《リターン・トゥ・テラ》1話『出撃』
「V-21からパイロットK-201へ。作戦始時刻まで、あと7時間です。」
機械的だが人間味を帯びた音聲が告げる。アームド、そう呼ばれる戦闘用人型兵、グラディエーターのコックピットの中、僕はブリーフィングの確認を行っていた。
コックピットのモニターにはブリーフィングの資料が映し出されている。
「あと7時間。ということは出撃まで1時間を切ったか……」
資料の読み込みに熱中しすぎた結果、出撃開始予定時刻のタイマーを見逃していた。搭載型AI、V-21に聲をかけられてようやく気付いた。
無理もない。
今回の作戦は偵察だ。ただ、いつもの任務と違うことは、これが大規模な作戦の一環であるということ。
『レッド・ブレイク』作戦。
地球軍が火星の軌道に展開する最終防衛ライン、アースゲートに大規模な奇襲をかける作戦だ。
『地球奪還計畫"リターン・トゥ・テラ"』のきっかけともなる作戦……
僕らの乗っている宇宙軽巡洋艦ナイト級12番艦は火星に最も近い銀河帝國の軍事宇宙ステーションにて停泊中だ。
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そこからアームドのみで推進剤を積んでアースゲート付近まで潛行。
7世代機であるグラディエーターにはステルス機能も備わっている。その機能を活かし、偵察を行い、後から合流する宇宙空母キング級1番艦に所屬する銀河帝國の鋭を集めた本部隊、ダイヤモンド隊にデータを転送する。
言ってしまえば本部隊到達までの見張り番、伝令役というわけだ。遭遇戦にならない限りあくまで戦闘は行わない。しかし、もしもに備えてということもあり、アームドには型落ち品だが6世代機の実弾アサルトライフルのピースキーパーR2、ミサイルポッド、シールドが取り付けられている。
もしもが起こらなければ一番良い。実戦の経験があるのは、このナイト級12番艦に配置されたD-03部隊においては僕だけ。しかも実戦と言っても偵察機を迎撃したに過ぎない。ほかの隊員はシミュレーションしか経験していない。
だがC階級の子たちも機作が様になってきている。僕らの部隊なら問題なくこなせるはずだ。そう信じたい。
「勤勉ですね。パイロット。」
また機械的だが人間味を帯びた音聲がそう告げる。僕はそれに「そうだよ、相棒とまたここに帰ってくるためにもね。」と答える。
「頼りにしています。パイロット。」
生まれて3年。僕はずっとこのAI、V-21と共に生きてきた。厳しい訓練にも耐えてきた。この相棒とならば、どんな任務もこなして見せる。
「パイロット。我々銀河帝國はこの地球を巡って地球軍と爭いを続けているのはご存じの事だと思います。ただ、地球のことについてはあまりご存じないかと。」
「そうだね。地球ってどんなとこなんだい?」
「では、しお勉強しましょう。學習プログラムを起します。」
コックピットのモニターにはブリーフィングの資料が並んでいたが、それを上書きするように多數の資料が浮かび上がる。
「パイロットと同じ生命であるヒトは元は地球で誕生しました。そこで文明を築き、生活していたようです。」
「しかし約1000年ほど前、大規模な戦爭が行われました。ラグナレク戦爭と言います。」
悲慘な戦爭の景がモニターに映し出される。映像を見るに、同じように昔の人もアームドで戦っていたのか。
「1000年も前からアームドって存在していたのか?」僕はV-21に問う。
「はい。文獻によると元々は作業用のワーカーを改造したものがアームドに徐々に進化していったそうです。」
「人型兵となったアームドは戦爭の常識を覆し、地球にあった各國家は次々とアームドを開発しました。」
「アームドによって拡大した戦火は止まらず。約100年ほど戦爭は続きました。」
「この戦爭で大規模な大気汚染が発生し、地球にはヒトが住めなくなりました。」
「その結果、大量の宇宙移民難民を生み出し、ヒトの歴史は衰退していきます。」
「我々銀河帝國は冥王星付近のスペースコロニーで発足し、多くの難民をけれ大國を築き上げました。」
「その後、領地を拡大し、今や銀河の半分は我々の領土となっています。」
「銀河帝國の目的はわかりますね、パイロット。」
生まれたときに一番最初にインプットされたことだ。當然わかる。
「『地球の奪還』だろ。からかわないでくれ。わからなかったらD階級並みだぞ。」
「よくできました。」とからかい調子のV-21だ。まったく。一応これでもA階級で部隊長なのに。
「戦爭のあと、地球には浄化裝置がいくつも作り上げられました。約1000年が経過した今、植やヒトがようやく住める環境になったと言えます。」
「その資源とも呼べる地球を地球國家は獨占しようとしています。我々銀河帝國はそれを阻止、地球の奪還を目的として軍隊を強化しています。」
「そのための僕らなんだろう。」
「そうですね。K-201、貴方を含め年兵団は地球奪還の要です。」
「クローン技に関してはワタクシとしてもデータアクセスにロックが掛かっているので詳しいことはわかりませんが、優秀で統率のとれた部隊の編制にはこの上ないものだと。」
「そうか……僕らのことに関してはV-21でもわからないのか。」
自分はなぜ生まれたか、最近は気になってしょうがなくなりつつある。
なぜ僕は……
そこでブザーが鳴り響く。どうやら出撃の準備らしい。艦長からの放送がる。
「D-03部隊。出撃だ。作戦宙域までは力溫存のためにアームドの自制で移してもらう。その後作戦宙域で偵察を行え。」
「その後、ダイヤモンド隊の到達後に本艦に回収。その後の作戦は追って伝える。」
ブリーフィング通りだ。作戦宙域まではスリープ狀態で移する。
「整備兵はブースターの推進剤の燃料を確認!」「兵裝の確認を行え!」「カタパルトデッキ、展開します!」
徐々に出撃の準備が始まる。
「よろしくな、相棒。」僕はそう呼びかける。
「はい。よろしくおねがいします。パイロット。」
「パイロットリンク遮斷。AI自縦に切り替え完了。エーテライトエンジン始。出力良好。外部接続ブースター接続完了…」
V-21が出撃の準備を進める中、僕は睡眠剤を首筋に打つ。約6時間後に起きたらすぐさま活開始だ。
薄れゆく意識の中、出撃が始まる。その最中、
「…コード…006、了解…」とV-21が告げた気がした。
コード……?何のことだ……?そこで意識が途切れた。
2話へ続く。
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