《【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われたの手を取り、天才魔師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔師に溺される)》ケンドールの悔恨

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病室のベッドにを橫たえていたケンドールは、室って來た婚約者ヘレナのしい顔を見上げた。

ケンドールが魔討伐の遠征で大怪我をしたこと、そしてしばらく治療のために王都の病院に院していることは、既にヘレナに伝わっているはずだったけれど、彼はすぐにはケンドールの前に姿を現さなかった。不安に苛まれていた中で、ようやく現れたヘレナの姿に、ケンドールはほっと表を緩めた。

「……どうして、すぐに來てくれなかったんだい?

ヘレナは、もう回復魔法は使えるのかな。できれば、僕の腕を治してしいんだけど……」

ケンドールは甘えを含む聲で、ヘレナに尋ねた。

けれど、ヘレナからは、ケンドールの言葉に対する答えの代わりに、問いが返された。

「……ケンドール様。

副騎士団長から降格なさるって、本當ですか?」

ヘレナの氷のような視線と険のある聲に、ケンドールの顔がすうっと青ざめた。

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「君は、誤解をしているんだと思う。

確かに、僕が元の通り回復するまでは、副騎士団長代理を立てるとは聞いているよ。

……けれど、団長は、僕が回復して、調子を取り戻しさえすれば、また副騎士団長に復帰できると……」

ケンドールの言葉は、半分真実で、半分噓だった。

ケンドールが以前のように目覚ましい果を上げることができれば、また副騎士団長に返り咲く可能が殘されていると、確かに騎士団長から言われてはいた。

けれど、ケンドールは、騎士団長の指示に従わず、獨斷でいて怪我を負ったことに関して厳重注意をけており、怪我で騎士団としての活を休む期間が長期に渡れば、ケンドールに代わって副騎士団長代理が、そのまま副騎士団長に昇格することになっていた。

醫者からは、利き腕に負った傷について、日常生活には支障は來さないだろうが、しっかりと剣を握れるまでに回復するには、相當のリハビリとかなりの月日を要するだろうと宣告されていた。さらに、日に日に力の衰えをじているケンドールにとって、副騎士団長の座を維持することは、もはや絶的だったのだ。

ヘレナは、ケンドールを冷ややかに見つめた。

「それから、さっきのご質問ですが。

回復魔法って、魔法の中でも最上級の難易度ですのよ、ご存知ないのかしら?なのに、まだ勉強中の私に使えるとでもお思いですか。

……仮に私に回復魔法が使えたところで、これほど恥ずかしい怪我の負い方をされたケンドール様に、使う義理はありませんわ。

勝手に騎士団長の指示に背いた結果のお怪我なんですってね」

青白い顔で押し黙ったケンドールの側まで歩み寄ってきたヘレナは、再度口を開いた。

「……ケンドール様に、お渡ししたいものがあるの」

「僕に……?」

「ええ。手を出してくださいますか?」

ったようにケンドールから差し出された掌に、ヘレナは左手薬指から、ケンドールから贈られた婚約指を抜き取ると、ぞんざいに置いた。

「これ、お返しさせていただくわ」

「どうしてだ……!?」

ケンドールは渡された婚約指をぐっと握ると、必死にヘレナに訴え掛けた。

「君は、あれほど僕に惚れ込んでいると、そう言っていたじゃないか……!

騎士に怪我はつきものなことくらい、君だって知っているだろう?すぐに、また上を目指して返り咲いてみせるさ。

お願いだ、ヘレナ。し冷靜になってくれ」

副騎士団長の地位を失うことが目前に迫って、自らに殘されたしい婚約者のヘレナだけでもと、なりふり構わず彼に言い縋るケンドールに、ヘレナは溜息と共に言い放った。

「……はっきり口に出さないと、わからないのかしら?

今の貴方様は、私には相応しくないのよ。

私、言ったでしょう?私はケンドール様の才能に惚れ込んだのだって。

でも、この前の魔討伐では、良い所なしだったどころか、死に掛けたところをマーベリック様に助けられたのですって?しかも、これから降格にまでなるのでしょう。

……そんな貴方様には、私の橫に立つ資格はありませんわ」

「待ってくれ、ヘレナ……!」

くるりとケンドールに背中を向けて病室を出て行くヘレナは、もう二度と彼のことを振り返ろうとはしなかった。

に震えるケンドールの脳裏に、イリスとの婚約を破棄した時に、彼に告げた言葉が甦る。

『君は、僕には相応しくない』

婚約者からその言葉を告げられることがどれほど殘酷なことか、ケンドールは逆の立場になって、ようやく気付いたのだった。

(自らの行いは、いつか必ず自分に返って來る、か……)

父の言葉が頭をよぎり、ケンドールは思わず両腕で頭を抱え込む。

同時に、どんな狀況でも、変わらずにケンドールを勵まし、そっと寄り添ってくれたイリスの溫かな笑顔が、が締め付けられるほどに懐かしく浮かんで來た。

(ああ、イリス。君の優しさ、溫かさに、僕はいつだって包まれていた。

それなのに、僕は、どうして君の手を放してしまったのだろう。

君はずっと僕を支え、どんな時でも味方してくれた。僕が辛い時には溫かく勵まし、僕が手柄を上げれば、まるで自分のことのように喜んでくれたというのに。

それなのに、僕はヘレナの上辺のしさと能力に目を奪われ、簡単に彼に心を移してしまった。

君が僕のせいで家を追われたと知っても、君の行き先すら、僕は知ろうともしなかった……)

ケンドールは深く首を垂れた。僅かに開いたケンドールの口からは、微かに咽び泣く聲がれ聞こえていた。

***

ケンドールに別れを告げ、病院の廊下を歩くヘレナの口元には、薄らと笑みが浮かんでいた。

(ああ、あんな、すっかり冴えなくなってしまったケンドール様と私では、まったく釣り合わないもの。早々に縁が切れてよかったわ。

……それに、ヴィンセント様からクルムロフ家に來た、あの手紙。あのヴィンセント様が、お禮を言うためにわざわざいらしてくださるなんて。助けられたというのは何のことかわからないけれど、もしかしたら、お姉様が介抱でもしたのかしら。

まあ、いずれにせよ、もうお姉様は家にいないのだし、関係ないわ。しかも、マーベリック様までいらっしゃるなんて……!

ケンドール様と婚約なんてしている場合ではないわ。このチャンス、絶対にものにしてみせるんだから……!)

ヘレナは、自らの貌に絶対の自信を持っていた。ヴィンセントの看病をしたのがイリスであり、ヘレナでないとわかったとしても、どんな男相手であれ、自分の類稀なるしさの虜にすることは容易いはずだと、そう信じて疑ってはいなかった。さらに、ヘレナは、この國でもごく僅かしか認められていない、魔法の能力者なのだ。こぞって男たちから請われて當然だと、そうヘレナは考えていたし、その裏付けもあった。……あれほど姉のイリスをしていたように見えたケンドールでさえ、自分の貌と才能に、あっという間に掌を返したのだから。

(マーベリック様もヴィンセント様も、どちらも素晴らしい才能と貌の持ち主だけれど。

やっぱり、天才の譽れ高きマーベリック様かしら?ケンドール様が失態を見せた、あの魔討伐でのご活躍も世に聞こえているし。

ああ、お會いするのが待ち切れないわ……)

ヘレナの口元に浮かんでいた笑みが顔中に広がると、その瞳が妖艶にった。

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