《【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われたの手を取り、天才魔師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔師に溺される)》マーベリックの視線
誤字報告をありがとうございます、修正いたしました。
レノと庭で過ごしているうち、いつしかあっという間にが落ちて、辺りに薄闇が下り、寒くなってきたことにイリスが気付いたのと、レノが小さくくしゃみをしたのが同時だった。
「くしゅん」
イリスは、慌てて自分の肩にかけていたストールを外すと、レノにふわりと被せた。
「レノ様、ごめんなさい。すっかり冷えてまいりましたね。そろそろ離れの中にりましょうか」
「うーん、もっと遊んでいたいけど……。
楽しいと、時間てすぐに過ぎちゃうんだね?」
「そうね、私も同じことを考えていたわ。
でも、レノ様が風邪でも引いてしまったら、元も子もないですから。しばらくベッドでけなくなっても困るでしょう?
また明日、一緒に遊びましょうね」
「はあい」
離れに戻り、室に燈りを燈すと、遊び疲れた様子でソファーに寢転がったレノに、イリスはにこりと笑い掛けた。
「たくさん遊んで、しお疲れのようですね。
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これから、夕飯の支度をしてまいりますから、し待っていてくださいね」
頷いたレノを背にして、イリスは本邸の方に向かって行った。
ちょうど裏口から屋敷にったところで、聞き慣れたレベッカの聲が聞こえた。
「あら、イリス、今戻ったのね。
レノ様の様子は、どうでしたか?」
「レノ様、とっても可くて。遊んでいたらあっという間に暗くなってしまったわ」
「まあ、それは嬉しい報告だわ。
今まで、逃げ帰るように離れから戻って來る侍も多かったから……」
(あんなに、素直で可いのに……)
レノのことを思って表に影の差したイリスの肩を、レベッカは元気付けるように叩いた。
「これから、イリスがレノ様をたくさん笑顔にして差し上げればいいのよ。ね?
さて、そろそろ、お夕食をレノ様のところにお持ちしてしいと思っているのだけれど、いいかしら。
まだ、屋敷はそれほど案していなかったわね。これから調理場に行って、お夕食を離れまで運んでもらったら、その後で、これからの仕事に備えて、一通り屋敷を案しましょうか」
「ええ、どうもありがとう」
2人が調理場にると、ちょうど鍋の火を止めた若いに、レベッカが聲を掛けた。
「ソニア!紹介するわね。こちら、今日からったイリス。レノ様の擔當よ」
「初めまして、イリスと申します」
イリスが頭を下げると、ソニアが、そばかすの散った顔に人の良さそうな笑みを浮かべた。
「まあ、あなたが次のレノ様擔當なのね!
私はソニアよ、よろしくね。
……脅す訳じゃないけど、今までレノ様を擔當した侍は、みんな長くは続かなかったのよねえ。イリスは頑張ってね!
お食事をレノ様にお持ちするのよね?もう夕食の準備はできているから、お皿によそって貰えるかしら」
「わかりました」
頷いたイリスに、レベッカが笑い掛けた。
「ソニアはここではもうベテランだから、わからないことがあれば彼に聞くといいわ。
私もしばらくこの辺りにいるから、また戻ったら聲を掛けてちょうだい」
「はい」
イリスが盆にレノ用の料理を盛った皿を乗せて準備をしていると、ソニアが興味津々と言った様子でイリスに尋ねた。
「ねえ、イリスは、もうマーベリック様にはお會いした?」
「いえ、まだお會いしてはいませんわ」
「あ、私には敬語じゃなくていいから。歳も割と近そうだし、遠慮は要らないからね?私のことはソニアって呼んで」
「ありがとう、ソニア」
イリスがにこりと笑うと、ソニアがうっとりとした調子で続けた。
「……マーベリック様、もの凄く綺麗なお顔をしていらっしゃるのよ。それはもう、信じられないくらいに。いつもはフードを目深に被っていらっしゃるから、あまりお顔を近くで見る機會もないのだけれどね。
末の弟のレノ様のこと、とても可がっているから、もしかしたら、他の使用人よりもマーベリック様に會う機會も多いかもね。ふふ、役得だと思うわ。
次男のヴィンセント様もおしいのだけれど、お仕事が余程お忙しいらしくて、ほとんどこの家には帰ってらっしゃらないのよ」
「……ソニアは、レノ様のことを知ってる?とっても素直でいい子なのよ。私は、レノ様の側で彼のお世話ができたら、それで十分だわ。いつか、マーベリック様にもご挨拶できればとは思っているけれど」
「それはいい心がけね!
……レノ様、ほとんど離れに籠りきりだから、殘念だけど、ちらっとお見掛けしたことくらいしかないのよ。
でも、イリスみたいな子が來てくれて嬉しいわ。あなたなら、長く続きそうな気がする。今までのレノ様付きの侍には、どこから噂を聞きつけたのか、マーベリック様にお近付きになりたくて來たような人も多かったみたいなのよ」
「まあ、そうだったの……」
「あ、ごめん、つい話し込んじゃって。イリスの邪魔をしちゃったわね。
冷めないうちに、レノ様のところにお夕食を持って行って差し上げてね。また、改めてゆっくりお話しましょう?
それに、何かわからないことがあれば、いつでも聞いてね」
「ええ、また是非。ありがとう、ソニア」
話しやすい雰囲気の、親切そうな侍仲間のソニアの存在を嬉しく思いながら、イリスはレノの夕食を乗せた盆を持って、急ぎ足で離れへと向かって行った。
***
イリスが離れのドアをノックすると、中からどうぞとレノの明るい聲が返って來たので、イリスはそっとドアを開けた。
「レノ様、お夕食をお持ちしましたよ……」
そう言って微笑んだイリスは、レノの橫にもう1人、男がいることに気が付き、はっと固まった。
レノは、にっこりと嬉しそうにイリスに笑い掛けると、隣に座る男に話し掛けた。
「イリス、ありがとう!
……兄さん、彼がイリスだよ。今日、いっぱい一緒に遊んでもらったんだよ」
「それは良かったな」
優しい微笑みをレノに向ける男の、驚くほどに整った容貌を見て、そしてレノの言葉を聞いて、イリスは彼が誰かを理解した。
テーブルの上にレノの夕食を乗せた盆をいったん置くと、慌ててイリスは男に向かって頭を下げた。
「初めてお目に掛かります、マーベリック様。今日からレノ様付きの侍になった、イリスと申します」
「そうか。イリス、レノをよろしく頼む。
……それから、今日はレノと一緒に夕食をとりたいと思っているんだ。すまないが、俺の分の夕食もこちらに用意してもらうことはできるだろうか」
「はい、勿論です。すぐにご用意してお持ちしますね」
今はレノと話していたからか、フードを被ってはいないマーベリックは眩しい程にしく、イリスは戸って思わず目を伏せた。
その時、レノが、何かを思い付いたように、嬉しそうにぱっと顔を輝かせた。
「そうだ、イリスも一緒に夕食を食べない?
僕、イリスもいてくれたら嬉しいな。
ね、兄さん、いいでしょ?」
イリスはレノの言葉に、慌てて首を橫に振った。
「いえいえ!
せっかくの、ご兄弟水らずの時間なのですから、私がお邪魔をするには及びませんわ。
それに、私はこれから、今後のお仕事のために、お屋敷の中を侍長に案してもらう予定なのです。
ですから、レノ様のお気持ちだけ、ありがたくいただいておきますね」
「……そっか、殘念。
また今度、イリスの都合が良い時に一緒に食べようね?」
「ええ、レノ様。ありがとうございます。
……では、マーベリック様のお夕食だけ、すぐにお持ちしますね」
一禮してから、ぱたぱたと出て行くイリスの背中を、マーベリックはレノと見送った。
マーベリックは、鋭い視線でイリスを観察していた。
(……今までと、真逆だな……)
マーベリックが今までに出會った侍たちは、マーベリックに會うと喜を浮かべ、何とか彼に近付こうと苦心している様子が窺えたけれど、レノには、どこか怯えたような視線や、耐えるような視線を向ける者が多かった。
けれど、たった今離れを出て行ったイリスは、レノに対しては心からの溫かな笑顔を向けていたのに、マーベリックからは恥ずかしげにすいっと視線を逸らせてしまった。
夕食のいも、今までの侍たちならば、恐らく喜んで乗って來ただろう。……ただし、レノが夕食に侍をったのは、これが初めてだったけれど。まだ出會ったばかりだというのに、レノがすっかり心を開いてイリスに懐いている様子に、マーベリックは心驚きつつも、心が溫まる思いだった。
(……イリス、か。興味深いな)
しして、イリスがマーベリックの夕食を離れに運び、食卓の準備を終えてから部屋を出ようとしていると、マーベリックがイリスに聲を掛けた。
「イリス、ちょっと待って?」
「……はい?」
マーベリックの聲に振り返ったイリスのところに、彼が立ち上がってゆっくりと近付いてきた。立ち上がるマーベリックの仕草も優雅で、イリスはどぎまぎとしていた。
イリスの目の前に立ったマーベリックは、ふわりとイリスの髪にれた後、イリスに視線の高さを合わせるようにしを屈めた。アイスブルーの澄んだ瞳が、イリスをじっと見つめている。
「これ、君の髪に付いていたから」
マーベリックの指先には、一枚の白い花弁が見えた。きっと、イリスがレノと中庭で過ごしていた時に髪に付いたものだろう。
(うわあっ。ち、近いっ……!)
イリスは、あまりに麗な顔が間近に見えることに、顔中にかあっとが上るのをじながら、急いでぺこりと頭を下げた。
「あ、すみません。
わざわざ取ってくださって、ありがとうございます……!」
真っ赤な顔で部屋を出て行くイリスを見て、マーベリックは楽しげな笑みをその口元に浮かべていた。
レノが、マーベリックを見上げて首を傾げた。
「兄さんも、イリスのことを気にったの?」
「……レノ、どうしてそう思うんだい?」
「だって兄さん、いつも、の人には、話し掛けられてようやく、必要最低限を話すくらいじゃない。なのに、イリスには自分から話し掛けてたし。
……それに、あれくらいの花弁なら、兄さんの風魔法で吹き飛ばすことだって簡単でしょう?
それなのに、わざわざイリスの髪から、手で取ってあげてるんだもの」
マーベリックは、レノの問いかけに答える代わりに、その顔に笑みを浮かべたまま、レノの頭をそっと優しくでたのだった。
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