《【コミカライズ&書籍化(2巻7月発売)】【WEB版】婚約破棄され家を追われたの手を取り、天才魔師は優雅に跪く(コミカライズ版:義妹に婚約者を奪われた落ちこぼれ令嬢は、天才魔師に溺される)》手を取り合って
「兄さん、イリス、お久し振りです。
……こんなに活気のあるエヴェレット家も、久しく記憶にないような気がしますね」
ソファーに腰を下ろしたヴィンセントの橫から、レベッカが、紅茶のカップをテーブルに置きながらにこりと笑った。
「それはもう、マーベリック様とイリスの結婚式に向けて、家中が湧き立っておりますから。々の式とはいえ、私たちの大切な旦那様と、皆からされているイリスの結婚式ですもの、気合いがるのは當然ですよ」
ヴィンセントとテーブルを挾んで、並んで腰掛けていたマーベリックとイリスは、互いに目を見わすと、し恥ずかしそうに微笑んだ。イリスの左手の薬指には、マーベリックから贈られた、深く澄んだエメラルドがあしらわれた指が輝いている。
ヴィンセントは、目の前の幸せそうな2人の様子に、嬉しそうに目を細めた。
「イリス、あなたと家族になれるなんて、喜ばしい限りです。エヴェレット家の一員になってくださること、心から歓迎しますよ。
……正直なところ、イリスのようなを妻に迎える兄さんが羨ましいですが、さすがに、兄さん相手じゃ分が悪いですからね」
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「まあ、ヴィンス様」
「はは、私は勝てない勝負はしない主義なのですよ」
ヴィンセントが冗談めかしてイリスにぱちりとウインクをしてから、やや真剣な表に戻ると、マーベリックとイリスに対して口を開いた。
「今日私がここに來たのは、お2人の結婚のお祝いを申し上げるためと、もう一つ、兄さんが前に幻の能力と言っていたものについて、調べた結果をお伝えしたかったからです」
「何か、新しくわかったことが?」
「……まあ、それほどはっきりとしたことがわかったというほどでもないのですが。
魔師団の書庫で、古い歴史書を調べたところ、確かに、5つの魔法の屬以外にも、幻の屬と呼ばれる能力が存在したようです。ただ、その能力者の力と言うのも、人によって種類や幅があるようでしてね。一概には言えないようなのです」
「……ほう」
「ただ、共通する點としては。
まず、その能力は、兄さんが以前に言っていたように、直接的には目に見える魔法の形を取らないということ。一見、能力者かどうかがはっきりと目に見えてわからないところが、幻の能力と呼ばれる所以なのかもしれません。
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そして、この能力の持ち主は、太古の昔に、この國で神と崇められていた、幻の存在とされる竜から好まれるようなのです。さらに、竜と意思疎通する能力を持ち、それにより竜の力を使うことができる者もごく一握りいたと、そのような記載が殘っています」
「……レノのような場合か」
「恐らく、そうなのでしょうね。
そのようなごく數の者には、レノのように、普通の人間とは異なるや外観の持ち主が見られたようです。ただ、その能力はそのままに、そのような特殊な外観が、ある時突然消え失せた者もいたとの記述が殘っているのです」
「その部分のことを、詳しく聞かせてくれるか」
思わずを乗り出したマーベリックに、ヴィンセントが殘念そうに首を振った。
「兄さん、申し訳ないのですが、それ以上は、あまりはっきりとしたことはわかりませんでした。自らに対する能力の統率が十分に出來るようになると、そのような外観含めてコントロールできるようになると、どうやらそういうことらしいのですが。その的な鍵となるものが何かの記述までは、殘されてはいませんでした」
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「そうか。
……もしも、それをレノがコントロールできるようになれば、昔レノが験したような、他人からの視線や偏見による恐怖をじることはなくなると、そう思ったんだがな」
「そうですね……」
マーベリックの隣に座るイリスに、ヴィンセントは視線を移した。
「それから、イリス。あなたは、兄さんから、あなたの能力と思われるものについて、もう聞いていますか?」
「はい。私がマーベリック様のご無事をお祈りしていた時、マーベリック様が普段以上の力をじたと、私の祈りに何らかの影響力があるのかもしれないと、そのように伺いました。……私には特に自覚はないので、よくはわからないのですが」
「兄さんの見解は正しいと思います。私も、あなたに看病していただいて、の側から湧き出るような力をじましたから。
あの時も、私の回復を願ってくださったのでは?」
「ええ、その通りです。ヴィンス様の傷が癒えて、無事に回復なさるようにと、そうお祈りしておりました」
「やはり、そうでしたか。
歴史書にも、イリスと似たような能力についての記述がありました。他者の力を高めたり、傷の治癒を早めたりといったことが、祈りによって葉えられたようです。
あくまで的なことに関して影響する能力で、神的な部分や、他者の意識といったことにまで影響を及ぼすことは出來ないようですけれどね」
マーベリックは、ゆっくりと口を開いた。
「そのような、神や意識という部分にまで直に力が及ばないというのは、ある意味當然のことだろう。
だが、結局、俺たちは、心の中で願う方向へと向かって行くものだからな。例えば、誰かの笑顔や幸福を祈ることは、それ自によって、特別な力が直接的に働くものではなかったとしても、きっと、それを葉える道へと導いてくれるものなのだろうと、俺は信じているよ」
「私もそんな気がしますわ、マーベリック様」
イリスがマーベリックを見つめて、にこりと笑った。
「それから、私の祈りにもし力があるとして、の話ですが。結果として生じる効果については、私の力だけで生じるものではないような気がします」
「……それは、どのような意味ですか?」
ヴィンセントの問い掛けに、イリスは記憶を辿りながら答えた。
「今までに、私は幾人かの怪我人を看病したことがあり、その度に、彼らの回復を祈っておりました。
幸運なことに、どの方も無事に回復なさいましたが、その治癒の早さは、人によってかなりの違いがあったのです。……特に、怪我の治癒という面では、ヴィンス様の傷が癒える早さは、飛び抜けていました。信じられない程にお怪我の回復が早かったのは、とても喜ばしいのと同時に、し不思議に思ってもいたのです。
けれど、ヴィンス様が、非常に高い能力をお持ちで、魔師団長をなさっていると後から伺って、腑に落ちた気がしました。
恐らくですが、私の祈りが影響を與えるとすれば、その祈りの対象となる方の、元々の能力のようなものも、関係しているのではないかと思います」
「ほう、なるほど。それはあり得るかもしれませんね。
祈られる側の力に応じて、効力の現れ方が異なるということでしょうか。いくらイリスの祈りの力が強くとも、その対象となる者の元の能力によっては、効力の発現までに時間がかかることもあると、そう言ったところなのかもしれませんね。
……それなら、元々天才と呼ばれる兄さんにイリスがついていてくれたなら、向かうところ敵なしですね」
楽しげに笑ったヴィンセントに、マーベリックが、イリスの肩を優しく抱き寄せながら答えた。
「……勿論、イリスの能力は素晴らしい、そしてごく稀な能力だが。
そのような力の本質がどうであれ、俺には、イリスの優しく思いやり深いところが、その力の底にあるような気がしてならない。
そして、そのような力にかかわらず、俺は溫かな心のイリスのことを、心底しているんだよ」
「私も同じ気持ちですわ、マーベリック様」
真っ赤に頬を染めて微笑んだイリスを軽く抱き締めてから、マーベリックはヴィンセントに口を開いた。
「さて、ヴィンス。お前の調べてくれた幻の能力のことも一通り聞けたことだし、そろそろ、レノの待つ離れに向かおう。
ヴィンスに會えるのを、レノも楽しみにしているからな」
「ええ。この前はあまりレノと話せませんでしたし、今日は久し振りにゆっくりレノと遊びたいものですね」
3人が離れのドアを開けると、小さな真っ白なタキシードをに付けたレノが飛び出して來た。
「おや、レノ。素敵なタキシードを著ていますね」
「ふふ、そうかなあ、ヴィンス兄さん。
マーベリック兄さんとイリスの結婚式のために、新しくあつらえて貰ったんだよ」
にこにこと明るく笑うレノに、イリスも嬉しそうに微笑んだ。
「まあ、レノ様!とってもよくお似合いですわ」
「ありがとう!
……あのね、兄さん、イリス」
レノが、真剣な表で2人を見つめた。
「僕、この服で兄さんたちの結婚式に參列しても、いいかなあ。
僕のこのだと、皆を驚かせちゃうかな?
このタキシードだと、僕の右半分の顔や手首から先は、そのままわになっちゃうから」
イリスは屈んでレノに視線を合わせてから、その頭を優しくでた。
「素敵なことだと思いますよ、レノ様。
レノ様のことをよく知ったら、皆、レノ様のことをもっと好きになりますよ」
「レノ、強くなったな。勿論構わないよ。
……もしかしたら、君のそのを、君自で制できる可能もあるかもしれないが、その可能を探ってからでなくても、レノはそれで大丈夫かい?」
労るような優しい視線でレノを見つめたマーベリックに、レノは頷いた。
「うん。いいんだ。
僕、この外見のせいで、嫌な目に遭ったこともたくさんあるし、この見た目が他の人たちと同じだったらって思ったことは、今までだって何度もあったよ。
……でも、兄さんたちもイリスも、僕のこの外見を、そのままけれてくれたもの。僕にしか見えないものだって、その存在を信じてくれて、僕自をまるごとしてくれた。だんだん、僕は、このままの僕でも幸せだって、そう思えるようになったんだ。
だからね、僕自も、そのままの僕をけれたいなって、そう思ったんだよ」
そう言ってレノが心からの笑顔を浮かべた時、淡いがレノの右半をふわりと覆った。
「レノ、君のが……」
言い掛けたヴィンセントの言葉はそのまま飲み込まれ、マーベリックもイリスも、レノの姿がに覆われるさまを、息を飲んで見守っていた。
淡いが消え失せた時、レノの右半を覆っていた、金がかった鱗狀の皮は、抜けるように白い、らかなへと変貌を遂げていた。
マーベリックはレノの右頬に手をばすと、そっとれた。
「レノ、君は、君自をけれたことで、どうやらその力がコントロールできるようになったようだね。
……ほら、鏡を見てごらん?」
首を傾げたレノが、鏡の前に行き、目を丸くして鏡の奧を覗き込んでいる。
「これが、僕?
……不思議だな。何だか、僕が僕じゃないみたい」
ぺたぺたと自分の右頬をり、不思議そうに右手を見つめていたレノに、イリスがにっこりと笑い掛けた。
「今のレノ様も、今までのレノ様も、どちらも間違いなくレノ様ですよ」
「うん、イリスに言われると、そうなんだなって、そう思うよ。
ありがとう、イリス……!」
イリスに顔いっぱいの笑顔を浮かべて抱き付いたレノを、マーベリックとヴィンセントは、目を細めて、溫かな瞳で見つめていた。
***
「さあ、準備できたわ。……凄く綺麗よ、イリス。
自信を持って、マーベリック様の隣を歩いてね」
繊細なレースのあしらわれた、純白のウェディングドレスにを包んだイリスの化粧を仕上げると、ソニアが心から嬉しそうに笑った。
「ありがとう、ソニア」
「ふふ、どういたしまして」
その橫では、モリーが極まって、瞳にいっぱいの涙を溜めながら、イリスのことを見つめている。
「まあ、お嬢様。本當に、おしくなって……!」
「來てくれてありがとう、モリー。嬉しいわ」
「お優しくて忍耐強いお嬢様のことを、昔から、ずっと見ておりましたから……ああ、このモリー、もう、無量でございます。天國の旦那様と奧様にも、できることなら見せて差し上げたかったですわ。
そして、お相手があのマーベリック様とは……!マーベリック様も、見る目があるなと心していたのですよ。彼になら、お嬢様を安心してお任せできますね」
その時、やや遠慮がちに部屋のドアがノックされると、レベッカが顔を覗かせた。
「もう、ご準備は出來ましたか?
……まあ、何て素敵なんでしょう!」
レベッカも、振り向いたイリスのしい姿に、思わずその瞳を潤ませた。
「イリス、あなたの、その幸せそうな笑顔を見ることができて、本當に嬉しく思っていますよ。
このエヴェレット家の庭にも、もう、すっかりと式の準備が整って、マーベリック様とイリスを祝福する屋敷の者たちが、お2人の登場を心待ちにしています。
ただ、ここに、し気の早いお客が幾人か……」
レベッカが振り返ると、その後ろから、レノがひょいと顔を覗かせた。
イリスを見ると、レノは目を輝かせてイリスの元に駆け寄って來た。頬を上気させてイリスを見上げ、満面の笑みを浮かべている。
「うわあっ、綺麗だね、イリス!!」
「レノ様、ありがとうございます」
「今日から、イリスが僕のお義姉さんになるんだね。やったあ」
「ふふ、私も嬉しいですわ」
イリスが優しくレノを抱き締めていると、にこにことしながら、黒いタキシードにを包んだヴィンセントが橫から現れた。
「まるで花のようにおしいですね、イリス。
……兄さんに取られてしまうのが、惜しいくらいですよ」
「まあ、ヴィンセント様。お上手ですね」
くすりと笑ったイリスの手を、ヴィンセントが恭しく取ろうとした時、その手を躱してイリスの手をすっと奪って行った、白くらかで大きな手があった。
「ヴィンス、イリスは俺の花嫁だぞ」
「まあ、今はまだ、兄さんと結婚する直前ですし。そんな顔をしないでくださいよ」
「マーベリック様、いつの間に……?」
驚きに目を見開いたイリスの手を取ったマーベリックの姿を見て、イリスの頬が途端に赤く染まる。銀のタキシードにを包んだマーベリックは、まるで一國の王子のようなしさと凜々しさがあった。
マーベリックは、けるような甘い笑顔でイリスを見つめた。
「とても綺麗だよ、イリス」
「ありがとうございます。
マーベリック様こそ、本當におしいですわ。
あの、どうしてマーベリック様もこちらに……?」
「……君のウェディングドレス姿を、兄弟たちに先に見られるのも、何だか悔しいと思ってね」
その様子を見ていたレベッカは、くすくすと楽しげに笑っている。
「もう、エヴェレット家はご兄弟揃って、イリスのことが大好きなんですから」
イリスの手を取ったマーベリックは、真っ直ぐに、幸せ溢れる笑顔でイリスを見つめた。
「俺は、世界一幸せな花婿だな。
……さあ、そろそろ行こうか。イリス」
「はい」
窓の外では、雲一つない青空の下、溫かなしが燦々と降り注いでいる。
イリスは、マーベリックと微笑みをわしてその手を握り返すと、2人を祝福する人々が待つ、溫かなの中へと進み出て行った。
最後までお付き合いくださって、本當にありがとうございました!読んでくださった皆様のお蔭で、無事にこのお話も最後まで辿り著くことができました。
想、評価やブックマーク、とても勵みにしております。誤字報告も、いつもありがとうございます。もし応援していただけたら、とても嬉しく思います。
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