《リターン・トゥ・テラ》10.5話『銀河帝國 1』

銀河帝國軍がアースゲートを陥落させ、地球軍火星基地に攻撃を開始した頃…

海王星ラグランジュポイント

シリンダー型銀河帝國軍事スペースコロニー、ファクトリー06

通稱"キャベツ畑"

そこに1隻の銀河帝國軍の戦艦が港する。

銀河帝國軍クイーン級戦艦1番艦。戦艦だが特務艦としての任務を與えられ、このスペースコロニーへとやってきた。

乗組員が下船する。現れたのは、顔まで完全に防備した重々しいパワードスーツを著た4人の護衛。その後ろに、1人の男。その男は黒い軍服に、黒い煌びやかなマントをにつけている。下船したのはそれだけだった。

「本當に、皇帝陛下自らご視察にお越しになるとは……」

を來た眼鏡の研究者の男が、下船した黒いマントをつけた男に聲をかける。

「作戦本部から気になる一言を聞いたものでな。研究施設の視察、そして會議をさせてもらうぞ。」

マントをつけた男はそう研究員に告げる。

「か、かしこまりました……施設までの車は手配しております!」

研究者はそう言って通信機を取り出し、施設に連絡を取る。

「定刻通り、ヴィンセント皇帝陛下がお見えになった。よろしく頼む。」

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そのマントをつけた男こそが、銀河帝國4代目皇帝、ヴィンセントだ。

研究者が施設に連絡している間、ヴィンセントは考え事をしているようで、難しい顔をしていた。

✳︎

研究施設のり口前の広場には銀河帝國の黒い軍服を著たクローンの年兵達が大量に隊列を組み、出迎えていた。

それを走る車の窓から見ていたヴィンセントは研究者に問う。

「我が軍のクローン兵は優秀だと思うか。」

研究者は恐気味に答える。

「は、はい……あの、一応……戦線では活躍していると、作戦本部からは伺っております……」

ヴィンセントはまだ窓の外を眺めながら獨り言のように呟く。

「ただでさえ、我々は地球國家に人口で劣っている。軍事力もな。その為のクローンなのだ。クローン各個人の度が上がる事を願っているがね。」

そういうと、窓から目を離し、考え事を始める。

「こ、こちらも、各兵の度を上げようと日夜努力中でございまして、C、D階級のクローンは日々減傾向にございます……!」

研究者は激しい振り手振りで慌てながら、ヴィンセントに伝える。

「そうか。」

ヴィンセントから返ってきた返事はそれだけだった。

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車は研究施設の正面玄関につけられる。

「さ、さて、皇帝陛下。館をご案します。広いので、大変かと思いますが……」

車のドアが自で空き、先に研究者と護衛達が降りる。

そうしてヴィンセントが最後に車からゆっくりと降りる。

「よい。案を始めてくれ。」

研究施設を一度見上げ、ヴィンセントは研究員にそう告げた。

✳︎

研究施設の視察が一通り終わり、研究所の會議室、ヴィンセントは研究者達を集めた。

ヴィンセントは集まった研究者達に話を始める。

「忙しいところ、急な招集ですまなかった。」

「作戦本部から話がった。君たちも話は聞いているかと思うが、A階級の1人から神異常が見つかったそうだ。」

研究者達は張した面持ちで、皆黙って聞いている。

ヴィンセントはまた話始める。

「A階級の、ナンバーはK-201と言ったか。」

ヴィンセントはパワードスーツを著た護衛に話しかける。

「はい、皇帝陛下。その様に聞いております。」

の聲だった。ヴィンセントはそれを聞いてまた話を戻す。

「このクローンについて知っている者はいるか。」

それを聞いた研究者達は黙ってデータベースを調べ始めた。

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データの検索を終えたようで、1人の研究者が名乗りを上げる。

「皇帝陛下。検索が終わりました。」

「K-201、オリジナルは"アルファ"、この施設設立時にロールアウト。階級はA。その中でも頭脳、能力共に高水準でした。アームドパイロットとして配屬され、そのアームドの技訓練結果でもAIとの連帯技、機作技、模擬戦闘共に他クローンに圧倒的な差をつけており、アームド作能力において、施設では特Aと判斷。3ヶ月前にD-03部隊に配屬されております。」

それを聞いてヴィンセントは殘念そうに話す。

「ほう。相當優秀なクローンだったのだな。と言うことはオリジナルの"アルファ"にも近かったのだろうな。」

ヴィンセントはどこを見る訳でもなく遠い目をして、そう語る。

その時パワードスーツを著た護衛のうち1人がヴィンセントからしだけ視線を逸らす。パワードスーツを著ているので表は読み取れない。

ヴィンセントはそれを一瞥したが、気にも留めず話始める。

「問題があったのはそのクローンだ。」

「作戦本部にK-201が搭乗していたアームドのAIから送られてきたデータの中に本來あり得ないものがあった。」

「それは、彼自の自我だ。」

「これは、本來芽生えないはずのものであると思っていたが……どうなのだ。」

研究者達は暫く黙っていたが、1人が発言を始める。

「じ、自我の芽生えはA階級であれば、本來あり得ない事ではありません。作戦指揮などをよりに取りやすいよう、部隊長などに任命されやすいA階級にはマインドコントロールを使用しておりません……そもそもクローンの個の容姿や価値観なども置かれた狀況によっても変わっていくものでして……」

ヴィンセントは話を遮るように、冷酷にその研究者に告げる。

「では、そのようにならないようにするには。」

研究者は黙る。暫く間を置いて、ヴィンセントは研究者達に問う。

「K-201はA階級クローンだと言ったな。」

「そ、そのようですが……」

先程の研究者がそう言うとヴィンセントはより、聲を低くして、こう話す。

「A階級クローンはマインドコントロールがかけられていない。そう言ったな。」

そうして提案を語る。

「では。これではどうだ、A階級へもB階級以下と同等のマインドコントロールをかける。」

研究者達はざわつき、話し合いを始める。

「皇帝陛下の前だぞ!靜かにしろ!」

パワードスーツを著た男が聲を上げる。先程視線を逸らした者ではない。

研究者達は靜かになる。そこで研究者の1人がこう話す。

「し、しかし、皇帝陛下、A階級のクローンにマインドコントロールをかけた場合、作戦の遂行に支障が出る場合が……」

その時、その研究者は倒れを流す。4人目の護衛に撃たれたからだ。サイレンサーの音は小さく、撃った様子は他の研究者達も気づいていなかった。その研究者が床に倒れた音で初めて気がついた様子だった。

その場は恐怖に支配されていた。研究者達は誰も聲を上げていなかった。いや、上げられなかった。

ヴィンセントはその出來事を何も気にしていない様子で研究者達に話しかける。

「各年兵団の作戦指揮は作戦本部で管轄する。A階級のクローンに、マインドコントロールをかけろ。」

そう言い切る。そうしてし間を置いて話を続ける。

「そう言えば、作戦本部によるとK-201と同部隊のF-108。という事は、オリジナルは"ガンマ"か。彼もA階級であったが、K-201のシグナルロストの後、何に影響されたかは知らないが敵前逃亡の兆しがあったそうだ。」

今度はパワードスーツを著た護衛のが下を向く。

ヴィンセントはそれに気付いてはいなかった。そのまま話を続ける。

「それはおそらく、それまで、K-201と関わっていたから、と仮定するが。どうかね。」

研究者達は黙っている。

その様子を見たヴィンセントは立ち上がって研究者達に背を向け、窓の外を見ながら話す。

「仮定ではなく、確信、だな。」

そうして研究者達へ向き直り

「では、同じようにスペースコロニー、コウノトリへと伝えろ。」

と告げる。

「か、かしこまりました!皇帝陛下!」

研究者の1人が急いでコウノトリへと連絡を取る。

その間に他の研究者に向かってヴィンセントは、また別な疑問を投げかける。

「ところで、だ。ブーステッドの研究はどうなっている。」

そこで1人の研究者がおずおずと話始める。

「は、はい。陛下。何とか1人完しました。"ガンマ"の個で、通常の人間のを持ちながら、驚異的な能力と、頭脳を持ち合わせております。今まで1204の被検を試したのですが、その1人を殘して、皆神異常や異常で処理を行いました……」

ヴィンセントは靜かに呆れた様子で

「1200人近くを被検にして、たった1人だけか。」

「まぁいい。その者を火星基地に配備する。後に火星基地まで屆けろ。」

と伝える。その後に

「もっと度を上げれないものかね。」

と冷酷に研究者達へ伝える。

研究者達は何も言えない様子で下を向いている。

それを見たヴィンセントはこう告げる。

「もうよい。私は作戦本部へと戻る。車の手配を頼む。」

そう言い、4人の護衛達と共に研究室を後にした。

✳︎

木星衛星エウロパ

銀河帝國都市

帝都クリスタルウォーター

銀河帝國作戦本部

「皇帝陛下、火星基地を完全に制圧しました。」

1人のクローンが告げる。

「ふむ、ご苦労だったな。にしても、基地はもぬけの殻と來たものか。まぁ良い。我々の拠點として好きに使わせて貰おう。」

ヴィンセントは椅子に座り、頬杖をついている。

「火星都市についてはどうなさいますか?」

そのクローンが質問する。

ヴィンセントは興味がなさそうに答える。

「侵略を開始しろ。どうせ人は殆ど殘っていないと思うがな。」

「かしこまりました。」

「火星攻略部隊、全部隊へ通達。火星都市へと進軍開始……」

そのクローンは淡々と作戦を通達する。

皇帝はその景をぼうっと見ていた。その時

「皇帝陛下、周辺宙域探索時に、撃破された地球軍の新型機と思われる機があるそうです。」

と、別なクローン兵が告げる。

ヴィンセントは頬杖をつくのをやめ、姿勢を前屈みになり、そのクローンへと話しかける。

「ほぅ……興味深い。その機は?」

クローンは淡々と報告する。

「戦闘データを見る限り、第7世代機にはあり得ないほどのスペックを誇る機のようです。コックピットに被弾しており、パイロットは死亡。の半分ほどがなくなっておりました。」

「しかしながら、機の損傷はなく、右腕、コックピットブロックさえ修復すれば我が軍で使うことも可能かと。」

それを聞いたヴィンセントはニヤリとする。

「冥王星のファクトリー01の工廠へとその機を送れ。解析と復元。そして改造を加えるよう通達しろ。」

クローン兵は

「かしこまりました。」

と言い、すぐに連絡を取り始める。

その時、火星基地から通信がる。

「作戦本部、お忙しいところ申し訳ありません。M-381です。」

「火星基地の工廠で、妙な建造中のアームドを見つけました。」

ヴィンセントはその通信に答える。

「ご苦労だったな。どんなアームドだ。」

M-381が通信を返す。

「皇帝陛下、お伝えします。まだ頭部としか出來上がっておりませんが、起したところ、エーテライトエンジンの出力が見たことのない數値です。おそらく地球軍の新型かと思われます。」

それを聞いた皇帝陛下は立ち上がり答える。

「ほう、こちらも興味深い。こちらは地球侵略にすぐにでも使わせて貰おう。1番近いファクトリー04から機械技師を全面的に派遣させる。それまでに解析を行え。」

「かしこまりました。」

そう言って通信が終わる。

皇帝陛下は笑みを抑えられなくなっていた。

そうして獨り言を呟く。

「ククク、地球軍め、貴様らの企て、こちらで全て利用させてもらうぞ。」

「地球さえ落とせば、銀河征服ももう目前。」

「我々一族を冥王星という辺境に捨てた事を後悔するがよい。」

「私は父のような売國奴にはならん。我々の誇りを捨て、地球側と協定を結ぼうなどと愚かな事を考え、挙げ句の果てには地球側のいいように銀河を統一させることなど、あってたまるか。」

「今にでも銀河を手にれ、冥王星へと捨てられた人々の思いを葉えてみせる!」

「そして我々一族を地球へと返す……」

「次の狙いは、月だ。」

to be continued

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