《外れスキル『即死』が死ねば死ぬほど強くなる超SSS級スキルで、実は最強だった件。》いちばんしたの大往生 その①
「……もしかしてあそこかな」
僕らの進路の先に、人の気配があった。
薄暗くて良く見えないが、複數の人間がいるようだ。
同時に、軽い足音がこちらへ近づいて來た。
「お兄様?」
「ツヴァイちゃん……だよな」
暗闇の中から現れたのはツヴァイちゃんだった。
顔が悪い。どこか怪我したのかもしれない。
「無事でよかったんだよ、お兄様」
「まあ、僕は死なないから。だけど――あ、いや、その前に」
「何?」
「君は僕にとってどういう存在なの、ツヴァイちゃん」
「……あたしはお兄様の、小さな人なんだよ」
「よし。君はツヴァイちゃんだな。さっきは君のそっくりさんに襲われてちょっと大変だったんだぜ」
「合言葉が役に立ったみたいで良かったんだよ。……だけど、それどころじゃないんだよ」
「分かってる。ギルさんが怪我したんだろ?」
「うん。今ミアお姉ちゃんが回復魔法を使ってるけど、出がひどいんだよ」
「何ぃ!? ミアが回復魔法を!? こうしちゃおれん。俺も手伝う。二人がかりならその分早く済む違いない。いや、決してミアに一行も早く會いたいからではないぞ。勘違いするなよ」
「……お兄様、この人、エヌって人だよね? 中がこんなだとは思わなかったんだよ」
幻滅したような顔でツヴァイちゃんが言う。
「実は僕もそう思ってたところなんだよ。三年も閉じ込められてたから、ちょっとおかしくなっちゃったのかもね」
「なるほど。納得なんだよ」
「聞こえてるぞ、えーくん。とにかく俺は先に行くからな。ミアが待ってるから」
「そう思ってるのはあんただけだよ、エヌ」
「ふん。所詮、人は自分の認識したものしか理解できないのだ。つまり、俺の中でミアが俺を待っているのであれば、俺にとってそれは真実になるのだよ。分かるかな?」
「分からねえよ」
「……まあいい。では、お先に」
そう言うなりエヌは走り出し、僕らは取り殘された。
そして、エヌが何者か――というかミア――に毆り飛ばされるのを見た。
可哀そうに、エヌ。
同はする。
「それでツヴァイちゃん、ここからどうやって逃げるの? この通路はどこまで続いているんだい」
「郊外へ逃げられるようになってるんだよ。そのために車も用意してあるから大丈夫。次の隠れ家も用意してあるって、ミアお姉ちゃんが言ってたんだよ」
準備のよろしいことで。
あの豪華なお屋敷を捨ててしまうのは多もったいないような気もするけど、まあ、必要となればまた路上暮らしをすればいいだけの話だ。
人影の方へ歩いていくと、通路の壁にもたれるようにして座るギルさんと、魔法でギルさんの傷を治しているミアと、その傍らで倒れるエヌの姿があった。
「帰って來たよ、ミア」
「お帰りなさい、えーくん。無事で何よりだわ」
「そっちの方が大変だったみたいだね」
「……予想はしていたことよ。だけど、突然のことではあったわね。軍部側にも何かきっかけがあったのかしら」
「ヒガが死んだから、かもね」
「ヒガ? 軍部を司る元老院が? ……死んだの?」
「そう。まあ、詳しい話は後だ。今はここから離れた方が良いんじゃない? いつ見つかるかもわからないし。ギルさん、大丈夫ですか?」
僕は壁際のギルさんに聲をかけた。
ギルさんは固く閉じていた目を開けて、自嘲気味に笑った。
「私もヤキが回りましたな。殺し合いの中で迷いを捨てきれなかったとは。お嬢さんと同じ顔をしている敵を―――討つのを躊躇いました。おかげでこのザマですよ」
「仕方ないですよ。僕だって一瞬騙されかけましたし。それよりギルさんが無事でよかったです。危うく炊事とか洗濯をやってくれる人が居なくなるところでしたから」
「この様子じゃあ、どうやら召使いを本職にした方がよさそうですな」
「僕もそっちの方が向いてると思いますよ」
ギルさんが笑い、僕もそれにつられて笑った。
まだまだ死なないな、この老人は。
「……さて、ミアお嬢様。私はもう大丈夫です。先を急ぎましょう」
ギルさんが壁を支えに立ち上がる。
「分かりました。では、行きましょう。……いつまで寢ているつもりなの、エヌ」
倒れこむエヌの脇腹に、ミアが容赦ない蹴りをぶち込む。
うっ、と一聲いて、エヌが起き上がった。
「久しいなミア。俺の力が必要になったのだろう? 喜んで手を貸そう」
「今はまだあなたにやってもらうことはないわ。とりあえず、黙っていて」
「……冷たいな。の再會ではないのか? 三年も牢獄に閉じ込められていた俺にねぎらいの言葉は?」
「黙れ(・・)って言ったのが聞こえなかったかしら?」
「…………」
ミアに凄まれ、エヌはようやく口を閉じた。
可哀そうに、エヌ。
だけど君のことがちょっと鬱陶しかったのは僕も同じだ。
というか、ミアのイライラが全部エヌに向かっているから、僕が邪険に扱われずに済んでいる。
……なんかごめんね、エヌ。
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