《俺+UFO=崩壊世界》仄暗い願

朝早くから、珍しくも組合所へとハンターやスカベンジャー達の多くが足を運んでいた。

その理由は単純明快。昨日ミシヅからやって來たと噂の勇士、二つ名持ちである凄腕の同業者を一目拝もうとの野次馬からだ。

とは言え、それにしてはしばかり人が多すぎる。

それは何故かと言うと、組合所へと向かう者達は『凄腕』と言う部分だけではなく、噂の同業者が『妙齢の人』であるとも聞きつけたからだ。

二つ名である『鉄雨の貴婦人』と言う言葉からも、その報はかなりの可能で高い事が伺える。

彼等は一どこでその報を手にれたのか?

前世界の戦爭によって生まれた負のの一つ、宇宙からの電波妨害用の衛星はまだ數百と言う驚異的な數が健在である。

そんな有様ではテレビやラジオと言う娯楽はすっかり消え失せ、個人での連絡手段はPDA頼りであるのが現狀だ。

しかし、PDAすらも長距離での連絡可能圏は運が良い時で々が五十Km程であり、通常時はその半分程度となれば、もっぱら同じ街に住む者同士でしか使えない。

そんな中でハンターやスカベンジャーが報を確保する場所と言えば、組合所の次には夜の盛り場で……と多くなってしまった事は必然的なモノだったのだろう。

昨晩、夜の盛り場で勇士達の間で流れた話題はやはり『鉄雨の貴婦人』に関する事であった。

しかも、彼が來た直後にある賞金首の討伐が掲示板に張り出された事実も合わさり、彼等の話題を盛り上げる一因となる。

凄腕の噂に間違いは無し。と、するならば……人であると言う事もあながち噓ではない可能が高い。

ヤウラの組合所に君臨する"紅姫"事、キリエ・ラドホルトも人ではあるのだが……。いかんせん、子供っぽい部分が目立つ。

それに彼いを掛けても當然と言うべきか乗ってくる事は無く、それどころか態度の悪い者が"消された"と言う事実もある。

消したのが紅姫本人かヤウラであるかは分からない。

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しかし、ある人が消されたと言う事実が確かである以上、紅姫に手を出す様な愚か者はすっかりいなくなってしまった。

組合の付嬢や職員に手を出す事は止されてはいるが、同業者同士のには流石の組合側も"紅姫"と言う例外を除いては干渉してこない。

強くて人、この二つの響きは男共の興味を強く惹いた。

今の荒廃時代においては『可い』や『人』に加え、『強さ』と言う點も一つの強力な魅力となっているのである。

組合所に來たハンターやスカベンジャー達はまず付嬢に挨拶をし、次に何気ない口調で噂の人の話題を出す。

すると付嬢達はい笑顔を浮かべながら、無言である一點を指差す……と言う一連の流れを繰り返した。

噂の中心人、ノーラ・タルスコットは朝の九時から組合所に姿を表し、一階のフロアにある備え付けの長椅子に腰を落ち著けている。

今日の彼の服裝は足元部分に僅かな切れ目がった黒のワンピースと純白のボレロと言う、昨日とは間逆なの組み合わせであった。

昨日の彼が漂わせていた雰囲気が清楚ならば、今日の彼はどことなく気を漂わせている。

変わっていないモノがあるとすれば、それは彼が何時も浮かべている穏やかな笑顔だろうか。

人とは聞いてはいた、貴婦人と言う異名もだ。だが……"予想外"であったと男達は唖然とする。

やはりこの様な過酷な仕事を生き抜いて來たと言う事実を考え、彼等の脳裏に浮かべていた『人』とはどこか力強い印象が目立つのでは無いかと勝手に想像していた。

事実、組合に所屬する多くの達は男には負けじと気が強く、ツンケンとした態度を持つ者が多く居る。

だが、ノーラにはその様な刺々しい部分は一切見當たらず、遠巻きに眺める男達の視線に嫌悪する様な態度も見せない。

余裕があり、尚且つ気品溢れる彼の佇まいは多くの男達の心を深く捕らえた。

今までに彼の様なタイプのを目にした事が無かった者達の多くは、大きなカルチャーショックをける。

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あわよくばお相手を……なんて考えはすっかり彼等の頭の中から消え去り、遠目からノーラを注視し始めた。

気付けば、まるで一つの蕓品を事細かく鑑賞する様な奇妙な狀態が長く続く。

その狀態に僅かにれが生じたのは時刻が十時を過ぎた頃であろうか、靜かに佇んでいたノーラは初めてそこできを見せ、懐からPDAを取り出した。

たったそれだけの作ですら様子を伺っていた男達の間に揺が走り、靜かにめき立った。

その景を眺めていた付嬢達は面白く無さそうに瞼を細め、冷ややかな視線を送るのみ。

ノーラからし離れた場所で人だかりができた今となっては彼が何処に居るのかは一目瞭然となり、組合所に來たスカベンジャーやハンター達はもはや付嬢には目もくれず、噂の人を一目見ようと蛾燈へとわれる様にそのの中へ溶け込んでいく。

すっかり手持ち無沙汰となった付嬢の一人であるヘレーは、し離れたフロントで業務に著く同僚に向かって思わず愚癡を零してしまう。

「あーあ! もう、馬鹿みたいね!! 男ってのは!」

ヘレーがぶちまけたその愚癡は同僚の付嬢のみならず、近くに居た警備員にも屆き、僅かに彼のを強張らせた。

「まぁ、でも凄い人だものねぇ。あれは張り合う気も起きないわよ。仕方ないって、ヘレー」

そう諌めるような口調でヘレーに落ち著きを促したのは田中 恵だ。

はむしろこの異常事態を楽観的に捉え、『仕事が楽で助かる』等と考えている始末である。

悔しさが全然無いと言えばそれは強がりになってしまうが、自分の容姿はノーラとは別の層に需要があるのだ。そう心に言い聞かせ、田中は心のダメージを最小限にしているのだ。

しかし、ヘレーにはその様な用な生き方ができないのか、はたまた己の容姿に自信を持っているのか、唸る様にしながら言葉を吐く。

「くぅぅ……!! 組合所に來た登録希者がまず選ぶ付嬢NO:1を誇る、この私がこんな慘めな思いをする日が來るなんてぇぇぇ……!!」

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「何時の間にそんな統計取ったのよ、ヘレー……」

田中はヘレーの様子と言に若干引き気味になりつつ、そう何とか言葉を返す。

何時もならばこの様なお喋りは控えているのだが、こうも暇では仕方が無い。

それに何時も律儀に見回りを行う五階長の川はノーラ関連でトラブルが起きる可能を考え、念の為に數名の警備員を引き連れて取り巻きを警戒しているのだ。

今、彼達の雑談を聞いているのはフロントの脇の近くに待機している一人の警備員だけである。

それ等の事実とノーラへの嫉妬心が合わさって、一度開かれた口が閉じる事をヘレーは拒否してしまう。

「大、あの人ってあそこで何してる訳?! そもそもヤウラに來た理由も分かんないし! むぅ、まさか男漁りにでも來たんじゃないでしょうねぇ?」

「さ、さぁ……? でも、彼が前に來た時はラドホルトさんや速水さんと組んで直に出かけたのよねぇ。もしかしたら、今回もラドホルトさん達と待ち合わせしてるのかもね」

キリエが組む數ない存在であるノーラ。

何もキリエが組む相手を選り好みをしている訳ではなく、彼の"無茶"に付き合える貴重な存在がノーラや速水であると言うだけだ。

ずっとノーラにきが無い所を見ると田中が言ってる事は當たってるかもしれない。

そうヘレーは考えを切り替え、早く待ち合わせ相手が現れる事を強く願った。

「よし! 早く紅姫さん達が現れる事を願うわ!! そうすれば、また天下は私のよ!!」

「……ヘレーってさ、凄いよね。々と」

呆れとも嘆ともけ取れる言葉を靜かに田中が吐いた所で自ドアが開き、組合所の空気を僅かにした。

慌てて會話を取り止め、り口へと視線を向けた所で田中は僅かに頬を緩めて見せる。

何故なら、今まさに組合所に足を踏みれた人は彼が登録をした年であるからだ。

新人だと言うのに早くもズタボロになったローブと、片腕HAを裝備した姿は見る者を一瞬『練者なのか?』とわせる所がある。

だが、年のその表に浮かぶソレは達観したモノではなく、歳相応である事は一目瞭然だった。

今も見るからに焦った表を浮かべ、り口で足を止めながらオロオロと周囲を見回す有様である。

そんな混した様子を見せていた彼は田中の姿を見つけると心底安堵した調子で表を緩め、小走りで田中の下へ駆け寄って行く。

田中はそんな年の行を見て僅かに驚いた。

てっきり彼もノーラの噂を聞きつけ、一目見ようと組合所にやって來たのではないかと思っていたからである。

だが、彼はノーラを取り囲む人のには全く目もくれず、真っ直ぐと此方へやってきた。

年は田中のフロントに辿り著き、息を切らしながら挨拶を口にする。

「はぁ……はっ……お、おはようございます。田中さん」

「えぇ、おはよう。木津君」

汗と苦悶の表を浮かべながら挨拶をした沿矢とは対照的に、田中は眩い笑顔で挨拶を返した。

それは今日と言う日に彼が浮かべた笑顔の中で一番のモノであったのだが、次に沿矢の口から出た言葉をけて瞬時に固まってしまう。

「あ、あの! ノーラ・タルスコットって人が來ませんでしたか?!」

沿矢の様子を伺っていたヘレーはその言葉を聞いた途端に泣きそうな表を浮かべ、ポツリと一つ言葉をらす。

「……男の子って、殘酷よねぇ…………」

――その呟きを聞いて反応したのは田中ではなく、フロントの脇に居た警備員であり、彼は小さく頷いて見せたのであった。

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「あの、本當にすみませんでした……」

俺は深く、本當に深~く頭を下げた。

下げた相手は當然の事、ノーラさんである。

俺は迎撃戦や依頼の疲れ、それと夜中遅くにようやく就寢したと言う事実が合わさり、盛大に寢過ごしてしまったのである。

しかも百式の解析を既に終えてしまっていたのか、今日に限って里津さんは長々と睡していたのだ。

目覚めた時刻はなんと九時三十分と言う悲劇。しばらく不規則な生活が中心だった俺は目覚ましなんて所持していなのかったのである。

昨晩のに目覚ましを里津さんに貸してもらっていたらこの様な事態にはならなかったのだろうが……。々とあってそんな考えが脳裏に浮かばなかったので、もはや後の祭りだ。

俺は急いで支度を整え、朝食も食わずに飛び出してきたのだが、やはり待ち合わせ時間をし過ぎてしまった。

だと言うに、俺の隣を歩くノーラさんは穏やかな笑みを崩す事無く頭を一つ振って見せた。

「いいえ、良いのですよ。わたくしは待つ事には大分慣れてますので……。それに、そのおで隨分と"面白い"景も見る事ができましたし……ね?」

ノーラさんはそう言ってクスクスと笑うと、一つ確かめる様に流し目で俺を見つめた。

面白い景、と言うのは俺が人垣を掻き分けてノーラさんに近づいた時の周囲の反応である。

まず俺は田中さんにノーラさんの所在を聞いた時、突如として能面となった田中さんが人垣をゆっくりと指差して盛大に揺してしまった。

次に何が起こってるのかと尋ねると、やはりノーラさんは俺の予想通り凄腕の同業者だった様で……なんとランクはAとの説明を田中さんからけた。

そんな凄腕且つ人であるノーラさんを一目見ようと何処からか報を聞きつけた同業者達が組合所へと駆けつけ、朝から盛大に混んでいたのである。

最初はどうやってノーラさんに接を図るべきかで俺は頭をし悩ませた。

しかし、ただでさえ遅れていたのにこれ以上手間取る様な真似はするべきではないとの判斷を下し、俺は一つ覚悟を決めて人垣を掻き分けてノーラさんの元へと駆け寄って行ったのだ。

その時の周囲の反応は様々である。

俺の行をタダのナンパ行為と見て取って嘲りの言葉を呟いて冷笑する者。

次に俺の無謀な行を見て茶化すように激を飛ばす気盛んな者も居たが、これは極數だった。

一番酷かったのは周囲から鳴らされた多數の舌打ちである。

ソレは思わず『お前等アカペラでもやってんのか』と問い詰めたくなる程に見事な調子で合わさっていた。

ノーラさんは駆け寄ってくる俺を見つけるとまず目を丸くし、次にし茶目っ気な笑顔を浮かべながら立ち上がった。

が取ったこれだけの行で周囲の同業者達の間でざわめきが走り、雰囲気を一変させつつあったのだが、直後にノーラさんが取った行でそれは確定的なとなってしまう。

『お待ちしておりました。沿矢様』

近寄ってきた俺が謝罪の言葉を口にする前に、ノーラさんは頭を下げてそう言った。

突如として組合所に落とされた弾は壯絶な威力で炸裂し、周囲に居た同業者達の度肝を抜いて見せたのである。

"何故"かローブで手にしていたサブアームのハンドガンを床に落とし、呆然とする者。

次に『やっぱりHAか……?』等とどこか見當違いな言葉を吐きながら、諦めの様子を見せる者。

最後は目の前の現実をれられず徐々にめき立った多數の者達を押し留めるべく、警備員を引き連れた川さんがその場に介して周囲は混沌とした模様を展開するのであった。

俺が周囲の反応に顔を青くしていく様子とは対照的に、ノーラさんは終始楽しそうにニコニコと笑みを絶やす事がなかった。

とりあえず俺が言える確かな事は明日からもう堂々と表を歩けない、って事かな。

俺の顔はともかくとしても、武鮫を裝備した姿は鮮明に彼らの記憶の中へと刻み込まれただろうしな。

これは本格的に『夜の安らぎ』への就職を考える時期かもしれないな……。履歴書ってどこで売ってるかな?

俺は今後の職業選択に思いを馳せつつも、ノーラさんへ話しかける。

「それにしても、タルスコットさんがゴミ山に行きたいだなんてし予想外でした。まぁ、俺としては知った場所なんで案役としては助かりましたけども」

そう、ノーラさんが行きたがっていた場所はなんとゴミ山だったのである。

俺としては見知った場所だから気楽に事を進める事ができて大変助かるのだが、彼の様な人間がゴミ山に向かう用事が思い浮かばない。

「えぇ、し確かめたい事がございまして……。けれども、沿矢様が居て助かりましたわ。思いのほか、道を塞ぐ崩れた建造が多いんですのね。わたくしったら、ただ遠くに見えるゴミ山へ真っ直ぐ向かえば良いと思っておりましたので……」

「ゴミ山と言えば俺、俺と言えばゴミ山って位の関係がありますからね。これ位はなんて事はないですよ」

外居住區はただ単純に歩くだけでは見える場所へ辿り著けない事が多い。

時には裏道を通り、さらには近くにある廃墟を通り抜け、最悪の場合は教會のみんなが普段している通り瓦礫の山を超えなければ行けない場所もある。

ノーラさんにはし悪いが、俺は案ができる今の狀態に安堵している。

お禮と言えど、し付き合っただけで千ボタの大金をポンと渡されても良心が痛むからな。

時折他の無い言葉をノーラさんとわしつつ、ようやくゴミ山の麓へと辿り著く。

流石にもう大分日が高いからか、ゴミ山周辺には鉄屑を漁りに來ている住民がチラホラと居る。

そんな彼等は突如としてゴミ山に姿を表したノーラさんを目にすると、これでもかと言わんばかりに目を大きく見開いて驚いた様子を見せた。

しかし、すぐに彼等は気を取り直すとソソクサと逃げる様にしてゴミ山の奧へと姿を消していってしまう。

うーん、まぁ……彼らのその気持ちは痛い程に分かる。

ノーラさんの綺麗な服裝は勿論の事だが、彼の容姿や優雅な佇まいを見ていると何処か自分がけない様に思えてしまうからな。

ゴミ山へのり口付近から人がすっかり消えた所で、俺はようやく一歩を踏み出した。

が、數歩歩いても背後からノーラさんが歩き出す音が聞こえず、俺が訝しげに思って背後を振り向くと、彼を片手で押さえながら気を靜めるかのように淺く呼吸を繰り返していた。

ゴミ山特有の濃厚な金屬の匂いを気にせず、ノーラさんはそれを數回続けて見せる。

「っ……すみません、お待たせいたしました。行きましょうか、沿矢様……」

「……えぇ」

ノーラさんほどの人が何を張しているのかとの興味が俺の中に湧いて出たが、それを問うような真似はしなかった。

何故なら既に彼の表から笑顔は消えうせ、真剣な様子が伺えたからである。

ゴミ山は大小を問わずに広場に並んだ鉄屑の山で構されており、目に見えて大きいのが七つほど、中位の大きさが十をし超える數がある。

小さなゴミ山はそれこそ數十とあるので、數えるのは気が滅る作業となるだろう。

俺が完璧に崩してしまった大のゴミ山が一つ、吹き飛ばした鉄屑で中途半端に崩した大のゴミ山が中位の大きさに変わってしまった。

それ等の行為が外居住區の住民達の生活収を奪った事にも繋がるようで、俺としては大変に心が痛む思いです。

後から聞けば崩れた廃墟もあったみたいだしな……。

助かる為とは言え、俺は大分無茶をしてしまった。

目的の場所には著いたので、今の俺はノーラさんの後を追う様について行く。

は何時の間にか何処からか取り出していた資料をらしきに目を通しながら、時折周囲を確かめる様に見回す。

俺の視力ならもしかしたらソレを覗き見ようと思えばできたかもしれないが、流石にそんな失禮な行為をする訳にもいかず、素直に大人しくしている。

ゴミ山へ最後に來たのは確か……武鮫の材料を取りに來た時かぁ。

當初は俺の力強さを誤魔化す為のだったのが、車に腕を突きれたり、床に突き刺したり、扉を吹き飛ばしたりと、素手で躊躇する様な行為が気楽にできるから大変に助かっている。

里津さんはもう片方も作る的な事を言ってはいたが、思ったよりも早めにHAを裝備している事がばれたので開発を取り止めたそうだ。

俺の様な新米が次々にHAを裝備していたら流石に怪しまれるだろうしな。仕方の無い事である。

と、そんな事を考えながら歩いているとノーラさんがようやく歩みを止めた。

は手に持った資料と周囲の様子を互に見比べ、かなり集中している様に見える。

それに釣られて俺も周囲に視線を向けると、何だか奇妙な覚に襲われた。

なんだろう? 知った場所と言うか、デジャブと言うか……?

俺がしばし頭を悩ませながら小さく唸っていると、突如として聞き覚えのある聲がゴミ山に響き渡った。

『あーーーー!! ソーヤだぁ! なにしてるのぉ!?』

『えっ? きづにー!? うぉーーー!! ほんとだぁ!! しかもこの間とはべつのの人と一緒だっ!!』

『私、しってるよ。ふくすうのの人とカンケイを持つのは最低っていうんだよ?』

『ふーん、サトツから開放されてる時のきづにーはセッキョクテキだね!』

『ソウヤ……なにも持ってない。つまりは食べもない……がっかり』

などなど、好き勝手に憎らしい事をほざきながら遠くからトテトテと可く駆け寄ってきたのは教會の子供達だ。

子供達はどうやら日課である鉄屑集めの最中だった様で、手提げの鞄を持ち、リュックなんかを背負っている。

そんな子供達は俺を即座に取り囲むと、ピーチクパーチク騒ぎ出す。

「きづにー!! 何してるの? もしかして、とうとうシツギョウしちゃった?!」

そうだね、し転職するかは考えてたね。だけど『とうとう』って何? とうとうも糞もスカベンジャーにってから二週間も経ってねぇよ。

「ソウヤ……お家でゴハンたべていく?」

それは純粋な思いによるか? それともあらぬ同か? 君の無垢な視線が僕には痛いよ。

「私、しらないよ。その人だれ? きづにぃ」

君は知りキャラでも目指しているのか? 舌足らずな口調が可いね。

これ以上このインプ達に発言の機會を與え続けると日が暮れそうになりそうだったので、俺は大きく手を叩いて乾いた音を響かせ、流れを打ち切った。

「はいはい!! 様々なご意見、ご想をありがとうなチビ助共。しかし、俺は今仕事中なんだ。終わったら相手してやるから、今は大人しくしていてくれぃ」

俺がそう諭すも子供達は納得してない表を浮かべている。

そんな表をされると、俺のピュアなハートが罪悪でズキズキと痛んでしまう。

どうしたもんかと悩み始めたその時、背後からノーラさんのらかな聲が屆く。

「構いませんわ、沿矢様。もう用は済みましたので……」

「ぅえ? も、もうですか?」

俺がし驚きながら振り向くと、ノーラさんの手から資料は無くなっていた。

は俺の問いに一つ微笑みながら頷くと、次に小さく首を傾げて疑問を口にする。

「沿矢様、その子達は一……? 隨分と懐かれてますけれど」

「えーっとですね、この子達は此処からし行った所にある教會に住んでる子共達でして……。ちょっと奇妙な縁で知り合ったんですよ」

「教會……の、子供達?」

ノーラさんは俺の言葉を聞き、何故か僅かに言葉を詰まらせた。

俺が彼の様子を訝しげに思った瞬間、子供の一人が俺の右手を不意に摑んで引っ張ってくる。

「きづにー! お仕事がおわったんなら家によってってくれよ~。ぺネロ先生もいるよ?」

「いや、そりゃ居るだろ……居ない方が驚きだわ」

ロイ先生が仕事で出かけてる間はぺネロさん一人で子供達の面倒を見ているんだからな。

子供達はゴミ山への『鉄屑回収班』と『遊んで過ごす班』で別れ、地味にローテーションを組んでいるのだ。

見た所、今日はルイやベニーは遊んで過ごす班らしいな。

「今日はなんだかつれないね、ソーヤ。人なおねえさんとイチャイチャしてたって、サトツに言いつけちゃうよ?」

「さらっと脅してくるなよ……。末恐ろしい子供だな、君は」

俺が思わぬ脅迫をけて僅かにたじろいでいると、すぐさま別の子供が畳み掛ける様にしてたどたどしくも言葉を紡ぐ。

「ヤキイモ……またくれるなら、ちんもくにてつしてもいいよ」

「えぇ……何処でそんな言い回しを覚えたのぉ……?」

相変わらず逞しい子供達だな。まぁ、これくらいシッカリしてないと此処ではやってけないからな。

俺が徐々に子供達の勢いに飲まれ始めていると、ノーラさんが突然橫から口を挾んでくる。

だが、彼の口から放たれた言葉は俺を救う為のモノではなく、全くの予想外のモノであった。

「突然ごめんなさいね? わたくしはノーラ・タルスコットと申します。君達、良ければわたくしも君達のお家にご招待して頂けないかしら?」

「ぅえ!? ど、どうしたんですか? タルスコットさん?」

子供達にそう頼み込んだノーラさんの表には微笑が浮かんでいるものの、ソレはどこか真剣味を帯びている。

急な彼のお願いを聞いて子供達は互いに顔を見合わせると、し離れた場所へ歩いていってを組んでコソコソと喋りだした。

『どうする? しらない人だぞ?』

『でもでも、きづにぃと一緒にいるよ? ナカマはずれにしたら、あの人ないちゃうかも』

『なかせることは悪いことって、先生たちも言ってたよね……』

の人だし、キケンはないと思うよ。うん』

『お腹すいた……はやくお家にかえろう?』

おい、なんだか一人だけ話の流れに著いていけてないぞ。

俺の聴力で暫く會話を盜み聞きしていたのだが、子供達はノーラさんを招待する事にコレと言って異論は無いようだ。

しかし、それが聞こえてないノーラさんは何処か不安気な様子であり、両手でを押さえている姿は張している様にも見える。

子供達はようやく會話を取り止めると、また此方へと小走りで駆け寄ってきて俺に一つ疑問を尋ねてきた。

「きづにー、その人ってしんらいできる?」

「す、ストレートに聞くなぁ……。あぁ、信頼できるよ。俺なんかより全然凄い人なんだぞ? このお姉さんは」

なんせノーラさんは天下のランクAだからな。俺とは正に天と地ほどの差があるよ。

だと言うのに俺みたいな低ランクにも丁寧に対応してくれるしな、俺のノーラさんへの好度は目下の所グングン上昇中である。

子供達は俺の返答を聞いてようやく決意したのか、ノーラさんを取り囲んで歓聲を上げる。

「という訳で、お姉さんをお家にしょうたいしま~す!!」

「よかったねー!! なかなくてすむよぉ~?」

「けど、ぺネロ先生にそそうのないようにね?」

「お家への道のりはとおくけわしいから、がんばろうね」

「お姉さん、食べ……もってない?」

ノーラさんは穏やかな笑みを浮かべながら、まず最初に招待してくれた事に対して子供達へ謝の言葉述べた。

次に彼は腰を低くして目線を子供達に合わせながら丁寧に一つずつ返答を返し、子供達の気なテンションに合わせていくのである。

凄いな……。子供の扱いも手馴れてるとか、もはや弱點が見當たらないよ。 まぁ、弱點を見つけた所でどうこうしないけどさ。

子供達はノーラさんと一通り話し終えて満足したのか、先導する様に小走りで教會の方へ向かう。

俺は子供達が転んだりしない様に注意を促しながら、その後を追いかけ始めた。

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

徐々に遠ざかっていく子供達と沿矢の後姿を目にしながら、ノーラはその場をこうとはしなかった。

は小さく溜め息を零しながら、速水からけ取った資料を懐から取り出して素早く目を通していく。

迫田は此処でゴミ山に埋まる様にして死亡していたとの事だ。それは間違いない事実であろう。

"幸運"にも此処は劣悪と言ってもいい環境であった。その事実をこの験し、ノーラの中に黒い喜びがジワリと浸していく。

周囲は崩れかけの廃墟で覆われ、広場に無數に並び立つゴミ山は太を阻害し、晝間だと言うに暗い影を落としている。

呼吸をする度に取り込む空気は濃厚な鉄の匂いと油が腐った様な悪臭が混ざり合い、とてもじゃないが長時間居たら病気にでもなってしまいそうだ。

「アナタの様な人間には……相応しい死に場所ですわね」

そう手向ける様に呟かれた聲は何処か心を底冷えさせる響きを持ち、聞く者が居たらさぞ震え上がらせた事だろう。

ノーラの口角の端はスッとびていき、それが他者を嘲るモノである事は一目瞭然であった。

「あぁ……この手でアナタを殺せていたのならば……私は……っ!!」

――それはもう葉わぬ願いだと言うに、ノーラはその言葉を吐き出さずにはいられなかった。

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