《【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われたの手を取り、天才魔師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔師に溺される)》エヴェレット家の
誤字報告をありがとうございます、修正しております。
モリーに案されて來たマーベリックの顔を見て、ヴィンセントは頭を掻いた。
「まさか兄さん自ら迎えに來てくれるとは、思いませんでしたよ。……まあ、家族思いの兄さんらしいですけどね」
「ヴィンス、お前、大丈夫か?
死んでも不思議じゃない狀況だったと聞いて、さすがに慌てたぞ。お前なら大丈夫だとは思ってはいたが、聞いていた狀況に比べると、大分合は良さそうだな。……魔討伐もお前に任せきりになってしまって、すまなかった」
「いや、兄さん、何を言っているんですか。私は魔師団長なのですから、當然の務めです。まあ、今回は多失敗してしまって、危ないところでしたが。兄さんなら、あんな魔法のコントロールのミスはしないでしょうね。
……それより、興味深いことがありましてね。私を助けてくださったのは、この家のお嬢さんなのですがーー楚々とした、可らしい方でしたよ。私のこの顔を見ても目のを変えなかった、珍しいでしたーー、彼に手當てをしてもらってから、兄さんが弟のレノについて言っていた言葉は、確かに本當なのかもしれないと、そう思ったのです。今までは、半信半疑でしたけれどね」
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「つまり、それは……。
いや、また後で改めて話を聞こう。それで、そのご令嬢は?」
「ちょうど、先程れ違いでこの家を出られたところです。その前にご挨拶だけしたのですが、この禮はきちんとしたいところですね。本當にお世話になったので」
「そうだな。その方がいい」
2人の會話を聞いていたモリーが、遠慮がちに口を開いた。
「あの、お嬢様は、もうこの家には……」
モリーは、はっとイリスとの約束を思い出し、言いかけた言葉をもごもごと飲み込むと、決まり悪そうにし視線を伏せた。
「しばらく、戻られないかと存じます」
「そうか。なら、また時間を置いてから禮に來よう」
「いえいえ、お気遣いなくと、お嬢様も申しておりましたので」
モリーが、もしイリスがこの家を出たと本當のことを言ったなら、きっと驚くであろう彼らに次に聞かれるのは、イリスが「どの家に行ったのか」だろう。口に出すべきか出さざるべきか、どちらがイリスのためになるのかを考えたけれど、イリスが向かった先を口に出したら、明らかに彼との約束を反故にすることになると思ったモリーは、結局口を噤むことにしたのだった。
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***
「ここが、エヴェレット家……」
クルムロフ家も、それなりに規模の大きな屋敷だったけれど、ここはさらに數段立派な家のようだと、馬車を降り立ったイリスは屋敷を囲む壁を見回しながら思った。
イリスは、厳然とした様子の、大きな開かれた門戸を見上げながら、一つ深呼吸すると、背筋をしゃんとばして、レベッカへの取り次ぎを頼みに、門番に聲を掛けに向かった。
「こんにちは。
私、こちらの家の侍長のレベッカさんとお約束している、イリスと申します。
レベッカさんを呼んでいただくことは……」
そこまで話した時、門戸の向こう側からイリスに向かって、ふくよかなを揺らして駆け寄って來る、懐かしい姿が見えた。
「お久し振りでございます、お嬢……イリス!
待ちわびていましたよ。まあ、大きくなって」
ふっくらとしたレベッカの両腕にぎゅっと抱き締められて、イリスはにっこりと笑った。
「レベッカ!本當に、久し振りね。會いたかったわ。元気そうでよかったわ」
イリスは門番に會釈をしてから、レベッカと一緒に大きな門戸をくぐった。
レベッカは、長したイリスを眩しそうに見つめてから、イリスに屋敷までの道を案した。屋敷に著くと、お茶をイリスに勧め、イリスの今までの環境を慮って、そっと眉を下げた。
「モリーに聞きましたよ。
……あの家を、あんな後から來た人たちに乗っ取られるなんて、さぞかしお悔しかったことでしょう。あの人たちの酷い振る舞いは、想像しても余りありますから。
……モリーや、ほかの使用人たちも、心の中ではお嬢様の味方をする者が多かったと思いますが、それを表に出してしまうと首を切られるというので、皆びくびくしていたようです。とてもお辛い立場でしたね」
「私こそ、レベッカにもみんなにも、苦労をかけて、悪いことをしてしまったわね。
……私のことはもういいのよ。できれば、侍としての新しいスタートを、この場所で切れたらと思っているの。もう、過去のことは忘れたいしね」
「クルムロフ家の侍の中にも、あの主人には耐えられないと、ほかの勤め口を探す者がちらほら出ていると聞いていたので、このエヴェレット家の勤め口の話も、モリーに伝えていたのですが。まさかお嬢様……いえ、イリスがここに來るとは、驚きましたよ。
本當に、侍として働くということでよろしいのですか?」
「ええ、是非お願いしたいわ。私に出來ることなら、何でもするから。
私、魔法も使えないし、魔師の娘として生きて行くのも、息苦しいところがあったの。モリーたちに教えてもらった侍の仕事はに合っていたし、これからは普通の侍として生きていけたら、その方が私自も幸せかなと思っているのよ」
「ご覚悟があるようですね、そういうことでしたらわかりました。
……モリーに聞いているかもしれませんが、この仕事は、一般的な侍の仕事とは、し違った容なのです。平たく言うと、このエヴェレット家の末弟、レノ様のお世話係です」
「レノ様という方の、お世話係?」
不思議そうに目を瞬いたイリスに、レベッカは頷いた。
「ええ、そうでございます。
エヴェレット家には、3人の兄弟がいらっしゃいます。天才との呼び聲の高い長男のマーベリック様、この國の第一魔師団長を務めるヴィンセント様、このお2人はお名前が國中に聞こえているので、ご存知でしょうか。
それから、あまりこれは知られていないかと思いますが、実はあともうひと方、お二人とは歳の離れた末の弟君がいらっしゃるのです。それがレノ様で、年は數えで8歳です。
マーベリック様もヴィンセント様も、それはレノ様を可がっていらっしゃいますよ。特に、長男のマーベリック様は、ご両親亡き後ーーイリスとも、環境が似ているかもしれませんねーー、レノ様の親代わりとして、レノ様のことをそれは大切に育てていらっしゃいます。いくつかの隊からの魔師団長のいを斷っているのも、レノ様と過ごす時間を確保するためだとも言われているのですよ。実際、団長にでもなれば、屋敷に帰れない日が大半になりますから、きっとそれが実際の理由なのだろうと、私も思っています。
……ですが、レノ様に會われる前に、イリスに伝えておかなければならないことがあります」
急に真剣な眼差しになったレベッカは、じっとイリスの瞳を見つめた。
「第一に、レノ様のお姿を見ても、驚かないこと。
第二に、レノ様が不思議なことを仰っても、否定せずに真摯に耳を傾けること。
もし、これが難しいとお思いでしたら、この仕事は辭めてくださって構いません。現に、殘念ですが、過去何人もの侍が辭めてしまっているのですよ。
それから、レノ様は調を崩されることも多いので、そのような時には彼につきっきりで看病していただかなければなりません。
仮に、この家の侍を辭すことになった場合、この家でレノ様について見たこと、聞いたことは他言無用です。
これが、この家で働いていただくに當たっての條件になります。よろしいですか?」
(これが、モリーの言っていた、訳ありということなのかしら)
イリスには、それが難しいことには思われなかった。むしろ、子供好きなイリスには好ましい仕事に思えた。
「ええ、わかったわ。
あの、注意すべきところはそれだけかしら?」
「はい。早速ですが、住み込みの侍用の部屋に荷を置いて、服を著替えていただいたら、レノ様のところに參りましょうか。
もうし説明を加えておくと、ちょっと言葉は悪くなってしまうかもしれないのですが、その、レノ様は……異形というか、し変わった見た目をしていらっしゃるのと、うわ言のように、私たちには見えない何かがそこに存在しているかのように呟かれることがあるのです。
そんなレノ様を怖がったり、気味悪がったりする侍が多くて、なかなか人が定まらないのですよ。あと、おかしなことが起きると怯えていた侍も過去にはいましたね。
……でも、々と言われてしまうこともありますが、レノ様はとても良い子なのですよ」
(まあ、そんな理由が……)
イリスは、レノの心中を想像して、きゅっとが痛くなった。まだほんの子供なのに、きっと今まで辛い思いをしてきたに違いなかった。生まれ持った見た目など選べないし、さらに自分の言葉で周囲が気味悪がってしまうなんて、彼の小さな心はどれ程傷付いたことだろう。義母や妹から心ない言葉を浴びせられ、傷付く機會も多かったイリスには、レノのことが何だか他人事には思えなかった。
「ええ、早くお會いしたいわ」
イリスは小さな荷1つを當てがわれた部屋に置き、侍用の紺のワンピースに著替え、白いエプロンをに著けてから、レベッカの後をついて行った。どうやら、屋敷の一角にある、離れの建に向かっているようだ。
離れの扉を開ける前に、レベッカがイリスを振り返って、もう一度念を押した。
「……先程お話したこと、よろしいですね?」
「勿論、承知しているわ」
し張を滲ませたレベッカだったけれど、イリスの言葉に頷くと、目の前の離れの扉を開けた。
「レノ様、失禮いたします」
イリスは、薄暗い部屋の奧で、左手にある機に向かって椅子に座っていた年に向かって挨拶をした。
「こんにちは、レノ様。初めまして」
「こんにちは。……あなたが、新しい人なの?」
(……!)
イリスは、ゆっくりとイリスの方を振り向いたレノの姿に、こくりと唾を飲み込んだのだった。
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