《星の見守り人》027 新たなる使命

地球に帰って來た如月たちを待っていたのは科學局長兼特別部長たるシジマだった。

「やあ、よく來たな、まあ座り給え、如月三佐」

「3佐?昇進ですか?」

「そうさ、君は宇宙海賊を2回も退治したんだ、不思議はなかろう?」

「別にあの型と同じ船に乗っていれば誰でも可能だったと思いますが?」

「そう卑下したでもない。

まあ、とにかく座りたまえ」

そう言いながらシジマ局長は如月に椅子をすすめる。

「ところで今回君を呼んだのはその事ではない。

もっと重要な事がある。

ここに君の副であるミオからの報告がある。

君をかねてから我々が考えていた計畫の被験者として最適だという報告さ。

それも我々の予想をはるかに超えて理想的な、とまでのね」

「理想的なハツカネズミですか?」

「そういってしまってはも蓋もないがな」

如月の軽い皮に、苦笑しながら答えるシジマ。

「しかし、ありていに言えばその通り、オブラートで包んでも薬の効用は変わらん」

「では長い観察期間が終わって、まずは合格という訳ですか?

いよいよ実験開始ですか?」

「まあ、そういう事だな。

ただし、君のこの実験參加への最終確認と同意が必要だがね。

まずはこれだ」

そういいながらシジマは一枚の紙を差し出した。

それにはこれから説明をする計畫に関して參加をするしないに関わらず、説明を聞いた後は必ずを守り、口外はしない事。

萬一口外した場合には第1級の國家機洩罪に問われ、一生涯監拘束もされる場合がある事等の項目が書かれていた。

その書類を見て如月は驚く。

「生涯拘束?それはまた凄いですね?」

「それほど事は大事だという事だ。

どうかね?今ならまだ聞かない事にも出來るが・・?」

如月は改めて一通りそれを読むと、あっさりとサインをして、シジマに渡した。

「これでよろしいですか?」

シジマはそれをけ取りうなずくと、如月は質問を繰り返した。

「ここまで來れば、せめてその容を聞くだけは聞いてみたいです。

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これだけ長く待たされたんですからね。

どちらにしても誰にも話すつもりはありませんから・・・それでどういった実験なんですか?

今度は話していただけるんでしょうね?」

そう、このためにミオはA級亜人扱いで如月に配屬されたのだし、如月は當然それを知りたかった。

「それはもちろんだが、さて、どこから話したものかな・・・」

如月の當然の質問に対して、困ったように頭をかきながらシジマは一見、関係のなさそうな事を話し始める。

「そうだな…まず・・・君は、君の副、ミオをどう思う?」

そのシジマの質問に面食らったように如月が答える。

「どうって…そりゃ気にってますよ。

いや、気にっているなんて言い方じゃ語弊がありますね。

何と言えばいいんでしょうかね?

とにかく彼とはもう離れて暮らせないと思うくらいです。

何しろ自分がんだ以上の能力を持っているし、それに格やその他全てを含めてね。

自分でそう設定したから當たり前だと言われれば、そうなんですが、何と言うか・・・その、自分がした設定以上の働きとでも言いましょうか・・・」

そこまで話して答えの表現に困る如月にシジマが別の質問をする。

「それに関しては詳細な報告をけている。

君とミオの相がぴったりだという事も含めてね。

もっともミオの報告書はまるで君という人の自慢のようでもあったがね」

その言葉にミオが怒ったように反応する。

「もうっ!博士!私はちゃんと公正に報告書を作しました!」

「ま、それは認めよう」

シジマがあっさりと白旗をあげると、如月が苦笑しながら答える。

「はは・・・そう正面切って言われると、どうも恥ずかしいですね」

「いや、これは大変良い事だよ。

今から私の話す事を聞けばわかると思うが、君が思っている以上に君とミオの相・・・仲が良い事は重要なのだ」

「そうなんですか?」

如月は人間とアンドロイドの相にかかわりがある実験とはどんななのだろうかと考えた。

もちろん、アンドロイドに限らず、人間同士でも何らかの実験をする同士ならば、よほど特殊な心理実験でもない限り、相が良い方が良いに決まっている。

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誰しもいやな奴と一緒に仕事はしたくないし、それが長期に渡るならば、尚更だ。

しかし、それほど相を気にするとは、人間とアンドロイドに関する何かの心理実験なのだろうか?と如月は考えた。

「うん、君も知っている通り、アンドロイドの格設計をする者はいくらでもいるし、その中のなからずな人間が自分の理想の異・・・まあ、ありていに俗っぽく言ってしまえば「究極の人」だな。

それを夢想して設計する者が多い訳だが、一方で、その中のかなりの數が結局は失敗している」

「・・・そうですね」

シジマの言っている事は事実だった。

アンドロイドはある程度の構造基本設計は科學者や技者たちがする訳だが、それは工學的なスペックに過ぎず、外見や格設定はどちらかと言えば、容師や家、心理學者の範疇にであるが、端的に言えば、素人個人の好みを反映する事も當然可能だ。

勢い、金銭的に余裕のある者ならば、既製のではあきたらず、自分の理想とする外見や格をアンドロイドに反映させる者は決してなくない。

しかし、自分の理想を掲げて勢いこんで作ってみたものの、結局は失敗して、その結果に失する者が多いのも事実だった。

主な理由は2つだった。

一つは設定者に人工知能の知識がない事。

いくら格設定が出來ると言っても、専門の知識がない素人に人格という複雑なの設定を細かくするのは無理な問題だった。

また例え、専門家のアドバイスがあったとしても、やはり本人に本的な知識が欠けている以上、細かい部分まで當人がむような格にするのは非常に困難な事と言わざるを得なかった。

2つ目の理由は前述の専門知識の無さに起因するであるが、理論上不可能な設定者の過剰願や矛盾したみから來るものだった。

以上の理由から自分で格設定をしたものの、実際に完した亜人の出來は期待はずれで折角の時間と金をかけて作した亜人を手放してしまう者もなくないと聞いていた。

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その2つが主な理由だが、3つめの理由として・・・人によってはこの理由がもっとも大きく起因すると指摘する者もいるぐらいだが・・・失敗する理由は単純に設定者の格自が問題であるという者もいる。

平たく言ってしまえば、わがままで自己中心的なのである。

個人的な理由でアンドロイドの格設定を本から希する者は、じつは自己中心的な格の者が多いと言われている。

実際、アンドロイドの格設定をする、それ自が仕事であったり、如月たちのようにそれが仕事の一部である場合は、それを行うのは當然だった。

しかし全くの個人的な理由で生活に必然がないのに・・・別な言い方をすれば日常生活に必要がないのに、わざわざ格設定をするのは無意味とも言える行為だった。

なぜならば、例えば従順なメイドがしければ、専門家がそのように設定した亜人がいる訳だし、その他の職業や外見に関しても同様だった。

また一言にメイドと言っても、もちろん、一様ではなく、設定者によって様々な格のメイドが用意されているので、普通はそれで十分だし、実際に世間一般ではそれでまったく問題はなかった。

しかるにオリジナル設定希む多くの者たちはそれ以上のんだ。

つまり現存のではあきたりない。

もしくはもっと自分の格を反映させた者を近くにおきたい、という願だ。

しかし、それはたいてい実現不可能なみだった。

なぜならそういった人間たちのほとんどは矛盾した設定をんでいたからだ。

現実問題として実現不可能な事を求めたり、Aという者を求めながら非Aと言うむ、または時間によってAと非Aを使い分ける事だった。

簡単に言えば、5秒以に食事を作れ、草むしりと食事の支度を同時にやれ、水を持って來いといいながら相手が水を持ってくれば、自分は茶を持って來いと言った、相手に何も言わないのに、その程度の事は察して行しろ!・・・そのような類の命令を出す人間である。

それが単に格の悪さから出ているのなら、ある意味まだましな方だった。

なぜならそれは承知の上で悪意をこめてやっているので、本人にも自覚がある訳で、もちろん品が良いとはお世辭にも言えないが、自覚があってやっているだけましといえた。

問題は自分にまったくその認識がない人間だった。

自分としては無理矛盾を言っているつもりはなく、ごく當然の命令をしているつもりなのに、この亜人はそんな単純な命令すら実行できない。

したがってその亜人は壊れている。

本人としてはごく當たり前な単純な理由だった。

もちろんそれに対して當の亜人を含めて、技師やサポート擔當者まで故障ではない、まったく問題はないと説明するのだが、命令している本人にその自覚はまったくない。

自分は正常であり、その自分の命令を守れない亜人、ひいてはその亜人をかばい立てする人間も欠陥品なのだった。

したがってこの場合は正確に言えば「失敗」なのではなかった。

例え設定どおりに人格が形されたとしても、主観的に見て失敗なのであり、それは明らかに設定者や亜人の問題ではなく、それを求めた人間の問題だった。

そのような人間がいるためにアンドロイドや組織を保護する必要からB級亜人命令資格、上位C級亜人命令資格といった資格免許があるのだった。

B級やC3級以上の上位亜人ともなれば、複雑な命令を下し、組織や集団の一部や全を統括する立場の亜人も多い。

そのような亜人に対して人間ならば誰でもかれでも命令をしてそれを聞いている訳にはいかない。

狀況を理解しない人間のために、その集団や組織、ひいては人間やアンドロイドが危機にさらされるかも知れないのだ。

そのために作られた免許制度だった。

そして自分の要どおりの亜人を作ろうとするほとんどの者が、資産はあっても、この免許とは無縁のような人々だった。

當然の事ながらそのような人間がどんな設定をしようが、自分の満足する亜人が完する訳もなく、新たに亜人の設定をしては「失敗」し、また新たな「完璧な格設定」をしようと挑むのだった。

それを「功」するまで、あるいは飽きるか、財力が続く限り、続けるのだった。

もちろん何回挑戦しようとも「功」する事はありえないので、この空しい作業は財力があり、もしくは本人が希する限り、永久に続く事となる。

最近ではあまりにもそういった例が増えてきたために亜人の人権を守るためにも格設定は完全に資格制にするか、個人の格設定回數を制限すべきではないか?という意見も出されている。

ほかにも設定を許可制にするという話や作る前にシミュレーションを義務付ける話なども出ているが、それも無意味な事と言われていた。

なぜならたとえ許可制にしたとしても設定事態に問題はないのだから許可は下りるだろうし、シミュレーションを義務付けてもそういった連中はシミュレーションで失敗したとしても実際に作れば功する筈だと主張するからだった。

これはちょうど幽霊を信じる者やアポロが月に著陸したはずがないと主張する連中に、山のように否定する証拠を見せて説明しても信じないのと同じだった。

そういった人種はどんなに説明をされても決して自説を曲げる事はなく、相手の説明を聞かず、信じないのだった。

しかし如月の覚はそういった格破綻者とは真逆の格をしており、また十分なアンドロイドの設計知識も設定覚も持ち合わせていた。

そして自分のパートナーとしてむ能力と格も正確に把握していたので、その結果、製造されたミオと相が良いというのは本來當然の結果ではあるのだが、如月としてはそれ以上の満足をじていた。

そして今、シジマはその事を再確認するかのように重ねて如月に質問をした。

「ふむ、例えば彼と一緒に生活をして、すでに何年かになるが、ミオといて飽きないかね?」

その一風方向が変わったシジマの質問に、如月が間髪をれず即答する。

「ああ、それは全然ありませんね。

正直な話、ミオとだったら百年でも千年でも一緒にいたいと思いますね。

まあ、ミオはともかく私の方が無理ですが、とにかく、あとたったの數十年しか一緒にいられないかと思うと、それを考えるだけでも辛いくらいです」

如月の答えに突然、驚いたようにミオとシジマがお互いの顔を見合わせる。

「まだ彼には話していないんだろう?」

シジマがミオにそう尋ねると、ミオも驚いたように答える。

「ええ、もちろんです」

「彼の年齢で、そこまで考えるとは驚きだな」

「私もそう思います」

二人の會話を理解できない如月が問いかける。

「どうしたんです、一?」

その如月に対してシジマがわが意を得たりといったじで話し始める。

「よし、では心して聞きたまえ。

いいかね?これが最終最後の質問だ。

この質問の答えによって、君がこの計畫にたずさわるかどうかが決まる。

これは文字通り君の一生を左右する問題と言っても過言ではない、

だから慎重に答えたまえ、いいね?」

「・・・はい・・・」

どんな質問が來るのかと心構えをする如月にシジマは予想外の質問をしてきた。

「君は本當に心からミオと一生暮らしていたいと思うかね?」

「は?」

質問の意図を読めなかった如月が聲をあげるが、シジマとミオはこれ以上はないほどの真剣な顔で如月の答えを待っていた。

「それが一番重要な質問なんですか?」

「そうだ」

シジマが短く答えてうなずく。

「私の一生に関わる?」

「そうだ、先ほども言ったように慎重に答えたまえ」

如月は真剣な表の二人を眺めながら一回天を仰ぐとため息をつきながら答え始める。

「正直どう答えれば正解なのかわかりませんから、自分の素直な気持ちで答えます。

ミオとなら一生一緒に暮らして生きたいと考えていますよ。

いえ、むしろ先ほども言ったように、もうミオなしではいられないほどです。

ですからもしこの答えが間違っていたとしても、どうかミオだけは私から取り上げないでください。

それは心からお願いします」

懇願する如月になおもシジマが質問を重ねる。

「ふむ、君は今「一生」と言ったが、それが君の予想を大きく超えて長くなっても答えは同じかね?

例えば君の「一生」が千年、一萬年になったとしてもミオと一緒にいたいと思うかね?」

「ええ、それは先ほども言ったとおり、むしろそうなりたい位です。

まあもちろん、それが無理なのはわかっていますが・・・」

その如月の答えに慎重にシジマが質問を繰り返す。

「ふむ・・・それならある意味、話が早いな。

もし、それが実際に出來るとしたらどうだ?」

「何がです?」

「ミオと千年一緒にいる事だよ、どうだね?」

「え?どういう意味です?」

質問の意味がわからず、面食らった如月にシジマが説明を加える。

「平たく言ってしまえば君の壽命を延ばすという事だよ。

最低でも千年くらい。

理論上は永久にかな」

そのシジマの説明に如月は唖然とする。

彼は相手の言った意味をよく考えてゆっくりと返事をする。

「それが・・・私の関わる実験という事ですか?」

「まあ、そういう事だ」

「永久に?そんな事が可能なんですか?」

如月の當然の質問にシジマが大きくうなずきながら答える。

「理論上はな、実は以前から長命伝子というが発見されていてな、百人に一人ほどの割合である特殊な伝子を持った人間がいるのだ。

この人間にある醫學的な処理をすると飛躍的に壽命が延びる」

「それが千年という訳ですか?」

「いや、その伝子の能力にはかなり個人毎にばらつきがあってな。

個人によって、300年から1萬年位の差が生じる」

「ずいぶんと差がありますね?」

「ああ、だが今のところ、その理由はわからん。

ところがその長命伝子の中にさらに特殊なが比較的最近発見されてね、我々は「永命伝子」と名づけたのだが、これには理論上壽命がない」

「壽命がない?」

「我々も不思議に思った。

どういうことなのだろうかとな。

しかしどうやらこの永命伝子を持つ者に長命伝子を持つ者と似たような醫學的処理を施すと、どうやら本當に壽命が盡きない、言葉を変えて言えば全く的には年を取らない、つまり老衰をしないという事がわかってきたのだ。

実際その伝子に相當する伝子を持つねずみはすでに30年以上生存している実験がいる」

「なるほど・・・それは驚きですね」

年を取らない・・・人間の不老問題は悠久の過去からの問いであるが、かつてその問題が解決された事はない。

もし例え一部とはいえ、それが解明されたのならば人類の歴史始まって以來の快挙と言っても良いだろう。

「もう察しはついてきただろう。

君がその永命伝子の持ち主なんだよ。

探査候補生時代の検査でわかったことだがね。この話はもちろん一般には公開しないように厳重に制限されている」

それはそうだろうと如月も考えた。

もし人間が永遠に生きるなどという事が現実にあり得るとわかればどんな騒ぎになるかわからない。

しかもそれが限られた特殊な伝子を持った人間のみとわかれば、どんな行を起こす人間がいるか想像もつかないほどだ。

「・・・しかし、そのお話だと數はないでしょうが、私以外にもその永命伝子とやらを持つ人間がいる訳ですよね?

その人たちも私と同じような実験をするわけですか?」

「さよう、永命伝子の割合は長命伝子保持者數百名に1人という割合だ。

人類全からすれば數萬人に一人という事だな。

確かに君の予想通り、君以外に候補者は何人かはいる。

そしてすでに実験を始めている人間も數名はいる。

しかし事はそう簡単にいかんよ、君。

例えその伝子を持っていたとしても、その人の知能や格、生活環境など多岐にわたって考えねばならんことがある。

やたらめったらに永久に生きるかもしれない人間を増産する訳にはいかないし、は守らなければならない、本人が拒絶する場合だってあるだろう。

しかし実験のサンプル數が多い方が研究目的としては助かるのも事実だ。

それで我々は候補者を軍や、それに準ずる組織の中に限定して、その中から君も含めて數人の候補者を選び出した」

「なるほど・・・」

「相手によっては話しの持って行き方も當然変える。

君の場合はこうして最初から全てを話しているが、狀況や相手によっては多壽命が延びる程度に話す場合もあるし、事実平行して普通の長命伝子の実験も行われている、もちろんにな」

「もし私がこの実験に參加するとして、的にはどのようなじになるんですか?」

「君は乗船する宇宙船は変わるが、當分の間は今と同じような仕事を続けるようになるだろう。

將來的にはもちろん他の任務もありえるが、當分の間、そう・・・なくとも數十年は今とたいして変わらない生活になるだろう」

「船のメンバーはどうなるんです?」

如月としてはミオは別格としても、他の今の気心の知れたメンバーを解散させて、別のメンバーを集めるには忍びないと考えていた。

「それは君が決めて構わない。

今の宇宙船のメンバーを連れて行っても良いし、新しいメンバーを選出しても構わない。

もちろん、この件に関しては機事項だがね。

それとこちらからも多増やす者もいる」

「増やすというのは?」

「主に醫療関係さ、君の調やの様子を調べるためや確実な治療のためのね。

當たり前の事だが、そう簡単に君に死んでもらっては困るし、そのためには醫療関係は充実させておかないとな。

それがこの実験の目的でもある訳だし、後はミオ以外の世話係や話し相手、それに護衛かな」

「なるほど」

確かにそれだけ長期に渡る実験となれば、ミオ一人では対応しきれない事もあるだろうし、何かの時のために、護衛もつけておいた方が良いだろうと如月も考えた。

そんな如月にシジマは念には念を押すように説明を続ける。

「いいか?よく考えてくれ。

親はともかく、妻や友人、仮に君に子供や孫が出來たとして、その子供や孫が君より先に死んでいっても、君とミオだけは一緒に生きていく、それでもいいのかね?」

「・・・・・」

その質問の意味を考え、噛み締めると、如月もまだ何と答えて良いかわからない気持ちだった。

「どうだね?」

再度シジマに問われて如月も考え考え答え始める。

「そう言われてみると…確かにそういう意味では親は先に死ぬだろうし、友人も私とどっちが先に死ぬかわからない・・・妻や子供は今のところいませんが、どうかな?」

「いくつかそういうテーマの本も読んだ事があるんだろう?」

「そうですね」

シジマの言う通り、如月は確かにそういった主題の本はいくつか読んでいた。

それは如月自ら求めて読んだもあったし、ミオの薦めで読んだもあった。

今から思えば、それらはこの時のためにミオが知恵をつけるために推薦したのは想像に難くなかったが、如月自も元々そういったテーマに興味があったのも事実だった。

「不老不死・・・ですか」

如月が思わずつぶやくとシジマもうなずきながら答える。

「そう、永遠の命を扱った作品は々とある。

小説、映畫、漫畫と様々なで過去から何回となく問題にされているテーマだ。

日本においては古くは八百尼伝説を初めとして、科學小説系の題材としては基本とも言って良い題材だろう。

それが今や限定的とは言え、現実となった訳だ」

「う~ん・・・」

今まで自分が読んできた、そういった作品の問題が、よもや自分のに降りかかってくるとは思っても見なかった如月だが、改めて現実問題としてそう言われると、より考えさせられるのは事実だった。

「そして一つ言っておくことがある。

これは重要な事なのでよく覚えておいてくれ。

君は今、不老不死と言ったが、君がこれから行う実験は不老ではあるが不死ではない。

この點は重要なので勘違いしないでしい」

「つまり死ぬ時は死ぬと?」

「そうだ。あくまで君の壽命が盡きる事はないというだけであって、例えば君が現代醫學でも治療し得ない病気になってしまったり、事故で死んでしまう事は十分にありえる」

「なるほど・・・」

つまりゾンビや吸鬼のように、何が何でも死なないという訳では無いということか、と如月は思った。

もっともゾンビはすでに死んでいるが・・・。

「要は細胞が老衰はしないでいつまでも若い・・・というか、現狀のままで、結果としては年を取らないと言うことで、的な強さや力は一般人と全く変わらないと言うことですね?」

如月の質問に我が意を得たりとシジマがうなずいて答える。

「そうだ、飲み込みが早くて助かるな。

より正確に言えば一般人ではなく、現在の君の力と変わらないというべきかな?

例えば君の筋力は一般平均値と比べれば低い。

これが突然平均的になる訳ではない。

逆に君の反速度は一般人より30%も速いが・・・これは極めて稀な數字だがね。

これもいきなり低くなる訳ではない。

もちろんそういった數値は君の力訓練しだいで高くも低くも変化はするがね。

それと後から言う理由によって実際には若干君の的能力は高くなる。

しかし老齢の理由で衰えるという事はなくともない訳だ」

「なるほど・・・」

「それと承知のように君は軍籍であるから、強化ナノマシン注けている。

これは知っての通り、多の怪我や傷はすぐに塞いでしまう。

そういう意味では君は一般人よりも死ににくいとは言えるだろう」

「そうですね」

如月たち宇宙探査は軍士のために、士用の強化ナノマシンをに注されている。

これは宇宙で怪我などをした時にも任務を遂行可能なようにしてあるだ。

「確かにいきなり答えは出しにくいだろうな。

文字通り君の一生に、それも普通の人間の數百倍、數千倍以上になる人生に関る事だからな。

だから君には考える時間を一ヶ月あげよう。

數千年の人生を考える代償としては々時間が短いのは心苦しいがね。

その間にきめたまえ」

「答えがノーだとしたら?」

「それはそれで別に構わない。

君は今までと同じ様に探査をする事が出來る。

もちろんここでの會話は他言無用だがね。

ただし、ミオは本來この計畫のために作られた亜人だ。

ミオは君の副を外されて、君には他の副が新しく配置されると思ってくれ」

「その場合はまた私が亜人の設定を新しくし直す訳ですか?」

「そうだな」

もちろん新しい副となる亜人をミオと同じ設定にする事はたやすい。

外見も格すらも全く同じにして見分けがつかないほど、同じ副を作る事は可能だろう。

しかし事のから考えて、その新しい亜人にミオの記憶を移される事は許されまい。

そうなればこの數年間のミオとの思い出、様々な日々はなくなる事になるだろう。

それは如月としては避けたい事態だった。

「…確かに1ヶ月位は考えていたいですね」

そして如月は自分のこれからの人生、それも千年、1萬年に及ぼうかという人生の事を考えると、それに対して考える時間が1ヶ月というのは、あまりにも短いような気もした。

「うむ、だが決めさせる方が言うのもなんだが、こういった問題は1日でも1年でも対して変わらないのだよ。

要はやるか?やらないか?それだけだからな。

一応參考までに言っておくが、私の場合は、その場で即決だった」

その言葉に如月も驚く。

「というと、局長も?」

「ああ、ただし、私の場合は永命ではなく、2千年ほどの長命伝子だがね」

「2千年ですか・・・」

「うむ、30年ほど前の事だった。

ただし、私の場合は人生半ばを過ぎた時の判斷だったので、実際の殘り壽命は千年ほどだろうがな。

この実験は年齢をその時點で一旦、固定はするが、若返らせる効果はないのでね。

ま、科學者の研究というのはある意味貪で、時間はいくらあっても足りないくらいなので、私に取っては好都合だったがね。

君に関しても良い返事を待っているよ」

「はあ・・・」

「ではそういう事だ。今日はこれまでとして、家に帰ってゆっくりと考えてくれ」

そういってシジマが立ち上がると、如月も立ち上がり、答える。

「わかりました、しかし最後にもう一つ聞きたい事があります」

「なんだね」

「もし、私がこの計畫に參加した後で、やめたいと言い出したらどうなるんですか?」

その如月の質問にシジマは笑って答える。

「中々良い質問だ。

しかし我々の考えでは一旦參加する事を決めれば、君の場合は、ほぼそれはあり得ないだろうと言う意見が有力だ」

そのシジマの答えに如月は心底に驚く。

「どうしてです?千年、一萬年と言えば途方もない時間です。

その間に私の気が変わる事だってあると思うのですが?」

もっともな如月の質問にシジマが淡々と説明をする。

「確かにその可能が0とは言えない。

実際問題として、やめたくなる気になる事は皆無ではないだろう。

しかし君、冷靜に考えてみたまえ?

やめるといっても的にどうする気かね?

この実験で唯一君が実行する事は「生きている事」なのだ。

つまり逆に言えば君が何をしていようと、生きている限りはこの実験は有効なのだよ?

もちろんこの計畫に攜わる限り給料は出るし、それでなくともこれから君が乗る宇宙船に乗っている限り、生活の心配はまったくないといって良いだろう。

極端な話、君はその宇宙船の中で、いつまでも引きこもっている事が可能だ。

君の世話はミオや周囲にいる亜人たちが永久にしてくれる。

そして極論を言えば、地球が壊れようが、銀河系が消滅しようが、君はミオと一緒に生きていられるだろう。

強いて言えば、こちらの唯一の心配は君が自殺する事だが、そこまでして君はこの計畫をやめたくなると思うかね?

それにもし本當に君がこの計畫からはずれたいというのであれば、もちろんミオとも別れなくてはならなくなるだろう。

それだけでなく、この計畫に関わっている君の船の他のメンバーともな。

君がそこまですると自分で思うかね?」

そうシジマに言われると如月としてはうなずく他はなかった。

「確かに言われてみればその通りですね。

まあ、以前からミオとはずっと未來永劫一緒に暮らしたいと思っていた訳ですし、もしこの計畫に參加すれば、その願いが葉う事になる訳ですから、そんな機會を頂いた事には素直に謝しましょう。

それに外部的要因ならともかく、自分の心理的要因の、起こるかどうかもわからない事を今からグダグダ考えても仕方がないことですしね」

シジマの言葉に納得し、いつ自分の気が変わるかも知れない事を考えても無駄だと悟った如月はその質問をするのを止めた。

「その通りだ。わかってくれて謝するよ、他にも疑問があればいつでも申し出てくれ。

それは今後のこちらの研究の材料にもなるのだからな」

「わかりました」

「それともう一つ君が安心する話をしておこう。

この話はこれから君がこの実験をれるかどうかの判斷材料にもなるだろう。

君もいくつか永遠の命をテーマとする作品を見たと思うが、その中で一番その永遠の命を持つ者が悩んでいたのはどういう事だね?」

シジマに質問をされて如月は自分が読んだそういった作品の容を思い出す。

不老な存在がつらかった事・・・時代についていけなかったり、周囲に不気味がられたり住処を追われる・・・そして社會的に抹殺されそうになったりと々あったはずだ・・・しかし一番といえばなんだったろうか・・・?

もし自分がその立場だとしてもっとも辛いだろうと考えることは・・?

々と考えた如月は漠然と答えた。

「そうですね、いくつか理由はあったと思いますが、一番と言われると・・・私的には、やはり自分より先に周囲の者が次々といなくなっていく事ですかね・・・なるほど」

そう答えながら同時に如月は、シジマの質問の意図を理解した。

その如月の理解にシジマもうなずく。

「その通りだよ。理解が早くて助かるな。

君が今言ったように永遠の命を持つ者が求める者は永遠の友だし、君にそれはもういる訳だ。

今、まさに君が今納得したようにね」

全くその通りだった。

シジマが説明したように、如月にミオや宇宙船の仲間たちがいる限り、そう言った心配が無用なのは間違いなかった。

當然の事ながら人間の友人たちはそうはいかないだろうが、なくとも彼たち亜人には事実上「死」と言うものがない。

もちろん完全に破壊されれば別だが、そのような事は確率的にかなり低いはずだ・・・しかし・・・とここで如月は考えた。

「今の事で一つ疑問が出來ました」

「何だね?」

「ミオの壽命はどれほどなんです?

もし私が何萬年も生きるとなれば、當然彼の壽命も気になります。

もちろんアンドロイドですから私より頑丈なのはわかりますが・・・」

自分自が事故や病気で死なないのであれば、自分より先にミオが死んで・・・壊れてしまってはたまらない。

そう考えた如月の當然の質問だった。

「もっともな質問だな。

君を安心させるためにも結果から言ってしまえば彼は永久に死なない、つまり壊れる事はない。

もちろん多の故障や換は必要だろうが、先ほどの君の言葉を借りて言えば、彼こそ不老不死といって良い存在だろう」

「不老はわかりますが・・・不死とは?彼だって溶鉱爐や火口に放り込まれれば完全に破壊されるでしょうし、そう言った何かの事故で死ぬ、壊れる事だってあるかもしれないじゃないですか?」

如月の反論にシジマは首を橫に振りながら答えた。

「君の言いたい事はわかるが、とりあえず彼は不老不死、年はもちろんとらないし、決して死なない、つまり壊れないという前提で話を進めてもらってかまわない。

今はその詳細は話せないが、君がこの話をけた場合はその理由を話そう。

それまでは私の話を信じて、その前提で話しを進めてくれ」

「つまり彼は決して死なない・・・永久に壊れない・・・と?」

「その通りだ。そう考えてもらってかまわない」

これ以上は質問をしても意味がなさそうだとじた如月も質問をやめる。

「あとは良いかね?では、良い返事を待っているよ」

その質問に如月が無言でうなずくとシジマは去っていった。

如月とミオも部屋から出て、自室へと向かった。

ようやく第二章の開始です!

最近は「おねショタ・・」の方に構っていてこちらが全然進まずに一年が経ってしまいました!

このままではイカン!と思い、再開した次第です。

元々10年以上も前から書き始めている作品なので、こちらはのんびりと書いていこうと考えていたらいくらでも先延ばしになりそうなので、自分を追い立てるつもりで再開したのですが、のんびりとは行こうとは思っているので、月1回更新程度になると思います。

その代わりに1回の投稿文は長めにする予定です。

宇宙開拓、歴史ものが好きな方はのんびりとお付き合いください。

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