《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》3、格悪く生き延びてやる

ミュリエルが本気なのはわかっていたが、私は聞き返さずにはいられなかった。

「ねえ、ミュリエル……そんなことのために……私のものを手にれるためだけに、こんな大変なことをしたの? 公爵家がなくなったらあなただって生きていけないのに」

「“かわいそうな生き殘り”の私は、すべてをけ継ぐから大丈夫よ」

ーー駄目だわ、話にならない!

私はミュリエルを突き飛ばしてでも、逃げようとした。

ところが。

ーーどういうこと?

さっきから足に力がらなかった。おかしい。

ついにその場にしゃがみ込む。

「安心して、お姉様」

ミュリエルはそんな私を見下ろした。

「お姉様の大事な婚約者のイリル様は、私が代わりに婚約してあげる。そのためにちょっと急いだのよ。結婚してからじゃ難しいでしょ?」

ーーイリルとミュリエルが代わりに婚約?

「イ……リ……ない…わ」

聲がかすれ、意識まで朦朧とし出したとき、私はやっと気付いた。

ーーハンカチに何か染み込んでいた?

「やっとだわ。お姉様、効きが遅いから心配しました」

どさっ、と橫たわる私は、もうきができなかった。

ミュリエルは勢いよくナイフを持った手を振り下ろす。

ーーグサッ!!!

「……ぐ……!」

無抵抗の私のに、それは深々と差し込まれた。けなくても痛みはじる。

が引き裂かれるように苦しかった。

「ふう……なかなか力がいるわね」

だけどもうぶこともできない。

「はい、これ持って」

私のから出たナイフの柄を、ミュリエルは私に握らせた。

そして、『真実の』とやらの証拠になる手紙を近くに置いたミュリエルは、

「お姉様、さようなら」

と扉を開けて出ていった。

ーーそんなふうに、私は無念の死を遂げた。

……はずだった。

なのに、これはどういうことだろう。

「おはようございます、クリスティナ様。お加減はいかがですか?」

「ルシーン?!」

目を覚ましたら、自分の寢臺の上だった。

「よかった! 無事だったの? 火事はすぐ収まった?」

飛び起きて聞く私に、ルシーンは首を傾げた。

「火事? なんのことですか?」

「だって……ミュリエルが」

ルシーンはいつものように微笑んだ。

「ミュリエル様? いついらっしゃったのですか?」

何とぼけているの、と言おうとして私は気付いた。

どう見ても、ここは私の部屋で、私の屋敷だ。

ーーどこも燃えていない。

「ルシーン、今って」

いつなの、と聞こうとして、ぐらり、と目眩がした。

思わず目をつぶる。

「クリスティナ様?! 大丈夫ですか?!」

「頭が……痛い」

「今すぐお醫者様を!」

慌てたルシーンが部屋を飛び出す。

「……な……にこ……れ」

一人殘された私は、頭の中をかき混ぜられるような、嫌なに耐えていた。

「ぐ……」

息もできないほどの苦痛だったが、シーツを摑んで必死でやり過ごしていると、なんとか治まった。

ーーそして気付いた。

「巻き戻っている……?」

それは理屈ではなく、だった。

生々しいあの火事。

あれは現実だ。あのとき私は確かに死んだ。

たったの十八で。

「でも今は……」

「今」は私が十五になる直前。

誕生日の前に熱を出して、ルシーンが看病してくれたあのときに戻っている。

なぜかはわからない。

だけど、確実に言えるのは。

ーーこれは好機……よね。

いと同時に、熱い思いが湧き上がった。

こんな機會は二度とない。

やり直せるのだ。

次こそは殺されないように。

ミュリエルは私のことを、馬鹿でお人好しで淑の鑑だと言った。

確かにその通りだ。

でも、私が馬鹿なら、あの子も同じくらい馬鹿だ。

ーーあれ、絶対に、誰かに騙されていたわよね?

屋敷の使用人を始末する、だなんて簡単に言っていたけど、協力者がいなければできるわけない。

毒もどこから手にれたのか。

それにあの筋書き。

私に罪を著せるために、平民とのをでっち上げるだなんて、そんな複雑さは、ミュリエルにはない。

誰かが裏で糸を引いていたのだ。

ーーでも誰が?

わからない。

だが、その人とミュリエルが出會う前に戻っていたなら、私にも勝機はある。

あと三年。

「淑の鑑だなんてやってる場合じゃないわ……」

このまま、私の大事なイリルを奪わせるわけにはいかないし、屋敷も燃えさせない。お父様とお兄様も毒殺させないし、使用人も始末させない。

すべてを未然に防ぐのだ。

「……わがままにはわがままで。策略には策略で」

そう決意したと同時に、ルシーンの聲が響いた。

「クリスティナ様! お待たせいたしました。お醫者様をお連れしました」

私はにこやかに応じた。

「ありがとう、ってちょうだい」

せっかく好機を手にれたのだから、逆行後は、格悪く生き延びてやる。

ーーただしミュリエル限定で。

    人が読んでいる<【8/10書籍2巻発売】淑女の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう性格悪く生き延びます!>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください