《【書籍化&コミカライズ】婚約者の浮気現場を見ちゃったので始まりの鐘が鳴りました》16.パーティーへのエスコート

「つまり、この世の全てに魔導力があると仮定して、それをると考えれば、できないことは無いと思うんです。私たち魔が魔導力をることに長けているのは、そのイメージの差なんじゃないでしょうか。空間という曖昧でなんだかよくわからないものと認識するのではなく、魔導力が構する」

「駄目だこいつ止まんねぇもう歩かせるぞ」

ヴァイスがその小さなを地面に降ろしても、ルネッタは止まらない。生き生きと輝く瞳に、王が匙を投げた瞬間である。

隣國の王とその婚約者の護衛と侍、というバイトを請け負う事になったリヴィオとソフィは、翌朝、ヴァイスとルネッタと共に街を出発することにした。

ルネッタが魔法をかけた鞄は、リヴィオが調達したテントも家から持ってきていた布も、え? まだるの?? といっそ不安になるほどなんでも飲み込んだ。「これ抹茶もっちゃうじゃないんですか」と笑ったリヴィオに、馬の抹茶が鼻先を突っ込んだが、本當に吸い込まれそうになって慌てて顔を上げた。馬を吸い込む鞄ってもはやお化けじゃん。

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お化け鞄のおかげで軽になった抹茶。に、乗れないソフィは、さてどうしようと困ったところで、ルネッタが助け舟となった。

や、本人にはそんな意識なかろうがな。ルネッタはただただ、喋り倒しているだけだ。

ソフィが、鞄を見て「凄いですね! どうなっているんですか?!」と聞いたのが始まりだった。だだだだーっと喋りだしたルネッタに、ソフィが相槌を打ち、また疑問を投げる。するとまた話が止まらない。「よせ、嬢ちゃんもう喋んな」とヴァイスが首を振ったが、ルネッタを無視するわけにはいかん。あと純粋にルネッタの話が楽しかったので、ソフィはルネッタに見えない角度でヴァイスに向かって手を合わせた。ごめんちょ。

さすがに街の人々総出のお見送りでは、ルネッタは話を止め、たおやかに手を振った。まさしく王の婚約者に相応しい振る舞いである。ドレスは葬式かってくらい上から下まで真っ黒だが。楚々とした仕草は可憐だ。

ところが、街を出た瞬間「それでですね」と話を再開したのだ。

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ヴァイスがを持ち上げて馬に乗せても止まらぬ。ヴァイスが後ろに乗っても止まらぬ。

自分の上で延々と喋るルネッタに、ヴァイスの馬が盛大に顔をしかめた。馬なのにな。そのいやっそうな空気はあからさまで、ヴァイスが手綱を引いてもきゃしない。

そんなわけで、ヴァイスの方が音を上げたわけだ。

「駄目だこいつ止まんねぇもう歩かせるぞ」

再び地面にいる自分の隣に帰ってきたルネッタに、ソフィは苦笑した。

この熱量と周りを見ない視野の狹さ。エネルギー全てを魔法に注ぎ込んでいるからこそ、いともたやすく大きな魔法を使いこなせるのだろう。

「疲れりゃ黙るだろ」

婚約者には、泣き止まぬ赤子に手を焼くような扱いされとるがな。

ま、馬に乗れないソフィには有難い話である。有難うルネッタのノンストップ講釈。ってかんじだけど、ヴァイスの言う通りこのままってわけじゃないだろう。いずれルネッタも、ヴァイスと馬に乗る。そうすれば、ソフィも馬に乗るしかない。乗るしかない、って言い方は抹茶に失禮であるが、乗れない乗りたくないソフィからすりゃ死活問題なのだ。恐怖って理屈じゃねぇものな。

ルネッタに頷きながら、ちらりとリヴィオを見る。

リヴィオは困ったように眉を寄せて笑った。いつまでも隠しておくわけにはいかん。とはいえ、二人してうっかり、この事実を忘れ、もんのすごい魔法がかけられた鞄を手にしたわけである。ひっじょうに不味かった。

行き當たりばったりで行したことのないソフィは、心汗だらだら。ハァイ此方がいろんな場所から細く流れていく珍しい滝、冷や汗滝でございまぁす、なんて。あっはっは、笑えん。

「あれ」

時々休憩を挾みつつ、子トークを半日ほど楽しんだ時である。

リヴィオがお晝の準備をし始めても止まらぬルネッタに、ヴァイスは「噓だろ」と頭を抱えたが仕方が無い。子とは古今東西、おしゃべり好きだ。

話題は流れに流れてノンストッピン。そういえば、お茶と言えば、あるある昨日もね、なんて話題の七転八倒。起承転結なにそれ何語。ヤマもオチもないお話が、茶葉から始まって、大臣の人の話を通過して、ドレスのデザインや、作曲家の話、最近話題の歌劇、とあちこちお散歩した後、再び茶葉に戻って來る、なんてよくある事。ソフィーリアにとっては、どーでもいい話ばかりだったが、大臣の人問題とか、貴族同士の癒著の気配とか、そういう利用できそうな話も聞こえてくるので気が抜けない、わりと辛い時間だった。

優雅なお茶會かっこ笑いかっことじる、な時間に比べれば、ルネッタの話は気も華やかさも無い。何せ魔法談義。けれど、あっちこっちに話題が飛ぶところや、止まらぬところ、何よりルネッタとソフィが楽しんでいるところが、れっきとした子トークだ。

そんなソフィの楽しい子トークは、ルネッタが「あれ」と瞬きをしたことで終わった。

幹も葉も真っ白な木に隠れるように、白い何かがいている。

「…へーか、白い木がいっぱいですね」

「今気づいたのかよ」

「リッツドが近い証拠ですよ。リッツドの名前の由來は、木も葉も真っ白のこの木、リッツドツリーからきているんです」

リヴィオが説明すると、ルネッタは頷いた。

お日様がニコニコ輝く、ぽっかぽかの気。雪など降る気配すら無いのに、まるで雪景のように、白い木に囲まれている。足元は當然、緑の草や茶い地面があるから、とても不思議な景だった。

「へーか、あそこ」

「ああ、いるな」

「いますねぇ」

「え」

ルネッタが指を差すと、ヴァイスとリヴィオがのんびり返す。なんの話だとソフィはルネッタの指先を辿る。木の合間に見えている白いものが、どうやら大きな獣らしい、とわかってソフィはを固くした。

「大丈夫ですよ。こちらには気づいていませんし」

「いちいち相手してたらキリねぇからな」

さすが最強パーティー。ちょっとやそっとじゃじない。まじで?? とじまくるのはソフィだけだ。

「!」

視線の先でそれが、のそ、といた。

真っ白で、大きくて、っていやでかっ。マジで大きい。大きすぎる。

もしやあれは巨大化したモンスターだろうか、と驚いたソフィがリヴィオの顔を見ると、リヴィオは「おお」と目を見開いた。ブルーベリーの瞳がくる、とる。

「ヴァイス様、あれ結構デカイですよ。僕が今まで見た中でも、一、二を爭うサイズですね」

「お前あれ解できねぇの」

「できますけど、ちゃんと店で食べたほうが味いと思いますよ」

そりゃそうか、と顎髭をでるヴァイスに、ソフィはずっこけそうになる。「ウォオオ」とそっぽ向いて雄びを上げる、真っ白い大きなモンスターは、確かにこちらに気づいていないようだ。

でも、でも。長の高いリヴィオが見上げるくらい、その辺に生えてる木を見下ろすくらい大きいのに。あれ、普通? あれを橫目に今から食事するの? ていうかあれを食べたいの?

とんでもない二人に噓だろとソフィはルネッタを見る。ううん、無表なんでわからん。

「ソフィ」

「えっ」

一夜を共に過ごしたルネッタとソフィは、名前で呼び合う仲になった。お互い敬語で話すのはクセなので変わらんかったが、ソフィ、とルネッタに気安く呼ばれるのをソフィは気にっている。

だから名前を呼ばれて驚いたわけではない。

ソフィが驚いたのは、立ち上がったルネッタに手を引かれたことだ。

まって。何。何をする気だルネッタちゃん。真っ黒の瞳は、多分、輝いている。嫌な予しかしない。

「あのモンスター、怪我してます」

「え」

指を差されてみると、太い幹10本分くらいの足が真っ赤に染まっている。周辺の木にもが付いていて、なかなかのホラー

「あのサイズに手を出すアホはいねぇだろうから、仲間同士の爭いか?」

「よく見ると、デッドリッパーとはし違うようですし…縄張り爭いですかね」

男二人は、相変わらず呑気にしている。あれくらい何かある前に対処できる、という余裕なのか、ルネッタ一人がいれば何かも起きない、という信頼なのか。戦うを持たないソフィは、意外にもしっかりした力でルネッタに握られる自分の右手の行方が心配でならない。

「治療しましょう」

ほらああああああああ。だっから嫌な予がするって言ったじゃん。無茶苦茶言い出したよこの天才魔

「…ルネッタが?」

「ソフィが」

念のために聞くが、ルネッタはフルフルと首を振った。黒髪がふわりと揺れて可いんだが、言っとることがちっとも可くない。行きずりのモンスターの怪我を治すとかどっこの純粋系ヒロインだ聖か、とロマンス小説が好きな子がいればしたかもしれんが、ソフィは知っている。ルネッタのこれは、熊さんかわいそう、とかそういう可いのじゃない。

「ソフィなら回復魔法も使えると思います。やってみましょう」

マッドサイエンティストのそれだ。ピュアな好奇心。一番怖いやつ。

でも時代をかすのも、長が早いのも、こういう人。そんでソフィは、自分を変えたい。

ちょっと頑張ったくらいで、長い年月をかけて自分を鍛え抜いている最強パーティーでソフィが役に立つことなんざ無いだろう。並べると思うだけ失禮だ。

でも、リヴィオの影に隠れて、お助けーってプルプル震えるだけの自分は、嫌なのだ。

「お、教えてくださるんですよね」

「はい」

ルネッタがこくりと頷いたので、ソフィはちょっと安心した。

「人に教えるの苦手ですけど」

全然安心できんやつだった。

「ソフィ様」

らかい聲に振り返ると、心配そうに、でも真っ直ぐな瞳でこちらを見るリヴィオが、「大丈夫」と頷いた。

本當は間にりたい。でも、ソフィがむなら邪魔をしたくない、そんな顔。

「大丈夫。ソフィ様に、傷一つ付けないとお約束します」

ぱあ、と青いがリヴィオを包み、巨大な剣が現れる。

それにソフィは微笑んだ。

ん。なら、大丈夫。

リヴィオの大丈夫があれば、ソフィは何も怖くないんだ。

更新できてなかった…!投稿遅れてすみません。

また、ストックが切れ、想やメッセージの返信が滯っておりますすみません……

更新優先とさせていただきますが、拝読し元気を頂いております!

引き続きどうぞよろしくお願い致します……!

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