺が休みがてらそう頭の中で思考を展開していると、近くに寄ってきた同業者が手をばしてくる。

彼も俺と同じくレイルガンを所持しており、その事から考えると彼がスパイダーを無力化した人の様だ。

「良くやったな。お前のおで形勢が逆転したぞ! レイルガンはともかくとして、HAを裝備している所を見ると……やっぱり上級なのか? けど、見かけた事ないんだよなぁ。他の街から來たスカベンジャーなのか?」

相手は白人で金髪を短く切り揃え、青い瞳が特徴的な人だ。

俺は同業者のフレンドリーな対応にし驚きつつも彼の手を摑んで腰を上げると、すぐに彼が言った上級等という勘違いに否定の意を返す。

「あ、いや……。この街に來たばかりってのはあってますが、俺は新米です。このHAとレイルガンは運よく知り合いに貸してもらえて……」

「……HAやレイルガンを貸してもらえたのか? ふむ? ……おっ、回収班が行を開始したか。相変わらず仕事が早い連中だ」

彼は俺の言葉にし興味を惹かれた様で瞼を細めたが、回収班とやらを確認して俺から視線を外す。

俺も釣られて視線を向けると、數臺のトラックが今まさに駐屯地から並んで出てくる所であった。

「よーし!! お楽しみの時間だ!! 回収班が到著する前に終わらせるぞ!!」

同業者の一人がそう高らかに聲を上げると、歓喜の聲が塹壕に響き渡った。

突然の盛り上がりに俺はついていけず、呆然とその様子を眺める事しかできない。

そんな俺の視線をじ取ったのか、高らかに聲を上げた黒人の男気に話しかけてくる。

「お前達も《針通し》に參加するか? とは言え、流石にレイルガンで針通しは勘弁してもらいたいからな……。弾薬費を払ってくれるなら俺のライフルを貸すぜ?」

「いや、俺は良い。あんた等で楽しんでくれ」

「え、あ……俺も遠慮しておきます」

隣に立っている金髪の同業者が斷りの言葉を放つと、俺もそれに続けて返事をする。

黒人の同業者は特に気にした様子も無く、そうかと一言告げると此方への興味を失ってしまった。

「誰から行く? 俺だったら一発で當てて見せるぜ?」

「はははっ、最初の一発を外してた癖によくそんな事が言えたもんだな。だが、いいだろう。その面の皮の厚さに免じて一番手を譲りたいと俺は思う! 誰か異論はあるか?!」

今この場を取り仕切っている黒人の男がそう言って周りを見渡すも、誰も異論を挾む事は無かった。

その事に一つ満足そうに頷きを見せると、彼は気合を注するかの様に名乗りを上げた男の背を盛大に叩く。

「っよし! 決まりだな。よーく狙って撃てよ? 裝甲の弾薬に當てて引火させたりすんなよ!」

背をイキナリ叩かれた男し痛かったのであろうか、若干眉を額に寄せながら一つ頷きを返し、対戦車ライフルを構えてスパイダーに向けた。

「そんなヘマをする方が難しいって。良いから見てろ…………よっと!!」

鋭い発砲音が荒野に響き渡り、次にスパイダーの裝甲を貫いた金屬質な甲高い響きが聞こえてくる。

攻撃をけたスパイダーは抑え始めていた銃火を再び猛烈に吹かし、僅かに巨を揺さぶった。

「惜しいな!! 著弾點は既に壊した目の部分か。まぁ他の無事な目を潰さなかっただけ、まだマシだな」

「はー……ったく、今日はどうも運が無いな。次は誰が行く?」

死にのスパイダーに攻撃を加えた彼は盛大な溜め息を零し、対戦車ライフルを構えるのやめるとそう言った。

すぐにその様子を見守っていた一人の男が手を挙げ、周りの同業者達に囃し立てられながら彼も己の対戦車ライフルを構え始める。

俺は彼等が一何をしているかがとてもじゃないが分からず、困を隠せない。

気付けば俺は隣で一緒に様子を眺めていた金髪の同業者に聲を掛けていた。

「あの、彼等は何をしてるんです?」

「ん? ……ああ、オマエは新米だって言ってたな。丁度いい、暇潰しがてら教えてやるよ。無人兵を無力化できたとしても、AIの破壊が終わらない限り部品の回収はできん。見ろよ、あんな狀態だってのに奴はまだやる気満々だぜ? まさに兵だよなぁ。んで、何時、何処で、誰が始めたか知らんが《針通し》って言う遊びが生まれたんだ。一人ずつ代して撃って、無事にAIを破壊する事に功したらソイツが好きな部品を一つ持ってける。AIを破壊する弾薬費もタダじゃねぇ。こういう遊びがないと、率先して誰もトドメを刺そうとしないだろうしな。発案者は上手い手を考えたもんだぜ」

「遊び……ですかぁ」

「勿論、針通しを功させた奴が部品を選ぶタイミングはMVPが先に選んでからだ。お前が今回のMVPである事は誰も文句は無いだろうし、安心しな」

「ははは……どうも。説明してくださって謝します」

俺は説明してくれた金髪の同業者に謝の意を伝え、針通しを行う同業者達に視線を向ける。

確かに誰もが活き活きとした表を見せ、軽い調子でライフルの引き金を引いていく。

目標を大幅に外すと盛大に笑い聲が上がり、無事な部品を傷つけるとブーイングが飛ぶ。

恐らくAIチップが近くであろう部分に著弾すると、『惜しい!』という言葉と共に盛大な溜め息が沸き起こる。

まるでパーティゲームを楽しむ子供達の様な雰囲気だ。

だが、遠く彼方に居るスパイダーはその行為でしずつ損傷を深めていき、時折痙攣するかの様なきを見せる。

當に銃弾を撃ち盡くしたのだろう、今やスパイダーがとる行は殘った足をゆっくりとかすだけ。

パワーが落ちきっている所為もあるだろうが、殘った足で巨かす事は葉わず、その行為は近くの土を掘り返しただけで終わる。

俺は何故か命のやり取りをわした相手だと言うに、スパイダーに同じえなかった。

かす事も葉わず、しずつトドメを刺されていくとは……とてもじゃないが最悪の気分であろう。なくとも俺は免である。

とは言え、どこぞのヒロインの様に『もうやめてあげてぇ!!』等と甲高い聲を上げて制止する訳にもいかず、ただ早く終われと願う事しか俺には出來ない。

何処と無く沈んだ気持ちで針通しを眺めていると、突如として今までに無い盛り上がりを見せて塹壕は沸き立った。

「うおおおおお!! はははっ!! 悪いな、みんな! 優勝は俺だ!!」

びを上げたのはその場を仕切っていた黒人男だ。

周りの同業者達はブツクサと文句を口にしながらも、笑顔を浮かべ彼を軽く四方から叩いて祝福する。

俺はその様子を橫目で見ながらゴーグルのスイッチを押してスナイピングモードを起し、レイルガンを構えてスパイダーに向ける。

するとゴーグルに映し出された景は、今まさにスパイダーの目から赤いが消えていく様子を捉えた。

それと同時に僅かにきを見せていた足を靜かに地に伏せ、そのまま停止する。

遂にスパイダーの機能は停止した様だ。その事に俺は靜かに安堵の息を吐く。

奪い、奪われ、生きていく。

その事はこの世界では當然の行為であると分かり始めていた事なのに……。何故か俺の心中では靜かに哀愁が漂っていた。

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