《俺+UFO=崩壊世界》閑話 続いていく明日

※連続更新分です!!! 注意して下さい。

訓練兵達と一緒に思わぬトラブルに見舞われたが、結局は軍に合流してからの護衛が本番だと思っていた。

しかし、実際にそうなるとラビィの獨壇場であった。

ラビィはなんと今現在、軍が所持しているHB仕様のレイルガンを三丁も借りけ、襲撃に備えている。

そして実際に無人兵が現れると、彼はそれを互に使ってチャージの隙を埋め、安易に排除していく。その度は正に百発百中であり、一撃でAIを破壊できなくとも、彼が撃てば必ず無人兵の機の何処かに著弾するのだ。

「また撃ったぞ!!」

そして今正にラビィが送迎班のトラックの上から放ったレイルガンの一撃が無人兵を貫き、沈黙させる。その景を見て、俺と一緒に搭乗している訓練兵達が驚愕の聲をらす。

「凄い……」

「敵が近付く暇も無い! 長距離狙撃なんてレベルじゃないぞ!!」

「きゃーーー!! お姉さま素敵ィ!!」

「……お姉さま?」

等々、好き勝手に吼えてラビィの狙撃技に皆が舌を巻く。

実際、ラビィは地平線に敵が現れると同時に勢にる。

更には狙う時間は數秒とも掛からない。

そして気付けば無人兵はダウンしているのだ。

作戦開始時に現れた様な群れが相手だと、流石のラビィも捌き切れないだろう。

しかし、今の様に二、三機程の襲撃では彼の格好の餌となるのがオチだ。

更にはレイルガンのチャージのを埋める為に、今の彼は三丁も同時に運用しているのだ。

その卓越した撃センスを思えば、鬼に金棒どころの話ではない。

ラビィが三丁ものレイルガンを他の班から借りけられたのは、最初の戦闘での無力化數が群を抜いていたからだ。故にその腕を信頼され、こうして狙撃を任されているのだ。そしてその判斷は正しかった。今の景を見れば、誰だってそう思う。

事実、今では訓練兵どころか、付き添っていた疎らな正規軍人ですらがラビィの卓越した狙撃技に舌を巻いている。

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『また仕留めたのか……驚いた。俺達の仕事がねぇぞ』

『まぁ、楽ができるならそれでいいんだが……。訓練兵達のお守りで苦労すると覚悟してたんだがなぁ』

そんな風に運転席から無線で會話する様子が何度も伺えた。

これをけて、俺は靜かに冷や汗を浮かばせる。

それは何故かと言えば、俺に課せられた借金はラビィが理由であると予測しているからだ。無論、その借金の建前はノーラさんとの戦闘で生じた様々な被害から換算されたではある。ただ、もし俺の予測通りだとしたら、今回のラビィの働きで彼が軍の注目度を上げやしないかと不安で堪らないのだ。

実際、軍が強手段でラビィを奪いにきた場合、一個人である俺の反抗など些細なだろう。

俺がキリエさん並の実力を有していればまた話は別なのだろうが……。

に関する噂を聞く限りでは、俺の実力はまだまだその領域ではないと思う。

「……まぁ、深く考えても仕方ないか」

仮に軍が強手段を取った場合、俺は命を賭して全力でそれに抗うのみだ。

そうすればその騒ぎが町中の噂になり、軍のイメージは更にダウンするであろう。

彼らも馬鹿ではない、恐らくそんな流れはんでいない筈だ。

こんな無謀な作戦を実地したのだって、フィブリル商會の支援を確保し、軍の悪評を拭う為だろう。だと言うに、ラビィ一人の為にそれを水の泡にはしない筈だ。

とりあえずは、そう思う事で心の均衡を保つ。

そうやって靜かに考えを浮かばせていると、隣に座るサリアが俺の顔を覗き込んでくる。

「どうしました? 浮かない顔をして、まだ気分が優れませんか?」

「いや……レイルガンがあれば楽に狩りができるのになぁ、って思っててさ。し悩んでたんだ」

近くに座っていたサリアの気遣いに、俺は咄嗟にそう答えた。

地下で吐してからまもなく二時間ほど経つだろうが、気分はもう大分和らいでる。

しかし、その考えは実際に頭に浮かべていたでもある。

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ラビィがレイルガンを用いて簡単に無人兵を無力化できるのならば、稼げるボタも相當に違いない。

俺の返答を聞くとサリアもうんうんと頷き、賛同する。

「確かに、そうですよね。購を検討してみたらどうですか?」

「あぁ、けど……レイルガンって幾らぐらいするなんだ?」

「今彼が使用しているHB仕様ですと、五百萬以上しますよ」

「五百萬!? むりムリ無理!! とても買えないって!!」

そんな余裕があれば借金を返してるわ。

くそ、俺の淺はかな考えなんぞ、所詮は絵に描いた餅だったか。

「なぁ、何でレイルガンってそんなに高いんだ?」

「何でって……レイルガンは""ですし、ヤウラ軍が所持している數も五百丁程しか確保できてないんです。その中から送迎班に回してもいますので、実際に使用できる即時稼數はその半分以下です。そんな狀況下で今回の作戦に二十丁以上のレイルガンが配備された事を思えば、上層部もテラノ撤退作戦の重要度を深く理解してたんでしょうね」

確かにそうだ。

レイルガンが一つ五百萬だとすれば、今作戦で配備されたレイルガンの數を考えるにその総額は一億以上にもなる。

更には複數の偵察戦闘車両や裝甲指揮車、戦車も配備されているのだから、軍もそれなりの裝備を整えてくれる慈悲はあったらしい。

「ふーん……。じゃあ、ヤウラにはプラント群があるって聞いたけど、其処でもレイルガンは作れないのか?」

聞く所によれば、ヤウラは軍事基地と都市が合わさって出來た強大な軍事拠點でもある。

其処に存在するプラント群も相當數だと聞くし、レイルガンの製造もできるのでは?

俺はそう考えていたが、サリアは頭を振って否定の意を返す。

「構造が単純な銃や弾の製造、そして軍用トラックのエンジン等の簡易的なはプラントで大量生産できるらしいです。けれど、レイルガンの様な巧銃を生産するには更に特殊な専用プラントが必要らしいんですが、それは流石のヤウラにもなくて……。それどころか、今我々が確認できる生き殘った各都市にも存在してないらしいんです。だから、レイルガンの製造技は失われた技の一つとして今は數えられてます」

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「そうなんだ? 殘念だな……」

失われた技だと言うのならば、レイルガンの高値も納得ができる。

きっと、他にもまだまだ失われた技があるのだろう。

そんな考えを浮かばせていると俺のその思考を読んだかの様に、サリアは突然と高らかにその満なを張って主張する。

「けど、世界が荒廃してからこの大陸を全て走破した人はまだ居ませんからね。そのに新たな発見があるでしょう。そしたらそのプラントも見つかるかもしれないですよ」

サリアはそう言うと、一つ頷いて話を締める。

次に彼は二マーっとした笑みを浮かべると、俺に顔を近付けて小聲で囁く。

『それよりも、軍に隊したらどうですか? 貴方なら歓迎されると思いますよ? そしたらレイルガンも使いたい放題です』

と、何処となく的外れないをサリアはしてくる。

俺はレイルガンを撃ちたい訳ではなく、それを用いて借金を返済したいだけだ。

俺は乾いた笑みを浮かべ、近付いてきた彼の顔からそっと距離を離し、誤魔化す様に肩を竦めた。

「冗談だろぉ? 俺が軍人に向いてるとは思わないよ」

「そうですか? さっきは地下であんなに落ち著いて指揮を執ってたじゃないですか」

「あんなのは経験の差だって。俺は既に実戦で何度も命の危機を覚えてたから、その差だよ。サリア達も次からは落ち著いて行できると思うよ。ってか、実際そうなってたろ?」

地下で戦っていた後半からは、彼等のきも頼りにできる程のモノになっていた。

なくとも、泣きべそを掻いていた初期に比べれば比較にもならんレベルだろう。

『ん~……まぁ、そういう事にしておきます』

不満げに呟き、サリアは俺から離れる。

こういう同世代の子って何か苦手だ。

距離がやけに近いと言うか、相手に誤解させるじが何とも言えないよな。

これで勘違いして告白しようものならば、即座に振られるのがお約束だもの。

そんな淡い覚に騙されぬ様にと自を戒め、靜かに息を零す。

「ねぇ……ソウヤ」

「ん? どうした、メア」

突然、対面に座っていたメアに話し掛けられた。

は此方と視線が合うとプイッとそれを逸らし、を尖らせながら言う。

「これでもう……テラノでの借りはなしよね?」

「……あぁ、そうだな。地下ではメアが居て助かったよ。俺一人で訓練兵を連れてたら、一どうなってたか……」

実際、彼が居てくれたら俺の神的負擔も大きく減した。

地下に落ちた際の様々な混も、メア無しでは簡単に抑えられなかっただろう。

それに意識を失う寸前の俺を抱え、勵ましながら運んだのは彼だ。

まぁ、その件は地下で互いに助け合った事で帳消しの話ではあるが……。

俺のそんな言葉を聞くと、メアは我が意を得たと言わんばかりに笑みを浮かべる。

「そっか! それもそうよね? まったく、一つの借りでこんな無茶に付き合わされるとは想像してなかったわ……」

「俺だって好きで付き合わせた訳じゃねぇよ。更に言えばそもそもの発端は不幸な事故からの流れだろうが!! それに誰だって地下街に異人みたいな化けが居るとは思わないだろ? ってか、何で誰もあいつ等の存在に気付かなかったんだ……?」

異人と言う異質な存在。

子訓練生が言っていた"白いお化け"とは正しく奴等の事だったのだろう。

しかし、彼が言うには隨分前からその怪談話は語り継がれており、奴等の存在を匂わせていた。

にも関わらずだ。

今の今まで誰も気付かずに過ごして來たと言うのは違和が殘る。

俺のそんな疑問の聲を聞き、メアが憶測を飛ばす。

「恐らく、あいつ等の生息地が"地下の奧深く"だからよ。実は地下街なんて場所はスカベンジャーでも滅多に近寄らない場所なのよ」

「え? そうなのか? 商店の數とか結構あったけど……」

散々彷徨った先程の地下街を脳裏に思い描き、俺は首を捻る。

しかし、メアはそんな俺の反応を見て呆れた様に小さく笑う。

「そりゃ、アンタみたいな"規則外"な奴は何処だろうと探索できるけど、他の人間はそうじゃないわ。地下では逃げ場が限られるし、方向覚も鈍くなる。地上のビルとかだと、最悪窓辺から飛び出して退避もできるからね」

確かに、クースの悲劇でも生き殘った生存者の一人が窓から飛び出して難を逃れている。それを考えれば地下街みたいな閉鎖空間で長々と彷徨う事は避けたいのかもしれない。

そう納得していると、メアは続けて話す。

「勿論、クラスクみたいな地下工場施設だと見つかる資の価値も相応でしょうけど、地下街にある様な商品じゃ命を掛けるに値しないわ。地下街専用の専屬店みたいなモノがあるわけでもないし、それなら大人しく地上を探索するでしょう?」

「まぁ、そうだな……。元々、スカベンジャーは危険を避ける主義とも聞いたし」

だからこそ、異人は今まで見つかる事が無かったのだろう。

いや、もし見つけた者が居たとしても、奴等に食われていた可能もある。

そう考えると、今回の件で奴等の報を持ち帰る事ができたのは幸運だった。

組合や軍が奴等の報を荒野に広めれば、これ以上の被害を抑える事に繋がるかもしれないしな。

そう思えば今回の事件も無駄に終わった訳ではないと確信でき、俺は靜かに笑みを浮かべる。

「まぁ、何にせよ無事に終わって良かったよ。それもメアのおだ、ありがとな……。何だか、お前をバハラに帰すのが惜しく思えてきたよ」

俺がそう名殘惜しんでいると、メアはハッと表を変える。

「え……ぁ、そっか。私……バハラに帰らなきゃいけないんだ」

と、メアは呆然と呟く様にそう零す。

そんな反応はまさに失念していたと言わんばかりに見事なであり、咄嗟にツッコミをれてしまう。

「いやいや、お前のホームだろ? 何で忘れてるんだよ」

「……うっさい。二ヶ月近く離れてたから、覚が麻痺してるのよ。けど……戻った所で何も無いだろうなぁ」

「……無いって?」

メアの境遇を思えば。踏み込むべき話題では無かったかもしれない。

だが、あまりにも彼の橫顔が寂しすぎて、俺は黙っている事ができなかった。

は憂鬱そうに溜め息を零し、天を仰ぐ様にしながら語りだす。

「私は組合に屬してるよ? バハラの市民権だって、組合のライセンスのランクを上げてようやく確保できたの。けど、こうして二ヶ月以上も音沙汰が無ければ……恐らく組合の登録も抹消されてるわ」

「復舊とかできないのか? 俺も前に死んだと思われて報消されてたけど、何とかしてもらえたぞ」

「アンタ……一どんな生活を送ってきてんの?」

俺の言葉を聞くと、メアはドン引きした表を浮かべた。

俺は以前、初探索時にクースで藤宮さん達を救う為に百式と対峙し、その場に殘った。

そのおで組合には死んだと判斷されて登録は抹消されてたが、ちゃんと復舊してもらえたのである。

その事を伝えてメアに再度どうだと聞くも、彼の表は晴れない。

「何とか復舊できるとしても……登録が消された直後に組合のライセンスで獲得した市民権も効力を失うから、多分借家から私の私財が持ち運ばれて売られてるわ。そして……組んでたチームの皆も、もう居ない。だから本當に、バハラにはもう何も無いと思う……」

家族の話題が出ない辺り、メアが歩んできた人生の大は想像できる。

そもそも俺と同年代でありながら彼は組合に所屬し、車両持ちのハンターチームに屬していたのだ。

その苦難と努力は容易ではなかっただろうに、その大半を彼は失ってしまったのだ。

落ち込むなとは言えないし、気楽に勵ます事もできない。

けれど、こうして提案する事ぐらいはできる。

「そっか……。じゃあ、ヤウラに來たらどうだ? 藤宮さん達とも仲が良さそうだし、メアなら上手くやれるよ」

俺のその言葉を聞くとメアは瞬時に顔を上げ、唖然とした表を浮かべながら呟く。

「私が……ヤウラに?」

「とりあえず車両と裝備は持ってるんだろ? どうせなら藤宮さん達のチームに參加したらどうだ? 彼達は三人だし、メアが合流すれば二臺の車両も運用できる様になる」

基本的に、テクニカルは運転手と手が居なければ機能しない。

だから仲間を失ったメアは車両を手にしてても、それを運用できないのだ。

しかし、もし藤宮さん達が彼れてくれればその心配は無くなるし、単純に戦力も増加するだろう。それに彼達とメアの仲が良好であろう事は、態々とテラノから同行してきた流れを思えば簡単に想像できる。

そんな風に俺は気楽に考えていたのだが、當事者であるメアは不安そうに尋ねてくる。

「私を……れてくれるかな?」

「まぁ、そりゃ……絶対とは斷言はできない。けど、もし斷られても安心しろ。いざとなったら俺と組もうぜ、ナビゲーター位なら任せてやる」

不安そうに呟いたメアに対し、俺は笑いながらそう告げた。

けれど、彼はその提案を聞いて満面の笑みを浮かべると、アッサリと斷りをれる。

「アンタと組むのだけはごめんよ。またさっきみたいな出來事に巻き込まれそうだもの」

「くっ……! いや、まぁ……否定はできないけどさぁ」

ここ最近の出來事を思い返せば、メアのその言葉に否定の意を返す事はできない。

だが、彼思いに耽る様に瞼を細め、口角の端を持ち上げたまま言う。

「けど、そうね……本當にどうしようもなくなったら、また付き合ってあげる」

「じゃあ……?」

意味深に呟いたメアにそう確認を取ると、茶目っ気に笑いながら彼は頷く。

「いくわ、ヤウラに。新天地で心機一転ってね!」

そう微笑んだメアの表には、もうは浮かんでいなかった。

それでもテラノで彼けた傷と記憶は消えた訳でない。

けれども、その傷を癒し、その記憶を薄める手助けくらいは俺にもできるだろう。

そんな心を覆い隠しながら、俺は努めて明るく振舞う事にした。

「そうか……。じゃあ、これから俺の事はソウヤ先輩と呼べ! ヤウラの組合に屬してまだ二ヶ月位のだが、お前より確実にヤウラでの活暦は上だからな!!」

「はぁ!? い、々と言いたい事はあるんだけど……アンタまだ組合に登録してからそれだけの時間しか過ごしてないの!? だってまず車両持ちでしょ、更にはヒューマノイド所持者でしょ? 何? もしかしてどっかの金持ち息子だったりしないわよね?」

「金持ちどころか、二百五十萬の借金持ちだぞ。ちなみにクラスもG-だ」

「はぁぁぁぁ? アンタ……よくそれで偉そうに先輩呼びを強要できたわね? 私がヤウラでハンター登録した時點でクラスも総資産も上になるじゃない。馬鹿じゃないの?」

「……そっか。じゃあ、今のにメア先輩って呼んだほうが良いか?」

「絶対にやめて、蟲唾が走る」

「ファック」

「だから……それやめなさい!」

そんな風に會話をわしながら、俺達は平和にテラノへと向かう事ができた。

とりあえず今だけでも、穏やかに過ごせればそれでいいだろう。

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荒野に一線とが走る。

その輝きはレイルガンの様な流れ星に似た軌跡ではなく、太が雲から顔を覗かせた際に見せる瞬時のに似ている。は遙か先の荒野から進軍してきていたウォードッグ型の無人兵の眉間に著弾、続けて其処を貫いてをも二つに"分けた"。

「ウォードッグへ弾著を確認、大破。良い腕です、副長」

「あぁ……だが、これでレーザー砲は打ち止めだ。今度から"手抜き"はできんぞ」

の傍らに居る観測手にバスク・ローテがそう告げると、観測手は雙眼鏡を顔から離して溜め息を零す。

今の時刻は夕方、荒野の彼方では真紅に染まった太を沈ませ始めている。夜の防衛は當然ながら日が照らす時間帯より困難であり、虎の子であるレーザー砲のエネルギーも盡きたともなれば、その難易度は更に跳ね上がる。

これから訪れる困難を脳裏で浮かべつつ、観測手はバスクに尋ねる。

「あれで俺と副長が何機目を仕留めたか覚えてます?」

「仕留めた數? それなら今ので八機目だ。やはりバハラのハンター達はベース・ウォーカーを警戒して狩りをしていないらしい。こうも襲撃をけるとはな……」

「明日で木津達がヤウラに向かって一週間経ちます……。水と酒だけは何とかありますけれど、それで何時まで持つやら……」

観測手はそう呟き、これから訪れるであろう飢に危機を覚える。

空腹を覚えると苛立ち、集中はれ、冷靜さを失う。

そんな経験は今の荒廃時代を生き抜く彼等にとって、時に嫌と言う程思い知っていた出來事の一つだ。

だが、こうして中堅ハンターチームの一員にってからと言う、そんな空腹とは無縁だった。

故に自分達が何処まで耐え切れるかと言う自信が今一つ欠けている。

そんな部下の不安を見抜き、バスクは毅然と告げた。

「木津とHope嬢達を信じろ。あいつ等なら助けを呼んできてくれる。それまで耐えるんだ」

「分かってます。けど、テラノの人達は食料がなくなるに連れて隨分と揺してます……」

「彼達がヤウラへ向かうと決斷したんだ。しくらい耐えて貰わなければ困る」

バスクはそう突っぱねるも、観測手は同を覗かせながら小さく反論する。

「彼達はこの三ヶ月、十分に耐えてきました。これ以上は苦ですよ……」

「……だったらどうしろと言うんだ? 悪いが、俺にはどうしようもない。今でこそ俺達はハンターだ勇士だのと呼ばれてはいるが、結局は俺達なんぞ"コレ"を扱う事しかできないアウトローなんだよ。武力以外で他人に貢獻なんぞできん。自惚れるな」

コレと告げながら、バスクはエネルギーが切れたレーザー砲を近くに放り投げた。

そんな態度が彼に取り巻き始めたストレスの一部を伺わせる。

観測手は暫く気まずそうに視線を彷徨わせていたが、ポツリと話し始めた。

「……昨晩、街の住人である一人のから頼みをけました。……自分を殺してくれって」

「…………殺したのか?」

バスクは特に驚きもせず、そう聞き返す。

観測手は弱弱しく首を橫に振りながら、否定の意を見せた。

「眠れないんだそうです。眠ったら、今の現実が消えてまたあの日々が繰り返されるとその人は恐れてたんです。俺は……何も言えませんでした」

「………………マトモな教養なんざけた事もないからな、自殺志願者をどう諭せばいいのかすら分かんねぇよな」

「そんなのは言い訳です。違うんですよ、俺達みたいな人間は結局は人助けに向いてないんです。副長の言う通り、ただのアウトローでしかない。それが……時折堪らなく嫌になる」

観測手はそう吐き捨て、自己嫌悪を覗かせる。

バスクはガシガシと後頭部を掻き毟り、諭す様にめる。

「人助けなんぞ、何かの"ついで"で良いんだよ。いいか、人助けを第一に優先して生きてる人間なんぞ居ない。居たらソイツは"狂人"だ。だから俺はアウトローで十分だ。狂人になんてなりたくもないね」

「……でも、貴方は隊長の退卻の意思に反した。あれはどうなんですか? それに隊長だって、今回の件で明らかに肩りしすぎてる。貴方の言う事が本當なら、二人とも狂ってますよ?」

そう返されて、バスクは言葉に詰まる。

牢から出した直後のカークスの撤退の指示を聞いた時、彼は確かにそれに反発を覚えた。

しかし、何故そうしたのか今となってはもう分からない。

「……どうなんだろうな、あの時の気持ちは自分でもよく分からん。もしかしたら、アレが良心って奴かもな」

「はは、教養は無くとも良心はある。俺達にはそれで十分なのかもしれませんね」

観測手がそう寂しそうに呟くも、バスクはハッとそれを笑い飛ばす。

「勘違いするな、それだけでも俺達には過ぎた代だ。そしてそれが俺達とマックスみたいな奴等とを"分かつ"重要な部分だ。一歩踏み外せば、俺達がああなる。それに隊長は……育ての親が理由だろうな」

「育ての親、ですか?」

バスクが意味深にそう呟くと、當然として興味をもたれてしまう。

彼は靜かに息を零し、懐からナイフを取り出すと防壁に何やら傷を付けて文字を記していく。

「あの人の親はとある宗教にのめり込んでたみたいでな。そう裕福でもなかったらしいが、困った人が助けを求めると私財を投げ打ってでも助ける善人っぷりだったとよ。変わってるよな。さっきの俺の言葉を借りれば、"狂ってる"とも言えるが」

「へぇ……だからあんなに隊長も良い人なんですね」

「かもな。んで、その宗教とやらが"ド"が付く程のマイナーなでな。前世界で流行してたでもなく、出所も一切不明らしい。彼の父親はとある知り合いに貰った本に載ってた宗教だと言ってて……これがその宗教に出てくる神の名だ」

バスクは言いながら、ふっと息を吐いて防壁に刻んだ文字の周りの屑を飛ばす。

すると其処に記された名を見て観測手は眉を顰める。

「あれ? この名前って……」

「そう、俺達のチーム名に似てるだろ?」

――Christ

刻まれたその名前。

それをなぞりつつ、バスクは説明する。

「ドマイナーな宗教と言うより、隊長の父親しか信仰してない神だから、正しい呼び方は今一ハッキリしないそうなんだ。クリスト、キリスト、或いは"クライスト"。前世界で流行った宗教とはまた"別のソレ"だ。流石にその名をハッキリと借りる訳にはいかないからと、俺達のチーム名はしもじってあるがな」

「俺達のチーム名は"クルイスト"……確かに響きは似てますね。へぇ、面白い!! 俺達は知らずに神の名を借りてた訳ですか? もしかしたら、今回上手くいったのもその神に守られてたからかもしれませんね」

観測手はそう笑いながら、テラノで起きた戦闘を思い返す。

あの晩は様々な事が起きたが、それも神のおなのだろうか? と。

しかし、そんな心を見かした様に、バスクは鋭く釘を刺す。

「さてな、今回の出來事では確かに々な要因が噛み合いはしたが……。実際は木津とフルトに助けられただけさ。それにあまり神を頼りすぎると腑抜けになる。だから、この話は他のメンバーにするなよ? 隊長が酔った際に聞きだしたの一つだからな」

バスクは自に指を一本當て、にする様にと口角の端を持ち上げた。

対する観測手は抱えていた不安と愚癡をらした事でようやく調子を取り戻し、落ち著いた口調で返す。

「俺達のチーム名の誕生話……それを聞けて栄です。謝します、副長」

「別にいいさ、そう重要な話でもないしな。それに他人のってのは一人で抱えてるとどうしてもモヤモヤしてな……」

「確かに、知ってます? 実はジャ二の奴……っと! 副長、來ます。北西……し十時寄りの方向です」

観測手は會話を取り止め、雙眼鏡を覗き込む事に集中する。

遙か先の荒野から土煙が上っており、その砂塵の大きさに思わず彼は舌打ちを鳴らす。

「あれは……グループを組んでますね。恐らく、二、三機程。機種は砂塵で判別不明」

「ったく、仕方ない……」

バスクは溜め息を零し、無導弾が裝填されたランチャーを右肩に構える。

続けて彼は腰に下げていた無線機を左手で取り、各班に告げた。

「各班、聞け!! 北西、十時寄りの方向から來るぞ。迎撃班、奴等を引き付けろ」

『了解! 機種はどうですか?』

「あのなぁ……分かってたら真っ先に伝えてる。今は暫く待……何だ!?」

瞬間、向かって來ていた無人兵のグループに対し、北からびてきたが突き刺さった。

その一撃は容易に錆びたを貫き、一機を容易く沈黙させる。

更に驚きなのが、直後に二発目、三発目とが放たれ、それ等も二機の無人兵を貫き、行不能にしてしまった事だ。

観測手は真っ先に反応を示し、雙眼鏡をが飛んできた方向に向け――思わず聲を震わせる。

「……せ、接近する車両群を視認。車両に刻まれたマークは……ヤウラのです!!」

「やりやがったな、"あいつ等"……!!」

バスクは自然と口角の端を持ち上げ、そう呟いた。

手にした無線機からも次々と歓喜の聲が上がり、場の雰囲気を盛り上げる。

『噓だろ!? もう來たってのか!!』

『おいおい、これなら昨晩の晩飯をなめにした意味がねぇじゃねぇか!!』

『俺なんて酒で腹を満たしてたんだぞ? おで悪酔いしたぜ……』

『軍もやる時はやるじゃねぇか!! まさかこうも早くくとはな!!』

『各員、落ち著け!! まだ全てが終わった訳ではない。合流を果たすまで、周囲の警戒を続けるんだ!!』

そう最後にカークスの指示が屆くと彼等は素直に従ったが、歓喜の聲はそれでも止まなかった。

こうして、テラノ解放戦から続いてきた騒は一応の終わりを告げる事になる。

人々がけた傷は痕を殘し、刻まれた悲慘な記憶は消える事はないだろう。

けれど、ヤウラから助けが來た時に人々は確かに笑顔を浮かべた。

「はっ……。アウトローには"過ぎた景"だ」

街中で喜ぶ人々を眺めながら、バスクは瞼を細めて満足気にそう言葉をらす。

そして彼はそっと息を零し、天に祈りを捧げる様に空を眺め、その後靜かに笑みを浮かべて瞼を閉じた。

――人々が助け合うのは何故と問われた時、人間はどう答えるのが正しいのだろう。

そうしないと生きていけないからと答えるべきか?

否、自己満足の為? もしくは利益の為? それとも――狂っている故か?

それに答える事はできないし、答えなど無いのかもしれない。

しかし、一つ言える事だけはある。

それはこれからも人々は確かに互いに干渉しながら、助け合って生きていくであろうと言う事だ。

何年、何十年、何百、何千、どれ程の時間が経とうとも、人々はその行為を止める事はしないだろう。

現に世界が崩壊した今でさえ、人は確かに互いを支えあっている。

様々な思考や想いはあれど、それだけは確かな現実だ。

で、あればこそ――人々の明日はこうして続いていく事ができるのだから。

今回の連続更新は此処までとなります。

この話を最新話まで読んで頂き、ありがとうございました!!

次回の投稿については活報告にてお知らせします!

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