《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》2、なぜそこまでするの?

手燭に照らされたミュリエルは、今まで見たこともない悪意に満ちた表で笑った。

「お父様とお兄様なら、とっくに死んでいるわ」

「え……?」

呆然とする私に、ミュリエルはどこからか隠し持っていたナイフを出した。

かないで」

言われなくても、驚きすぎた私は何もできない。ミュリエルは満足そうに頷いた。

「お姉様は本當に馬鹿で、お人好し」

ミュリエルは私を舐め回すように見た。

「その月のみたいな銀の髪や寶石みたいな紫の瞳もしすぎて……本當に大嫌い」

私の元にナイフが近付く。

「そんな淑の鑑みたいなお姉様が、今夜、お父様とお兄様の部屋の水差しに毒をれて殺し、屋敷に火をつけて逃げたなんて知ったら、みんな驚くでしょうね」

水差し? 毒? 火をつけた?

私は信じられない思いで口を開いた。

「ミュリエル……まさか、あの火事はあなたが……?」

「ええ、そうよ」

ミュリエルはあっさり認めた。

「お姉様の部屋の水差しにも、ちゃんと睡眠薬をれたのよ? ほら、いつもお休み前にお水を飲むでしょう? 今日に限って、飲まなかったのね」

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その通りだった。

今夜に限って私はそれを飲まなかった。深い意味はない。

もともと、毎日飲むわけではなかった。

「寢室にいなかったのを知ったときは焦ったけど、結局はここまで連れ出せたからよかったわ」

ミュリエルのが弧を描く。

「逃げようとしたお姉様は、自棄になってここで自殺するの。このナイフで。それを私が見つけるのよ」

そんな不確定要素だらけの計畫を本気で実行しようとしたところが、ミュリエルらしくてゾッとした。

私はなるべく冷靜になろうと努めながら、告げた。

「無駄よ、ミュリエル。私には家に火をつける理由がないわ。あなたの罪はきっと暴かれる」

「それならちゃんと考えてあるわ。お姉様はね、街で出會った平民とに落ちたのよ」

「は?」

「その人との真実のを貫こうとしたんだけど、怖じ気づいた相手は逃げたの。何もかも嫌になったお姉様は、こんな事をしでかした」

この私が、イリル以外と真実の

あり得ない。

「馬鹿馬鹿しい、誰もそんなの信じないわ」

「でも」

ミュリエルはガウンのポケットから手紙を出した。

「自殺したお姉様がその人への文を抱いていたら、話は別なんじゃないかしら」

私はの気が引くのをじた。

本気なのだ。この子は。

本気でこんな馬鹿なことを考えている。

「ル、ルシーンがいるわ」

い頃から一緒にいた侍を思い出して、私は言った。

「ルシーンなら、私がイリル以外に心を奪われたことはないって証明してくれるわ。ルシーンだけじゃない。トーマスも、メイドのマリーも、みんな証言してくれる」

だけど、ミュリエルはとんでもないことをさらりと告げた。

「あの屋敷に殘っている者は、全員始末されるわ。ルシーンも例外じゃない」

ーー始末?

ミュリエルは、うっとりと続ける。

「やっとお姉様のものが私のものになるのね。しかったの。お姉様の持ってるもの全部」

私は思わず反論した。

「今までも、しがるだけ、あなたにはあげていたじゃない!」

ミュリエルは悲しそうな顔をする。

「そんなの、この家に來てからの六年分しかないじゃない。お姉様は生まれたときからなんでも持っているのに。ずるいわ」

ミュリエルは、父が平民の人との間に作った子供だった。

ミュリエルの母であるエヴァは、六年前病気で亡くなり、寄りの無くなったミュリエルは、すぐに我が家に引き取られたのだ。

ミュリエルは十歳だった。

「公爵家に來たとき、あまりにもなんでも揃ってることに驚いたわ。そして、それを當たり前に思っているお姉様たちにも」

「でも、ミュリエル……私たち、出來るだけのことをしてきたつもりよ」

正妻である私と兄の母は、すでに亡くなっていたので、私と兄と父がミュリエルを家族としてれた。

「私も、お兄様も、ミュリエルを末にしてこなかったわ」

突然現れた異母妹を、複雑な心境ながらも私とシェイマスお兄様は、れた。

ミュリエルがしがる度に、私はお気にりのリボンや、ドレス、髪飾りを渡し、シェイマスお兄様は勉強の手を止めてでも、遊び相手になった。

それでも、しでもミュリエルを後回しにすると私たちは父に叱責された。

ーーミュリエルが可哀想じゃないか、お前たちはそんな冷たい子だったのかい、と。

そう言われる度に、私は自分を責めたものだ。

「ミュリエル、あなた、これ以上なにがしいの?」

確かに期は辛い思いをさせてしまったかもしれない。

だが、父の話によれば、別れはエヴァがんだことだったし、殘りの人生を不自由なく暮らせるくらいの手切れ金も渡してあった、とのことだ。

「教えてよ。これ以上、どうすればよかったの?」

すると、ミュリエルは悲しげにため息をついた。

「だって、足りないんだもん。全然足りない。お姉様のもの、もっともっと全部しい」

ミュリエルが話す度に、そのしい金髪が、ふわふわと揺れた。

「ねえ、だからお姉様」

そして、天使のように微笑む。

「ここで死んでちょうだい」

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