《俺+UFO=崩壊世界》変化
この日、ヤウラ市に宮本 栄一郎が市長に就任してから最大の衝撃が走った。
ちなみに二番目はこの前のヤウラ破事件であり、三番目が教會の子供を狙った事件である。
そしてそのどの事件にも共通しているのが、一人の年が関わっている事であった。
その年の名前は木津 沿矢。
歳は自稱十五歳、長は推定170cm、重不明、生年月日並びに出地も不明。
木津 沿矢なる者の最大の特徴は、その型から想像できない程の膂力を発揮する事だ。
今現在『不屈』なる銃類販売店に居候のであり、同棲相手との関係は不明。
彼は非常に高能なヒューマノイドを所持し、ソレはクースで手されたと推測。
その機はMMHと呼稱されており、他の同型機が確認できないプロトタイプであり、且つハイエンドタイプでもあると推測されている。
「と……この年に纏わる報はそれが全てだ。何か意見はあるかね?」
コガ・ローマン元帥は書に書類を配らせると、そう會議室に居る面々を見回して訪ねた。
渡された書類には上記に述べた報と共に沿矢とラビィの寫真も掲載されている。
――しかし、意見とは何を言えばいいのか?
一人の佐がおずおずと手を上げてそう質問すると、コガ元帥は片方の眉を跳ね上げて腕を組む。
「分からないのか? 我々は彼を"侮っていた"。先程の映像を見ただろ?」
既に、沿矢達はクラスクからヤウラに帰還していた。
軍曹を通じて組合所に事を話し、其処から組合所を通してヤウラ軍にテラノで起きた事件の詳細を伝えたのだ。
今現在、ヤウラ軍は主だった將校や佐を集めて急の會議を開いている真っ最中である。
そして今更ながらに、彼等は沿矢の力量が"予想以上"に高かった事を認識したのだ。
「確かに、そうですね。並外れた膂力を有してるとの報告をけてはいましたが、強固である金庫室の大型扉を僅か數発の打撃で突破するとは……」
「加えてSBを使用していたゾルダート裝著者と戦闘したにも関わらず、その複合裝甲を打ち破り、勝利してもいる。それどころか畫面に映る彼の姿を見るに……この事件で相當數の敵を屠っている様だ」
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沿矢が持ち帰った映像は會議室の畫面に映し出されており、そこに映し出される沿矢の姿は全がに濡れていた。ふと、そんな姿がヤウラ切っての凄腕である紅姫の"とある在りし日"の姿のそれと被り、各々が自然と無意識下で戦慄を覚える。
「それとこれは……不確定な報なのですが」
「不確定な報? 何だ?」
組合所とのパイプ役を務める連絡員がそう口を挾むと、コガ元帥は真っ先に続きを促した。
まさか元帥閣下自らに話しかけられるとは思いもせず、その連絡員は張で言葉を詰まらせる。
「い、いえ! その、木津 沿矢がクラスクから撤退する際に……妙な行をしたとの証言を、送迎班から聞かされました」
「妙な行?」
「は、はい。これをごらん下さい……」
いそいそと、連絡員は持參したチップをPCに接続し、作する。
すると壁のスクリーンに二枚の寫真が浮かび上がる。
一つは極普通の廃墟街で、幾つかのビルが立ち並ぶ。
もう一つも廃墟街ではあるが、此方にはビルが無い。
「これがどうかしたのか? そもそもこれは何処の寫真だ」
「これはクラスクの寫真です。一つは以前、ベースキャンプから調査資料として撮ったソレです」
「もう一つは何だ?」
「もう一つも……クラスクの寫真です。位置は若干ずれてると思いますが、それもベースキャンプから同じ方向を寫したです」
「何だと……?」
瞬間、會議室に張が走る。
勘の良い者は今の一連の流れで話の展開を予測できた。
が、そうでない者は話が読めず、聲を荒げて連絡員に問う。
「一何をほざいている? 風景が全然違うではないか!」
「ですから、こういう事だろう。街中の景を変える程の"何か"を木津 沿矢君が行ったと……そうだろう?」
ねっとりとした流し目で連絡員に視線を向け、何故か自慢気にと腹を張るその男は、剛塚 茂道大佐である。彼のそんな言葉を聞いて連絡員を問い詰めていた男は頭に疑問符を浮かべ、混しきっていた。
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「な、何を馬鹿な事を……街中を破でもしたと言うのか?」
「いえ、それが……撤退準備をしている最中に彼のび聲が聞こえ、地響きがしたと思ったら地面が揺れたとの事です……。彼の周囲は大きく地面が盛り上がるか陥沒しており、そこから発生した幾つかの細く長い罅割れは遙か先の荒野まで続いていたと……はい」
會議室の面々は戸う様に顔を見合わせた。
まるで現実味の無い話であり、突拍子が無い。
いや、そもそも何故――
「……彼はどうして、その様な行を?」
他の面々が疑問に思い始めたその言葉、それを真っ先に口にしたのは魅竹 照準將その人であった。彼は戸い、困する大半の面々とは違い、ただ純粋に起こった出來事を探る口振りでそれを問う。
「それが……詳細は分からないのです。他の面々が事態に気付いたのは彼がび聲を上げた直後からですので」
「彼に付き添っていたヒューマノイドはなんと?」
「ただ沈黙したまま……彼に寄り添っていたと」
すると、そこまで話を聞いた所で一人の佐が鼻を鳴らして肩を竦めた。
「これ見よがしに何を話すかと思えば……ようするに確たる証拠は何も無いのだろう? 馬鹿馬鹿しい。人間一人がその様な"災害染みた"何かを起こせて堪るか」
「恐らく、地震か何か起きたのだろう。彼はその発生源に近く居た為、悲鳴を上げた。こう考える方が自然だ」
「確かにな……君! そういう與太話は厳然たる會議室で話す容ではない、慎みたまえ」
連絡員がそう注意をけると、彼は何か言いたそうに口を僅かに開く。
しかし、暫くするとそれを諦め、頭を下げた。
それを見屆けると、話の流れを変えようと一人が話題を振る。
「しかしまぁ、木津 沿矢なる年の実力が"想定以上"だった事は認める。まさかクラスクの収監エリアから捕虜を救出するとは……」
「助け出されたチームの証言では、近接撃と格闘を主軸に行い、多數のFG型の銃撃を行わせない様に立ち回ったとか。度も中々だ」
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「加えて指揮型の百式の撃破に加え、フロアの増援を避ける為に先に他のFG型を一掃……か。それが本當だとするならば、彼のクラスクでのFG型の撃破記録は百を超えるぞ」
「いや、それ等の功績は彼の実力だけのものじゃないだろう? あのMMHなるヒューマノイドが共に居たからこそしえた偉業だろう。それを踏まえず、あまり手放しで賞賛するのもどうかと思うが」
會議室の面々が沿矢の実力を見直し始めていると、何処からか橫槍がる。
「ですから……私は進言した筈ですよ? 彼は借金などで"飼い殺す"よりも、紅姫の様な協力関係を築くべきだと」
そう得意気に発言したのは、またもや剛塚である。
彼は以前、軍が借金を理由に木津 沿矢の徴兵とラビィ・フルトの確保に反対した者の一人であった。
「……元々、彼は被害者でした。協力関係どうこう以前に、タルスコットの事件で起きた責務をあの様な形で背負わせるのは……私もどうかと思っておりました」
反対したもう一人、魅竹 照準將も剛塚に賛同する意見を出す。
意外にも、この二人の仲は悪いのだが、こういった仕事場での意見の同意は多々あった。
それは二人の幹にざすが、ヤウラ市を想って行すると言う主旨であるからだ。
その二人の意見を聞き、コガ元帥も鷹揚に頷く。
「多數決で決を採った事と言えど、確かにな……。借金の件は帳消しにした方がよいだろうか?」
「しかし、今更撤回するのもどうでしょう? 仕方なかった事とは言え、彼が街中の破壊行為に攜わったのは事実ではないですか!」
「そうです。街中の破事件による被害額の大半はタルスコットの裝備、HA、車両を押さえる事でカバーできてます。ですが、彼との戦闘の際に彼が與えた被害まで我々が負擔する理由も無い。そもそもとして言えば、あの二人が"爭った事"すら我々は把握していない。もしあの二人が爭った理由が私的なモノであるとすれば、被害額の負擔だけで済ませただけの字と言うだ」
そう、結局としてノーラ・タルスコットが破事件を繰り広げた原因は未だ不明なのだ。
その原因である彼は一度は覚醒したものの未だ眠り続けており、事を聞き出せていない。
もしも彼が目覚めて罪を認めれば、沿矢の借金は彼に負擔がいく予定である。
軍の狙いの第一目標は沿矢が所持するヒューマノイドであるが、もしもノーラが借金を理由にヤウラに協力を申し出る事があれば、それでも良いのだ。彼は現にミシヅの手によって暗殺の試みをけており、その事を考えれば彼のミシヅでのハンター登録は抹消され、私財を押さえられている可能が極めて高いのだ。
つまりとして言うなれば、ノーラ・タルスコットは"詰んでいる"。
一連の無謀な行いで彼は今までの名聲と功績、そして私財をも失った。
あるのはそのに宿した経験と強さであり、軍としてはヒューマノイドを手にできずとも、それを確保できればの字なのだ。
加えて言うと彼は紅姫と深く親しい仲である事は明白であり、彼を"使えば"紅姫の手綱を容易にる事も期待できるのだ。
そう、一連の借金を沿矢が背負おうが、ノーラが負擔しようがヤウラ市が手にするメリットは計り知れないのだ。むしろ今までの事を思えば、軍としては是非ともノーラ・タルスコットにその責務を背負わせたい所でもある。
しかし、今の所は彼は眠り続けており、それが行えない。
ならばと軍はその都合の良い建前を利用し、沿矢を縛り付けようとその借金を押し付けているのが今の現狀である。
「まぁ、我々としてはどちらが負擔を背負おうが関係ない。ただ座して待つだけだ。借金の帳消しなど論外です」
「そうです。元帥閣下、この様な"好機"を逃すなどあってはなりません」
「ふむ……そうかね」
その一連の流れを見て、剛塚は思わず舌打ちを鳴らす所であった。
代わりに手を挙げ、皆の注目を集めると振り手振りをえて語りだす。
「いいですか、皆さん? よく考えてください、今の彼はこの街の"ニューホープ"と言っても過言ではない。その話題は強く、今尚も外居住區を出歩けば必ずと言って良いくらい耳にする程です!!」
一旦其処で言葉を止め、剛塚は周囲を見回す。
すると周囲の興味を引いている事を確認し、続けて話を続ける。
「そして、今回のテラノで起きた兇悪事件での活躍! 並びに誰もし得なかったクラスクの収監エリアからの捕虜解放!! この二つの話題はすぐにまたこの街を熱狂させるでしょう。それは何故か? 彼は紅姫とは違い、常に"誰か"の為に事をしているからです!! そんな彼を見たら人々は何と言いますか? "英雄"と呼ぶでしょうね。常に我侭で自由奔放な"姫"とは、彼は行理念が違うのです!! 故に、私はこう言いたい。これから我々は彼を積極的に支援していくべきであると!!」
前々から考えていたその考えを、剛塚は遂に口にした。
街に流れている噂を最初に流したのが彼であったが、沿矢の予想以上の活躍で計畫を前倒しにしたのだ。
即ち、その計畫とは――
「…………紅姫を"見限れ"と?」
來た、と剛塚は心中でほくそ笑む。
しかし、表面上はそうは見せず、心痛そうな聲で言葉を返す。
「そうではありません。ただ、何かあれば直ぐに彼だけを頼りにしている今の我々の現狀がどうなんだと指摘しているのですよ。彼の負擔を減らす為にも木津 沿矢が我々に協力してくれるのであれば、それに越した事はない。違いますか?」
あくまで表面上は紅姫を気遣う話しぶりで、剛塚は意見を述べる。
しかし、そんな彼の言葉にも難を示し、各所からポツポツと言葉が飛ぶ。
「そうは言うものの……彼の実力は本だ。タルスコットを餌に、メイン居住區の諜報員も始末してくれた。確かに彼は気紛れな部分が目立つ、けれども我々との利害が一致して働いてくれる時の彼には常に驚かされる」
「むしろ彼を頼りにせずしてどうしろと? 彼が居るからこそ、我々の作戦行も容易く進められるのだ」
「それに木津 沿矢のランクは『G-』と聞いたが? そんな低レベルなハンターに都市が支援するなど、他所が見たら何と思う?」
無能共が、そう罵倒したい気持ちを剛塚は必死に抑える。
組合の『ランク制度』とは、言い換えれば貢獻度の証にしか過ぎず、その者が持つ『実力』とは何ら関係ないのだ。他都市にある組合所とヤウラの組合所は同じ名を持つが厳には同一組織ではない為、昇級制度もまた別だ。その中には傭兵組織同然の組合所も存在している。
しかし、集金を重視したヤウラ獨自の昇級システムは自らボタを払うか、集めた資の納品容に左右される。で、あるのにも関わらずだ……都合の良い建前で沿矢に借金を吹っ掛けておいて、低ランクがどうこうのケチを付ける等、どの面を下げて言えるのだ?
しかし、そんな説明をした所でこの無能共は理解する努力もしないに違いない。
心でそう憤慨しつつも、剛塚は強く意見を述べ続ける。
「勘違いしてはいけない。いいですか? 『G-』だからいいのです!! 今や天下に上り詰めた紅姫が何をした所で人々は何も思いません。空から雨が降り、雷鳴が降るが如く荒れ模様を見せても、人々は素直にそれをけいれる様に!! しかし、木津 沿矢君は違う。最低ランク且つ平凡な年が活躍するからこそ、市民は彼に同調し、熱狂するのです!!」
「ふむ……。同族意識と言う奴か? 確かに、底辺の人間の希にはなるのかな?」
『……はははっ』
剛塚の熱弁も空しく、他の者達は嘲笑う。
剛塚は彼等と同僚で居る事が堪らなく恥ずかしくなり、頭を抱えたくなった。
まさかここまでの戦果を出しているにも関わらず、軍は沿矢に相応の価値を見出せていないのだ。
それは紅姫の影響力も大きいのだろうが、何よりも大する軍部に比例して、実戦経験の乏しい佐や將校が生まれ始めてきているからだろう。
「とりあえず、その話は一旦止そう。次の件に移る、即ち……テラノ住民保護案の事だ」
コガ元帥がそう次の話を始めると、面々は笑いを収めて思考を切り替えた。
それを見て一つ頷き、元帥は書類を捲くりながら意見を述べる。
「この話を最初に聞いた時はどうかと思ったが、容はどれもメリットばかりだ。我々が擔う役目は彼等の保護と撤退支援、そしてヤウラ市は彼等が住まう土地と住居を提供するだけでいい。あとの事は全てフィブリル商會が支援するとの事だからな」
対する將校の一人も興気味に頬を紅させつつ、その言葉に賛同する。
「その経済効果は計りしれませんよ。フィブリル商會から難民への支援とはなっていますが、実質的にはヤウラ市に経済援助を施す様なモノです。それに男は殆ど殺されたらしいですが、若いは多く生き殘っています。子供達もそれなりに居ますし、軍や市のイメージアップにかなりの効果も期待できる」
「それで、元帥閣下。市長はこの件で何と……?」
一人が、そう確認を取る。
結局の所、この街の最高権力者は市長である『宮本 栄一郎』だからだ。
彼が許可を出してくれなければ、軍は當然としてけない。
コガ元帥は一つ頷くと、口角の端を持ち上げる。
「無論、賛との事だ。それもかなり喜んでな。最近は彼の融和政策も効果を薄めていたからな……渡りに船と言った所だろう」
「おぉ!! では、誰を派遣しますか? 直ちに部隊を編する必要がありますから、やはり経験富な者を……?」
久しぶりの大仕事に、會議室の面々は気合をれ始める。
毎日同じデスクワークに飽き飽きしていたと言った所だろう。
しかし、そんな面々に対し、コガ元帥は予想外の言葉を放つ。
「うむ。それなのだが……"正規軍はかせない"」
「――は?」
本來なら、その様な口の利き方は許されない。
しかし、今はそれを咎める者が居なかった。
即ち、この會議室に居る面々も殆どがコガ元帥の発言で混しているからだ。
コガ元帥は一つ溜め息を零すと、説明する。
「以前起きた事件を忘れたか? 我々はヤウラ破事件の首謀者としてタルスコットを捕らえた。その結果、ミシヅは我々に弱みを握られる事を恐れ、この街に潛伏していた諜報員を利用して彼の暗殺を決行。しかし、それは紅姫の活躍で防がれた。結果として我々は水面下でミシヅと"戦"したも同然なのだぞ? 紅姫のおで今は膠著狀態だが、下手に正規軍をかせばまたミシヅを刺激しかねないのだよ」
キリエが仕留めた暗殺者の數は既に二桁に及んでいる。
それ程の人數との連絡が取れなくなったともあれば、仕掛けた側もその失敗に気付くしかない。
表面上は波風を立たせない様にミシヅ市も沈黙を貫いてはいるが、その心は荒れ狂っている事は想像に難くない。
「我々がテラノに軍を割いた隙に、ミシヅが侵攻してくると……?」
ごくりと、誰かがを鳴らす。
まさか今回の件が開戦の切欠になるとは思いもしなかったのだろう。
だが、今の荒廃時代では何が起きても不思議ではない。
そしてそう考えるのはコガ元帥も同じであった。
「可能はゼロと言えまい?」
「し、しかしですよ? ミシヅの軍など五千をし超えている程度。一方の我々は二萬を超える程の軍を有し、満足な裝備を生できる軍用プラントを有しています。こう言っては何ですが、ミシヅなど我々の敵では……」
そう楽観視しようとした將校に対し、コガ元帥は會議室のテーブル上に置いてある地図を指差して言う。
「ハタシロと合わせれば奴等もそう馬鹿にできない戦力となるぞ」
ハタシロ、十數年前の徴兵活を発させたヤウラの北に位置する都市の一つ。
彼等はヤハツキを攻め落としはしたが、何も住民の大殺までを繰り広げてはいない。
戦闘の巻き添えで死亡した者を除いて、ヤハツキの住民の大多數は労働力として確保され、戦利品扱いでハタシロが確保している。
単純に數で言うならば、ハタシロとミシヅを合わせればその住民數はヤウラを超えている。
専用の軍事プラントがあるヤウラと比べれば裝備の質は落ちるものの、ハタシロ正規軍の數は一萬三千を超えているのが現狀だ。
ハタシロとミシヅが組めば、その戦力はヤウラと拮抗するに等しいモノとなる。
コガ元帥のその指摘に対し、おずおずと將校の一人が彼の機嫌を損ねない様に意見を述べる。
「まさか……同調して攻めてくると? 余程の信頼関係が無ければ不可能ですよ。二つの都市から時を合わせて同時に進行するとしたら、無線機の範囲外です。もし片方がヤウラへと攻め込んでる間に裏切り、もう片方の都市を攻めたらあっという間に陥落します」
今の荒廃時代では、衛星軌道にある軍事衛星の妨害電波により、無線機の通信可能範囲は數十キロ程度である。無人兵が徘徊する荒野には強固な中継地點も築けず、更に言えばヤウラ周辺の各都市はそう言った計畫を打ち出す程の信頼関係も築いていない。
故に、都市間の連絡網は築けていないのが現狀だ。
その中でハタシロとミシヅの二つの都市が連攜してくとなれば、予め時を決めて同時にくしかない。下手に連絡を取り合うか、もしくは中継基地を築こうとすれば、ヤウラの工作員がそれを知するからだ。
それ等の現狀を踏まえつつ、コガ元帥は再度として告げた。
「もう一度言おう、可能は"ゼロではない"。で、ある以上は迂闊な行は取れまい?」
「しかし、市長の許可が取れたと言う事はですよ? それは我々にけと命令されたも同然なのでは?」
そうなのだ、テラノの市民の救出を許可されたと言う事はだ。
実質的にはそうしろと命令をけた事になる。
今、コガ元帥が抱く不安を説明して作戦の中止を求めても、市長は良い顔はしないだろう。
コガ元帥はそんな極當たり前の指摘にうんざりする様に息を零しつつ、辛抱強く話を続けた。
「ふぅ……わかっておる。故にだ、くとしても"テラノ住民の保護"と言う建前では今の正規軍はかす事もできず、またけないのだ」
「……? では、どういう建前でくのですか?」
元帥閣下の思考はまるで理解できない、そう言いたげに一人が尋ねる。
対する我等が元帥閣下はニヤリと不敵な笑みを浮かべて言う。
「そうだな、"訓練兵"達の野外遠征演習……ではどうか?」
「……なるほど! 確かに訓練兵は正規軍には程遠い。故に、相手方への刺激もないとのお考えですね?! 流石は元帥閣下……!」
そう心の聲が會議室に響き渡るが、魅竹準將だけは訝しげに問い掛ける。
「元帥閣下。それはつまり……正規兵を訓練兵に変裝させ、任務に向かわせると言う事でよろしいのですよね?」
「……いや、言葉通りだ。私は"そのまま"訓練兵を派遣しようと思っている」
「何ですと!?」
魅竹準將はそう大聲を上げ、席を立った。
そこまで驚いたのは彼だけであったが、コガ元帥のその判斷に驚いたのは他の面々も一緒である。
何故なら、訓練兵の殆どは未年者で構されているからだ。
簡単に言えば、彼等は子供である。
下は十二歳から上は十八歳までとの幅広い年齢層で、彼等は構されている。
中にはまだライフルを撃った事はおろか、持った事さえない者も混じっているのだ。
「元帥閣下!! テラノの住民は數百人規模であります!! で、あればその人達の保護、並びに防衛する為に必要な兵士は最低でも千は必要です!! ですが、その數は今我々が鍛えている訓練兵の數とほぼ同數です!! その全てを員するのですか!?」
今現在、ヤウラ軍が鍛え上げている訓練兵はそう多くは無い。
十數年前に徴兵された子供達の多くは既に正規兵となり、任務に就いている。
軍が今有している訓練兵の大半は生活苦を理由に外居住區から志願してきた者が大半だ。
その他は単なる好奇心か、り上がりを夢見る野をにメイン居住區から志願してきた好きな者が數ばかり居る程度。 現狀は月日が経つに連れて志願する訓練兵の數は減り続けており、近い將來に解決すべき軍の課題の一つにもなっていた。
その貴重な戦力とり得る若い訓練兵達を、事もあろうに危険な実戦に、しかも正規軍でも難しい部類の任務に屬する市民の護衛撤退作戦に用いるとは……。
軍の未來を想う將校の一人として、そして何よりも一人の人間として、そんな無謀な作戦はとても容認できるではなかった。
しかし、そんな魅竹準將の思いは屆かず、コガ元帥は彼を諌める様に片手を上げながら話を続ける。
「この案を実行するなら……それしかないだろうな。いいかね、準將。軍をかすとなれば送り出す兵士達は外居住區をどうしても通過せねばならん。そして外居住區には他都市からの諜報員が幾らでも潛んでいる。紅姫が諜報員を排除したのはメイン居住區だけだからな」
「その諜報員達に……変裝を見破られると? トラックの荷臺を外から見えない様に隠す方法など、幾らでも……」
「逆だよ、準將。我々は諜報員に"見せ付け"なければいけないのだ。それは即ち、訓練兵のあどけない姿をな。此方の噓などすぐに見破られる。しかしだ、最初からそれが"真実"であれば……相手を騙すも何も無いだろう?」
それを聞いて、會議室の面々は何故彼が元帥と言う地位に就けたのかを理解した。
即ちソレは……戦略の為ならば、諜報員も歳若い訓練兵も全て利用する強かさを彼は有しているのだ、と。
その発想に誰もが驚愕すると同時に、戦慄を覚えた。
元帥の案に心酔する者も居れば、嫌悪を示す者も居る。
危険ではあると同時に、大膽且つ効果的な策ではあるだろう。
「無論、教や指導兵の數はそれなりに多くは共させる。南側の案と稱し、組合に置いている送迎班の部隊を幾つか回すのもいいだろう。その程度ならば、不自然ではないからな」
「しかし……」
「いい加減にしたまえ、魅竹準將。元帥閣下が自ら提案した素晴らしい案ではないか」
「剛塚、貴様……!」
渋る魅竹に対し、剛塚はこれ見よがしに煽ってみせる。
しかし、流石にこの場で言い合うほど愚かではなく、二人はすぐに目線を逸らす。
だが、心のはまた一段と深くなった事だろう。
「纏まったな……この案でテラノ住民保護を目的とした作戦を遂行する。しかし、この作戦の真の詳細は出発してから教達が訓練兵達に明かす。でなければ、報洩の危険があるからな」
「……了解しました」
魅竹準將は靜かに瞼を閉じ、その時に浮かぶであろう訓練兵達の心境を憂慮した。
唯でさえ危険な野外遠征演習、これだけでも死者が出る事は珍しくない。
しかし、今回の本來の目的は住民保護を目的とした護衛任務であり、危険な実戦なのだ。
どの様な結果になるのか、まるで想像も付かない。
「それと組合所の者達にもテラノの件はれ回るなと伝えろ。特に當事者である面々には強くな。これで以上だ、何か意見は?」
『…………』
誰も言葉を発しない事を確認すると、コガ元帥は深く頷いた。
「これで、本日の會議を終了とする」
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「住民保護を軍と市長が了承した!? は、早くないですか!? いや、それでいいんですけどね!?」
「お、落ち著きたまえ! 木津君!!」
俺が興を隠さずに問い詰めると、川さんは俺の肩を摑んで押し留める。
俺達は現在、組合所の仮眠室に隔離されていた。
ウララカのメンバーを救った後、俺達はクラスクからまる一日近くの時間を使用してヤウラへと戻った。俺はクラスクから撤退する際に一連の流れで気絶したが、夜には目が覚めた。その際にまた々とあった訳だが……一旦それは後回しにしよう。
兎に角、ヤウラへと戻ると俺と軍曹はまず組合所に報告、次に軍の方々が來て俺達の報の真偽を確かめた。その後はこの報が出回ると多大な混が起こると言われ、俺達は仮眠室で待機する事を強制されたと言う訳である。
即ち、俺は里津さん達にもまだ帰れた事を伝えられてないのだ。
PDAも取り上げられ、通信手段はない。
別にそれに文句はないが、何だか釈然としなかった。
當初はどれ程の時間が掛かるのかと心配したが、何と半日後には川さんからこうして朗報が伝えられた。
俺は安堵の余りを押さえ、息を吐く。
「よかったぁ……。これで、もう安心ですね」
「そうだね。しかし……君にはまた驚かされた。全く、ここまで忙しくなったのは初めてだぞ?」
川さんはそう苦笑し、お手上げと言ったじで肩を竦めた。
「それと、この事は誰にも言うなと軍から通達があったよ」
「え?」
「簡単に言うが、ハタシロとミシヅを軍は警戒している。軍をかせば、二つの都市が侵攻してくるのではないかとね。だから報の洩を危懼しているんだ」
「ぇえ!? そ、そこまで勢が悪化してるんですか!?」
俺は思わず驚きを隠せず、困した。
まさか、俺がノーラさんと戦った影響もあるのだろうか?
そう不安を抱いていると、川さんは手を振りながら言う。
「勢だなんて関係ないさ。今の荒廃時代、昨日まで同盟していた都市が下らない理由で爭う事も珍しくない。弱みを見せれば、付ける隙になる。それを警戒しての事らしい」
「でも……結局は軍をかすんでしょう? 黙ってても」
「ギリギリまで報を伏せて、手早くくと言う事じゃないかな? 仮に戦爭を仕掛けてくるとしても即座にはけないからね。侵攻目的の軍事行の準備など、一日二日じゃ無理だよ」
「はぁ、なんか騒だなぁ」
この崩壊世界で怖いのは人間でもあるとは言え、戦爭の危険もあるなんてな……。
「だから……今回の件が終わるまで、クラスクから戻った者達や君やHopeの面々をまだ解放できない。軍が作戦を遂行して全てが終わるまでは、此処で待機だ」
「はぁ、そうですか……ん? え? 俺達はテラノに行かせて貰えないんですか!?」
話を流そうとして、俺は驚いた。
俺としては軍の人と一緒にテラノに向かうつもりだったのに、此処に殘れと言うのだ。
しかし、川さんは俺の言葉を聞いて、怪訝そうに片方の眉を跳ね上げる。
「行かせて貰えないと言うか……そもそも行く必要があるのかい? 軍がくのなら、戦力は十分だ。それに君達はもう十分働いてくれた。此処で休んでも誰も文句は言わないさ」
「いや……でも」
「とりあえず、仮眠フロアを自由に移する事はおkだ。他の面々と話し合って今後の事を決めたらどうだい?」
「……分かりました。報を伝えてくれて、謝します」
「あぁ、とりあえず休んでくれ。よくやってくれた」
部屋から出て行く川さんを見送ると、俺は溜め息を零す。
そのまま部屋のドアを閉めるとベッドに腰掛け、宙を見上げる。
「……此処で投げ出すとか、中途半端だよなぁ」
そう呟くも、確かに俺が同行する必要をじない。けれども……。
――ロングさん、怖いのは當然です。けど、彼等は間違いなく貴を待っています。俺や他の誰かじゃなく、貴を待って耐えている筈です。
――もし貴が怖いなら此処に殘って待っててくれても構わない。けれど、それで貴はこの先後悔しないで生きていけますか?
ふと、クラスクでの記憶が蘇った。
そうだ、カークスさん達は俺達を待ってくれてる筈だ。
それにもしもこの件で何かが起これば、俺は一生後悔する。
く理由など、それで十分だ。後悔しない為に、俺は行こう。
「沿矢様」
そう考えているとドアが開き、ラビィがってくる。
當然ながら、俺は彼と別々に隔離されていたのだ。
自分で言うのもアレだが、彼と二人でならどんな脅威も退けられそうだからな。
警戒されるのも致し方ないと言った所か。
「ラビィ、良かった。お前に聞きた……ッ!?」
ラビィはトコトコと素早く近付いてくると、俺の両肩を手で摑んでベッドに押し倒した。
唖然とする俺を目に、彼はゆっくり布を俺に掛けながら言う。
「どうか、安靜になさって下さい。沿矢様」
「……いや、だから俺は病気なんかじゃないってば」
俺がクラスクで気を失ってからと言うもの、ラビィはこうして必要以上の気遣いを向けてくる。確かに全からを流し、挙句の果てに地面を叩き割ったり、その流れで気絶すれば心配もするだろうがさ。
だが、今の俺は不自然に調が良いのだ。
護衛依頼での戦い、テラノ解放戦、クラスクへの突。
続けて繰り広げた激戦で積もっていた疲労が、あの一件で気絶して目覚めて以來、全てが吹き飛んでいるのだ。
もっとも、変化したのはそれだけじゃないのだが……。
「ですが……沿矢様のに起きている事は異常すぎます。あれ程の怪我が治り、疲れも無くなった。更にはが…………"不自然に変化"するなどとは……」
「まぁ……そうだけどさ」
そう、俺のはあれ以來劇的に変化している。
的に言えば、付きが大幅に変わった。
どう変わったかと更に詳しく言えば、筋だ。
今の俺は腕にグッと力を込めれば見事な力瘤が浮かび、腹に力を込めれば見事な腹筋が唸りを上げる。足の筋はマラソンランナーもびっくりな筋質でスマートなソレで、見てると油を塗りたくって鑑賞したくなる程だ。
つまりはスパイ○ーマンが蜘蛛に噛まれて起きた様な変化が、今の俺に起こっている。
しかもそれと同時に俺の右腕の異も大きく変化した。
寢かされていた狀態からを起こし、息を零す。
続けて視線を落とし、ローブの中から右腕を出し、其処に巻かれていた包帯をし解く。
すると俺の右の前腕と手は全て漆黒に包まれているのが見えた。
あの時じた熱さで黒焦げになったと思うだろうが、そうじゃない。
試しに其処を左手で叩けば、金屬質な音が部屋の中に響き渡るからな。
「あげくの果てにはコレだもんなぁ……最悪だぜ」
今現在、俺の右の前腕と手は異に完全に"乗っ取られた"形になっている。
つまりはその部分全が異と化しているのだ。
けれども、だ。
これ程い癖に力を込めれば筋はき、まるで生のの様な変化も見せる。
けどれてみればそのは金屬のそれであり、未知のも良い所だ。
確かに俺は今後も右腕の異に変化が訪れると予測はしてた。
してたけどもさ……これはないんじゃないの?
ホップ、ステップ、からのロケットブースター位の跳躍っぷりなんだけど?
ってか、これじゃ男の生理現象を満足に発散させる事もできないっての。
何が悲しくて金屬質で自のチャームポイントをめねばならんのだ。
俺は利き手じゃないと満足できないタイプだから、マジで死活問題なんだが。
とまぁ、々と困っているのが現狀だ。
ラビィが機転を活かし、俺が気絶した際に咄嗟に包帯を右腕に巻いてくれたので、この右腕の変化はまだ誰にもバレてはいないのだが……。
「けど、里津さん相手だと何時かはバレるか? どうやったら誤魔化せるかなぁ……?」
一緒に暮らしてる訳だから、當然として里津さんと接する機會は多い。
最初は怪我とかで右腕の包帯を誤魔化せるとしても、そんなの長く続かないのは目に見えてる。
そもそも里津さんどころか、藤宮さん達にも々と怪しまれているのが現狀だ。
中中背だった俺がいきなり細マッチョになってる訳だからな。
肩幅とかも大きくなってるし、首元の張りもえらい違いだ。
まぁ、彼達にはそもそも俺の元のなんぞ見せた事ない。
更には普段はローブで隠してるから、見られたとしても何とか誤魔化せるだろう。
ってか、人関係にでもならん限り、彼達に俺のを見せる狀況は來ないだろう。
つまりは心配するだけ損って事だ。やったね、俺!! 一つ悩みが消えたよ!!
クソ……自分で言ってて悲しくなるな。
あ! けど、里津さんにはそもそも俺が迫田との戦闘で怪我を負った際に、治療過程で全を見られてないか?! それどころか、その後は不幸な事故でルイとぺネロさんにも俺のを見られてんじゃん。
「ふぁあああああああああ!! もう、どうすりゃいいんだ……長期で誤魔化せるかなぁ?」
こうして落ち著いた狀態になってしまうと、これからどうすればいいかで頭を悩ませてしまう。
傍から見れば、この変化は羨ましいかもしれない。
まず筋がモリモリになり、オマケに怪我も治り、抱えていた疲れも消えた。
けど、その代償として右腕が未知のに侵食されてるんだぞ? どう考えても不安しか沸かないわ。なんならついでに未知のフェロモンでも発してモテる様にしてくれよ。そしたら許すからさ。
いっその事、今ここで右腕を切り落とせたらとも思う。
だが、それをするにしたって醫療費が掛かるだろうし、そもそも周囲の人達になんて説明すればいい?
今まで意図的にこの異の事を伏せてきた故に、どう説明すればいいか分からない。
そもそもこの異を切り落とした所で、それで全てが解決するのか?
見ての通り俺のは不自然に強制的に変化させられてしまった。
つまりはその時點で俺の異に宿っていた異常は、既にこのに付いてしまったのではないか?
そう考えてしまうと踏ん切りが付かないし、それに今の時點でこの力を失えば借金を返す事が難しくなる。つまりだ、結局どう考えた所で現狀維持の答えに辿り著く訳であり、この思考は既に何度も繰り広げた俺の悪足掻きだった。
――…――……。
そうやって堂々巡りの同じ思考を繰り広げていると、ふとドアの外から足音が聞こえてきて思考を打ち切る。するとその足音はドアの前で止まり、続けて聞き覚えのある聲がその向こうから聞こえてきた。
『ソウヤ君、居る? 起きてますか? 藤宮です』
「え、あ! はいはい、起きてますよ。し待ってくださいね」
答えつつ、大慌てで右腕に包帯を巻いた。
それも終わってラビィに目配せすると、彼は一つ頷いてからドアに向かい、ロックを解除する。
「あ、ラビィさんも此処に居たんですね! あ……ごめん。起こしちゃったかな?」
「いえ、ただ座ってただけですよ」
俺がベッドに腰掛けていたからか、まず藤宮さんは申し訳無さそうに謝罪を口にした。
失禮だとは思うが、俺の的な変化を気取られない為に俺はそのまま座ったままで、彼から離れた狀態を維持して対処する。
「話は聞きましたか? 軍がいてくれるって……」
「うん。その……私達は軍に同行しようと思うんだけど……」
「あ、そうなんですか? 俺も実はそうしようと思ってたんですよ」
「うん……ソウヤ君ならそう言うと思ってたんだけど、さ……」
藤宮さんは其処で言葉を止め、視線を落とす。
落とした視線の先では両手の指を絡めあい、手持ち無沙汰にしている。
「ソウヤ君は々と頑張ったし、私達に任せて休んでたらどうかな? 今は調を回復させた方がいいよ、うん」
「え、いや……そんな。調はもうバッチリです!! 俺だけ休む訳にもいかないですよ」
「けど……本當に平気なの?」
そう言って上目遣いで気遣う彼の瞳には、不安なが浮かんでいた。
確かに同行者である俺の様子は不穏な気配を見せているし、彼のそんな心配も頷ける。
けれども、怪我が治って調も良いのだから、休む理由も無い。
「大丈夫ですって、ただ軍に同行するだけですよ? 彼等は戦闘のプロなんですから、俺達はおまけみたいなもんですよ」
軍の人達は言い換えるなら戦闘のプロである。
何年もの訓練を耐え、駐屯地や荒野での実戦で鍛えられた人達だ。
余程の事が無い限り、失敗はまず有り得ないだろう。
「うん、確かにそうなんだろうけど……本當に大丈夫?」
「はい、大丈夫です!! 他の皆にも、そう伝えてください」
「そっか……。うん、分かった!! それじゃ、私は行くね。どうかゆっくり休んでね……」
藤宮さんは最後にそう微笑むと、ドアを閉めて去っていく。
それを見屆けると、後ろ頭を掻いて気分を紛らわせる。
とりあえず、々と考えるのはテラノの事が終わってからでいいだろう。
そもそも俺の稚な頭脳で長々と考えた所で、この問題を簡単に解決できる訳も無い。
その後、俺は川さんに軍への同行を申し出た。
彼は何処となくこの事態を予測していたのか、し苦笑しつつ了承してくれた。
軍に俺が參加したい趣旨を伝え、要請が通れば同行が許可されるだろうとの事だ。
軍が何時出発するかはまだ分からないが、こうも早く軍と市長の許可が下りたのならばそう先の話でもないだろう。
それまでは、大人しく英気を養っておこう。
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