《俺+UFO=崩壊世界》異人
『ほ、本當にやるんですか? 控えめに言いますけど、正気じゃないです』
『俺に言わせれば、徒歩で此処を抜ける方が正気じゃねぇよ。トンネルの途中で気付かれた時點で終了だぞ? 大人しく準備して、俺に任せとけ!』
『ぅう……常識が通じないよぉ』
『なーに、こんなの荒野では日常だぜ!』
『ここは地下ですよぉ……』
メソメソと愚癡を零して車両に戻るサリアを見屆け、沿矢は一人線路に降りた。
彼は車両の後部に回り、両手を突き出して車に添える。
沿矢が考えた案は至って単純。
即ち、訓練兵達を全員車両に乗せ、自の膂力を用いてソレを"走らせる"と言う案である。
別の商業施設に続くトンネルの長さは不明だが、今現在自分達が闊歩してきた商業施設の広さを考えれば、其処に辿り著くまでの距離は間違っても短くない筈だ。その距離を數多居る異人の隙を突き、十八名全員が無事に通り抜けられるとは思えない。
沿矢はそう考え、地下トンネルを強行的に突破する事を決めた。
此処で退いてしまえば、これまで苦労して築き上げた訓練兵達の気構えが崩壊するかもしれないと彼は恐れたのだ。
今の狀況は孤立無援、且つ救助が來るかも分からない。
そんな狀態で悠長としていられる程に、沿矢は現狀を甘く見ていなかった。
そもそもとして言うと、テラノ住民の保護を目的とした今作戦の重要度を思えば、最悪として軍にもう見捨てられている可能もある。無論、彼が従えるラビィ・フルトに限って言えばその選択肢は無いが、彼一人が助けに來てこの現狀を満遍なく打破できるかと問われれば、それは怪しい。
武市がけ持つ訓練兵達の面倒を任せられた沿矢としては、そんな慈悲を見せた彼が彼等を見捨てる可能は低いとも見ている。だが、時間が過ぎれば過ぎるだけ彼のそんな考えも変わるかもしれない。何より軍人として、そして今では指揮でもある彼がそんな私を何時まで覗かせてくれるかも怪しい。
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故に、この様な強行策を用いる事を沿矢は決意した。
仮に軍が救助の為に地上で待ってくれているとしても、そう長くは持たないであろうからだ。
無論、他の面々はあまりに現実離れしたその考えに難を示したのだが、周囲に異人が居る狀況ではまともに抗議もできなかった。
結果として、こうして沿矢の現実離れしたその案が実行される事と相った。
『ふぅー……行くか』
息を一つ零し、沿矢は覚悟を決めた。
彼は両足に力を込め、車両をゆっくりと"前進"させる。
――ギ、ギギギ……。
しかし、數世紀もメンテナンスされてない車は錆付いており、地下に金屬音を響かせた。
むしろ錆び付くだけで済み、ちゃんと回ったその車の強度は驚きに値する。
これだけでも、前世界で発展した金屬関連の技力の高さが伺えた。
だが、そんな金屬音を響かせた結果として、寢床に居た異人達はすぐさま目を覚ます。
『エぅ……?』
『あわわ、起きましたよ!?』
「分かってる!! 此処からは全力だ!!」
サリアが車からそう忠告すると、沿矢は瞬時に全力を出して"駆け出した"。
すると先程まで寢惚けて居た異人達は一斉に異常に気付き、びだす。
『エアアああああああああああああ!!』
『き、來てます!! 追ってきてますぅ!!』
まるで白い津波の如く、異人達が駅のホームから地下トンネルに押し寄せてくる。
サリアは堪らず涙目になりながら、沿矢に警告を飛ばす。
「だろうな!! けど撃つな!! このまま振り切る!!」
沿矢は更に足の回転速度を高め、地下を疾走する。
火花が散り、地下鉄のトンネルを照らし出す、車両に居た訓練兵はその火花で発せられたで周囲に蠢く異人達の総數に気が付き、表を恐怖のに染め上げた。
「噓だろぉ!? 何処もかしこも怪だらけじゃねぇか!!」
「うわあああああ、もう駄目だああああ!?」
そう絶する彼等であったが、実際には高速で走る車両は次々と異人を轢き殺し、錆びた車に真紅のカラーリングを施していく。それこそが沿矢の狙いでもあった、相手の戦力を削ぎつつ、出を目指す。異人達との戦闘を避けるのが難しいのであれば、しでもその戦力比をめる必要もあったのだ。
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「ちっ……!」
が、其処で沿矢は段々と足元が"り気"を帯びている事に気付き、思わず顔を顰めた。
線路を踏み締める自の両足が異人の撒き散らしたや臓で濡れ、彼の走行速度を僅かながらに落とす。
思わぬ誤算であったと自を叱咤したかったが、そんな暇は無い。
沿矢はその障害を無視する様に一層と力を込めてトンネルを駆け抜ける。
地下鉄に潛んでいた異人の群れは次々と車両に群がり、轢かれていく。
しかし、仲間を踏み臺にして何かが車両の窓に張り付く事に功する。
『エゥぅううう!』
「く、くそ!! これでも食らえ!!」
「馬鹿!! 止めて!! 窓を割ったら、あいつ等がってくる!!」
「じゃあどうするんだよぉ!?」
咄嗟に銃を構え掛けた一人を制止するメアであったが、訓練兵達は既にパニック寸前であった。何せ前世界の古びた電車に乗り、怪が轟く地下を"人力"頼りで疾走しているのだから、それも無理はない。対するメアの落ち著きぶりときたら相當であり、彼は冷靜に訓練兵達に呼び掛けた。
「ソウヤが言ってたでしょ!? あいつ等は視力が退化してる!! けど、ああして目が殘ってるって事は……!!」
『エぅ!?』
メアは言うと、懐中電燈の明かりを窓に張り付く異人の顔面に翳した。
すると異人は嫌がる様にソレから顔を背け、バランスを崩して車両から転げ落ちていく。
「見なさい!! 奴等の目は強いの刺激に耐えられない!! 張り付く奴はそれで振り落として!!」
『りょ、了解!!』
メアの指示に従い、訓練兵達は懐中電燈の燈りを車から外へ向かって照らす。
すると次々と異人達は怯み、車両から落ちていく。
一方その頃、沿矢は周囲に群がる異人達の処理に手間取っていた。
「くっ! この……! 離れろ!!」
周囲に群がる異人の総數は相當であり、沿矢目掛けて飛び掛ってくる異人もまた多い。
彼はその度に肘打ちや頭突きを駆使して相手に致命傷を與えるが、そのおで疲労が溜まってきていた。
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何せ車両を一人で押して走り、その片手間に戦闘もこなしているのだ。
更には周囲の暗さと異人達のび聲で神も確実に削られている。
しかし、それでも止まらない、止まれない。
此処で止まれば數に圧倒されて全滅するのは目に見えている。
「ソウヤ!! ねぇ、何人かこっちに來て!! 彼の周りにを向けるの!!」
「む、無理だよ!? こいつ等は絶え間なく飛び掛ってくる、しでも油斷すれば突破されちゃうよぉ!!」
メアが沿矢の援護を呼び掛けたが、訓練兵達は難を示す。確かに、異人達は次々と車両に飛び掛っており、その衝突時の勢いで窓に皹がり始めていた。それでもメアは構わずに続ける。
「ソウヤがやられればその時點でお仕舞いよ!? いいから、援護するの!!」
「わ、私が行きます!」
「俺も行く!!」
サリアとマーケが沿矢の援護に向かうべく、車を駆けた。
直後、その一瞬の隙を突いて異人が窓を叩き割り、一が部に侵する。
「く、くるなああああああ!!」
「馬鹿!! そんなするんじゃねぇ!!」
パニックに陥った一人が咄嗟にY6を、そして部に侵した異人を撃ち殺す。
しかし、その代償として幾つかの窓を打ち破り、一を始末した代償として數の浸を許してしまう。
「ど、どうしたッ!? 中に……られたのか!?」
「えぇ、そうよ!! 皆、下がりなさい!! 後部へ來るの!!」
ソウヤの問い掛けに答えつつ、メアは訓練兵達に指示を出す。
彼等はそれに素直に従い、後部へと駆け出して彼の背後に回る。
それを確認すると、メアは沿矢が車に置いていたM5を床で構え、引き金を引く。
『エゥ……!?』
すると、車で列となって襲い掛かってきていた異人はM5が放つ12.7x99mm弾に一斉に撃ちぬかれ、斷末魔も碌に上げる事も葉わずにダウンしていく。
元々、対兵用としての裝備であるM5の火力は生相手では過剰とも言える。
その破壊力たるや凄まじく、に當たれば二つに裂け、手足を掠めるだけでそれ等は千切れ飛ぶ。一発で二、三を纏めて撃ち抜く程の貫通力も有しており、窓からり込む異人の群れを瞬時にあの世へと送り込んでいく。
だが、その破壊力の高さ故にM5の狙いは一點に集中する事しかできない。
下手にそれを振り回してしまえば、更に車両にダメージが加算されるからだ。
しかし、それでも車両の狹さを考えれば十分であり、M5の攻撃を回避しようとしても訓練兵達の構えるY6の銃弾が飛ぶ。
「ちっ、もう弾切れ!?」
気付けばM5の弾は底を付き、バレルが熱を帯びて僅かに赤みを放つ。
メアは堪らず舌打ちを鳴らし、その場を後ずさろうと腰を上げる。
「メア!!」
「ッ……こいつ!!」
しかし、下がろうと腰を上げた所で真橫の窓が割れ、異人がメアに襲い掛かる。
訓練兵達は慌てて銃を向けるも、サリアがそれに待ったを飛ばす。
「だ、駄目よ!! 彼に當たるわ!!」
「けど、それでも助けないとだろ!?」
「分かってるけど……!!」
マーケはそう主張するが、サリアが向ける視線の先ではメアと異人が取っ組み合い、の位置を常に揺らしている。
電車も錆びたレールを上を走る事で盛大に揺れ、加えて目標の位置も定まらない。練の兵士でも命中させるのが困難なこの狀況において、サリアのその躊躇いは責める事はできないだろう。
「ま、まずいって!! 奧の開いた窓からまた乗り込んできてる!!」
M5の銃撃を警戒して侵を避けていた異人達であったが、それが途絶えた事をじ取るとまた侵を開始する。その侵を防ごうにも通路の途中でメアと異人が取っ組み合っており、Y6での迎撃ができない。
「……冗談じゃない!」
メアも自の存在が枷となり、狀況が悪化していくのを把握していた。
彼はテラノで起きた戦闘での自分の行を思い返し、小さく呟く。
「ごめん、藤宮さん。でも……諦めた訳じゃないの。私はただ……貴方みたいに彼等を助けたい!!」
そう謝罪を口にし、メアは力を一気に振り絞って立ち上がると、その勢いをそのままに異人ごと車から窓枠を潛って外へ飛び出した。
「メア!? 駄目よ!! いやぁ!!!」
「畜生!! 撃て!! あいつ等を近寄らせるなぁ!!」
サリアは悲鳴を上げ、マーケは一斉撃の合図を出す。
すると車はまた銃撃音に包まれて、悲鳴が上がる。
「っ……あ、痛ッ」
加速している車から飛び出し、転げ落ちたメアのは強い打撲とり傷で損傷を負っていた。
一緒に飛び出した異人は落下時に彼の下敷きとなり、そのショックで死亡している。
しかし、そんな彼の周囲には異人が群がりつつあり、彼は痛みは堪えて腰のホルスターからハンドガンを抜き放ち、スライドを引くと構えた。
「ふざ、けんな……!! あれでも最悪な死に様だと思ってたのに、次はこれ? 笑えないっての……!!」
テラノで起きた仕打ちを思い出しながら、メアは引き金を引く。
陵辱され、と神を徹底的に躙されたあの時も最悪だった。
しかしまさか、こんな深い地下の底で人間もどきに食われる事を思えば、まだマシだったかもしれない。
橫目で向ける視線の先では車両が遠ざかり、去っていくのが見える。
源は自が構えるハンドガンのマズルフラッシュのみになり、それがを放つ度に自分に群がってくる異人の姿が段々と増えてくるのが分かった。
堪らず、メアはハンドガンを撃つのを止める。
弾が切れた訳ではなく、その絶的な景をこれ以上目にしたくはなかったからだ。
「冗談……! アンタ等に食われながら死ぬなんて真っ平だわ……っ!!」
メアは瞼を強く閉じると震える手を持ち上げ、ハンドガンの銃口を自の頭に向けた。
そのまま意を決して引き金を引こうとして僅かに軋むが、それは寸前で止まる。
――諦めて、死んでしまったら本當に負けだよ。けど、諦めずに必死に抗って死ねたなら……きっと後悔はしない。
藤宮が毅然と告げた何時かのその言葉が脳裏を過ぎった瞬間、メアから恐怖が消えた。
「全く……かなわないなぁ」
彼は小さく笑い、力強く目を見開くとハンドガンを構えて撃つ。
そこから放たれた弾丸は間近に迫っていた異人を貫き、続けて彼は懐からナイフを引き抜いた。
「後悔だけはしない……したくない! いいわ、來なさい。あんた等を一でも多く道連れにしてあげる!!」
獰猛な笑みを浮かべ、メアは孤軍闘の決意を抱く。
だが、次の瞬間、トンネルに奇怪な音が響き渡り始める。
何かが砕ける音が響き、それと同時に僅かな衝撃がトンネルを揺らし、塵を降らせた。
まるで軽い地震を思わせる様なその不可解な現象。
メアと異人の群れが疑心を抱いてを膠著させていると、それを打破する歓喜の聲が響き渡った。
『いい啖呵だったぞ!! おで見つけられたァ!!』
そうびながら沿矢がトンネルの壁を跳躍しながら駆け抜け、メアの前に降り立った。
つまりは一連の不可解な現象は彼がトンネルを"蹴飛ばし"ながら高速で移していたのだ。
続けて沿矢は右腕を大きく薙ぎ払い、周囲に居た異人を盛大に吹き飛ばし、背後に居たメアに賞賛を飛ばす。
「はぁはぁ……! よく耐えてたな! 危うく見逃す所だった……っと」
荒い息を吐きながら、沿矢は左手に持っていた懐中電燈を口に咥え、両腕を前に突き出して構える。
『……エゥアアァ!!』
暗闇の中に照らされた異人達は今の沿矢が放った先程の一撃に怯みはしていたが、何とか態勢を整え、次の瞬間には數の優位を利用して瞬く間に沿矢とメアを目掛けて突撃を開始した。白い津波となった異人達の姿、その景は見るだけで大半の人間の戦意を挫き、絶へと叩き落すだろう。しかし、今回に限ってはそうはならなかった。
「ぬぁめんじゃぬぇぞ――!!」
沿矢が懐中電燈を咥えたまま怒りの咆哮を飛ばした瞬間、彼の姿が"掻き消える"。
それと同時に周囲では次々に盛大に何かが弾け飛ぶ音が聞こえ、押し寄せていた異人の群れが瞬時にして蹴散らされ、飛沫を巻き上げる。懐中電燈の燈りだけが目まぐるしくトンネルを駆け抜け、そしてソレだけが今の狀況を確かめる唯一のであった。
沿矢は自の覚をフルにい立たせ、トンネルの彼方此方を飛び跳ねる様にしながら高速で移する。
壁、床、柱、天井、そのどれもが沿矢が足に力を込めて加速する度に破壊され、細かい破片を飛ばし、罅を刻んでその証を殘す。
沿矢の覚をフルに使用した場合、彼は自の能力を満遍なく発揮できる。
いや、正しく言えば"細かくく"事ができると表現するべきだろうか。
例えば沿矢が覚を使わずに全力で今の様に跳ね回れば、彼は自のスピードを把握できずにトンネルの何処かで衝突し、勢を崩してしまうだろう。その點、覚を使用した際には全てのきが鈍くなり、その中で冷靜に彼はく事が可能になる。で、あるからこそ今起きている様な常識離れの蕓當が可能なのだ。
次第に周囲の異人は沿矢が繰り広げるその殺戮の嵐に気圧される様に怯み、後ずさって距離を置く。
「はっ、はっ、はっ……! よし、これでいい……! メア、大丈夫か?」
周囲の異人の大多數を始末すると沿矢はメアの近くへと著地し、そのまま懐中電燈を口から外すと、相手を安堵させる様に笑みを浮かべながら聲を掛ける。
荒い息と顔に流れる汗から、その疲労の程も伺えた。
そして――彼は全がに濡れており、メアはそれを見て沿矢とテラノで初めて會った時の事を思い返す。
――こんな殺し方したってのに、あんな風に笑って……正直、気持ち悪い。
今の沿矢と過去の彼、その姿は瓜二つ。
そしてそれを見て自が吐いたその言葉。
今、コープが自に怒りを抱いた理由を、メアは正しく理解した。
沿矢があの時に笑みを浮かべた理由は自分の姿を誤魔化す為ではなく、ただ相手を安心させたかったからだと。
だからこそ自の吐いたその言葉が、コープの逆鱗にれたのだ。それこそ殺意すら抱かせる程に。
そう理解した瞬間、メアはので溢れる様々なに押し潰されそうになった。
生き殘った事への安堵、罪悪、後悔、その一つ一つがどれも重い。
しかし、彼は今の現狀を正しく認識し、そのに流されない様に自を律した。
メアは一つ呼吸をして気分を落ち著かせると、沿矢に向かってぶ。
「……馬鹿!! アンタが車両から手を離したら、スピードが保てなくなるでしよう!? なのに、何で……!!」
「よし、その様子だと大丈夫だな。説教は後にしろ」
そう非難を飛ばし始めたメアの言葉を無視し、沿矢はヒョイと彼を肩に乗せる。
続けて懐中電燈を彼に渡し、腰を落としながら告げた。
「いいか? 今から車両に追いつく為に飛ばす……と言うか、"飛ぶぞ!" 電車に追い付くまで、俺の前をそれで照らしてろ!!」
「え、えぇ!?」
困するメアを目に沿矢は一気に跳躍、再度として壁を蹴って其処を砕しながらトンネルを跳ねる様にして前を進む。
そうする理由は単純明快で、そうしないと迅速に先へと進めないからだ。
トンネルは異人が所狹しと蠢いており、地面を駆けては容易に進めない。
「噓でしょう!? 力任せもいい加減にしてよ!!」
冗談染みた移方法にメアが嘆と呆れを浮かばせた聲を上げるも、その移のおで車両は直ぐそこまで見えていた。やはり車両は沿矢が離れた事でその勢いを無くし、スピードを落としつつある。
「著地する、舌噛むなよ!!」
沿矢は車両の近くに降り立つと瞬時に加速し、當たりするかの如く勢いで左手を前に出して當てると、一気に押し出して再度車両を急加速させる。
メアは其処で堪らずと言った合に口を開く。
「ちょ、ちょっと! このまま私を抱えたままで行く気なの!?」
「しゃぁねぇだろ?! いいから、黙っ……がッ!!」
瞬間、沿矢は鮮を口から飛ばす。
前々から彼が想定した最悪の事態が、今こうして現実となって襲う。
力を振るう度に自のに変化が起き、その度に反吐を撒き散らす破目となる。
その流れにようやく気付きつつあった沿矢であったが、それが今またこうして現れた。
地下に落ちてからまもなく數時間、その間ずっと異人とガードを警戒して常時彼は休まる時が無かったのだ。加えて先程メアを救う為に覚をフルにしてトンネルを駆け、大多數の異人を屠ってしまった。故にその代償として、こうして鮮を吐き散らす結果を呼んでしまったのだ。
「ソウ、ヤ……」
メアは突然に吐した沿矢の姿を見て、それが自の所為だと直ぐに気付いた。
昨晩に咳き込む彼の姿を思い出し、とやらの一端を事前に垣間見ていたからだ。
堪らず、大聲でメアはぶ。
「……もういい!! 今此処で私を捨てて! 足手纏いなんて免よ!!」
「はぁ? お前の貧相なの重みで……ッ、ダメージをけてる訳じゃねぇ……! 勘違いすんなァっ!!」
と共に強がりを飛ばし、沿矢は尚も駆ける。
しかし、その足取りは目に見えて重くなり、それに比例して車両の速度も低下し始めていた。
「離せ……離せってば!! このままじゃ全員死ぬわよ!? それでもいいの!?」
を流す沿矢に習うかの様に、メアも瞳から涙を流す。
を揺らして彼の拘束から抜け出そうとするが、それでも彼は離さない。
むしろ一層と強くメアを拘束し、を撒き散らしながら沿矢は再度吼えた。
「あのなぁ……悲劇のヒロインぶって諦めてんじゃねぇぞ!! 喚く元気があるならハンドガンでもぶっ放してろォ!!」
そのびはメアと、何よりも自をい立たせる為のモノであった。
沿矢は力を振り絞って車両を押し、一段と早く加速させる。
メアはその怒號をけると力なく首を橫に振り、呆れた様に小さく呟いた。
「……なによ、なんだってのよぉ! アンタも……藤宮さんも好きに言っちゃってくれてさ。私だって……好きで諦めたいわけじゃない!!」
そうぶと、メアは手に持っていたハンドガンのマグチェンジを行い、背後から追いすがる異人に向けて引き金を引く。異人は既に長く走り続けた事でスタミナをあまり有してはおらず、徐々に群れと車両は距離を離していた。しかし、車両が向かう先からも襲い掛かってくる異人が居る為、その襲撃が途切れる事が無い。
決死の逃避行はそのまま數十秒続いたが、そこでようやく車両の中から朗報が飛んできた。
『ソウヤさん!! ようやく駅が見えてきまし……えぇ!? め、メア!? 無事だったの!?』
後部の窓から視線を向けたサリアはそう驚愕したが、そんな彼の驚きをけ流し、沿矢は続けて命令を出す。
「駅にったら一気に車両を止める!! 衝撃に備えとけよ!!」
『りょ、了解です!! 皆、何かに捕まって!!』
サリアがそう指示を出した數秒後、車両はホームへとり込む。
すると沿矢は車両の中に左腕を突きれ、次に地面に足をる様にして急激に速度を落とす。
彼の膂力ならそれこそ文字通り一気に車両を止める事も可能であったが、彼はその時に発生する衝撃の強さを考慮し、できるだけ緩やかな停止を試みる。
駅のホームには先程の駅程ではないが、異人の群れが待ち構えていた。
サリア達は車で勢を立て直すと、Y6を撃ちながら中から飛び出し、駅の制圧を試みる。
そのきと判斷力の速さは高く、彼等の連攜力の高さをも表していた。
戦闘開始から數分も経つと脳から溢れるアドレナリンで戦意が向上し、恐怖も薄れ、ようやくと彼等の日頃の訓練の果がこの極限下で発揮し始める。
「全員車から出たか!?」
「え、あ、出ました!!」
「うし、それなら……!! おら……これがお別れの手土産だ!!」
車に訓練兵達が殘っていない事を確認すると、沿矢はそのまま車に突きれていた左腕を持ち上げ、それを背後のトンネルに向かって振るう。
し浮く様にして力任せで投げられた一両の車両は大きく跳ねながらトンネルに突し、追い掛けきていた異人の群れの多くを巻き込んでその車を完全に崩壊させる。
『ギィィ!』
バウンドする度に部品が弾き飛び、その弾き飛んだ部品が散弾の如く異人を貫く。
転がり跳ねる車は群れる異人達を押し潰し、トンネルの線路と壁や天井も返りで染めていく。
それを見屆ける暇もなく沿矢はホームに飛び乗り、メアを降ろす。
が、其処で堪らず彼は膝を著いて更に多くのを吐くと、薄汚れた白い駅のホームを真紅に染めた。
「がッ!! がは……!! や、やべぇ、新記録かも」
吐したの量を見ると、思わず沿矢は顔を青くしながらもそう冗談を口にする。
一連の流れで意識が朦朧とし、彼は現実を失いつつある様だ。
傍から見てもその様子は明らかであり、メアはすぐに彼の手助けを試みる。
「ソウヤ!! ッ……ほら、肩を貸すわ。立ちなさい!!」
「け、怪我をしたんですか!?」
「いいから、黙って撃ち続けて!!」
「りょ、了解!! 皆、あとしよ!!」
塗れ且つ、突然に吐した沿矢に訓練兵達の誰もが度肝を抜かれたが、メアが睨み付ける様にして命令を飛ばす。彼はそのまま沿矢に肩を貸したまま、ホームの先を目指す。
「階段はこっちよ! 著いて來て!!」
『了解!!』
勢を整えると、訓練兵達も異人の群れに銃撃を浴びせながらメアの後を追う。
目指すは駅の階段、そして其処は鉄格子が下りている。
損傷も見られず、完全に封鎖がされていた。
即ち、あの先には異人が居ない可能が高い。
なくともあそこを通れば包囲からは免れる。しかし……!
「ソウヤ? ねぇ、ソウヤ!! しっかりして!! アンタじゃないとあの鉄格子をどうにかできない!!」
「……あ、あぁ。大丈夫、大丈…っぶ……だ」
既に沿矢の意識は更に深く朦朧としており、足取りも覚束ないものとなっていた。
しかし、此処で意識を失えば死ぬ事は確定している。
故に彼は最後の一線を越えぬ様に意識を繋ぎ止め、必死に抗っていた。
『弾が切れた!! 畜生!!』
『こっちも……よ!! 最後は頭に當ててやったけどね!!』
『弾が切れたならナイフを使え!! 弾が切れた奴同士で互いに援護し合って隙を埋めろぉ!!』
階段へと歩を進めるメア達の背後からは、狀況の悪化を思わせる訓練兵の聲が響き渡る。
しかし、その放つ言葉に乗るは諦めの響きではなく、戦う者のソレだった。
「ソウヤ、聞こえるでしょ!? あの子達も頑張ってくれてるわ。だからアンタも頑張って――!」
訓練兵達の戦する様子に後押しされ、メアは沿矢を抱えたまま確実に前進する。
そして遂に何とか沿矢を連れて鉄格子に辿りつくと、彼は彼の右手を持って鉄格子へと握らせた。
「ほら、これを曲げて!! し、ほんのし捻じ曲げるだけでいいの!! お願いだから……ソウヤぁ……!!」
「ッ、く……」
メアはそう縋る様に呼び掛け、沿矢の意識を揺らす。
対する沿矢も既に眼差しが虛ろになっており、何とかその聲に従って右手に力をれた。
すると瞬時に鉄格子が圧され、沿矢が倒れる様にしながらその手を橫にずらすと、素直にそれも従う。
「やった! よく頑張った、よく頑張ったわ……ソウヤ!」
メアは堪らず倒れた沿矢の頭をに抱える様にして、賞賛の聲を涙ながらに贈った。
しかし、それを彼は聞く事も葉わず、既に意識を失っている。
そうしたのも僅か二、三秒の間だけ。
メアは直ぐに沿矢の脇の下に手をれ、持ち上げようと試みる。
「っ……! 重いッ!!」
メアは沿矢を引きずる形でその開いた隙間を潛って沿矢を階段に置くと、急いでホームへと戻り大聲で指示を出す。
「貴方達、此処を潛りなさい!! ほら、早く!!」
『弾が無い奴から先に行け!! そうでない奴は可能な限り奴等の足を止めろぉ!! 何も殺す必要は無い!! 足かに當てれば奴等はけなくなる!! 弾薬をできるだけ節約しろ!!』
マーケはそうび、衰えかけている訓練兵達の戦意を維持し続ける。
訓練兵達は次々と鉄格子を潛り、転げる様にして階段に辿り著く。
彼等は息も絶え絶えに其処で膝を著き、息を整える。
「や、やった!! 此処まで來ればもう安心ね!!」
「あぁ、助かったぞ。俺達……!」
暫くすると全員が鉄格子を潛る事ができたが、其処でサリアがハッとした様子で顔を上げ、呆然と告げる。
「待って……"どうやって"此処を塞ぐの?」
「え……? あ……」
視線を向けると、沿矢は口からを流して倒れこんでいる。
その様子を見る限りでは、彼の意識を取り戻させる事は容易ではない。
つまり――この鉄格子の封鎖は不可能だと言う事だった。
その事実に気付いた瞬間、死神がでたが如く冷たさと焦りが彼等の背筋を過ぎる。
「く、來るぞ!!」
「糞、近寄らせるな!!」
戸っているに鉄格子の向こう側に異人が群がり、小さく開いた隙間を潛ろうとを寄せる。
堪らず訓練兵達はY6で迎撃を試みたが、それも十秒と持たずに終わった。
つまりは遂に弾薬が底を盡いたのだ。メアはそれを瞬時に認識し、此処での防衛を諦め、指示を飛ばす。
「駄目、撤退よ!! このまま地上を目指す!! 誰か、彼を運ぶのを手伝って!!」
「任せろ!! くぁ……重っ!? 噓だろ!? 一どれ程の……!!」
マーケが意の一番に名乗りを上げて颯爽と沿矢を背負ったが、直ぐに弱音を零す。
沿矢自の重だけでなく、彼がに纏う各種裝備の重さを合わせるとそれは想像を絶する。
鉄腕である武鮫だけでも十數キロを有し、グレードVの特殊合金プレートを部に納める防弾チョッキは二十キロ以上だ。それに大口徑であるホルスターに収められているDFや、各種マガジンの総重量を合わせたら軽く三桁の重さを超えるだろう。
日々の訓練で鍛えているとは言えど、その重さは予想以上。
で、あるならばマーケ一人で素早く沿矢を運ぶ事は到底不可能であった。
堪らず、それを見ていた他の訓練兵もマーケの背後に回り、沿矢に手を添えて助太刀を試みる。
「僕達が後ろから支える!! 進めマーケェ!!」
「か、彼の裝備を外したらどう?」
「そんな時間はないっての!!」
背後からは鉄格子を潛ろうと異人達が闘し続けており、その突破は時間の問題だった。
沿矢が開けた隙間が狹い事が唯一の幸運だったが、その幸運も長くは持たないだろう。
訓練兵達は沿矢を背負ったまま階段を駆け上がり、通路へと飛び出す。
「進め進め!! 今のに距離を離すんだ!!」
幸いにも、移の殆どは車両で行っていた為に訓練兵達の力はまだ十分殘っていた。
神的な負擔はそれこそ大きいが、脳から溢れるアドレナリンで戦意はまだ燃え盛っている。
そのまま通路を暫く進んでいたが、先頭を走る一人が足を止め、背後に手を向けた。
「どうして止ま……る」
非難の聲を上げようとして、マーケは咄嗟にそれを鎮める。
向けた視線の先では、暗闇の中に浮かぶ青いが見えたからだ。
『ガードかよ……どうする!?』
『どうするって……どうしようもないよ』
弾が底を盡きた狀態でガードを相手にするのは得策ではない。
しかし、元來た道を戻る選択肢も當然無しだ。
そのままどうするか頭を悩ませたが、メアはハッと沿矢に視線を向けた。
『彼を下ろして……! 彼のYF-6とDFにはまだ弾が殘ってる筈だわ!!』
『りょ、了解』
車両を押す事に専念していた沿矢。
當然ながら、彼の弾薬はその時に消費されておらず、まだ殘りがあった。
その事に気付いたメアがそう指示を出すと、訓練兵達は素直に従う。
マーケがゆっくりと沿矢を下ろすと、メアは沿矢の裝備を剝ぎ取った。
DFのマガジンは四つ、YF-6の殘りは五つ、異人の群れを撃退できる程の量は無いが、數がないガードを始末するには十分だ。
『よし、これなら……!! っ、拙いわね』
戦闘の準備を終える頃には、背後から異人のび聲が響き渡ってきていた。
メアは正面の突破を試みようとYF-6を構えたが、ふと何かに気付いた様に表をハッとさせ、今度はソレを近くの店舗に下ろされた錆びたシャッターに向けると、そのまま迷いなく撃った。
「な、何してるんだ!?」
「これでいいの!! どっちにしろもう逃げられないでしょう?! それなら……!!」
驚く訓練兵達を目に、メアは銃撃でダメージを與えたシャッターを蹴破ると、背後を振り向いて訓練兵達に中へる様にと促す。
「ほら、中にって!! ガードと奴等が來るわよ!!」
「ぁあもう、滅茶苦茶だよぉ!!」
メアの言う通り、今の発砲音でガードと異人の両方が異常に気付き、接近してきていた。
しかし、それが彼の狙いである。
メアは訓練兵達が店舗の中にると自も後を追って中へとり、直ぐに懐中電燈を翳して周りを確認した。
「これでいい……! ほら、これで開いたを塞いだわ!! 他に何か重そうなをもってきなさい!!」
メアは近くの錆びた金屬製のテーブルを倒し、それでシャッターのを塞ぐ。
続けて彼は何か重みになる様なを持って來る様にとの指示を出し、訓練兵達はそれに従って周囲から様々なを運んでくる。暫くすると即席の簡易バリケードが完し、メアは完を喜ぶ訓練兵を目にシャッターに耳を近付け、外の様子を伺う。
『z……接近……止ま……』
『エゥアアァ!!』
ガードの警告が聞こえ、異人のびが響き渡る。
次に聞こえたのは銃撃音と、何かを毆りつける質的な音だった。
それが聞こえたのか、はたまたデータリンクで助けを呼んだのか、他のガードも駆け付けて外は酷い模様を繰り広げている。
「ガードが勝つ様に祈るしかないわね……。お願い、勝ってよ……!!」
ガードは前世界で人類を守る様にと発明された警備ロボットだった。
前世界の崩壊後、この地下で長年彷徨い続けていたガート達がもうその役目を果たす事はないかと思われたが、今正にその真価が問われようとしている。
外で響き渡る戦闘音は凄まじく、その結果が分かるのはし先の事になりそうだった。
「彼の様子はどう……?」
メアは外の様子に一旦目を瞑り、店に戻って沿矢の近くに腰を下ろした。
彼の傍らに居たサリアは沿矢の裝備を外しており、そのを眺めながら首を捻っている。
「それが……外傷が何処にも無いんです。あれだけに濡れてたし、吐もしてたから、臓にダメージを負ってると思ったんですが……」
懐中電燈で照らされた沿矢のはを失った事でし白くはあったが、外傷は見當たらない。背中を見てもそれは同じであり、お手上げと言った合でサリアが愚癡を零す。
「彼が塗れだったのは私を助ける為よ。問題は吐の方ね……」
メアは罪悪で顔を歪め、俯いた。
そんな彼の様子を目に、サリアは堪らずと言った合でソッと沿矢の腹筋にれた。
「うわ……凄くい。気絶してるから、力を込めてない筈よね……?」
れた部分は鉄が埋められているが如くく、生半可な鍛え方でに付く筋ではない事がじ取れた。
訓練兵は男混同で宿舎を共にしており、で馬鹿騒ぎする男子訓練兵の上半を何度か目にする機會もあった。
しかし、その時に見たと沿矢のでは比較にもならないレベルである事が明白であり、サリアは思わず畏敬の念をらす。
「凄いなぁ……どうやって鍛えたのかな?」
「そんなのどうだっていいわ。原因が分からないなら、服を著せるわ。このままじゃ風邪引くでしょう」
メアは何処か苛立たしげに言うと沿矢のシャツを手に持ち、彼に抱き付く様にすると、そのまま背後にを倒す様にして重移させながらを起こさせる。その流れで一旦彼はを離し、彼の腕をシャツに通そうとしたが……。
「……何してんの?」
呆然とした目付きで、沿矢が自を見つめていた。
メアはそれこそ驚きはしたが、それよりも歓喜の方が強く、思わずと言った合で表を緩ませ……ようとして失敗する。
今のメアは沿矢に馬乗りになり、間近で対面している。
しかも彼の手には相手のシャツがあるときたもんだ。
この狀態で目を覚ませば、その沿矢の混も納得できるシチュエーションだった。
「あ、いや……。これは、違う、から……」
カーッと顔を赤く染め上げ、メアはそう告げるだけで一杯だった。
普段の彼ならば冷靜に取り繕う事もできた筈だが、何故か今の彼にはそれができないでいる。
沿矢は呆然と瞼を瞬かせながら、夢心地の覚で無意識に言葉を零す。
「そうか、違うのか……何が?」
「…………分かんない」
暫く互いが間近で見詰め合う妙な時間が続いたが、先に混を沈めたのは沿矢であった。
「……ほら、よっと……。なぁ、水あるか? 口の中を洗い流したい」
沿矢はソッとメアを持ち上げて自の上から彼を退かすと、早口にそう告げた。
薄暗い中であるが彼の頬も紅しているのが見え、それを察すると彼もしきまずかった様である。
「どうぞ……大丈夫ですか」
「ん、まぁ平気だ……。うげぇ、凄ぇ鉄臭い」
近くの訓練兵から水筒をけ取ると、沿矢はその水を口に含んで一気に飲み込んだ。
顔を顰めつつも息を零し、次に彼は狀況を尋ねる。
「それで……どうなった? 此処は何処だ? 隨分と埃っぽい場所だから……地下から出れた訳じゃなさそうだ」
「アンタが気絶した後、私達は駅を抜けて通路に出たわ。けど……鉄格子が防げなかったから奴等が溢れ出して來て……堪らず地下街の店舗へ避難したの。今は外でガードと奴等が戦爭してるわ」
「はぁ~……そうか。すまん、俺の所為だな」
沿矢は鉄格子を捻じ曲げて異人の侵を防げなかった自のミスを悟り、そう謝罪を口にした。
しかし、周囲に居た訓練兵達はそんな彼の謝罪を拒否し、勵まそうと聲を上げる。
「君の所為じゃないよ!! むしろ此処まで辿り著けたのは君とラダルさんのおだ」
「えぇ、本當に……。大丈夫、皆こうして生きてるのよ? 何とかなるわ」
「後は暫く待ってガードが奴等を始末するのを待つだけだ。今は休もうぜ」
気付けば、訓練兵達の浮かべる表は一端のモノとなっていた。
何処か誇らしげで、自信に満ち溢れるその表は彼等の長の証だろう。
沿矢もそれがすぐに分かり、嬉しさと寂しさを織りぜた小さい笑みを浮かべた。
「そうだな、後はガードが勝つのを……?」
そこまで口にし、沿矢は違和を覚えた。
突然言葉を止めた彼を見て、訓練兵達は疑問符を浮かべる。
しかし、それに構う余裕も無く、沿矢は息を止めて耳を済ませた。
すると彼の並外れた聴力が捉えたのは、悲慘な結果であった。
『エ……ゥ』
何かのき聲と、ペタペタとした足音、荒い息遣い。
気付けば銃撃は止んでおり、壯絶に毆り合う音も途絶えていた。
沿矢はそれに気付くと、それを彼等に伝えるかを一瞬悩んだ。
しかし、隠した所で良い結果を得られる訳もなく、彼は溜め息混じりで告げる。
「ガードは既にやられたみたいだ……。ほら、もう何も聞こえないだろ?」
「ッ、そんな……早すぎる」
メアはそう絶句すると、の端を強く噛んだ。
しかし、次に涙を浮かべて目を下げると、そのまま彼は謝罪の言葉を飛ばす。
「ごめん、私が此処に逃げ込む様に指示した所為で、追い詰められたも同然だわ……」
「寧ろファインプレーだ。おでこうして態勢が整えられたからな……っと」
言うと、沿矢はシャツを著ると取り外されていた自の裝備を纏っていく。
すると途中で彼は周囲を見回し、呆然とした口調で尋ねる。
「あれ? M5はどうしたっけ?」
「あ……すみません。流石にアレを抱えての撤退はできなくて……車両から引き摺って外に運びはしたんですが、結局は諦めて駅のホームに置き去りです」
五十キロ以上の重量を有するM5を抱える事は難しく、加えて弾も切れていた為に放棄していた。
沿矢はそれを聞いて無念そうにしたが、仕方ないかと未練を斷ち切る。
「とりあえず、だ。俺の調は不安定だけど、し休めばそれも戻ると思う。そうしたら奴等を蹴散らしてやるから、それまで此処で待機しよう」
「簡単に言うけど……またを吐くんじゃないの? 今度は助けないわよ」
メアがちくりと刺す様に言うと、沿矢はそれをけて信じられないと言いたげに目を見開く。
「今度は助けないだぁ? 元はといえば俺が助けたのが先だろうが」
「アンタが勝手にそうしただけでしょう。言っとくけど、その借りはさっきのお守りでチャラだから」
「ふぁああああ? ああ言えばこう言う、おまけにファックユー……!」
「ちょっと……止めてよ。この子達が真似するでしょう」
沿矢はピクピクと頬を引き攣らせつつ、中指を立てた。
するとメアは目敏くその指を摑んでそれを折り曲げて畳ませようとしたが、當然ながらそれは葉わない。
「おらおら、どうした? こっちは指一本だぞ? このまま持ち上げても……ごふっ」
「ば、馬鹿! まだ本調子じゃないのに無理してんじゃないわよ……!」
『はは……』
沿矢が軽く咳き込むと慌ててメアは指を離し、彼の背中をる。
そんなやり取りを見ると、思わずと言った合で訓練兵達は噴出して笑みを浮かべた。
差し迫った狀況に反し、僅かに和やかな雰囲気が形されつつある。
『エゥアアィ!!』
しかし、そんな雰囲気は外から聞こえてきた奇聲に吹き飛ばされた。
まさか今のやり取りで気付かれてしまったかと皆が冷や汗を浮かべる。
堪らず沿矢は立ち上がり、両腕を前に出して構えた。
「いいか? 俺が前に出る。お前達は俺が倒し損ねた奴等だけを狙い、冷靜に始末するんだ」
『了解……!』
簡易的な作戦でしかなかったが、それ以上に取れる策は無かった。
訓練兵達は懐からナイフを出して構え、メアはYF-6を構える。
各々が浮かべる表に恐怖はなく、ただ戦いに臨む兵士の気構えが浮かんでいた。
「……? 待て、何か変だぞ」
び聲は聞こえ、ぺたぺたと走る生々しい音もまた確認できる。
しかし、その音は沿矢達が布陣する場所を通り過ぎ、何処ぞへと去っていく。
「なんだ? ガードがまだ殘ってたのか……?」
そう推測を口にするも、沿矢はそれは外れだろうなと直した。
何故なら外から聞こえる異人のび聲に混じり、先程とは比較にならない連なった銃撃音もまた聞こえてきている。
「この音……は?」
「まさか…………!!」
その銃撃音を聞き、訓練兵達は表を輝かせた。
即ち、彼等の脳裏に浮かんだその答えは――。
『おい、本當にこっちで合っているのか!? あんな化けが居たんだぞ!?』
『無論です。ラビィのセンサーに狂いは生じていません。何度もそう言ってるでしょう』
『だったら何故私の教え子達が居ない!?』
『だから……この先に居ると申しているではありませんか!! 私とて沿矢様の為に先を急ぎたいのは同じです、何度も無駄に質問をして邪魔をしないで下さい!!』
『無駄な質問だと!? 私の教え子達の安否を無駄とほざくか貴様……ッ!!』
『ラビィは"無駄に"と申しました、"無駄な"ではありません!! 即ち、私が無駄と"ほざいた"のは貴方の質問回數です!! 正確に言葉を聞き取って下さい!!』
『ま、まぁまぁ!! 二人とも落ち著けって。武市大尉……じゃなかった、中尉。今はフルトの指示に従いましょうよ』
『そうは言うがな、伍長……! このの言う事が本當なら、センサーが捉えた今の生存者數は十八名だ。しかし、あのトラックには二十名が搭乗していた筈なんだ!! つまり既に今の時點で二名の死者が出ている!! これで落ち著いていられるか!?』
外から聞こえてきたそのやり取り、それを聞いて訓練兵達は顔を見合わせた。
そして、次の瞬間には高らかに大聲を上げて歓喜をにする。
「やったぁ!! 救助が來たんだ!!」
「良かった、良かったよぉ……!」
「ははは……終わった? そうか、終わったのか」
飛び跳ね、泣き、喜びを噛み締める。
それぞれの表現に違いはあれど、その喜びが生じた理由はただ一つ、生き殘れた事だ。
しかもこの生存は自らが闘して勝ち取ったモノであり、その喜びは今までの生涯でじた事が無いほどのだった。
「……っはぁ~疲れたぜ……」
沿矢も靜かに息を零し、地面に座ると橫に倒れる。
に渦巻く違和はまだ殘っており、その狀態で敵と戦う決意をしていたのだから、その肩かしで一気に疲労が押し寄せていた。
メアも彼の傍に腰を下ろすと、YF-6を地面に置きながら小さく笑う。
「私もよ、本當に疲れた……」
しかし、その疲労は何処か心地良く、清々しいモノが混じっていた。
テラノで無法者達に捕まってからは、そんな覚をメアは抱く事も無かった。
否、それ以前にもこれ程の覚を味わった事が無かったかもしれないと、彼は靜かに笑みを強くする。
「まったく……こんなのはもう免よ」
その後、沿矢達は無事に武市が率いる軍の救出部隊と合流し、出に功した。
彼等はラビィのセンサーを頼りに地下に居る沿矢達の位置を地上で追隨し、放棄されていた地下街へのり口を発見したのだと言う。
沿矢は自の相棒の活躍に謝し、その苦労を労わった。
訓練兵達と武市は大きく再開を喜び合い、靜かに涙を浮かべてそのをに刻んだ。
軍はその後地下で遭遇した未知の生のを數確保し、持參したコンテナに保存した。
その後は侵したり口を破し、其処に居る敵対生の群れの拡散を阻止する義務を果たす。
その生の名稱は発見者の一人である沿矢の命名に従い、改めて『異人』と正式に呼稱され、後日に新たな脅威として荒野を彷徨う敵の一つとして認定された。
――こうして、突如として地下で繰り広げられた不可思議な冒険は幕を閉じた。
しかし、今回の例の様に、荒野にはまだ人々が知らぬ脅威と未知が溢れているのだろう。
そして、それ等は誰かに見つかる時をずっと息を潛めて待っている。
次にソレを見付ける者が手にするのは未知の寶か、それとも脅威か――。
二十一時にもう一話投稿します。
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