《【書籍化&コミカライズ】関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました》人気者の王太子と嫌われ者の公爵令嬢

「……それは本當にアーネストさまがおっしゃっていたことなんですか?」

ビアトリス・ウォルトン公爵令嬢は、振り返って問いかけた。

聞こえよがしに口を叩かれるのはいつものことだが、今しがた耳にした容は、さすがに聞き流せるたぐいのものではなかった。

「え、ええ本當ですわよ。ビアトリスは実家の力で強引に俺の婚約者におさまったんだ、俺がんだことじゃないって、殿下ははっきりそうおっしゃってましたわ!」

訊かれた揺しつつも、勝気な口調で返答した。本來なら格上の公爵令嬢、それも王太子の婚約者と対峙している気おくれと、しょせんは學院の嫌われ者じゃないかという侮りがないまぜになった表だ。

「そうですわ。私もはっきり聞きましたもの」

一緒に口を叩いていた他のたちも加勢する。

「ビアトリスにはいつも付きまとわれて迷してるっておっしゃってましたわ」

「俺はもっと溌溂として可い娘が好きなんだともおっしゃってました」

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「できるものなら婚約解消したいけど、あいつが俺に執著してるから無理だって――」

「分かりました。貴重な報を教えて下さって謝します」

ビアトリスは深々と頭を下げると、あっけにとられたたちを一瞥もせず、足早にその場をあとにした。

にこみ上げてくるのは彼らへの怒りではなく、言いようのないやるせなさだ。

付きまとわれてる、は聞き飽きた。

してる、だけならまだ良かった。

今までだって似たようなことはさんざん言われてきたからだ。

しかし「強引に婚約者におさまった」だけは聞き捨てならない。

だって婚約を打診してきたのは、紛れもなくアーネストの方なのだ。

ビアトリスが第二王子アーネストと初めて會ったのは八歳のとき、王妃主催のお茶會の席でのことだった。

金の巻きに青い瞳の年に優しく笑いかけられて、ビアトリスは一目でに落ちた。招待された令嬢は他にもいたが、アーネストはビアトリスを一番優先してくれて、時間のほとんどをビアトリスとのおしゃべりに費やした。

二回目のお茶會では、アーネストはビアトリスに手を差し出して、薔薇園をエスコートしてくれたし、三回目は二人でお茶會を抜け出して、王宮庭園の奧にあるの場所へと連れて行ってくれた。

そして四回目のお茶會の翌日に、ビアトリスは父公爵から「王家からお前をアーネスト殿下の婚約者に迎えたいとの打診があった」と聞かされたのである。

「まだ正式な申し込みじゃないから、お前が嫌ならお斷りしても構わないよ」と言う父に対して、ビアトリスは迷うことなく「私は殿下と結婚したいわ!」と即答した。何故ならビアトリスはアーネストが大好きだったから。そしてアーネストの方も自分が好きだと心から信じていたからだ。

ウォルトン公爵家は王家の申し出を承諾し、い二人は晴れて正式な婚約者同士となった。

「婚約者になったんだから、これからは殿下じゃなくてアーネストって呼んでほしいな」

「分かりました。じゃあ私のことはトリシァって呼んでください……アーネストさま」

「分かったよ、トリシァ」

そんな初々しいやり取りをわしたことを、今も鮮明に記憶している。

それからほどなくして第一王子クリフォードが病死したため、アーネストは王太子となり、ビアトリスは將來の王妃になることが決定した。

王妃教育は大変厳しいものだったが、いずれアーネストの隣に並び立つためだと思えばやりがいもあった。また指導が終わるころにはいつもアーネストが會いに來てくれて、二人でお菓子を食べながら、將來のことを語り合い、お互いに勵まし合ったものである。

思い返せば、本當に幸せな日々だった。

そんな二人の関係に暗い影が差し始めたのは、一いつからだったろう。きっかけは特になかったと思う。いやあったのかもしれないが、なくともビアトリスは気づかなかった。

いつの間にやらアーネストはビアトリスに対してほとんど笑いかけなくなり、ビアトリスがあれこれ話題を振ってみても、「ああ」とか「うん」とか、面倒くさそうな返事をするようになった。

やがて二人は十二歳になって王立學院に學したが、彼の態度はますますひどくなる一方で、人前でもビアトリスを疎んじる態度を隠そうともしない。

そのくせ他の生徒にはかつてのような人當たりの良い王子さまぶりを発揮するので、一般生徒たちからの人気は絶大なものとなり、それに呼応するように、「王太子に嫌われている婚約者」であるビアトリスは孤立していった。

あのお優しい王太子殿下に嫌われているくらいなのだから、ビアトリス・ウォルトン公爵令嬢とはよほど嫌な人に違いない、というわけだ。

ビアトリスが関係修復のために懸命に努力したことも、彼にとって悪い方に作用した。

ことあるごとにアーネストと接を試みるビアトリスと、その度にすげなくあしらうアーネストの構図は、一般生徒にとっては格好の見世となり、いつしかビアトリスは公然と笑いものにしていい存在へと墮ちていった。

「まあ追いかけ回してみっともないこと」

「迷がられているのが分からないのかしら」

「アーネスト殿下がお気の毒ね」

聞こえよがしに嘲笑される日々はビアトリスの心をじりじりと疲弊させていく。

それでも「自分はまれて婚約者になったのだ、今はこじれているけど、きっとまた元のように笑い合える関係に戻れるはずだ」という希がビアトリスを支えてきたのだが、今しがたのやりとりで、それすら木っ端みじんに打ち砕かれた。

実家の力を使って、強引にアーネストの婚約者におさまった公爵令嬢ビアトリス・ウォルトン。

アーネストがそう思っているのなら、彼にとってはそれが真実なのだろう。

彼の中には、かつて睦まじかった記憶すらすでに存在しないのだ。

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