《【電子書籍化決定】生まれ変わった騎士は、せっかくなので前世の國に滯在してみた~縁のある人たちとの再會を懐かしんでいたら、最後に元ご主人様に捕まりました》どうやら、疑われているようです
「………」
自分は不審に思われている。だから家に招かれたのだと、ようやく覚った。
兄たちと再會できたことに浮かれていた私は、自分の置かれている狀況を正しく理解する。
普通に考えれば、疑の目を向けられるのは當然だ。
他國から來た見知らぬ者が、いきなり自家の墓參りに訪れたのだから。しかも、ご丁寧に滯在先と名まで殘して。
ピーターが私を何者なのかと調べ本人へ問い質すことは、當主として當たり前の行だった。
「わたくしは、あなたが怪しい人だとは思っておりません。お墓に供えていただいたは、すべて故人が好きだったばかりでしたから。そこには、彼らを悼む気持ちが確かにございました」
「もしかして、あそこですれ違ったご婦人は…」
「はい、わたくしです。あの日は、義父母の月命日でしたので」
「…そうでしたか」
だから私も、わざわざあの日を選んで墓參りをしたのだ。
もしかしたら、モリーはあの時すでに墓守から私の話を聞いていたのかもしれない。
「さて…そろそろ、こちらの質問にお答えいただきたいのですが?」
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モリーは優しいまなざしで私を見つめているが、ピーターの視線は相変わらず鋭いままだ。
どんな言い訳も、言い逃れも許さない…兄の確固たる意志をじた私は、正直に打ち明ける覚悟を決める。
「信じていただけないと思いますが…私はあなたの妹、『セリーヌ・ログエル』の生まれ変わりなのです」
「……はあ?」
普段、冷靜沈著なピーターにしては珍しく、素っ頓狂な聲が出た。
自分でも驚いたのだろう。慌てて口を押さえている。
「十八年前、あの出來事で命を落としたあと、すぐに生まれ変わったようです。ランベルト王國の子爵家の三『スーザン・バンデラス』として…」
「………」
「私が前世の記憶を取り戻したのは、七歳のときです。他國で起きた魔の異常発生の話を本で読んだあと、頭の中に大量の報が流れ込んでき…」
「ハッハッハ! そんな、荒唐無稽な話を信じろというのですか?」
話の途中、突然部屋にってきたのは、第三騎士団副団長のライアンだった。
◇
「正直に、ランベルト王國の間者だとお認めになったらいかがですかな?…バンデラス殿」
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「マルディーニ殿、どうしてあなたがこちらに?」
なぜライアンがここにいるのか、その理由がわからない。
しかも彼は、私を『ランベルト王國の間者』だと言っている。
「私がログエル伯爵様に協力をお願いしました。監視を付けていたあなたの行が、あまりにも疑わしいもので」
「…監視」
自分に監視が付いていたなんて、全く気づかなかった。
これまでの行が、全て見られていたのだろうか。
ライアンから疑いを持たれるようなことは、何一つしていないと思うが。
「もしかして…私に宿屋を紹介してくださったのは、このため…」
「それは、あなたのご想像にお任せします」
ライアンは否定も肯定もせず、不敵な笑みを浮かべた。
「その瞳のは、おそらく本なのでしょう。…ですが、髪まで染めて同じにするのは、あまりにもあからさまでしたよ。それで、かえって私に目を付けられてしまったのだから…皮なことに」
「えっと…マルディーニ殿は、一何の話をされているのでしょうか?」
自分が疑われていることは理解したが、瞳と髪のとはどういうことなのか。
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「あなたの、その容姿ですよ。我が國の英雄『セリーヌ・ログエル』に似せることで自分に親近を持たせ、警戒心を緩めようと畫策したのでしょう? 同じ騎士にまでなって…」
セリーヌ亡き後に出版された伝記の影響で、グレイシア王國のたちの間で『英雄セリーヌ』になりきるという流行が起こった話は、本屋の主人から聞いていた。
髪のを同じ青に染め、騎士を目指す者もいたらしい。
ただセリーヌになりきるだけなら、何も問題はなかった。しかし、それを悪用する者が現れたのだ。
たまたま瞳のが同じ赤紫の子供の髪のを青に染めて、セリーヌの隠し子だと吹聴したり、彼の生まれ変わりだと自稱する者もいたとのこと。
「取り締まりの強化によって不屆き者はいなくなったが…あなたも、行には十分気を付けて」とは言われたが、まさかこれが原因でライアンから疑いの目を向けられていたなんて、思ってもいなかった。
「護衛任務が終わったのにひと月も休暇を取ってこの國に滯在するなど、報収集が目的に決まっている。理由はわかりませんが、『セリーヌ・ログエル』の関係者を調べていることはわかりました。そして…あの花束と酒は、あなたがしたことだそうですね? 監視していた諜報員からの報告を聞いた時は驚きましたよ。まさか、皆が好きだった酒の銘柄まで調べ上げているとは……伝記にも載っていないのに」
手に持っていた報告書をひらひらさせながら、ライアンは苦笑している。
彼は、私が街の本屋で伝記を購したことも知っているようだ。
「一度、詳しい話をお伺いしたいので、詰所までご同行いただけますか?」
「わかりました」
お願いする形にはなっているが、これは『連行』と同意だ。
たとえ拒否したとしても、おそらく別の手段が用意されているだろう。
立ち上がった私は、おとなしく従う。
もとより、抵抗する気はない。
ライアンの目配せで、部屋にいた従者が傍にやって來た。どうやら彼は、ログエル家の従者ではなくライアンの手の者だったようだ。
私としては詰所でも同じ主張を繰り返すつもりだが、この様子だと信じてもらえるかわからない。
疑いが晴れなければ、國外退去になるかもしれない…そう思ったら、ため息が出た。
「マルディーニ副団長殿、彼へ一つだけ確認をしたいのだが、よいだろうか?」
「構いませんが」
ライアンの許可を得て、ピーターが私のほうを向く。
これが、兄との最後の対面になるだろう。
「なぜ、あなたは父が好きだった葉巻の銘柄や、母の好きなバラの花がピンクと白の二種類と知っていたのだろうか? 調べるにしても、このことを知っている人に見知らぬ者が接したという事実は、こちらでは確認できなかったのだが…」
「ああ、そんなことですか。それは、『私が二人の娘だからです』……と言っても信じてもらえないので、好きな理由のほうを。彼らが初めて贈り合っただからでしたよね? 私は、あなたからそう教えてもらいましたよ…ピート兄上」
「!?」
最後だからと、い頃の呼び名で兄へ呼びかけると、ピーターは目を見張った。
「ログエル伯爵様、そのお話も伝記には…」
「…無論、載っていない。両親の話だからな」
「そうですよね…」
急に無言になってしまった二人に、あれ?と思った。
伝記には記載されていないセリーヌ(私)しか知らぬ事実を次々と述べていけば、もしかしたら信じてもらえるのではないだろうか。
明を見いだした私は、僅かな可能にかけ口を開く。
「私は、兄上と義姉(あね)上の馴れ初め話も知っております。お二人は學園の同級生で、兄上が毎日義姉上に手紙を送って…」
「ゴホン! その話は、セリーヌも知らぬはずだが…」
「いいえ、昔セリちゃんから尋ねられたことがあって…ふふふ、わたくしが教えました」
「………」
明らかに狼狽しているピーターの反応が面白くて、私は気を良くする。
次に目を向けたのは、もちろんライアンだ。
「マルディーニ殿は子供のころ、自分が割った花瓶を『ミゼルがやった!』と、弟君へ罪を(なす)り付けたことがありますよね?」
「な、なんでその話を!」
「お父上のジョアン殿から聞きました。一緒にノヴァ殿下も楽しそうに聞いておられましたよ。それから…」
ピーターの苦手な蟲が突然目の前に出てきて、彼が腰を抜かした…とか、ライアンがなじみのの子からフラれて、數日落ち込んだことがある…とか、私が調子にのってあれこれ暴話をした結果、男二人は黙り込み、モリーだけが楽し気に笑っている。
「ねえ、あなた。わたくしは、この方がセリちゃんの生まれ変わりだという話を信じます。そうでなければ、説明がつきませんわよね? これらの報を、彼はどこで知り得たというのでしょう」
「それは…」
モリーはまだ認めることを躊躇している夫から、私へ視線を戻す。
「先ほど、あなたは侍がお茶を淹れているところをじっと観察されていましたが、どうしてあのようなことを?」
「彼が…モネが立派な侍になっていたことが嬉しくて、つい見つめてしまいました」
「セリちゃんとモネは、仲が良かったものね…」
モリーの言葉に「そういえば、そうだったな…」と小さく呟いたピーターは、じっと何かを考えこんでいるようだった。
隣から何か言いたげに自分を見ているライアンへ顔を向けると、プイッと顔を逸らされる。
「セリ…なのか」
「えっ?」
「おまえは…本當に『セリ』なのか、聞いているんだ」
「うん、本當だよ。マル…ライアンはまだ信じられないと思うけど…」
「ああ、そうだな。信じろと言うほうが、無理な話だ。でも…」
ライアンはうつむいたまま黙り込む。
しばらくして、琥珀の瞳を私に向けた。
「信じられないけど……信じるよ。だって…『ノヴァ殿下』と呼ぶことを許されていたのは…おまえや父上たちだけ…だったからな…」
當時のことを思い出したのか、ライアンは笑っているような、でも、今にも泣き出しそうな顔で言葉を絞り出した。
ノアルヴァーナ殿下を『ノヴァ殿下』と呼ぶことになったのは、殿下のある発言からだった。
王家特有の長い名を持つ彼が、「私も『セリ』のような親しみの込められた稱で呼んでもらいたい」と子供らしい我が儘を言って、側近たちが困り果てていた。
それを見かけた私が、「では、これからは『ノア殿下』とか『ノヴァ殿下』とお呼びしましょうか?」と言ってしまったのだ。
同僚たちから「いくら何でも不敬だ!」と突っ込まれ、すぐに発言を撤回した私だったが、殿下ご本人が大層気にってくださり、私たちだけがそう呼ぶことを特別に許されたのだ。
「…セリーヌ」
懐かしい話を思い出していた私は、前世の名で呼ばれたことに気づく。
ピーターはこちらにゆっくりと歩いてくると、目の前に立った。
先ほどまで鋭くっていた紺眼は、今は凪いだように穏やかになっている。
「どうして……私より先に逝った?」
ピーターから真っすぐに問われ、ギュッとが鷲摑みにされたように苦しくなる。
両親亡き後、一回りも年の離れた妹にも先立たれてしまった兄の心を思ったら、自然と涙が溢れていた。
「も、申し訳ございません。全ては、私の不徳の致すところで…」
頭を下げた私は、ふわっと溫かいものに包み込まれる。ピーターに抱きしめられていた。
両親亡き後、私が緒不安定になる度に、兄は私を抱きしめてくれた。
いころはよくこうしてくれたのに、私が長するにつれ、いつの間にかなくなってしまった兄妹のふれあい。
「…よくぞ、會いに來てくれた。おかえり……セリーヌ」
「ただいま戻りました…兄上」
◇
すっかり冷めてしまった紅茶をれ替えて、お茶會として仕切り直しとなった。
今度は、ライアンも席につく。
どうしても知っておきたいとライアンから懇願され、私はあの日起きた出來事を包み隠さず全て話した。
皆が靜かに耳を傾け、真剣に聞きっていた。
「…最後まで、全員立派に戦ったんだな。でも、『各自、二十頭以上を仕留めれば終わるぞ。なあ、簡単な話だろう?』なんて、父上らしいというか…」
「最初にジョアン殿が皆を鼓舞してくださらなかったら、全ての魔を討伐することはできなかったと思う」
「そうか…セリ、ありがとう。辛い出來事を思い出させてしまって、すまなかった」
頭を下げたライアンへ、そんなことはないよ!と首をブンブンと勢いよく橫に振ると、し目の赤い彼が白い歯を見せて笑った。
その後、私は報を得ることができなかった、インザック殿とマシュー殿の族の話を聞いた。
ノートン家は妹が婿を取り、ニコルソン家は弟がそれぞれ家督を継いだとのこと。
現在は次代の跡取りも生まれているそうで、一安心。
「それで…兄上、ノヴァ殿下はお元気に過ごされていらっしゃいますか?」
最後に、私は元主(あるじ)の現狀を確認する。
自分(セリーヌ)が死んだあとノヴァ殿下が無事に王都へ帰還できたのか、それだけが心配だった。
キャサリン殿下の婚約者である第一王子殿下は、兄の王太子殿下…現國王陛下の嫡男だ。
王弟殿下になる彼の報は、ランベルト王國には全くってこない。
ノヴァ殿下の無事は信じていたが、念のため、中央広場で石碑に刻まれた犠牲者の名をすべて確認した。
結論から言えば彼の名はどこにもなく、私はホッとしたのだ。
「ノアルヴァーナ殿下は公爵位を賜って、現在は『ノアルヴァーナ・レンブル』と名乗っていらっしゃる。國王陛下から第三騎士団の団長を拝命された…つまり、俺の上だ」
ピーターに代わって、ライアンが答えてくれた。
「そう、ノヴァ殿下が騎士団長に…」
あの心優しい主が自分の希を葉え騎士団長になっていることが、自分のことのように誇らしく、そしてとても嬉しい。
思わず満面の笑顔になった私に、ライアンがおもむろに切り出した。
「なあ…セリ、レンブル団長…ノアルヴァーナ殿下に會いたいか?」
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