《リターン・トゥ・テラ》10話『涙』

目が覚める。のあちこちから痺れている。手や足をかそうとしてもかない。聲も出せない。

やっとの思いで頭をかす。頭には枕のがある。の狀態を見ると、パイロットスーツががされ、検査服を著せられていた。僕はどうやらベッドに寢かされているようだ。

心電図を図る機械や様々な裝置が僕の周りに置かれている。醫務室のようだ。

カーテンが開く音が聞こえる。そうすると

「あら、目を覚ましたみたいね。」

と、優しいの聲が聞こえる。応えようとしたが、聲が出せない。かない。

「そうだよね。かないだろうし、聲も出せないよね。そのままでいいのよ。」

言われるがままにしかできない。必死にかそうとしていた頭を枕の中心に戻し、落ち著かせる。

は僕の方に近づいてきて、ベッドの橫の椅子に腰掛けた。そうして話し始める。

「私は軍醫のシャーロット。よろしくね。ケイくん。」

橫目でシャーロットと名乗るを見る。

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聲の通り、見た目も優しそうなだった。肩までびたブロンドの髪、整った顔立ち。しい人だな、と僕は思った。

僕が橫目で見ている事に気づくと、シャーロットは優しく微笑み、語りかける。

「艦長から話は聞いたわ。々と混していたみたいね。」

……そうだ。V-21とムラクモの意見の違いで、僕は……

「艦長、ガッカリしてた。うまく話せなかった。ってね。」

ムラクモには申し訳ない事をした。それでも僕は……ムラクモの言ったことを信じたくない……

相棒……何故なんだ……本當の事は……一なんなんだ……

「でもダメよ。混してるからと言って、に任せて人を毆ろうとするなんて。めっ!だからね。」

めっ!とはなんだろうか。結局まだ聲を出せない。聞くのは後にしよう。

「ある種、チョーカーのAIさんの誤作ではあるんだけど、そのビリビリでちゃんと反省するのよ?もうししたら、かして聲も出せるようになるから安心してね。」

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そう言って優しく微笑む。

々と調べさせて貰ったわ。脳波とか、の事とか。ここはさすがに機材が足りないけど、出來る限りにね。」

橫目で見ると、資料を手に取り、それに目を通している。そして僕の方に向き直る。とても真剣な顔をしている。

「異常なのはそうね……脳波とかじゃなくて、の作りね。何をどうしたかわからないけど、が急長してる痕跡があるの。その影響でにかなり負擔がかかっているわ。今は生死には問題ない程度だけれど……」

そういえば、生まれてすぐの頃、事あるごとにすごくが痛んで、その度に痛み止めらしき薬を支給され、それを飲んでいた事を思い出す。今では慣れて、そういう事がなくなったが。

……そうだ。薬が効かず、倒れて、そのまま処理された仲間がいた。D階級の中で、痛みを訴えるにも関わらず、その薬を支給されずにそのまま放置され、処理を行われたケースもあった気がする。

「そんな技、もしあったとしても、地球國家では、タブーだわ……」

シャーロットは暗い顔をしている。軍醫には軍醫の専門的な目線があって、それで事を考えているのだろう。

「ああ、ごめんごめん。心配させようと思って言ったわけじゃないの。今はの狀態も安定してるみたいだから。もう発作とかも起きない程度みたいだしね。」

それらから沈黙が訪れる。僕はしだけかせるようになっていた。もしかしたら聲も出せるかもしれない。

「……あ。」

と、僕は発音する。そうするとシャーロットは立ち上がり、僕の方を見て微笑む。

「あらあら、若いからかしら。驚異的な回復力ね。関心関心。」

シャーロットも老けてるようには見えないが、この場合の若い、というのはシャーロットから見て僕の方が若い、なのだろう。

「発音できるようになったみたいだし、無理しないでいいから、私の話を聞いてね。辛かったら、やめてって言っていいから。」

そう言ってシャーロットは優しく僕に話し始める。

「その、言いにくいんだけどね、前の乗ってたアームドのAIさんも、きっと噓を教え込まれてたと思うの。」

「……どういう……事だ……」

「簡単に言うとね、銀河帝國がそのAIさんに、噓の報プログラムを與えていたの。だから、そのAIさんも騙されていたのよ。銀河帝國にね。」

「……と言う……事は……」

「そう、ケイくんだけじゃなくてAIさんも騙されていたのよ。」

相棒すら騙されていた……?銀河帝國に……?

僕は相棒との3年を思い出す。僕は相棒を信じ、相棒も僕を信じていた。

全ての思い出が音を立てて崩れていくような気がした。

全て噓で塗り固められたもの。

銀河帝國の為に、ヴィンセント皇帝の為に相棒と戦ってきた事は、全て銀河帝國に仕組まれた噓。

確かに、あの作戦……相棒が回路を修復させなければ、銀河帝國作戦本部のタイミング次第で僕たちは特攻させられていた。

銀河帝國に僕と相棒は……利用されていただけ……?

「……おい、シャーロット……」

僕はもう、普通ぐらいに喋れるようになっていた。

今僕の頭の中にあるのは銀河帝國に対する憎悪だけだ。

「僕は……銀河帝國に……復讐したい……銀河帝國は……相棒すら利用した……絶対に……許さない……」

シャーロットは僕に顔を近づけ、そうして指で頭をつつく。

「さっきもいったでしょう。に任せてはダメなの。」

そう言って僕から顔と指を離す。そうして、語り始める。

「私ね、人がいたのよ。火星基地にね。」

人とは……なんだ……」

話の腰を折るようで申し訳ないが、またわからない単語が出てきた。

「あらあら、人も知らない?えーっとね。好きな人のこと。大切な人。この人とならずっと一緒にいてもいいなーって思う人の事よ。大半の場合は男の関係のことなんだけどね。あはは、説明しようとしても難しいな……」

困らせてしまったようだ。ある程度は理解したが、あまりイメージはわかない。

しかし、人と人の関係、しかも男の間に起こるものなら、俺と相棒との関係には當てはまらないか。相棒ともずっと一緒にいたかったが、どうやら人というものとは違うらしい。それだけはわかった。

「その人はアームドパイロットでね、無茶ばかりする人だった。訓練でいつもアームドを限界まで乗り回して、しょっちゅう私の居る醫務室まで運ばれて來てたの。」

「でも彼のアームドのパイロットとしての腕はとっても凄かったわ。なんたってエースパイロットになったんですもの。」

「彼はエースパイロットと認められて忙しくなったんだけどね、その忙しい訓練の合間をって、いつも醫務室に來てくれてね。私と喋ってくれたの。彼からすると一目惚れだったみたい。私も彼と喋ってるうちに仲良くなってね、プロポーズ……って言ってもわからないか。結婚……それもわからないよね。」

くすくすとシャーロットは笑う。

「ケイくんと會話をするのは難しいわ。でも、楽しい。そうね、ずっと一緒にいようって言ってくれたの。」

その後すぐシャーロットは僕に背を向けた。理由はわからない。

「でもね、さっきの戦いの中で、大怪我を負ったと報告されてね。」

「私はね、彼の治療をしようと思ってこの小型艇に乗ってきたの。」

「……まさか。」

がざわつく。シャーロットの大切な人って……

「結局ね、彼……フィルは亡くなっていた。」

衝撃だった。シャーロットの大切にしていた人、フィルの命を奪ったのは紛れもない僕だ。

に何とかして謝罪をしたい。でもが思うようにかせない。

「私ね、報告を聞いた時は噓だと思ったわ。噓だと思い込んで、涙も出なかった。でも、フィルのを見て、泣いた。いっぱい泣いたわ。これ以上涙は出ないってぐらい泣いた。」

「ケイくんがいなければ彼のを発見する事すらできなかった。艦長から話は聞いたわ、彼を介抱したって。そうしてここまで連れてきてくれたって……」

「でも僕は……フィルを……」

僕はフィルを殺してしまった。シャーロットから奪った。

「いいの、言わなくて。ストライカーの損傷を見ればわかってる……それもわかってるの……」

「シャーロット……」

申し訳ない気持ちでいっぱいになる。知らず知らずのうちに、シャーロットが大切に思っていた人、フィルの命を奪ったのだ。僕は。

「介抱して、を運んできてくれた。それだけで嬉しかった。だって再會できたんだもの。銀河帝國にも、そんなパイロットいるんだって……」

「私にも、心のどこかで銀河帝國に復讐したいって気持ちはあったわ。まず大怪我を負わされたって時點でね。それだけで、もう銀河帝國が憎かった。」

「でも、ケイくんは銀河帝國でありながら、彼を助けようとした。その事実でね、し正気に戻ったの。」

「どんなかたちでもね、彼に會えた事は私の希になったわ。會えないままだったら、それこそもっと酷かったと思う。軍にいられなくなるほどに合が悪くなってたと思うわ。」

「だから私は思ったの。軍にいる限り、フィルのためにできる事をしようって。ここで挫けちゃいられないって。」

「生前フィルがよく言っていた、俺のした地球を守るんだって言葉を思い出してね。」

「だから私は軍醫として、地球軍のためにみんなを助ける。それが、フィルのした地球を守る事に繋がるなら。」

「でも私は軍醫。軍人なの。みんなを治療してまた戦闘に送り出すことは、結局のところ復讐に加擔する事になってしまうのかもしれない。」

「でもね、復讐はさらなる復讐を産む。戦爭はその繰り返しなの。結局、人間同士で戦爭するって事はね、誰かの大切な人の命を奪い合ってるのよ。」

「戦爭って……悲しい事なのよ……だからね、早く終わりになってしいなって思うのよ。でも、フィルのために、地球を守りたい。だから私は……私は……」

そう言ってシャーロットは床にへたり込む。

いくら謝っても足りないだろう。許して貰えないだろう。でも謝ることしかできない……

「すまない……シャーロット……」

僕は何とか力を振り絞って起き上がり、へたり込んでいるシャーロットの方へ、足を引きずりながら向かう。

「ケイくん……だからね、復讐なんてやめて……」

憎悪に呑まれていた気持ちは、シャーロットの言葉を聞いて変わりつつあった。フィルの為の戦いは、シャーロットの為の戦いでもある……

「僕もフィルから地球を守ってくれと頼まれた……」

なんとかシャーロットの橫にたどり著く。そして目線を合わせるように立ち膝をつく。

「僕のケイという名前はフィルにつけてもらった……それまで僕はK-201と言うコードネームしかなかった……フィルは僕にとっても、大切な人だ……」

その発言にシャーロットはし驚いた様子だったが、微笑み、僕の頭をでた。

「そう……フィルがつけたんだ……ケイって名前……」

そう言いながら、頭をで続ける。その行に、どう言う意味があるのかはわからないが、落ち著いた気分になる。

僕は目が熱くなる。

ああ、あの時と同じだ。

相棒を失った時、フィルが死んだ時、フィルのをここに連れてきて、クルーのみんなが聲を上げながら別れを惜しんでいた時……

「シャーロットの言う通り、結局は銀河帝國との戦いで、復讐になってしまうかもしれない……」

でも……

「それでも……」

それでも僕は……

「僕はフィルやシャーロットの為、地球を守る為に戦いたい……」

シャーロットはまた僕に微笑む。

「ケイくん……ありがとう。フィルも最後に出會えたのが、ケイくんでよかったと思っていると思う。」

熱くなった目から、何かが溢れ出てくる。これはなんだろう。シャーロットに聞けばわかるだろうか。軍醫だから、の事には詳しいだろう。

「シャーロット、聞いていいか。目が熱い、そして何かが溢れ出てくる。しかも聲が震える。これはなんだ。教えてくれるか。」

「ケイくん……それはね……」

シャーロットも同じ現象になっているようだ。

「涙っていうの。泣くって言うの。私もさっき言ってたけどね、人は悲しいと泣くのよ。例外もあるけど。今は悲しいから泣いてるの。フィルや私を思って悲しんでくれてるのね。ごめんね。ありがとう。」

そう言ってシャーロットは僕を抱きしめる。

「泣く……涙……これが……」

僕は暫くそれを止める事ができなかった。

11話へ続く。

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