連続更新分です、注意して下さい。

よしよし、上手くいったな。

俺はノーラさんにようやく拳を叩き込む事に功した。

彼は勢いよく建の壁を突き破って奧に吹き飛ばされて行き、姿が確認できない。

俺が立てた作戦は単純だ。

ただ電子レンジにDE弾をれてスイッチを押しただけである。

そうする事で弾薬を破裂させ、ノーラさんの気を逸らせると踏んだのだ。

ちなみにコレを思いついたのは俺が憧れを抱く『24』の主役、ジャ○クさんが似た様な戦法を見せてくれたからである。

やっぱり困った時はジャ○クさんやな。

催涙弾の煙が上手くを隠してくれたおで、弾薬が破裂するまでの間に素早く二階にも移できた。

咄嗟に思いついた作戦にしては中々のだったのではないかと、俺は自分を褒め稱えたい気分である。

もしかしたら、今ので決著が著いてしまったかもしれない程の渾の一撃だった。

そう思ったのは俺だけじゃ無かったようで、僅かに組合所から歓聲じりの聲が聞こえて來る。

が、俺はそこで気を抜く様な事はせずに、痛みを堪えながら右手でDFを構えて慎重な足運びで建に近づいて行く。

屋をそーっと覗き込むがノーラさんの姿は見當たらない。

俺は一瞬このまま部に足を踏み込むか悩んだが解除裝置の件もあるし、ノーラさんに制を立て直す暇を與えたくは無いと素早く判斷を下して部に足を踏みれた。

その際に散らばったガラスの破片や、テーブルの欠片を踏んで大きく音を立ててしまう。

が、酷い慘狀と化した建の部を音を立てずに進むのは流石に無理である。

俺は早々に音を立てないように歩くのを諦めると、早足で建を歩き出す。

ノーラさんに與えたダメージは大きいと俺は確信しているし、もしかしたら飛ばされた時の衝撃で彼は気絶している可能もある。

そう考えを巡らせつつ俺はノーラさんが"通って"できた壁に開いたを潛り、ある一室に辿り著いた。

複數のロッカーが立ち並び、が雑に散らばっているこの部屋はどうやらスタッフルームっぽい。

と、部屋の片隅に此処には似つかわしくないが落ちている事に俺は気付く。

俺はにDFを構えながら慎重にソレに近寄り、瞼を細めて注意深く注視してそれがノーラさんが著ていた防弾ベストである事が分かった。

俺は素早く周囲に視線を巡らせてノーラさんが付近に居ない事を確認すると、一旦DFをホルスターに戻しながら片膝を著いて防弾ベストを左手で取る。

「プレートを貫いてはいなかった、か。じゃあまだノーラさんは生き――!!」

俺が防弾ベストを持ち上げて損傷合を確かめた所で、ベストの下に隠されていた""に気付いた。

幾重にもが刻まれ、丸みを帯びたソレは――。

「手榴弾っ!?」

俺は悲鳴に似たけない聲を上げる。

が、何とか咄嗟に左手を戻して手榴弾の上に防弾ベストを押し付け、後ろに下がろうとした所で――無にも手榴弾は破裂した。

盛大な音が聞こえたと同時に俺は聴力を失い、次は左腕に炎が宿ったかの様な熱が帯びたのをじ取った。

遅れて背中に衝撃が走り、突然口に広がった熱いに気付いて混する。

堪らずソレを床に吐き出すと――ソレは俺のだった。しかし、は薄く量だ。臓を傷つけた訳ではないらしい。

ふらつきながら何とか力を振り絞って立ち上がった所で、俺は左腕を幾重にも垂れるに気づく。

防弾ベストを咄嗟に被せ、さらには武鮫を裝備していたおか左腕は原型を留めていたのだが、ダメージは深刻な様だ。

武鮫は前腕部分の損傷が特に酷く、裝甲板の大半が吹き飛んでいたし、発で割れた破片が幾つか左腕に突き刺さっている。

額と頬に流れる熱いは汗かと思ったが、右手でれてみるとそれもだった。

――このままではいけない、追撃を食らう可能がある。

俺はそう判斷すると、建から退避しようと歩みだした。

が、聴力を一時的に失った事が仇となってしまい、周囲に何が潛んでいるかの警戒には視力だけが頼りとなってしまっている。

幸いにも俺の意識はシッカリとしている、どうにか勢を立て直す事ができれば――。

そこまで考えた所で視界の端から何かが近づいてくるのに気付いたが、それに反応する事ができずに頬に重い衝撃をけて俺は蹈鞴を踏んでいた。

頬に走った衝撃はとても強く、驚きで目を見張る視界に映ったのは左腕を深く振りぬいていたノーラさんの姿だ。

ノーラさんは左手に裝著していた黒のグローブを何時の間にか外しており、だから俺は彼の左手が義手と言う事にそこで初めて気付けた。

――Human Attachmentの略稱よ。前世界のである強化外骨格や"巧義手"を指す言葉でね――。

気付けば俺は以前、里津さんに聞いたその言葉を思い返していた。

つまり、ノーラさんの左手とっているあの義手もHAって事か?

彼がに著けているHAは厳つさはじさせないもので、鈍く銀のを放ちながらも細を帯びている。

そりゃグローブなんか著けてれば気付けないはずだと、俺は思わず苦笑してしまった。

そんな俺の様子を見てノーラさんは戸ったかの様に僅かに眉を寄せたが、次の瞬間には床を力強く蹴って毆りかかって來る。

俺は咄嗟に両腕を振り上げてガードの姿勢をとりながら、彼の気勢を挫くために右の中段蹴りを放つ。

が、ノーラさんはそれを見事に見切り、足を途中で止めてその蹴りが寸前で過ぎるのを見屆けた。

蹴りが過ぎった後に間合いに踏み込んできた彼に向かって、俺は蹴りの勢いを生かしたままを回転させ左の裏拳を繰り出す。

上手くソレが決まった様で手ごたえをじたが、ノーラさんは咄嗟に左腕を振り上げて裏拳をけ止めたらしく、よろめきながら後方に下がって行くのが見えた。

いかん、左腕の痛みで上手く力がっていなかったみたいだ。折角攻撃を當てたと言うのにダメージが低い。

俺は自分の未さに苛立ちを覚えつつ、追撃の為に床を強く蹴りだした勢いをそのままに右ストレートを放つ。

ノーラさんはを屈めてその攻撃を回避したと思ったら、ばしきった右腕を摑むとそのまま背負い投げの勢にる。

彼の狙いに気付いた時には既に遅く、俺のは浮いてしまっていた。せめてダメージを最小限にしようとの力を抜いての態勢を取る。

背中に衝撃が走ると同時に俺は右腕を摑んでいるノーラさんに向かって左手の突きを放つが、彼は素早く右腕を放して後方に下がっていく。

そのまま彼を警戒しつつも何とか態勢を立て直したが、僅かに眩暈をじてをふらつかせてしまう。

――しまった、傷口の止をしなかったからを失いすぎたか?

俺は何処か他人事の様にそう考え、一瞬気を抜いてしてしまった。

慌てて全に力をれる様にして直に気を取り直したが、既にノーラさんは此方の間合いに飛び込んできている。

そんな調子では防は當然間に合わず、俺は鼻っ面に強い衝撃をけて蹈鞴を踏みながら大きく後方に下がってしまう。

涙で霞む視界を凝らしてノーラさんの姿を探ると、彼はそのまま大きく一歩を踏み出しながら左腕を振りぬいていた。

次の瞬間には自のへと強い衝撃をけ、後方に大きく弾き飛ばされていた。

気付けば俺は建から抜け出しており、遠く彼方にある雨雲と降り注ぐ雨が見える。

そのまま地面を數回転がった所で俺のは勢いを失くし、ようやくきを止めた。

水が溜まった地面と降り注ぐ雨がを濡らしていき、小さく開けた口に雨粒が飛び込んでくるが、何だかソレが心地よくて堪らなかった。

『――様。ど……ら、私……勝…………ね。安心して……い、楽……殺し……げます』

俺が何とか力を振り絞って上半を持ち上げて視界を確保すると、ハンドガンを構えながら建から抜け出して近づいてくるノーラさんが見えた。

彼は慈しむ様ならかい笑顔を浮かべて何事かを呟いていた様だが、生憎にも此方の聴力は回復しきっておらず、その容は途切れ途切れだ。

反撃をしろと力強く闘爭心がぶ。が、俺のはこうとしない。

――傷が深いからか?

――――いや、違うな。自のが発する痛みよりも、ようやくを休められた心地よさに縛られて、立ち上がる事ができない。

俺は何とかソレに抗い、震える右手をかしてホルスターにあるDFを引き抜いた。

だが、DFを構えるのが間に合わない事は一目瞭然で――。

諦めが俺の心中を埋め盡くしつつあった、正にその時である。

ノーラさんが突然を屈めながら頭を伏せた瞬間、先程まで彼が居た位置を眩いが貫いていた。

見覚えのあるそのは――レイルガンのだ。

レイルガンの一撃はノーラさんが後ろに纏めていた髪を盛大に吹き飛ばしていた。

が、彼自には何らダメージがっていない。

その証拠にノーラさんは自を襲った突然の事態にも揺を見せず、既にハンドガンを此方に向けようとしている。

俺は突然訪れた、正に天の助けとも呼ぶべきその一撃を無駄にはしまいと、力強く右手を上げてDFを構える。

その頃にはノーラさんも瞼を細めながら此方に狙いを定めつつあり、後はどちらかが引き金を引くだけと言う場面で――俺達の間を白い何かが過ぎった。

『あ……』

ノーラさんはソレを目にした途端、口を小さく開けてそう呟いた様に聞こえた。

彼はまるで、夢から覚めた様な呆けた表を浮かべている。

俺はその隙を見逃さず――迷い無く引き金を引いた。

――乾いた音が大通りに響き渡り、彼の腹部に赤い花が咲く。

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「ノーラァああああああああああああああああ!!」

大通りに響き渡ったその聲は、キリエ・ラドホルトのだ。

戦いの行方を見守っていた者達は、突如として現れたキリエに驚きを隠せない。

『ラドホルト?! 何しにきたんだ?』

『お、おいおい、戦いの場に駆け寄っていくぜ? 止めなくていいのか?』

『馬鹿、決著はもう著いてるだろ。あの小僧……やりやがった』

『か、解除裝置は?! それを押さないと発は止まらないわよ!!』

組合所のり口近くで勝負を見守っていた面々は口々にそう騒ぎ立てる。

その一団に混じり、勝負の行方を見守っていた里津 理乃とラビィ・フルトの両名は既に其処から抜け出しており、何とか立ち上がりつつある沿矢に駆け寄っていく。

ふらつきながらも沿矢は何とか地面に立った――と、思った次の瞬間には片膝を著いて荒く息を吐いている。

まずラビィが沿矢の傍に辿り著き、彼に肩を貸して支えて見せた。

「沿矢様、今の貴方には早急に治療を施す必要があります。ですから、直に組合所で治療をけましょう。……大丈夫ですか?」

スラスラと言葉を述べていたラビィは僅かに迷いを見せ、沿矢に向かって最後にそう問いかけた。

沿矢はラビィに向かって一つ苦笑して見せると自の耳を指差した後にプラプラと片手を振り、聴力が駄目になっている事を伝える。

そこでようやく息切れを起こしながら里津も到著し、そのまま彼も沿矢に肩を貸した。

「……ひ、酷い有様ねぇ。けど、まぁ醫療用ナノマシンは使わなくて済みそうなんじゃない? 頑張ったわね……沿矢」

里津は數瞬の迷いを見せると、何とかそう小さく言葉を吐いて沿矢を労わった。

が、當然の事それは沿矢の耳に屆くことは無く、彼は困した表を浮かべたままで言う。

「あの、解除裝置。ラビィ、き、聞こえてるか? 解除裝置をノーラさんから、回収して押してくれないか」

自の聲も上手く聞こえないのか、言葉を詰まらせつつも沿矢はそう言葉を搾り出した。

その命令を聞くとラビィは傷口にらぬ様に慎重に自分の肩から沿矢の手を退かし、地面に仰向けとなって倒れこんでいるノーラに近寄っていく。

ノーラの近くには両膝を著いたキリエの姿があり、彼はどうすれば良いか迷っているかの様に小さく首を振っている。

ラビィが近くに來るとキリエは救いを求めるかの様に視線を向けたが、ラビィ自はソレに何の関心も見せずにノーラのポーチを漁って解除裝置を取り出した。

そのままラビィは迷い無くスイッチを切り、ソレを抱えたまま踵を返して沿矢の元へと戻っていく。

ラビィの非とも思えるその態度を見てキリエは蒼い瞳に涙を浮かべ、またノーラへと視線を向ける。

キリエが向けた視線の先で金の瞳が見えた。気付けば何時の間にかノーラは意識を取り戻しており、キリエに視線を合わせていた。

「キリちゃん、ごめんね……。リボン、駄目にしちゃった」

ノーラがそう謝ると口の端から真紅のが零れ、頬を流れていった。

キリエは瞼を強く閉じると、そんな事はどうでもいいと言わんばかりにを頭を振ってから口を開く。

「ノーラぁ……。なんで? なんでこんな事っ……!! 一言でも、私に相談してくれてたら!!」

キリエはそのまま手をばすと、ノーラの頬に手を添えた。

ノーラはそれをけて嬉しそうに笑みを零すと、僅かに戸った口調で問う。

「……まだ、私にそんな優しい言葉を送ってくれる、の? 大変な事をしたのよ? 私、はっ……」

そこまで言うとノーラは咳き込み、口からを飛ばす。

キリエが添えた手にもソレは飛び散ったが、彼はそれに嫌悪する様子を見せない。

「そんなの関係ないよ……。ノーラは、友達だもん」

キリエは遂に蒼い瞳からポロポロと涙を零し、拗ねた口調でノーラにそう告げる。

それを聞くとノーラは大きく目を見開き――彼も一筋の涙を流した。

ノーラはなんとか震える右手をかし、自の頬に添えてくれている暖かなキリエの手にれる。

安らぎは永遠に奪われ、與えられた憎しみからも開放される手段はもはや無い。そう、思っていた――。

「――なんて、暖かい。ありがとう、キリエ……」

子供の様な眩い笑顔を浮かべてそう告げると、ノーラは靜かに瞼を閉じた。

それを見ると思わずキリエは息を止めてしまったが、次の瞬間には大聲を上げてノーラに呼び掛ける。

「ノーラ!? ノーラ!! い、嫌だよ……。死なないで、ノーラっ……!!」

キリエは大粒の涙を零しながら悲痛な聲を上げてノーラへと語り掛けた。

その直後、多數の警備員を引き連れた川がようやく現場に現れると、彼は次々と指示を出し始める。

「ストレッチャーを持って來い!! タルスコット殿はできれば死なせるなと軍から通達があった!! 傷口を見るに、病院へ運ぶまで彼は持ちそうにない!! よって、組合所で治療を行う!! もし必要ならば、醫療用ナノマシンを投與せよとのお許しも出ている!! 全力を盡くせ!!」

『『『『『はい! 五階長!!』』』』』

川の命令が下されると、數名の警備員がさっそくノーラに駆け寄っていく。

その際に警備員の一人が勇気を振り絞ってキリエにノーラから離れる様に伝えると、彼は素直に従って背後に下がった。

すぐさま警備員がノーラの傷の度合いを測る為に彼の傷口を注視し、數秒後に彼は大聲を上げて川にノーラの容態を伝える

「五階長、弾が貫通していません!! これを取り出さないと、彼にナノマシン投與できない!!」

「あぁ、糞!! 仕方ない、今は彼を組合所に運ぶ事を最優先とするんだ!! 急げよ!!」

川がそう告げるやいなや、直に警備員達は行を起こしてストレッチャーを展開し、慎重にノーラを上に乗せた。

ストレッチャーの揺れを最小限に押さえながら、警備員達は小走りで組合所へとノーラを運んでいく、その傍らには勿論キリエも付き添っていた。

ソレを見屆けると、そこで初めて川は沿矢に向き直って顔を合わせる。

川は何度か口を開け閉めして暫く戸いを見せたが、一つ息を吸うと遂に覚悟を決めたのか、沿矢に軍から下された命令を告げる。

「木津君、本當に君は良くやってくれた……。そんな君にこんな事を言うのは気が引けるのだが、君を拘束しろと軍から命令が出ている」

「はぁ!? いきなり何寢惚けた事言ってんのよ!? そもそも、コイツだって傷を負ってるのにあんなを優先しちゃってさ!! 訳わかんない!! 何を聞くにしたって、まずは治療を施してからでしょうが!!! 違う!?」

川の言葉を聞くやいなや、里津は怒濤の勢いで言葉を吐いてそう捲くし立てた。

ラビィは罵倒の言葉こそ口にはしなかったものの、冷たい眼差しを浮かべて川を真っ直ぐに見つめ、沈黙と合わせて責め立てている。

川は慌てて両手を振ると、弁解の言葉を吐き出した。

「も、勿論治療は行います!! で、ですが、その後に玄甲へ木津君をお連れする様に命令が出ているんです。私には、本當にどうしようもできない事で……すみません」

川は最後にそう言うと、腰を大きく曲げて頭を下げた。

それには思わず里津も言葉を無くしてしまい、責め立てる事が出來ない。

が、ラビィは変わらず冷たい眼差しを送り続けていた。

沿矢は落ち著いた場の雰囲気をなんとかじ取り、ようやくそこで口を開く。

「いや、だから……よく聞こえてないんだって、俺」

気付けばヤウラに降り注いでいた大量の雨は止んでおり、代わりに雨雲の隙間から暖かい日差しが降り注ぎ始めていた。

――かくして、一人の年がそのに宿してしまった異常が広く知れ渡ってしまい、年の下へと新たな騒を引き寄せる事となる。

――しかし、それが訪れるまでにはまだしだけ時間がある。

――今はどうか、彼に靜かな休息を――。