《俺+UFO=崩壊世界》思う想い

あの後數時間ほどの時が経ち、応接室に戻って來た川さんはノーラさんとの連絡が取れなかった事を真剣な様子で伝えてきた。

PDAのコール音は鳴った様なので通信可能圏には居るはずとのお言葉であり、だからこそ一層不可解だと彼は告げる。

組合所からハンターやスカベンジャー達に送られる連絡と言うのは重要なだそうだ。

そもそもPDAとやらも結構値が張る一品だそうで、上級や中級になってようやく手に屆く代らしい。

中には自分の裝備にボタを全てを注ぎ込んだ者もおり、上級になっても所持してない輩も居るとの事。

PDA所持者に組合所が連絡を送る時と言うのは賞金首の現在地が判明した時や、この間俺がやった迎撃戦の參加要請などがメインらしい。

その他にも希さえしてれば組合にあるショップの新製品の報なども伝えてくれるらしい。サポート制抜群ですね。

とまぁ、基本的に組合からの連絡はお得な報が多いので、今回の様に無視される事はあまり無い事らしい。

とりわけバウンティハンターとして活躍していたノーラさんは賞金首関連の報を逃す訳も無く、時には彼から組合に新しい報が追加されてないかと連絡する事もあった程なのだ。

勿論、川さんが連絡をれた時のノーラさんは手放せない狀態にいたのかもしれないが、折り返しのコールが掛かってこない事が川さんは気掛かりだと告げた。

それ等の事実をけ、川さんは事態の深刻さを徐々に理解し始めてくれた様である。

まず彼は俺達を応接室から組合のビルの24階に移させると、組合の職員が普段使っている仮眠室を用意してくれた。

川さんは律儀にも人數分である三部屋を用意すると言ったのだが、なんと里津さんがソレを斷って一室で良いと答えてしまう。

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驚愕する俺を里津さんは軽く小突くと『そういう設定でしょうが……油斷するんじゃないわよ』とドスの効いた聲で呟いてきた。ひ、ひぃ……。

いや、確かにそういう設定でしたな。むぅ……もしかして川さんは俺達の関係を疑って鎌をかけたのか!?

里津さんの注意で気を持ち直した俺が川さんに疑いの眼差しを向けると、當の本人である彼は顔をし紅くしながらどもった口調で『し、失禮しました』と素早く頭を下げて謝罪した。

あ、これは彼の天然が炸裂した様ですね……。何だか意外な一面を見ちゃったな。

された仮眠室は十畳程の広さであった。

ベッドが一つとソファーが一つ用意されていたので俺はベッドを里津さんに譲り、ソファーをラビィに譲り、俺自は床で寢る事にした。

當然の事と言うべきか、ラビィがソファーを俺が使うべきと抗議してきたのだが、そもそもそのラビィの警戒心のおかげで就寢する間も俺はフルアーマー狀態を維持する事を強制されているので、ソファーに上手く寢転べないのである。

俺がそう告げると、ラビィは次に里津さんをベットから引き摺り出そうと恐るべき提案をしてきて俺は大変に背筋が凍る思いでした。

まぁ、當の本人である里津さんは俺とラビィが言い合うのをベットの上から寢転びながらニヤニヤして見てたんですがね。

そんなトラブルを起こしつつ、なんとか部屋の電気を消して目を閉じた訳なのだが……寢れる気がしない。

部屋の壁に設置されている時計の針が刻々と回っていき、それに釣られて眠気が俺を襲うのだが……それでも寢れない。

フルアーマー狀態が窮屈だとかそんなんじゃない、原因は俺がノーラさんの事を考えているからだ。

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――何で殺害予告なんかしてきたんだろう?

――ノーラさんと迫田の間に何らかの繋がりがあったのだろうか?

――俺が迫田の殺害を告白した時の彼に浮かんだ表は、まるで道に迷った子が浮かべたかの様に気弱なモノだった。

「わかんないな……。迫田、お前はあの人に何をしたんだ……?」

気付けば俺はそう呟いてしまう。

迫田とノーラさん。この二人に何らかの繋がりがあったのだとは思うが、それが何なのかが俺に分からん。

そもそも俺は殺した相手である迫田の事ですら何も分かってないのだ。

俺は瞼を再度閉じ、あの日ゴミ山で起こった事を思い浮かべる。

まず浮かび上がるのは、やはりと狂気に染まった迫田の鬼気迫る表だ。

かと思えば、アイツが最後に見せたらかな微笑も強く脳裏に焼き付いてる。

――どっちが"本當"の迫田だ? それともどっちも"本當"だったのか?

アイツは何を想って生きてきたんだろう? 大勢の人を殺め、俺も殺そうとした男。

壊し屋などと呼ばれ、悪名を轟かせて來た男。他者とは明らかに違う一線を越えた異質さを持っていて――。

「ああ……。そっか、"お前も"違ったんだな……」

天に救いを求める様にゆっくりと両手を持ち上げ、俺は拳を強く握り締める。

武鮫を裝備している左手は金屬質な音を奏で、異が埋め込んである右手は靜かに閉じる。

今の俺だって異質なのだ。俺が持ってしまったこの力を見たら他の人々はどう思う?

舎弟達は俺を畏怖し、ベニーは俺に怯え、迫田は……喜んでいた。それは俺が迫田にとって"同士"に見えたからじゃないか?

人は異端を嫌い、爪弾きにする。

子供の頃から散々騒ぎを起こしていたはずの俺は一何処で決定的に変わってしまった?

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泥んこ遊びが楽しかった。けど、他の子が汚いからとやめたから俺もやめた。

かくれんぼが楽しかった。けど、他の子がつまらないと言い出したから俺もしなくなった。

鬼ごっこが楽しかった。けど、他の子がゲームに夢中になったから俺もそうした。

一つ一つ確実に楽しかった事が減っていった。俺はまだ続けていたかったのに――――。

何故そうした? 一人では寂しいからだ。俺は仲間外れになんてなりたくなった。

で孤獨ならずには済んだ。けど、気付けば輝いて見えた世界が何時の間にか酷く退屈なに見えていた。

アレだけ騒ぎを起こしていた問題児の俺も、気付けば結局は"普通"に育ってきてた。

それでいい、それが正しいんだ。そうしないと社會で生きていけないんだから、そうる必要があったんだ。

俺は人生を妥協し、迫田は人生を妥協しなかった。本的な違いはソコだ。

奴は自らの個を押し通し、その結果世界から拒絶され、日々を生きてきたのだろう。

それは哀れな人生か? それとも充足した人生だったのか? 最後に奴が浮かべた微笑を思えば、それは聞かずとも分かるなのかもしれない。

迫田がしてきた所業は間違いなく最低だ。けど、奴にとってはそれ等は重要じゃなかったんだろう。

――自分が満足できるか、否か。

それだけが……奴の中の"絶対"であり、興味を惹くモノだったのかもしれない。

ノーラさんが俺に抱く想いは何だろう? 聞けば答えてくれるだろうか?

俺はそれを知りたい。それを知らずして彼と戦い、命を奪い合う狀況になってしまったら俺は深く後悔するだろう。

里津さんのアドバイスのおで、幸いにも俺は組合や川さんの庇護をける事が出來た。

迫田の時とは狀況が違う。大丈夫、なんとかなるはずだ。

だから、もう一度だけでいい。彼と話す事ができたならば――。

「……何やってんの?」

「え!? えーっと……。ひ、一人ジャンケンですかね?」

「なんでアイコになってんのよ……相変わらず変わった子ねぇ」

唐突に里津さんに話しかけられ、俺はなんとか言葉を返しながら両腕を下げる。

里津さんはベッドの上でを橫にし、瞼を細めながらジーっと俺を見つめていた。

そういやイビキが聞こえてなかったし、寢相も変わってなかったな。里津さんも寢れなかったのだろうか?

ふむ、なんだか眼鏡をしていない里津さんは久々に見た気がする。

眼鏡をしてない時の里津さんは視力の悪さで瞼を細めてるから、必然的に目付きがスッとしてクールな雰囲気を纏うのだ。

「組合所に逆らう様な馬鹿はいないわ。凄腕だろうが何だろうが所詮は"個人"だしね。"人々"が決めたルールをせば……排除されるだけよ。流石の貴婦人さんもそこん所が分かってない訳ないと思うし。案外さ、今頃頭を冷やしてるのかもしれないわよ?」

「そう、ですね……はい」

そう勵ましてくれた里津さんの言葉を聞いて、俺は自の思いを見かされたのかと一瞬が高鳴ってしまった。

眠れない俺への里津さんなりの気遣いなんだろうが、それでも眠れる気がしない。

気付けば、俺は彼にある疑問を問うてしまっていた。

「里津さんは……なんで何も聞かないんですか? 俺の怪力とか、怖くないんですか? だっておかしいですよ、こんなのは……」

そうなのだ。俺がこの力の事を打ち明けた後、里津さんは一度たりともこの力の事にれてはこなかった。

最初に俺が話した『気付いたら、につけていた』との言葉を信じてくれているのだろうか?

當の本人である里津さんは俺の問いを聞くとキョトンとした表を浮かべ、小さく笑い出した。

「くくくくく……。はぁ~怖いって何よ? アンタはその力で私をどうこうしようっての? ん……?」

そう言うと、里津さんはゆっくりと両手をかしてを守る様に抱き、艶かしい視線を送ってくる。

「ぅえ?! そ、そんな事しませんよぅ」

いかん、思わずキュンとしちゃった。大人の妖しい魅力と言う奴だな。

「なんだか下らない事で悩んでるみたいだけど……。私はアンタより店に來る奴の方が怖いわよ」

「あ、あ~……厳つい顔付きの人が多いですもんねぇ」

職業柄、修羅場を潛り抜けてきた人達ですからな。

纏う雰囲気もやっぱり一般人とは大分違うし、俺も最初は弦さんにビビりまくってたからなぁ。

まぁ、すぐに優しいと言うか、良い人だって事に気付けたんだけどさ。

里津さんは俺の返答を聞くと、何も分かってないと言いたげに溜め息を吐いた。

「あのねぇ……私が怖いのは彼等の事を何も知らないからよ。新客が來た時なんかは何時もカウンターの下からショットガン向けてるからね。勿論アンタが來た時も向けてたわよ」

今明かされる衝撃の真実。

まぁでもそれくらいの警戒心が無いとやっていけはしないんだろうが……。

いや、だからこそますます分からない。里津さんが俺を介護してくれた時なんて、まだ全然仲も良くはなかったはずなのに……。

俺がその事を問うと、里津さんはポツリと語りだす。

「ん~~……アンタが大怪我を負ってペネ達に運ばれて來た時は正直『面倒』って思ったわ。だって全くの赤の他人だったし、あの時の私はアンタの事なんて右腕以外に興味なかったしね。けど……友人のロイやペネ、それに子供達が必死に懇願してくる姿を見てムクムクと興味が湧いてきたの。『この馬鹿は何で大怪我してまで他人を助けたんだろう?』ってね。あの好奇心が無かったら、もしかしたらナノマシンを投與しなかったかもね」

「興味……」

まぁ、俺に一目惚れして助けてくれたなんて事は聞かされるとは思ってなかったけどさ。

そうか……興味か。まぁ里津さんらしいと言えばらしい理由ではある。

俺が一人納得している間も里津さんは話を進めていく。

「で、いざアンタが目を覚ましてみれば……拍子抜けしたわ。なんて事は無い、ただの子供だったんだもん。ルイが語った『スゴイお兄ちゃん』でもなければ、ペネやロイが言ったような『落ち著きがあって、優しい人』なんて大層な人じゃなくて……タダのガキだった。だからこそ……私はアンタを尊敬したんだけどね」

「……? よく分かんないです」

ってか、教會のみんなの俺への過大評価っぷりに驚きだよ。

そんな事言っててくれたのか、なんだか恥かしいな……。

思わずゴロゴロと寢転がって悶えてしまいたかったが、何とか自重した。

「そう、分からないのならそれでいいわ。……というか二度も尊敬してるなんて言わせないでよね。なんだか恥かしくなってきたじゃない……」

「す、すみません……。お返しに褒め返しましょうか?」

俺が何気なくそう言葉を返すと、里津さんはニヤリと笑い返してきた。

「ふ~ん。で、何て言ってくれるの?」

「えーと……。がでかい、とか?」

思わず口にすると、里津さんは笑みを打ち消して能面になった。

ひ、ひぃ……! 冗談じゃないですかぁ。

命の危機をじ取った俺が謝罪の言葉を口にする前に里津さんがポツリと言う。

「……ってみる?」

――!? え? えっ? 幻聴ですかな? 正しくは『沢を見てくる』とかじゃなくて? マジでタッチしていいんですか?!

俺が素早く思考を回転させながら鼻息を僅かに荒くしていると、里津さんはゆっくり瞼を細めながら言う。

「ばーか。ほらほら、もう寢なさい。真夜中だしね」

里津さんは俺にそう告げると、サッと背を向けてしまった。

は、図ったなぁ……!! 純年の気持ちを弄ぶなんて……。ってかマジでちょっと興して寢れる気がしないんですけど。

俺が一人で暫く悶々としていると、唐突にラビィが話しかけてきた。

「沿矢様――」

「ぅえ!? は、早起きだね……ラビィ。おはよう」

パーツを使用しているヒューマノイドのラビィにはスリープ機能があり、睡眠を摂る事で溫調節やら人工筋を休ませる必要があるらしい。

とは言ってもラビィの説明によると一ヶ月は睡眠を摂らなくとも問題は起きないらしいが、俺は念の為にラビィには毎日の睡眠を義務付けている。

何たってヒューマノイドと言う存在は貴重らしいからなぁ……。その分生パーツやらも滅多に見つからないらしい。

それにもしラビィに問題が起きたら流石の里津さんでも対処できるか怪しい所があるし、慎重にらざるを得ないのだ。

ラビィは何時の間にか起き上がってソファーにチョコンと座っており、彼は俺の挨拶をけて一つ頷いた。

そのまま暫くジーっとラビィと見詰め合う妙な時間が過ぎたのだが、暫くして彼は一つ提案してきた。

「沿矢様。私の部で良ければ、お使い下さい」

「ぅん!? 聞いてたの!? え!? 使う?! 使うって何!? え、いやいやいやいや……」

す、凄いインパクトのある言葉だ……!! だって『使う』だぜ!? の口からこんなお言葉を青年に聞かせたらアカンでしょ!! 狼どころかフェンリルになっちゃうよ!!

はぁはぁ……。し、知らないぞ? ラビィがってきたんだからな!? 俺は悪くねぇ!!

俺が息を荒く吐き出しながら起き上がった所で、背後から死神のお言葉が投げかけられた。

「うるさい――黙って寢ないと……潰すわよ」

さーて寢よ寢よ!! 僕は良い子だもん。エッチィ事とか全く興味……っ…………くぅ……ないんだからぁ。

シクシクと無念の涙を流しながら床にを橫たえて瞼を閉じると、今度はすぐに眠りに落ちていくのが分かった。

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

「ねぇ……本當に切っちゃうの? 勿無いよぅ……」

キリエ・ラドホルトはハサミを右手に持ち、ドレッサーチェストの前に座るノーラ・タルスコットに何度目かの確認をする。

キリエの左手はノーラのブラウンロングヘアーを持ち上げており、時折指をかして名殘惜しそうにでる。

対するノーラはその幾度目か問い掛けに、これまた同じ返答をする。

「えぇ、バッサリお願いね。こう……チョキチョキってじで……ね?」

ノーラはドレッサーチェストに備え付けてある鏡を使って、背後に立つキリエに笑いかけた。

渋々……と言ったじでキリエはハサミをかそうとした所で、また直に取り止めてしまう。

しかし、今度は遂にハサミを放り出してしまい、背後にあるベッドへとキリエはダイブして枕に顔を押し付けた。

『無理ふぁよ~~!! 私にはできふぁい~~!!』

「あらあら……困った子ねぇ」

ベッドの上でバタバタと両足をかすキリエに向かってノーラはそう言葉を向けたが、彼の瞳にはおしい者を眺める暖かさが宿っていた。

仕方なく椅子から腰を上げると、ノーラはベッドの端に腰掛けてキリエの頭を優しくでる。

「キリちゃんが言ったんじゃない。髪を切るって言う私に向かって『せめて私が切る!!』って……ね? お願いよ」

「ぅ~~……だってそう言わないと本當に切りそうだったじゃん。何で切っちゃうの? 折角綺麗なのに……」

キリエは枕から顔を上げると、手をばしてノーラの髪にれた。

サラサラとした手り、指が引っ掛かる事も無く素直にとける程に手れもしていて、僅かに芳しい香りが漂うソレを無くすなどと……。

とてもじゃないが、キリエにはノーラの行が理解できないでいた。

ノーラはゆっくりと瞼を閉じると、思い返す様に言葉を紡いでいく。

「キリちゃん。この髪はね、私にとっては願掛けだったの……。遠い昔に思い焦がれた願いを葉える為に……。けど、もうそれは葉わなくなっちゃったの。だから……もう必要ないのよ」

ノーラが誓ったのは復讐。

この手で必ず果たすと、心に復讐の大火を燈したあの日からばし続けた髪。

気付けば、ソレは彼と言う人を語る上で外せない要素となっていた。

緩やかな波を描いたブラウンのロングヘアーは、『貴婦人』の異名を付けられた事の一株の要素となった事は間違いないだろう。

だけど、もうソレも必要ない。今のノーラにとってはもう髪の長さなど、ただの重荷としか見れないのだ。

しかし、キリエにとってはそうではない。

初めてノーラと出會った時、同であるにも関わらず思わず見とれたブラウンのロングヘアー。それに憧れを抱き、自も髪の手れにようやく気を使い始めたのだ。

そのおで炎を宿したかのような輝きを放つ赤のロングポニーテールは、まさに『紅姫』の異名を持つ者に相応しいである。

ノーラが髪をばし続けてきた理由を聞いても、キリエは未だに納得しない。

代わりに、キリエはベッドからを起こしながら一つ提案して見せる。

「ぅ~~……邪魔になったんなら結べばいいじゃん。私も手伝うからさぁ。ねぇねぇ~~お願いだよぉ……」

き通る様なブルーの瞳に涙を浮かべてそう懇願するキリエ。

それをけてノーラはしばし頭を悩ませたが、結局負けしたかの様に疲れた笑みを浮かべて了承して見せる。

「……わかったわ、キリちゃん。じゃあ、どんな髪型にするか一緒に考えましょ? ね? だから泣かないで……」

ノーラが右手をばしてキリエの涙を拭うと、そこでようやくキリエは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

「だったらさ、私とお揃いにしようよ~~!! ノーラなら似合うよ!! 絶対!!」

「わ、私がポニーテール? 似合うかしら……」

「大丈夫だよ!! さっそく試そう!! ほら、これを使っていいから!!」

キリエは言うと、自の髪を纏めている白いリボンを素早く解いて差し出した。

一気に開放された赤が火のを散らすかの様に盛大に広がりを見せ、一瞬ノーラはそれに目を惹かれてしまう。

ノーラはすぐに気を取り直して苦笑すると、リボンを素直にけ取って慣れない手付きで髪を纏め上げた後でそれを結ぶ。ゆっくりと手を離し、ノーラはおずおずとした態度でキリエに話しかける。

「ど、どう? 変じゃないかしら? 髪型を変えるなんて、本當に久しぶりなのよ……」

「全然変じゃないよぉ!! 似合ってるし、心なしか若返った様に見えるよ!!」

キリエがさり気無く吐いた毒にノーラは苦笑しつつも、悪い気はしなかった。

ドレッサーチェストに備え付けてある鏡に映る自分を見ると、確かに自分が普段纏っている靜かな雰囲気と全く別の活発な雰囲気に変わっている。

逆に髪を下ろしているキリエが落ち著きのある雰囲気を纏っており、それが何だかノーラには可笑しく思えて強く笑みを零した。

「よかったらさ、そのリボンあげるよ。私は変えのリボンが幾つかまだあるし」

「……ありがとう、キリエ。大切にするわ」

ノーラはキリエに向かって心の底から謝の言葉を告げ、リボンを優しくでた。

その日、ノーラが泊まるホテルの一室から燈りが長々と覗き見え、夜が明ける寸前まで二人の楽しげな聲が響き渡った。

しかし、今日と言う新しい日を迎えてもヤウラを朝日が照らす事はなく、街中にはり気を帯びた空気が漂い始めていた。

気付けば空は雨模様、遠く彼方からは雷鳴の響きが聞こえてくる。舞臺は――整った。

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