《リターン・トゥ・テラ》19話『生きる意味』

ハンガーに帰っても、僕はコックピットハッチを開くこともできずに、ただ、パイロットシートに呆然として座り続けていた。

自分の存在の意味を考えて。

サイも黙っている。おそらく、僕のデータを解析している。

長らく沈黙が続いた。

靜寂を破ったのはサクラだった。

コックピットハッチに通信機を取り付け、接通信で僕らに語りかける。

アームドは、普段僕らが味方艦や味方機と繋ぐ通信の他に、アームド同士でれ合った場合、ものすごく近距離まで近づいた場合に通信が混線してる接通信というものが存在する。

れ合った場合は確実に起こり、近距離まで近づいた場合に起こるのはごく稀である。

サクラはその接通信の技を使い、コックピットの中にいる僕に語りかける。

「ねぇ!ケイ!大丈夫なの!?返事をして!」

僕は答えることができない。

マキシ機、ジン機、エドワード機が帰投してくる。

その他の部隊も続々と帰投する。

その時、サイから呼びかけられる。

「パイロットの神狀況を判斷しました。解析には時間がかかりました。」

「パイロット、今は機から降りて、様々な人の意見を聞くのが良いでしょう。」

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「しかし、これを怒りのに変えて、ムラクモ艦長や、ジェームズ提督にぶつけてもしょうがない、という事だけ、ワタシから忠告しておきます。」

「ヒトに悩みはつきませんね。ワタシも考えた事ありませんでした。イキルと言う意味。ワタシのソンザイカチ。」

「ワタシはアームド搭載兵として、敵のアームド、艦艇その他もろもろを倒す事しか知りません。」

それを聞いて僕は力なく呟く。

「それは、僕も同じ事だ……」

「結局、僕もアームドをるだけのものに過ぎなかった……」

「もの、いや、例えるとするなら、部品だ。」

「取り替えが可能な、ただの部品。」

それを聞いていたサクラが僕に呼びかける。

「違う!ケイは部品なんかじゃない!ちゃんとした人間だよ!」

「苦しかったり、悩んだりする、ちゃんとした人間なんだよ!」

「悲しいことが、分からないことが多すぎるからって、自分を見失わないで……お願い……」

サクラは悲しんでいる様子だった。

そういえばサクラのお父さんも、苦しいことが多すぎておかしくなった、と前に話していたか。

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サイは僕に語りかける

「先程、アームドとしての役割の話はしましたが、ワタシに宿ったココロのようなものに次のものがあります。」

「パイロットを守ること。それとパイロットをよく知ること。そして、理解すること。」

「もしかしたら、これがワタシの役割なのかもしれませんね。」

「この3つを遂行すれば、ワタシはカミにはならず、また別なソンザイになれると思っています。」

「それは、パイロットのトモダチと言うソンザイです。」

「今のワタシの目標は、我々の関係が、相棒を超えた、トモダチという関係になる事です。」

「その為にはパイロットをよく知る事が大切なのですが、今、パイロットはソンザイの意味をうまく見出せない様子。」

「パイロット自が自のソンザイカチを理解できないのなら、悲しいことに、ワタシにもフィードバックされません。」

「このままでは、パイロットの事がわからなくなり始めてトモダチになる事が難しくなります。」

僕は何も言えなかった。

サイは僕のを読み取って學習していくはずだ。こんなを読み取らせてはいけない。

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それを読み取ったかのようにサイはまた僕に語りかける。

「確かにワタシは人間のを學習し、それを落とし込むことによってワタシ自を変化させていく事が可能です。」

「人間の悩みを學習することは、確かにワタシにとってプラスになります。マイナスな方面に働くことはあまりありません。」

「負のを抱えすぎて、ワタシが暴走するとでも思いましたか?ワタシは賢いので、そんな事おこしません。ワタシは、ワタシなりに、ココロを制してパイロットと向き合うつもりです。」

サイは話題をし切り替える。

「しかし、パイロット。パイロットは大切な事を忘れようとしてる事だけはどうしても許せません。」

「フィルとの約束、地球を守る約束を忘れてしまったのですか。」

地球を守る。

地球を守るといっても。

それが僕の使命だとしても。

どうせ使い捨ての命で。

僕の代わりは、使い捨てられるほどいて。

実際、先程の戦闘で何萬人も年兵団が銀河帝國側に捨てられて。

僕なはそんな地球を守るだなんてはない。

ストライカーに乗って地球軍の先頭を切って戦うなんてない。

サイとトモダチになれるなんてない。

僕は呟く

「所詮、は廃棄されるだけの運命にあった命……」

サイは僕の気持ちを全部読み取っている様子だ。その言葉を聞いてこう返す。

「パイロット、降りてし頭を冷やしてください。」

そして拡聲機能を使ってコックピットに接通信を送っているサクラに呼びかける。

「サクラ整備兵、今から無理矢理ハッチを開きますので、下がってください。そしてパイロットを無理矢理でもいいので、ワタシから外に連れ出して下さい。」

そうしてコックピットが開く。

サクラが僕に呼びかける。

「ケイ、降りてみんなで話そう。そうすれば、ケイもわかるはずだよ!」

コックピットにり、無理矢理僕の手を引き、コックピットの外に連れ出す。

ハンガーの通路にはマキシ、ジン、エドワードだけでなく他のパイロットもみんなが立っていて、僕を見守っていた。

マキシは僕に聲をかける。

「坊主には坊主にしかできん事がある。」

「確かに坊主に似た顔の兵士はあん中に沢山いたがな。」

「坊主は坊主だ。」

「ワシゃもうただの老兵じゃがな、それでもやるべき事をやるだけやっちょる。」

「元は銀河帝國の歯車だっただろうが何だろうが関係ねぇ。坊主にはもう、大切なやるべき事ができちまったんだよ。」

「それは地球を守るだけじゃねぇ。アームドに乗って戦うだけじゃねぇ。ここに來た時點で、もう銀河帝國の歯車だったクローンは一人の人間になっちまったんだよ。」

「一人の人間としてできる事をやるんだな。それは歯車だった頃よりつれぇかも知れんぞ。ワシは知らんけどな。」

「ま、それだけみんな坊主を心配してるってこっちゃ。」

ジンが続ける。

「あそこで見たものは、確かにおぞましいものだった。君に似たクローンも大勢いた。」

「でも、おそらく君は、そのクローンと戦した後に、獨り言を呟いてたろう。あれは僕ではないと。」

「その通りなんだよ。あんな事、銀河帝國のクローン量産など、許されていいはずがない。似てる人間が何人も存在していいはずがないんだ。」

「君は君なんだ。いつまで経ってもその事実は覆らない。」

「君は人の痛みをわかる、悲しみにも寄り添えた。その痛みと悲しみを跳ね返す力だって持っている。」

「それは君にしかできない事なんだよ。ケイくん。」

エドワードも僕に聲をかける。

「全く、お前に救ってもらったってのに、お前がそんな調子じゃなぁ。」

「恥ずかしい話だがな、俺、お前に救われたんだぜ。お前の言葉に、お前の行に。」

「俺だって存在の意味に悩んでたさ。どこにいても部隊を壊滅させるだけだってな。」

「でもな、そうじゃねぇんだよな。隊長からのけ売りになっちまうが、人間はどうやら諦めたらそこで終わりらしい。」

「ここでの初戦闘後に隊長から言われたんだよ。2時間近くあった説教で、結局結論はそれだ。」

「だからお前も諦めんな。俺も、もう諦めねぇから。」

サクラも僕に聲をかける。

「ケイ、人は誰だって自分の生きる意味で悩んだりするものなの。」

「悩んだりするけど、ちゃんとある。」

「ケイの場合、ちょっと特殊かも知れない。でも、きっと決められた運命なんてない。神様がいないのとおんなじ事なの。」

「前に私に話してくれたよね。ここに來るまでの話。それが、運命によって決められてるって思ったら、何か違う気がするんだよね。」

「銀河帝國軍から地球軍になった人なんてケイが初めてだし、人は決まった道なんてないんだよ。きっとね。」

「もし、私たちが運命によっていてるとしても、その運命は自分の手で変えていける。」

サクラの言葉は重かった。サクラはおかしくなったお父さんの為に軍に志願して整備兵をしている。

悲しい運命を辿ろうとするを道を変えるために、ここに立っている。

そう思うと、僕はけなくなった。

僕はただ手すりに捕まって立っている事しかできなかったが、サクラが僕の手を取って、きっちり立たせてくれる。

ジンが僕に近づき、こう話す。

「君の持ってる心には、君にしか出來なかった事があるだろう。エドワードの心を救ったのもそうだ。そして、フィル先輩を介抱したのもそうだ。それは、あのスペースコロニーにいた奴らにはきっとできない。」

僕は、フィルの名前がジンから出てくるのが不思議だった。

ジンに僕は聞き返す。

「何故、フィルの名前を……?」

ジンは答える。

「火星基地にいた頃、俺の憧れてたアームドパイロットだったんだよ。フィル先輩は本當にエース級のエースでさ……」

「俺はフィル先輩からアームドの縦を學んでいたんだよ。」

「君が介抱したって話をマキシ隊長から聞いてね。お禮がしたかったんだよ。ありがとう。ケイくん。」

僕にお禮されても。

結局のところ、フィルに致命傷を負わせたのは紛れもない僕で。

もうわからない。

なんで、僕は、ここで戦ってる?

ここにだって、僕に憎しみを持ってる人だって多いはずだ。

みんな、僕と同じような顔をした兵士をさっきまで平然と殺してたじゃないか。

この戦いが終わったら、銀河帝國のように、使い捨てにして、僕を殺すのだろう。

僕は怖くなって、サクラの腕を振り払い、ストライカーのコックピットに乗り込む。

コックピットハッチを閉めて、起したままのサイに話しかける。

「サイ!助けてくれ!僕も使い捨てにされてしまうかもしれない!みんな僕と同じ顔のクローンを平然と殺していた!きっと戦爭が終われば使い捨てにされる!」

サイは黙っている。

「サイ!お願いだ!パイロットリンクを繋いでくれ!逃げるんだ!ここから!」

サイはようやく僕に告げる。

「ヒトの好意には答えるものですよ。パイロット。」

「ちなみに、パイロットが乗り込んだ時、既に嫌な予がしたので、拡聲機能を使って一部始終を外に発信しております。」

僕はサイに怒る。

「なんでそんな事を……!そんな事したら今すぐにでも殺されるかもしれないだろう!」

サイは優しく答える

「パイロットが、ここの人から殺されることはありません。ワタシが保証します。」

「何故ならパイロットは既に一人の地球軍の軍人として、それだけでなく、一人の人間として認められてるからです。」

見てみなさい。と言い、網投影が始まる。

視界が開けると、コックピットハッチの周りに人だかりができている。

ムラクモも、ユウカも、シャーロットも、アレックスも、エレナも。みんなCICや醫務室から出て、ここに來て僕の事を心配してくれていた。

通信機がまた取り付けられて接通信がる。サクラだった。

「みんな、ケイが心配なの。そしてみんな、ケイを殺そうとなんてしてない。」

「ケイはみんなに信じられてるから、ケイもみんなの事を信じてしいな。」

ムラクモ艦長が通信機をサクラから借りて話しかける。

「先程の作戦は、やはりケイくんの負擔として重いものがあった。すまなかった。いくらストライカーを乗せてるからと言っても、パイロットの気持ちを考えずに作戦を考案し、その作戦に參加させた事を申し訳なく思うよ。ジェームズ提督にも話しておく。」

「ケイくん、作戦が落ち著いたら、またコーヒーを飲んで話そう。月でとっておきの機材を仕れたんだ。前のような今までの話ではなく、今度は、君のこれからについてだ。」

通信機はまた別な人に渡される。シャーロットからの通信だった。

「ケイくん。聞いてね。もうケイくんは銀河帝國にられていたあの頃とはもう違う。」

「そしてケイくんはちゃんとした心を持っていたじゃない。前にも話したと思うけど、フィルを介抱してくれたってだけで嬉しかったの。」

「ケイくんのおかげで月の地球が見える墓地にフィルを埋葬できたのよ。」

「ケイくんには立派な心があるわ。それは、人を思いやる心。」

「銀河帝國は非人道的だわ。本來、クローン人間の量産なんてあり得てはならないの。」

「しかも、それをまるで道のように扱い、挙げ句の果てには今回のような事件を起こす……」

「そしてケイくんの心を苦しめる。酷い事だわ。」

「これから火星付近宙域に戻って作戦だけど、落ち著いたら醫務室にも來てね。あ、怪我とかはしないで來てしいな。基地にいた頃のフィルのように、何もなくても、お話しましょ。」

通信機は変わり変わり、人の手に渡り、僕に優しい言葉をかけてくれる。

僕はどうしようもなくなって泣き出していた。

ユウカからは、ケイくんの優しい心のおかげで、シャーロットの今があるんだよ。と。

アレックスからは、人の痛みを知れる年だからこそ、かつての自分の仲間が酷い目に遭ったことに、苦しんでるのだな、抱きしめてめてあげたいぞ。と。

エレナからは、エドワード尉と同じ部隊という不安點がありましたけど、貴方のその優しい心のおで、その不安もなくなりました。その優しさを大切にしてしいです。と。

サクラから最後に通信がる。

「私、毎回ね、出撃の度に伝えそびれる事があったの。」

「どうか、死なないでね。って。」

「ストライカーへの損傷云々は実は口実。」

「私は、どうしてもケイに生きてしいの。」

みんな僕を心配している。

サイが僕に告げる。

「パイロット、なんとなくでもわかりましたか?パイロットが皆さんから認められてる意味が。パイロットが生きる意味が。そして、パイロットは作戦が終わっても殺される事がない事が。」

「生き殘って、普通の人間としての道を歩む。」

「それがパイロットに課せられた使命です。」

「そのためにワタシはパイロットを守り抜きますし、パイロットは戦わなくてはなりません。」

「わかりましたか?」

僕は涙を拭い、サイに言う。

「生き殘って、普通の人間としての道を歩む使命、諾した。必ず完遂させてみせる。」

サイは

「よく言いました。その任務はワタシの任務ともなります。これで完璧に繋がりました。」

「コックピットハッチを開くので皆さん下がってください。」

と言う。コックピットハッチが開く。

僕は自分の足でストライカーから降りる。

みんな、心配してる様子だった。

サクラが僕に抱きつく。

僕はみんなに向かって言う。

「みんな。心配かけてすまない。そして、疑った事も。」

「僕は、生き殘って、一人の人間として生きる為に戦う。」

「地球を守る事に加えた、新しい使命だ。」

ムラクモが口を開く。

「君ならきっとやり遂げられる。期待しているよ。」

銀河帝國にられていたクローンとしての心は消えた。ここから先は一人の人間の心を持って、地球を守る。そして、生き殘って人間としての道を歩む。

新たな使命をに頑張ろうと決意したのだった。

20話へ続く。

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