《リターン・トゥ・テラ》25話『これから』
火星都市の解放も完全に終わり、地球國家は火星を完全に取り戻した。
周辺コロニーに避難していた人々も戻りつつあり、都市はまた活気に溢れるだろうとムラクモが言う。
僕はムラクモから呼ばれ、セレーネの艦長室に出向き、コーヒーを頂いていた。
セレーネも現在破損箇所の修復中で、火星基地に停泊している。すぐにはけないだろう。
「ケイくん。君には辛い想いをさせてしまったね。」
ムラクモは僕に言う。
「それでも戦わなければならないと、それが戦爭なんだと、サイが言っていた。僕だけが特別じゃない。マキシもエドワードも、ジンを助けられなかった事を悔やんでいる。」
その僕の返答に対してムラクモは
「申し訳なかったな。」
と悲しそうに言う。
僕はムラクモに問う。
「悲しい事ばかりなのに、戦爭は何故続く。銀河帝國でも、おそらく悲しんでいる人間はたくさんいるだろう。」
ムラクモは難しい顔をしていたが、こう語る。
「戦爭というのは、悲しいがそういう仕組みになっているのさ。引き金を引けば、誰かの命を奪い、幸福を奪う。」
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「しかしだな。一度広まった戦火を鎮めるためには、犠牲を払ってでも、何度悲しんでも、どちらかの軍勢が折れる必要がある。」
「この戦爭は銀河系を巻き込んだものだ。どちらかが折れるのは、時間がかかってしまうだろう。それだけ、その分だけ、犠牲者も増える。」
「悲しくなくする為に、悲しい行為をしなければならないとは、な。なんとも言えん事だ。」
「でも、我々は軍人なのでね。悲しくても立ち向かうのが定めなのさ。」
そう言ってムラクモは僕に向き直る。
「いつまで続くか分からない戦いに、君を送り出さなければならない事を謝らせてしい。すまない。ケイくん。」
「謝らないでくれ。さっきも言ったが、僕だけが特別じゃない。それに、僕はサイと約束した。」
「託された想いの分まで戦うと。」
ムラクモは真剣な表で
「頼んだぞ。ケイくん。」
と言う。
「やり遂げてみせる。必ず。」
僕はそう言い切る。
自信がある訳ではない。
今回みたいな敵がこれから相手になるなら、それ相応の覚悟は必要になる。
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だが、生きろと言った相棒、地球を守ってくれと言ったフィル。
そして、
生きて夢を葉えてくれ。
と言ったジンの想いを乗せて僕は戦う。
ムラクモは微笑み
「こちらでも、最大限にサポートするよ。」
と言ってくれた。
そうして空になった僕のコーヒーカップを見ると
「もう一杯どうだい?ケイくん。」
と言う。
「なら、頂こう。」
そうして束の間のコーヒーブレイクは続いていった。
*
セレーネのハンガーに召集される。
先程の戦いでは、やはり戦死者も多いらしく、部隊の再編が急ピッチで進められる事になった。
驚きだったのは、ブレイブ隊に配屬されたのは、あの時助けたグリムだった。
なんでもグリムの乗っていた艦は轟沈してしまい、部隊も壊滅し殘ったのは1人だけだったと言う。
それでセレーネの配屬となり、何かの縁があって僕らの部隊の配屬となった。
グリムは若い男で階級は尉。短い黒髪で人男の割には背がし低い人だった。それでも僕よりは高いが。
部隊顔合わせの時、グリムは
「ケイさんとまた一緒に戦えるなんて、願ったり葉ったりです。よろしくお願いします。」
と、僕に言ってくれた。
「よろしく。グリム。歓迎するよ。」
しだけエレメントを組んだ仲ではあるが、安心はあった。
グリムは一通り僕らに挨拶をすると、セレーネに所屬するアームドパイロットに聲をかけに行くと言って、その場を離れた。
グリムが來てくれたのは嬉しかった。でも……
やはりジンの代わりに來たと言う事実が引っかかる。
僕はどこか浮かない顔になっていたと思う。
それをマキシに見られていた。
「おい坊主。俺たちはいつまでも後ろを向いていられねぇんだ。」
マキシの方が辛いだろう。ジンはマキシの直屬の部下だったのだから。
「アイツの分まで頑張ってやらねぇと、アイツもいい顔しねぇぞ。」
エドワードはそれを聞いていた。
「……結局のところ、俺たちは軍人ってワケだ。欠けたらそこに誰かが補充されるだけ。それでもな。」
「戦うしかねぇんだわ。」
「新しく配屬されたグリムってヤロウも、辛い想いをしてここに來てる。」
「1人を殘して部隊が全滅したりするとな、俺のせいでこんな事になったんじゃないかって思っちまうんだよ。」
「似てるんだよ、境遇が俺と。」
「二度とあんな想いしたくねぇ。それに仲間を失うなんてもう嫌なんだよ。」
「俺も強くならねぇと。アームドの技だけじゃなく、心もだ。」
「だろ、ジン……」
そういうとエドワードは上を向く。
それを聞いていたマキシは
「お前さんは、もう長しちょる。いつまでも止まってるのはワシの方かもしれんな。」
「ワシも、隊長としてもっとやりようはあるだろうに。」
グリムが戻ってくる。
「一通り挨拶が終わりました。一刻も早くセレーネに、そしてブレイブ隊に馴染めるように頑張るつもりです。」
マキシは厳しい顔をしてグリムに問う。
「ワシらの隊はストライカーを抱えている。戦線でも最前線に送り込まれるだろう。グリム尉、戦い抜く覚悟はあるか。」
グリムは真っ直ぐマキシを見て答える。
「承知しております。この部隊に配屬になると聞いた時から覚悟しておりました。」
「自分は先の戦闘で何もできなかった。」
「それが悔しくてたまらないのです。アームドの縦技も仲間との連帯も磨きます。」
「ですから、共に戦わせてください。」
「覚悟は十分に、出來ています。」
マキシはし微笑むと
「合格だ。向上心あるヤツは尚更歓迎じゃ。」
とグリムと握手をする。
その景をエドワードと見ていた。
エドワードは
「俺も強くならねぇとな……」
と言い、グリムに一言二言挨拶した後、ハンガーを後にした。
グリムが僕に話しかけてくる。
「あの時は守られてばかりでしたが、必ずや強くなってみせますから!」
僕はその気迫にし困する。
「あの時は狀況が特殊過ぎたからだろう。グリムは、もともと機に甚大なダメージを負っていたのだから。」
グリムは下を向く。
「それでも……」
「何もできないのは、悔しいじゃないですか…」
そう肩を落とすグリムに、僕は
「上手く言えないんだが、あの戦場で生き殘れた。それだけでも誇るべきことだ。仲間を守れなかったにせよ、グリムが生きている事は意味がある事だ。」
「それに、何もできなかったわけじゃない。あの時、グリムと出會わなければ、僕もどうなっていたかわからない。僕もグリムに守られた。助けられた。」
「僕の乗るストライカーのAI、サイも言っていた。散っていった者たちの分まで僕らは戦わなければならないと。」
「だから、何もできなかったと思い込むより、生かされた事実をけ止めて、これから戦おう。」
「僕も守れなかった仲間がいる。だから、その仲間たちの分まで戦おう。」
グリムは、顔を上げ、しだけ微笑むと、
「ケイくんは考え方も兵士としても自分より大人な気がします。見習わなくては、ですね。」
「よし!自分、模擬戦プログラムを起してきます!この基地に停泊してる間、しでも腕を磨かないと!」
そういうとグリムは、彼が乗るアームド、ガーディアンIIへと駆け出して行った。
僕もサイに聲をかけがてら、模擬戦のプログラムを起してみよう。
そう思ってストライカーへと足を運ぶのだった。
*
ストライカーにたどり著く。大きな被弾はないにせよ、あちこち傷んでいるのは確かだ。
修復作業中なのか、機は様々な足場がかけられていて、所々の裝甲が外されている。
パーツの大量生産がない分、ストライカーの修理は大変だとサクラが言っていた事を思い出す。
コックピットハッチに通じている足場でサクラは作業指示を出していた。
サクラは僕に気づくと、嬉しそうな、そしてどこか悲しそうな表で近寄る。そして
「戻ってきてくれて良かった……」
と言い僕の手を取る。そして、涙を流す。
「必ず戻ると言った。約束は守った。だから泣かないでくれ。」
「でも……危険な作戦だったし、ジンさんは……」
「僕はジンに守られたんだ。だから、ジンの分まで戦わなければならない。この戦爭が続く限り。」
「ケイ……ごめんね。私がこんなんじゃダメだよね。ちゃんとストライカーを整備して、戦場に送り出す萬全の準備をしないとね……」
「サクラ。ムラクモにも言われたのだが、軍人である僕らは、どんなに悲しくても立ち向かわなければならない。この戦爭に。」
「んな人に想いを託された。だから。僕はストライカーに乗る。」
「最大限のバックアップを頼む。毎度、生き殘れるのは整備が良いおかげでもある。」
「信頼しているよ。サクラ。」
サクラは顔を上げ、微笑むと。
「そうだよね、泣いてちゃダメだよね!いつも全力で整備するから!戦闘に出たら必ず戻ってきてね!」
「もちろんだ。」
僕も上手く笑えないが、微笑む真似をする。
サクラの前では、表というものを出してみたい。そう思えるようになっていた。
「サクラ、コックピットにはれるか?」
「うん!そこら辺の修繕はバッチリ。もともと被弾もないし、もう乗れるよ。」
「そうか。サイと話して、模擬戦プログラムを起する。機はかさないから安心してくれ。」
「了解!こっちも修理進めておくから……おっと、それだけじゃなかったんだ!」
「どうした?」
「月面本部から補給資が屆いて、ストライカーの裝甲の一部を改修する案が出ていてね。」
「さらに出力、運能が上がるんだって。裝甲は今から取り付けるけど、機の強化パッチはサイに読み込ませてあるから、ちょっと挙が違うと思う。習うより慣れろってじで頑張って!」
機の能が上がる。それだけ、やれる事も増える。
救える命も増えるかもしれない。
「了解した。」
僕は期待をに、ストライカーへと乗り込んだ。
26話へ続く。
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