《外れスキル『即死』が死ねば死ぬほど強くなる超SSS級スキルで、実は最強だった件。》赤錆の非リア その⑥
※※※
「ここに來るのは、三年ぶりか……」
研究所の見た目は三年前のままだった。
あの石造りの小さな建が、僕の記憶のままの姿で立っている。
「軍部の人たちの抵抗があるかと思ったけど、そんなことなかったんだよ」
「護衛もつけないなんて不用心だよな。それとも、マショウさんたちが護衛代わりだったのかな」
「分からないけど、ラフィ様も一応元老院なんだから、護衛をつけないように権力を使ったのかもしれないんだよ」
「どちらにせよ、ここへってあの人に會ってみれば分かるってことか」
「そういうことなんだよ」
「……ねえツヴァイちゃん」
「どうしたんだよ、お兄様」
「僕と君でまともな會話をしてると、なんか鳥が立つんだけど」
「奇遇だねお兄様、実はあたしも中がぞわぞわして仕方ないんだよ」
「まったく、お互い嫌な質を持ったものだね」
「完全に同意なんだよ」
「えーと、ツヴァイちゃんの今日のパンツのは……」
「おっとお兄様、そんな妄想はまるっきり無駄なんだよ」
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「え? どうして?」
「だってあたし、下著は履かない主義だから」
ああ……。
そういえばそうだった。
さて、そろそろ鳥も収まって來たころだし、肝心の研究所へ乗り込むとするか。
近づいてみると、研究所はあちこちに攻撃をけたような跡があった。
僕が昏睡している間に軍部の襲撃をけたのかもしれない。
指紋認証システムも破壊されていて、鉄の扉は半開きの狀態で停止していた。
僕はそれを力づく手こじ開け、エレベーターのスイッチを押した。
こっちはまだ作していた。
「途中で止まったら嫌だなあ」
「多分大丈夫なんだよ。あの人たちもこれがないと研究所に出りできないだろうし、整備はちゃんとやってると思うんだよ」
エレベーターの扉が開き、僕らは中へ足を踏みれた。
床がき、ぐっと押し上げられるような覚に襲われる。
この先に――ラフィさんが居る。
はず。
「……やっぱり手薄すぎるよな」
「どうしたんだよ、お兄様。また真面目な話がしたいの? そんなことよりの子のふくらはぎについて議論を深めようよ」
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「お互いに品を貶め合うのはやめようよツヴァイちゃん。僕が言いたいのは、一応警戒しておかないと萬が一の事態に対処できないってことさ。君のクローンが大挙して攻めてきたらどうするんだよ」
「それに関しては安心していいと思うんだよ。研究所の中で戦闘ってことになればラフィ様たち側からしても被害が大きくなりすぎるんだよ」
「被害?」
「々と値段の高い研究機とかもあるみたいだし、何より……さっき倒して來たあの二人以上にラフィさんが信頼している味方もいないんだよ。だから大丈夫。それよりもお兄様」
「なんだい、ツヴァイちゃん」
ツヴァイちゃんの死んだ魚みたいな目が僕を見上げている。
「ラフィ様と會ってどうするつもりなんだよ。素直に壁の解除方法を教えてくれると思ってるわけ?」
「……素直に教えてくれないのか?」
「さあ、それはあたしに訊かれても分からないんだよ。ラフィ様が素直なのは、自分の求とか目標とか、ああいうものにだけなんだよ……ミアお姉ちゃんと同じで」
「…………」
ミアとラフィさんが似ている?
確かにそうかもしれない。
ミアも、自分の理想とする世界のためにいて來た。
なら、あの二人の違いは?
―――それは、魔法という強大な力を使うことができたか否か―――という點になるのかもしれない。
電子音が鳴ってエレベーターが停まり、目の前のドアがひとりでに開いた。
「さあ、行こうお兄様。きっと向こうもお兄様を待っているんだよ」
「その前にツヴァイちゃん、君に聞いておきたいことがある」
「何、お兄様? 決斷と行の遅い男は嫌われるんだよ?」
「どうして君は僕を助けてくれたんだ? 本當なら君はラフィさんたち側の人間だろ?」
僕が言うと、ツヴァイちゃんは骨に嫌な顔をした。
「お兄様もそんなことを訊くの? 今のあたしはお兄様の味方をしてるんだから、理由なんてどうだっていいことなんだよ」
まあ、それはそうか。
余計なことを訊いてしまったかもしれない。
「僕もちょっと神経質になってるのかもな。忘れてよ」
「そう言うなら忘れてあげても良いんだよ。だけど、さっきの質問に答えるなら……お兄様を殺すのはあたしじゃなきゃダメなんだよ。ラフィ様たちでも、ミアお姉ちゃんでもなく、あたし。それまでは絶対に死なせないんだよ」
「……善処するよ」
いつの間にヤンデレ屬をに著けたんだ!?
ツヴァイちゃん―――恐ろしい子!
※※※
「お久しぶりー、ラフィです」
ぐしゃぐしゃの金髪。
病的に白い。
灰の瞳。
ずれた眼鏡。
薄汚れた白。
三年前と全く同じ様子で、ラフィさんは僕らを待っていた。
これもまた三年前と同じように、応接室で。
「単刀直に言います。首都を囲む壁を解除してください」
「相変わらずえーくんはせっかちだねー。三年ぶりの再會なんだからさ、しはゆっくり話そうよ」
「そんな時間は無いんです。こうしている間にも僕の仲間が軍部と戦ってるんだから。ミアだって……」
「その言い方だと、もう私たちは君の仲間じゃないのかな?」
「壁を解除してくれないのなら、そうなります。ここに壁の制裝置があるんですよね?」
ラフィさんが目を細める。
その視線は僕ではない、どこか遠くを向いているような気がした。
「もちろんあるよ。君がむのなら、解除してあげるよ」
「……やけにあっさりしてますね?」
「あれ? もしかして気にらなかった?」
「そういうわけじゃないですが、何か裏があるんですか?」
「もちろんあるよ。とりあえずは、私の話を聞いてもらう。それが第一條件だ。ほらほら、座って。ツヴァイも」
そう言ってラフィさんは、僕らにソファに座るよう促した。
僕は大人しくそれに従い、ツヴァイちゃんも黙ったまま僕の隣に座った。
「で、話って何ですか? 手短に済む話で、なおかつ僕に分かるような話だと良いんですけど」
「そんなに難しい話じゃないから安心しなよ。スキルと魔法についての……ちょっとした昔話さ」
「昔話?」
「そうそう。昔々、スキルも魔法も使えない一人の人間がいました。その人間はそれらの能力を凌駕するさらなる力を求め、人を研究し―――スキルが脳に発生する異常現象であることを突き止めた。この異常は魔導王國グラヌスの支配域に居住する人間に多く見られ、その脳異常が何らかの影響をけることによって『スキル』と呼ばれる超常現象が発言する……いいかなえーくん、君たちの使うスキルっていうのは脳の異常なんだ。君たちは普通の人間じゃないんだよ」
「……何を言い出すかと思えばそんなことですか。僕が普通じゃないなんてこと、僕が一番わかってますよ。――こんなことを自分で言うのもちょっと恥ずかしいですけどね。それともなんですか、ラフィさんは自分が普通だって言いたいんですか?」
青白い顔でラフィさんが微笑む。
「まさしくその通りだよ(・・・・・・・・・・)、えーくん。魔法もスキルも、脳の異常、人の特異な使い方なんだ。普通(・・)の人間ならそんなことはしない。異常者は君たちの方なんだ。それなのにこの國においては、魔法やスキルが使えなければ並の人間とさえも認められない。……魔導學校を卒業してすぐの君のようにね」
言われてみて、思い出す。
僕がスキルも魔法も使えないと分かった瞬間、人並み以上の暮らしが約束されていたはずの僕の未來が失われたことを。
「同がしいんですか?」
「そんなものしくないさ。私がしかったのは、今まで私たち(ふつうのにんげん)を見下して來た能力者や魔法使いたち(いじょうしゃ)を躙し、服従させるだけの力だよ。私はそのために命を懸けて來たんだ。どんなことでもやった――數十、數百の人間を解剖した――えーくん、君も人殺しを自稱しているみたいだけど、人間を殺した數だけなら私も負けてないよ。もっとも、彼ら彼らの死はスキルや魔法の正を解明するための重要なサンプルになったけどね。そういう意味では死んでいないのかもしれない。あの子たちの命は私の研究の中でまだ生きてるんだから」
養護園と呼ばれた、孤児院があった。
そこではい子供たちが暮らしていて―――そして、実験の材料となっていた。
「元々あなたのことを心から信頼していたというわけでもないですけど、面と向かって言われると気後れしますね。ラフィさん、僕がロリコンだったら今この瞬間あなたを殺してますよ」
「あはっ、その場合君たちは永遠に首都の壁を突破できないことになるね。それでいいならそうするといい。一つだけ付け加えると、養護園の子供たち全員を研究材料にしていたわけじゃないよ。私が脳にメスをれた(・・・・・・・・・・)のは、スキルや魔法に適を持った子供たちだけさ。他の子にとっては、普通の孤児院だっただろうね。どちらにせよ、拒絶反応がなく適応力の高い子供の検がしかったっていうのは間違いないことだけど」
ツヴァイちゃんはラフィさんとミアが似ていると言ったけれど、ようやく確信が持てた。
この人はミアとは違う。
ラフィさんは能力者や魔法を使える人をどうやって超えるかを考えたのだろうけれど、ミアならどんな人が優れていてどんな人が劣っているかなんていう世界の価値観や枠組みを壊すことを目的にするだろうから。
だけど―――それはやはり、ミア自が強力な魔法を使える人間だから、なのかもしれない。
次回の更新は3月15日です!
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