《俺+UFO=崩壊世界》風雲急を告げる
武市 詩江は拍子抜けしていた。
クースにある廃病院の危険度の高さは當然の事ながら知っていたのだが、今の所なんの危険にも遭遇せずに探索できているからだ。
しかし、武市は不可思議な景を幾つか目撃する。
何かに押しつぶされる様にして壁にめり込んで機能を停止しているLG式や、何故か"廃車"の下で床に押し潰されている二機のLG式。
それ等に近寄って詳しく調べた結果、銃撃をけた損傷は見られなかった。
スカベンジャーと言う集団は戦闘行為を極力避ける。
當然、いざ窮地に陥れば反撃はするのだろうが……こうも"激しく"はしない筈だ。
恐らく、これ等は沿矢が生存者を助ける為に行った戦闘の痕跡に違いない。
だが、幾らHAを裝備していたとは言え余りにも……。
と、そこまで武市が考えを深めた時である。
彼の視界の端で宮木が壊れたLG式の傍らに膝を著き、何かを漁っている様子が見えた。
武市はこれ見よがしに大きく溜め息を零し、宮木へ向かって憮然とした口調で語りかける。
「宮木伍長……みっともない真似は止めないか。我々の目的は他にあるだろう?」
「"武市大尉の"……でしょ? こちとら安月給で扱き使われてるんです。しばかりの金策は見逃してくださいよ」
とは言いつつも宮木は素直に武市の注意を聞きれ、幾つか無事な部品を手にすると直にLG式を漁るのを止めた。
腰に巻いたベルトポーチに部品を納めながら、宮木は獨り言を呟く様な小さい聲量で意見を吐く。
「さてはて、これからどうします? 木津に助けられた嬢ちゃん達は一階に降りてから木津と合流したと言ってました。奴の事を調べるなら、このまま一階を重點的に調べた方がいいんでしょうが……。百式がうろついてる可能もあるんだよなぁ……」
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最後にそう怯えを含んだ言葉をらし、宮木は周囲に向けて素早く視線を走らせた。
それに釣られ武市も周囲に視線を向けた所で、彼は薄汚れた廊下を僅かに紅く付けしている何かに気付く。
すぐさま彼はその紅い何かがこびり付いてる場所へ近寄り、軽くソレを手でる。すると紅い何かはポロリと呆気なく床から剝げた。
「……か? ふむ」
こうも素直に剝げるとは、この痕はまだ真新しいに違いない。
り口付近でも目立つ痕は見つけたのだが、あれは恐らく大怪我による流のであるとすぐに分かった。
しかし、ここにあった痕は流星を描いたかの様に細長く描かれたであり、傷口から流れ出たと言うよりかはまるで何かに振るい落とされたかの様な――。
武市がそう推測しながら顔を上げると、すぐ近くの床にまたが垂れている事に気付いた。
いや、良く目を凝らせばは點々として廊下の所々にこびり付いている。
武市はニヤリと大きく歯を向く様な笑みを浮かべ、宮木に話しかける。
「宮木伍長、手掛かりを見つけた。私がポイントマンとなるから、貴方は後方警戒を厳にしながら著いて來てくれ」
「いいですけど、俺は絶対に上の階には著いて行きませんからね。そこん所は頼みますよ?」
宮木はそう念を押しながら素直に武市の背後に回る。
自の背後に宮木が回った事を確認し、武市は慎重に歩を進めだした。
二人が履いているコンバットブーツが奏でるコツコツとした小気味の良い音は見事に合わさり、聞く者がいれば聞き惚れてしまいそうな響きだ。
これでも最小限に気をつけて音を低くしているはずなのだが、あまりにも病院が靜か過ぎてその音さえ大音量の様に宮木は思えてしまう。
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時折、廊下の両端に設置されているセンサーの赤外線が通る極小のを武市は目ざとく見つけ、注意を促してくる。その度に宮木は武市の注意深さに舌を巻く思いであった。
――壁に配屬されても、雌豹の牙は抜かれてはいなかった。
宮木はそう嘆し、目の前を歩く武市の背中に尊敬の眼差しを向けた。
武市が壁に配屬されて既に二年が過ぎている。しかし、己の技量を磨く事を怠る様な真似はしなかったらしい。
壁に配屬された軍人は當然と言うべきか、メイン居住區と外居住區を行き來できる様になる。
大抵はメイン居住區の環境の良さに気を抜いてしまい、自らの鍛錬をしづつ怠る様な者が多いのだが、どうやら武市にはソレは當て嵌まらなかった様だ。
いや、それとも武市は元からメイン居住區の生まれだった可能もあるか?
彼とはそういうプライベートな會話をした事がない宮木はふと疑問に思った。
しかし、バイタリティ溢れる彼の生き様はスカベンジャーやハンター達にも勝るとも劣らないだ。
その事を考えると、やはり劣悪な環境で育った可能が高いとは思うが――。
そのまま宮木が危うく思考の奧底に意識を委ねてしまいそうになった所で、武市は背後に手を向けて歩みを止める。
宮木は素早く気を取り直したものの、今まさに自分が犯しかけた失態を深く恥じた。
これはいかん。帰ったら暫く酒でもして気を引き締める必要がある。
數人とは言え、自分は部下を従える立場だ。この様な不注意を起こさない為に気をつけるべきだ。
宮木は深く反省し、己の心中に向かって自重を促した。
武市は勿論の事、背後に居る宮木の反省に気付かぬまま痕が途切れた場所を注視している。
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三つのエレベーターが並んでいる両開きの扉。そのの一つは開け放たれており、中は暗闇に包まれていた。
しかも、その場にあったのは痕だけではなかった。
エレベーターとは反対側の壁に転がり落ちているは、一見するとタダの鉄屑の様にも見えたが武市はソレを見逃す様な馬鹿ではない。
武市はそのに近づくと片膝を著き、左手でY6のストック部分を床に著けて安定させながら右手でソレを拾い上げる。
「LG-61式? 頭部の一部か……? いや、違う! これは……!」
『ちょ!! た、武市大尉!! 聲を潛めて下さいよ……!』
宮木が武市に向かって小聲で注意を促すも、彼の興は収まらない。
武市は思わず銃から手を離して勢いよく立ち上がると、すぐ右手の掌に乗せたを空いた左手で指差しながら宮木に見せつけた。
「これを見ろ!! 伍長!! ここのバイザー上部部分に刻み込まれた數字を! 途中で千切れてはいるが『10』とまでは殘っている!! 後に続く數字なんて……もう言うまでもなく分かるだろ!?」
武市の勢いに飲まれ、宮木は首を竦めながら指差された部分を凝視した。
確かに、彼が言う様にナンバーが刻み込まれてはいるが……。
宮木は首を傾げながら、ポツリと疑問を口にする。
「……ところで、コイツの"持ち主"が見當たらないのは何でですかね? 戦闘がここで起きたと仮定しても、痕跡が全くありませんぜ?」
「む……確かにそれはおかしいな。他に何か殘ってても良いはずなのに……」
近くの壁には銃痕らしいは無く、所々朽ち果てて僅かに欠けているだけだ。
床にもコレと言って目立った損傷は見當たらず、武市が追いかけてきた痕が點々として數滴殘っているだけ。
それすらも、遂に此処で途切れているではないか。手掛かりが殘してくれたのは武市が持つ"百式らしき"部品の一部だけである。
いや、もうコレを見つけただけでも十分ではないだろうか?
宮木自とて、これ等を見つけただけで沿矢への疑問を確かに抱きつつあるのだ。
――後はヤウラに帰ってコレを持ち出し、木津に事を聞いて終わらせませんか?
宮木がそう提案しようとした直後、武市は不意に眉を寄せながら開け放たれているエレベーターの扉に近づいて行く。
彼はそのままエレベーターシャフトを覗きこむ様にしてを乗り出すと、直に慌てた様子で後ろに下がってきた。
「ちょ!! た、大尉!!」
宮木はすぐさま武市の背中に手をばしてバランスを崩しかけた彼を支える。
武市は荒く息を吐きながら、震えた指をエレベーターシャフトに向けた。
「み、宮木伍長。エレベーターシャフトが遙か先の地下にまでびていた!! あ、あんなに高いなんて反則じゃないか……」
「地下ですかい? 遙か先って、そんな大袈裟な……」
顔を青く染め上げながら震え聲でそう告げた武市の意外な一面に保護をかき立てられた宮木。
彼はそんな自の思いを悟られない様、茶化す口振りで武市へ言葉を返しながらエレベーターシャフトを覗き込んで絶句した。
深淵、そう呼んで良いほどに暗闇が支配する深さ。
ずっと注視してしまえば、思わず吸い込まれそうな程の雰囲気。
寒気が走るシャフトの冷たい空気が一段とその雰囲気を強くし、宮木の恐怖心をこれでもかと煽り立てた。
気付けば宮木自も武市と同様に震える足取りで後ろへ下がってしまう。
対する武市はし冷靜さを取り戻しつつあった。
彼はY6からマガジン取り出すと続けてマガジンに裝填されていた弾も取り出した後、それをエレベータシャフトに向かって投げ込む。
暗闇にスッと溶け込んでいった黃金の弾は數秒の沈黙後に、僅かに地の底から音を響かせて自の役目が終えた事を二人に告げた。
宮木と武市の両名は思わず顔を見合わせる。
二人の脳裏に過ぎった考えは、寸分違わずに同じ事であった。
――この地の底には何かがある。
しかし、ソレを調べようと言い出すまでにはしばかり時が過ぎる必要があった。
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俺は今まさに里津さんとラビィの間に挾まれる形で並んで歩みを進め、組合所へと向かっている最中だ。
そして今の俺の格好はコレでもかと言う程の重裝備である。
里津さんはなんと俺のを深く案じてくれて、まずグレードⅤの防弾ベストを用意してくれた。
とは言うものの、これがまた凄くゴツイ代なのだ。
前面には勿論の事、背面にも特殊な合金プレートをれたこれは里津さん曰く『戦車の砲撃にも一撃なら耐えうる』と述べた。
まぁ、使用者のは確実に巨大な衝撃に耐え切れないらしいが、"幸い"にも俺は普通ではない。
迫田が放ったHAロケットパンチに生で耐えた俺なら、このグレードⅤの防弾ベストを著てさえいれば生半可な武でダメージを負う事はないだろう。
俺的にはこれだけでも十分だったのだが、里津さんは次々にプロテクターやらヘルメットを用意して俺に押し付けてきた。
お値段、何と迎撃戦で手にれた部品全部!! いや~命を買う値段と思えばお買い得ですなぁ。
そもそも部品全部のお値段を結局まだ聞かされてないけど、まぁ大した問題ではないのかな?
何処となく用意された裝備一式が埃を被ってた様に見えたけど、それは俺の気の所為ですよね? 里津さん!!
ちなみにフル裝備した俺の重を量ろうと思い至り、重計に乗ると軽々と百十kgを超えてしまった。
まぁ武鮫も裝備してるし、當然の事と言えばそうなのだろうが……道行く人には驚愕の目で見られてしまう。
今の狀況的には俺は両手に花の狀態なのだが、花の間にフルアーマーガン○ムの如く重武裝な輩がいるのだから、花達よりも目立ってしまっている始末だ。
しでも目立たない為に俺は牛歩の如くゆったりとした歩みで組合所へ向かおうかと思ったのだが、二人が俺の両腕を摑んで早足で歩くものだから俺もそれに著いて行くしかなかった。
俺がそれとなく里津さんにその事を訴えても、『もう怪力どうこうを隠すのに気を使ってる狀況じゃあないでしょうが!!』と一喝されてしまった。
すっごい正論ですね。今では俺は借りてきた貓の様に大人しくしている有様です。
そうこうしているに組合所へと辿り著き、俺はまず付にいる田中さんに事を話す。
彼も最初はたちの悪い冗談かと思って笑い飛ばしていたのだが、フルアーマーな俺の両脇に並ぶ里津さんとラビィの冷たい視線をけて徐々に笑い聲を小さくしていった。
田中さんはようやく俺を取り巻く深刻な狀況を認識すると、クースの件でお世話になった応接室へと案してくれた。
次に彼は五階長の川さんを呼んでくると俺達に斷りをれ、部屋から素早く小走りで抜け出していく。
里津さんは珍しそうに部屋を見回しながらソファーに腰を落ち著け、銀に輝く皿の中に置かれた包み菓子へと手をばす。
俺は里津さんの対面のソファーに腰を落ち著かせ……ようとして盛大に腰が埋まりかけた。じゅ、重量が重すぎたか?
里津さんはそれを見ると、口に含んだ菓子を僅かに噴出しながらケラケラと愉快そうに笑い出した。あ、悪魔たん……。
俺は仕方なくソファー脇の床に胡座を掻き、何とか休息を取る。
ラビィはり口近くに立ち、瞼を伏せて集中しているかの様に沈黙を保っている。
以前言っていた『センサー』なるを駆使して周囲の狀況でも把握しているのかな? よく分からんが心強い雰囲気である。
「うーん、組合所の中って中々立派だったのねぇ。話には聞いてたけど、やっぱり実際に験するのが一番よねぇ」
里津さんはソファーに背中を預けながら背筋をばし、そう想を述べる。
特に反応しなくてもいいかとも思ったが、する事が無かったので俺は相槌を打つ事にした。
「俺も此処へ登録しに來た日は驚きましたよ。々と……」
あの時は大変だったなぁ。
イキナリ変なおっさんに絡まれるし、銃で撃たれるし、白い部屋に監されるし、重要人のキリエさんと突然出會っちゃうし……。
本當に碌な目に合ってないよな、俺。
今回だってそうだ。の子によるの告白じゃなく、妙齢の人さんから殺害予告を先にされる様な人生を歩むなんて予想外もいい所だ。ちくしょうめ。
俺が自分の人生に不満を抱いていると、ラビィが唐突にスッと手をばしてドアノブを押さえた。
突然ラビィが起こした意味不明な行に俺が唖然としていると、ドアからノック音が響き渡った後で川さんの困する聲が聞こえて來た。
『む……むぅ!? た、田中君。君は安全の為に鍵でも掛けたのか? ビクともしないんだが……』
『えっ? そ、そんな事してませんよ!! それに応接室の鍵なんて私は持ってませんし……』
ドアを開けようと川さんが外で闘しているのか、ガチャガチャとした音が響く中、俺は小聲でラビィに話しかける。
『ラビィ!! 何してるんだ!?』
「ソウ君のの安全を守る為、ラビィは警戒lvを引き上げたのです。通常時が二で、今は最高クラスの五です。外部からの侵者には最大限の注意を払う必要があります」
部屋の外に他人がいるからか、久しく呼ばれてなかった俺のあだ名をラビィは口にしながら説明してくれた。
『そ、そうか……。ありがとうな、ラビィ。けどさ、今は川さんと話す必要があるんだよ。頼むから扉を開けてくれないか?』
「……了解しました。では、念の為にラビィの後ろへ待機してください。ソウ君の待機を確認後、ドアノブから手を離します」
うーむ、以前はしこういう行には煩わしさをじていたのだが、今ではラビィのこういう所が何だかとても頼もしく見えるぞ。
まぁ、Aランクの凄腕に殺害予告をけたんだからな……。それも當然か。
俺は素直にラビィの背後に回ると、彼の背中を軽く叩いて準備を終えた事を教える。
そうこうしているに、ドア向こうで何やら狀況が変化しつつあった。
『田中君。悪いがし代わってくれないか? 私は応接室の鍵を探してくる様に部下のPDAに連絡をれるから、その間だけ頼むよ』
『あ、わかりました』
川さんが扉の開閉を諦め、ドアノブの音が止んだと同時にラビィは手を離して後ろに下がってしまった。
その直後、すぐさま扉がし勢いをつけながら開いてしまい、田中さんがし前屈みになりながら部屋に飛び込んでくる。
「きゃ……! も、もう!! 何なの? 立て付けが悪かったのかしら」
田中さんはプンスカと可く腹を立てながら、ドアに軽く蹴りをれて鬱憤を晴らしている。
部屋の外では川さんがPDAとやらを耳に當てながら口を呆然と開いていた。
彼は直に気を取り直し、PDAを懐に収めながらポツリと呟く。
「田中君……君は力が強いんだな」
ねぇよ、何だその勘違いは。
俺は急事態に陥ってると言うのに、今の景を目の當たりにして笑い聲を抑える事ができなかった。
よく思い返せば、久々にこうして思いっきり笑う事ができた気がするな。
――願わくば、どうか穏便に事態が収束する様にと、俺は心中で強く祈った。
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