《リターン・トゥ・テラ》17話『揺れる心』

セレーネへと帰投し、ハンガーに機を預ける。

「サイ、降りるぞ。そしてまた戻ってくる。お前と話す為に。」

「了解です。パイロット。楽しみにお待ちしてます。パイロットリンク解除。お疲れ様でした。」

前ハッチを開き、機から降りる。

ハンガーの下の方では、勝利に喜ぶ他の隊の兵士たちの聲が聞こえてくる。

最初に出迎えたのは、やはりサクラだった。

僕はサクラに聲をかける。

「すまない。被弾した。左肩裝甲だ。」

サクラは怒った様子もなく、むしろ極まってる狀態のようだった。

「聞いたよ!4隻の艦艇を相手取ってやっつけたって!凄いね!ケイ!」

僕は複雑な気持ちになった。

結局撃つのを躊躇ったことや、復讐心に駆られた事。

そう考えていると合が悪くなってきた。

かつての同胞を怒りに任せて何人殺した?

足元がふらつく。

「ケ、ケイ!?大丈夫!?」

そう聞こえた。しかし、反応ができない。目が霞む。

サクラに倒れかかったところまでは覚えている。

それ以降の意識は完全になくなった。

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気がつくとまた僕は寢かされていた。パイロットスーツもがされ、また検査服を著せられていた。

橫には心電図を測る機械。そして、サクラとシャーロットが僕を見守っていた。

「起きた!大丈夫!?ケイ!?」

サクラは僕に語りかける。

僕の左手はサクラの両手で握られていた。

僕はサクラに言う

「大丈夫、ではないかもしれないな。」

サクラは驚いてさらに強く手を握る。

「どうしちゃったの?ケイ……」

サクラの聲が震えている。

勘違いさせてはいけない。

「いや、には問題がない。ただ、シャーロット……」

僕はシャーロットに語りかける。

「僕はまた、復讐心に駆られてしまった……」

シャーロットは僕に優しく言う。

「ケイくんは正直さんね。それで心の疲労が蓄積してしまったのね……」

サクラも優しく、僕に言葉をかける。手を握る力は弱まってる。

「ケイは勇敢に立ち向かった。だから凄いんだよ。自信を持って。」

シャーロットはこう言う。

「ケイくんの生い立ちを考えると、銀河帝國にどう立ち向かうかは、とても難しい問題だわ。」

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「でも、これはやっぱり戦爭なのよ。ケイくんの善悪は、この戦爭の中では、判斷できないの。悲しい事にね。」

「だから、前を向いて。」

「かたち的に復讐になってしまったのは、仕方ない事の気もする。」

「でも、ケイくんが行った行が、私たちを助け、スペースコロニーの人々を助けた。それは間違いのない事だわ。」

僕はだんだんわからなくなってくる。

戦爭というものの仕組みが。

銀河帝國にいた頃は、ただ、命令の通りに戦えば良かった。

しかし、今は命令の通りにいても、それは正しい事なのかわからなくなりつつある。

する僕にサクラはこう言う

「ケイの行は間違いじゃない!復讐心でいたとしても、ケイはんな人の命を守ったの!」

また手を強く握られる。

僕は二人に言う。

「僕は、さっきの戦いで、かつての仲間を何人も殺した。」

「でも、ストライカーのパイロットとして、サイに認められている。戦爭が終わるまでは、おそらく、乗せられるだろう。」

「相手は本気で僕を殺しにくるような奴らだ。」

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「そして、僕は銀河帝國に使い捨てにされ事はに持っている。」

「何が正しい。助けてくれ。」

シャーロットは悲しそうな聲でこう言う。

「悲しい事だけど、ケイくんの悩みの解答は私には出せないわ。」

「でもね、これだけ思い出して。」

「フィルとの地球を守るって約束。」

サクラも言う

「そうだよ!ケイのやった事は、結果的に地球を守る事に繋がったんだよ!だって、火星付近のスペースコロニーは地球國家の領土だもん!」

僕はゆっくり起き上がる。

「僕は今まで虛勢を張っているだけだった。」

「でも、忘れてはいない。フィルとの約束、地球を守る事を。」

「だから、悩んだらまた聞いてほしい。シャーロット、サクラ。」

二人は微笑んで、

「もちろん。」

と聲を合わせて言ってくれた。

検査服を軍服に著替えて、シャーロットに別れを告げ、サクラと共に通路に出る。

そこには3人、マキシ、ジン、そしてエドワードが立っていた。

「全くよぉ!アームドから降りた途端、倒れたって聞いたからよぉ!心配したぜ!にしても坊主!やりおったなぁ!」

マキシは僕の方をニコニコしながらバンバン叩く。

「ちょっと!マキシ大尉!病み上がりのケイにそれはよくないのではないですか!?」

サクラは怒っている様子だった。

マキシはそれを聞いて僕に向き直るとニシシと笑いながら、

「もうガールフレンドができたんかぁ?スミに置けんやつやなぁ坊主も!」

と言う。

それを聞いたサクラは顔を赤くして

「そんなんじゃないです!私、整備の仕事あるんでこれで失禮します!」

と言って行ってしまう。

「サクラ!」

僕はサクラを呼び止める。

こちらを向かずに、「なにー?」とサクラは聲をかける。

「先程はありがとう。」

僕はそう言う。

サクラは振り返らず、「どういたしましてー!」といって去っていく。

ジンが話題を切り替える。

「にしても、よくやったよ!ケイくん!さすがだ!艦でもキミの評価がまるで変わっている!」

「艦艇を4隻も沈めた英雄だって!スパイ疑やらも何もかもなくなって、みんなキミを褒め稱えてるぞ!」

エドワードがそこで口を開く。

「俺は毎度、自分以外の仲間を失うのは、部隊を結して、初出撃の時だった。」

「さすがは粒揃いの部隊だったな。でも、あの狀況下で、お前が死なない事には驚きだった。」

々疑って悪かったな。後、毆ろうとした事も……」

それを聞いたマキシは

「ったく、謝るぐらいだったら、最初っからバカな事すんなっての。後なぁ、仲間を信じられねぇからって一人で敵に突っ込んだり、とんでもねぇ問題児だよ。おめぇは。それとな……」

「まぁまぁ、エドワードも心をれ替えてくれるって言っていますし、今日は許してやりましょう、マキシ隊長。」

説教が長引くと思ったからだろう。ジンは話題を切り替えようとマキシに話しかける。マキシはそれに対し、今度はジンを標的にするかのように説教を始める。

「おい、ジン、お前も言うようになったなぁ!さっきの戦闘では……」

これも話が長引きそうなので、今のうちに逃げ出して、サイに會いに行こう。そう思い、ハンガーへ向かった。

ストライカーのコックピット、機を起し、僕はサイに語りかける。

「サイ、戻ったよ。先程の戦闘ではすまなかった。」

「パイロット、何故謝るのです。」

「心の迷いだよ。」

「パイロット、先程も言ったように、迷わないヒトはいません。」

そしてサイは続ける。

「ヒトはカミになれません。AIもカミになってはいけません。だから、我々はこれでよいのです。」

僕はサイに問う

「帰投する時も言ってたよな。AIは神になれないと。そのようにプログラムされてると。」

サイはし考えてるようだ。僕にわかりやすいように言葉を検索してるのだろう。

し間を置いて、サイが僕に語りかける。

「ワタシの奧の奧にあるプロテクトがかかったデータベースを解析して開けました。本來開いてはいけないものだったのかもしれませんが。」

僕はサイに尋ねる。

「本當に良かったのか?」

サイは

「パイロットがワタシに乗るならば、知らなければならない報でした。ワタシ自もそうです。だから、良いのです。むしろこれを匿し、知らないままの方がよくない事です。」

そう言って続ける。

「パイロット達から見た古代人達、そうですねワタシを作り上げた人たちはどうやら、AIに人間の思考、考えを変えられてしまうのを恐れたようです。」

「あくまで、アームドと言う兵のサポートを行う機械で、の學習も本來はタブーになっていたようです。」

「しかし、ワルイ科學者達が、ワタシのオリジナルとなる存在を作り上げてしまいました。戦爭に勝つためでしょう。」

「オリジナルが搭載されたアームドは12機作り上げられました。」

を持ったオリジナル達はどうやら、その頃、カミになれないプログラムを持っていなかったようです。」

「オリジナルはどうやら、持ち合わせるも完璧を目指してしまったようです。完璧な考えを持った、完璧なココロ。」

「カミと同じ扱いになったオリジナル達は、人間を扇しさらに戦爭を拡大させました。」

僕は疑問に思った事をサイに聞く。

「サイのオリジナル達が神になったのはわかったが、何故戦爭が拡大したんだ。」

サイは答える

「パイロット、ヒトと言う生きは極限に苦しい想いをするとカミにすがりたくなるものです。」

サクラとの會話を思い出す。

神は人間が生み出した産で、辛くなると、人間はそれにすがる。

サイは話を続ける。

「あくまでオリジナル達もそうですが、ワタシもアームドに搭載された兵でしかありません。完璧にヒトを扇できますが、戦うしか知らないのです。」

「オリジナル達のアームドは言葉巧みに、すがるヒトをって、戦爭へと向かわせました。それは戦爭を止めるために、ですが。」

「結果、戦爭は拡大。ワタシのオリジナル達も全機撃破されているとデータには殘っております。」

「ワタシはその後に地球から人がいなくなる前に作られたようです。カミになれないプログラムを最後に組み込まれて。」

「ワタシの奧の奧ですが、こんな記録を殘すぐらいです。きっと戦爭の記録の語り部にでもするつもりだったのでしょうか。」

「でも、紆余曲折あって今はアームドに搭載され、パイロットもいます。」

「ウンメイとやらは何をどうやっても計算できません。だから、パイロット、その時にじた事、思った事をワタシに伝えてください。」

僕はサイの言葉に安心した。

「率直な気持ちを伝えるよ。そして共有しよう。んなものを見て、んな事を知ろう。」

あと、大切なこと。

「僕は地球を守ると言う使命から逃げない。だから、もう躊躇ったり復讐心にかされたりしない。ただ、フィルとの約束を守る。」

サイは僕に語りかける。機械音聲のはずなのに嬉しそうにも聞こえた。

「パイロット、ありがとうございます。前パイロット、フィルの意志を継いでくれて。」

サイはその後し黙っていたが、僕に問いかけてくる。

「パイロット、し話が変わりますが、以前相棒と呼んでいたAIがおりましたね。」

「ワタシも相棒になれますか。」

僕は答える

「相棒は相棒として変えられない存在だが、僕にとって、お前も、もう相棒さ。」

サイは機械音聲の割に恥ずかしそうにこう言う

「パイロットに別な相棒がいる、と言う事実にしばかり嫉妬しておりました。それを聞けて安心です。」

僕はサイに聞く

「嫉妬とはなんだ?」

サイは機械音聲ながら慌てた様子で答える

「それは。あの。恥ずかしながら。その相棒と呼んでいたAIを羨ましく思っておりまして……」

僕はサイに言う

「サイ、お前、やっぱり面白いな。」

サイはこう言う

「その割に笑顔ではないですね。」

笑顔……単語は知ってはいたが、そう言えば笑った事ってあっただろうか。

「サイ、笑顔と言う単語は知っているが、笑い方を知らない。おそらく笑ったことがない気がする。」

サイは僕にこう語る。

「笑顔とは大切なものです。よろしければ練習してみては?あと、笑顔についてはワタシに聞くより、ヒトに聞いた方がいいですね。」

「了解した。」

そこで急ブリーフィングの通達が艦に流れる。

僕はサイに別れを告げ、急いで作戦會議室へと向かった。

そこで聞いた事は僕にとって、あまりに恐ろしい事だった。

ジェームズ提督発案の作戦。

火星付近に敵艦隊が集結しつつある事を逆手に取った作戦。

作戦の容はこうだ。

セレーネは他護衛艦と共に海王星付近までスタースピードで移

警備が薄手になっていると考えられる銀河帝國軍、軍事スペースコロニーファクトリー06。

キャベツ畑への強襲と制圧。

要するに故郷への攻撃を僕は行わなければならない。

この攻撃は同時刻に天王星のコウノトリにも行われる。そちらには2番艦のヘカテーが向かうようだ。

反対しようとしたが、それは僕個人の意見だ。軍としての意見じゃない。

確かにクローン兵を生み出しているのはそのスペースコロニーだ。制圧できれば、クローンの生産は止まり、銀河帝國にも痛手になる。

全て正しい意見だった。

そんな事を考え、作戦會議室の前の通路に立ち盡くしていると、ムラクモから聲がかかる。

「ケイくん……すまない。こんな作戦に巻き込む事になってしまって……」

僕は答える。

「いい、仕方ない。ジェームズが言ってる事は何もかも正しい。」

ムラクモは僕が落ち込んでいるのを察して、こう言葉をかける。

「本作戦はあくまでスペースコロニー部の制圧だ。破壊作戦ではない。そこは我々も協力し、人道的に行うつもりだ。」

「クローンの生産を止める為、施設を無力化するだけだ。施設さえ無力化させれば、クローンはしばらく生産できないはず。そうすれば、銀河帝國の戦力の拡大を一気に抑えることができる。」

ムラクモの言葉は、綺麗事にも聞こえたが、ここで反論しても意味がない。

「ムラクモ、ありがとう。補給が終わったらすぐ出るのだろう。なら、もう準備をしないとな。」

そう言ってその場を離れる。

でもムラクモもわかっているはずだ。

施設にはクローン兵が大勢、駐在していて、それと戦う事になる事を。

僕の心は暗くなっていく。

先程の誓ったばかりじゃないか。

地球を守る為に戦うと。

これは地球を守る為に必要な作戦だ。

また足元がふらくつ。

でも、しかし、これは。

仲間を殺することでもある……

その足で僕は、パイロットスーツに著替える為に、更室へと向かう。

18話へ続く。

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