《【電子書籍化決定】生まれ変わった騎士は、せっかくなので前世の國に滯在してみた~縁のある人たちとの再會を懐かしんでいたら、最後に元ご主人様に捕まりました》久しぶりに、皆とお酒を飲みます
森の木々に囲まれた、今は雑草が生い茂るだけの何の変哲もない場所。
ここで魔たちと戦いを繰り広げていたことが、まるで夢の中の出來事だったようにじてしまうくらい、辺りは靜寂に満ちている。
私は、酒屋で購した酒を取り出した。
この酒は、飲み屋で皆とよく酌みわしていた思い出の品だ。
持參した木製のコップにしだけ注ぐと、殘りは全て地面へ撒いた。
「皆で飲むのも、久しぶりですね…」
この甘い香りを嗅ぐと、まるで昨日のことのように過去(セリーヌ)の記憶がよみがえる。
私はコップを手に持つと、目を閉じた。
◆ ◆ ◆
不寢番擔當の騎士と代し本日の勤務を終えたセリーヌたちは、いつもの飲み屋に集結していた。
ノアルヴァーナへ辭去の挨拶をしたときに、「セリたちだけ、飲み屋で楽しい時間を過ごしていてズルい!」とし拗ねたようにを尖らせながら言われてしまったので、「ご人されたら、ぜひ一緒に參りましょう」と皆で言ったら、彼は嬉しそうに笑顔で頷いていた。
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「なあ…セリ、結婚相手として…年下の男はどう思う?」
グラスを傾けながら、々どころかかなり酔っていると思われるジョアンが、セリーヌへふいに問いかけてきた。
先ほどのノアルヴァーナの様子を思い出して、やっぱり我が主は可らしいな…と微笑んでいたセリーヌは、彼の質問の意図がわからず首をかしげた。
「私より年下ということは、相手は人したばかりの十五歳ですか?」
「いや、違う。もっと下だな…」
「未年ですか? ははは…」
セリーヌが苦笑していると、橫からマシューが彼のグラスに酒を注いでくれた。
「セリーヌが結婚相手に求めるものとは、何だ?」
「そうですね…この騎士という職に、理解のある方がいいです!」
自分の希をきっぱりと述べたセリーヌに、インザックとゼスターが「理解は、あるな…」と呟いている。
「歳がし離れているが、おまえはその人が人するまで待てるか?」
「なんですか、いきなり…あっ! もしかして、ジョアン殿はご子息のライアンを私の結婚相手に考えているとか?」
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「えっ!? ライアン? ああ…相手がセリなら私はそれでも構わないが、一生、親子共々恨まれてしまうだろうな…」
フフッと意味深な笑みを浮かべたジョアンは、グラスに殘っていた酒を一気に飲み干した。
ふわっと周囲に甘い香りが漂うなか、彼はゆっくりと目を閉じる。
――あっ、これは完全に酔い潰れるやつだ…
皆の心の聲は、同じだったようだ。
騎士寮に住んでいる獨のセリーヌたちは、仕事に差し支えなければ何時に帰ろうとも問題はないが、唯一の既婚者であるジョアンが帰り道で寢込み朝帰りにでもなったら一大事。
皆で目配せをし合い、最後にもう一度乾杯をしてから解散することになった。
「ジョアン殿、起きてください! 最後に乾杯をして帰りましょう!!」
ゼスターが起こしている間に、インザックが水りのグラスとれ替える。
手慣れたもので、連攜もばっちりだ。
「では、今日はお疲れ様でした。明日も仕事を頑張りましょう! 乾杯!!」
「「「「かんぱーい!」」」」
◇
「獻杯」
酒を一口で飲み干した後、花屋で購した花束を置き祈りを捧げる。
そよ風が、私の耳元を優しく吹き抜けていった。
――ジョアン殿、ご子息のライアンは騎士団の副団長として立派になられましたね
ジョアンは、皆を叱咤激勵し引っ張っていく頼れるリーダーであり、よき父親だった。
――インザック殿、マシュー殿、できればご家族の様子を確認したいと思っておりますが、他國の貴族である現在の私(スーザン)では、おそらく難しいでしょうね
セリーヌのよき兄貴分だった二人。
馴染の二人は切磋琢磨しながら剣の腕を磨いており、私もじってよく一緒に稽古をしていた。
ライアンとはたまたま出會うことができたが、貴族である二人の族のその後については今のところ知る(すべ)がない。それでも、何とか報だけは手にれたいと考えている。
――ゼスター殿、ご実家へ行ってきますね
平民出のゼスターの実家は、街で人気の菓子店だ。
お忍びでノヴァ殿下と訪れ、ゼスターお勧めのクッキーを皆で分け合って食べたことは良い思い出となっている。
懐かしい思い出を頭に思い浮かべながら心の中で語りかけていると、馬の蹄(ひづめ)の音が聞こえてきた。
傍の街道を行きう者たちだと思っていたが、音は徐々にこちらへ近づいてくる。
――何だろう?
大人數のようだが、不穏な気配はじられない。
しかし、私は馬に飛び乗るとすぐさまこの場を後にした。
他國の騎士である自分は、必要以上に人目につかぬほうがよい…そう考えたのだ。
◆
スーザンが立ち去った後に現れたのは、第三騎士団の一行だった。
先頭は青年騎士。年のころはスーザンよりもかなり年上だろうか、落ち著いた大人の雰囲気を醸し出している。
朝日を浴びてキラキラと輝きを放っている肩までびた金髪がサラッと風になびく姿は、新緑を思わせるペリドットのような黃緑の瞳と相まって、まるで一幅の絵畫のようだ。
もし、スーザンが彼と出會っていたならば、どんな反応を示しただろう。
丈夫を、ただポーっと眺めただろうか。
それとも…
「レンブル団長、どうされましたか?」
青年のすぐ後ろに続く男は、ライアンだった。
キャサリンの護衛任務を終え、休暇を経て通常業務に戻ったばかりの第三騎士団の副団長だ。
「人の気配をじたのだが…」
「旅人が休憩でもしていたのでしょう。ほら、ここに馬の足跡が…」
ライアンが指さす方向を目で追っていた若き団長は、地面に置かれた花束に目を留める。
「忘れ? いや、違うな。花屋で購したをわざわざここまで持ってきているから、供か…」
馬から降り花束へ手をばした彼は、ツーンと鼻をつく匂いにきを止めた。
「花だけでなく、酒を撒いた痕跡もあるな」
「酒ですか。…ん? この甘い香りは…」
「ライアン、知っているのか?」
「はい。私の亡き父が好きだった酒です。家や外でも、よく飲んでおりました」
ライアンは、懐かしそうに目を細めた。
「そうか、ジョアンが…。そういえば、皆が好んで飲んでいる酒があると話に聞いたことがあったな。私は未年だったから、一緒に飲めないことを殘念に思ったものだ」
一瞬遠い目をした青年は、そっと目を閉じる。
「ここに來ると、皆のことを思い出す。楽しかったことも、辛かったことも…」
「未だ心の片隅に留め置いてくださっていること、父たちもきっと喜んでいることでしょう」
ありがとうございます…そう言って、ライアンは微笑んだ。
付近に魔や不審者がいないか確認を終えた騎士たちが戻ってきたところで、一行は再び街道へ出る。
「先日、ランベルト王國から輿れされましたキャサリン殿下が同道されていた護衛騎士の中に、一人だけ騎士の方がおられました。その方がセリによく似ておりまして…大層驚きました」
「…そんなに、よく似ていたのか?」
「よく見れば顔立ちは全く違うのですが、雰囲気と言いますか…。髪や瞳のが同じでしたので、そう見えたのだと思います」
「私もお會いしたかったな。もう、帰國されてしまったのだろう?」
「いえ、こちらに一か月ほど滯在されて観(・)(・)を(・)す(・)る(・)予(・)定(・)だとか。かなり流暢にグレイシア語を話されますので、もしかしたら…」
「…そうか、ではその、會えるかもしれないな…」
青年の脳裏には、鮮やかな青い髪に赤紫の瞳を持つの姿が今も焼き付いている。
自分を守るために他の騎士たちと共に魔に立ち向かい、自分の目の前で息を引き取った騎士。
當時は思い出すことさえ辛く、彼は過去からずっと目を背けてきた。
自分の中でようやく気持ちの整理がつき始めたのは、人を過ぎた頃だ。
「セリ…」
小さく呟かれた彼の聲は馬蹄音にかき消され、ライアンの耳に屆くことはなかった。
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