《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》4、お姉様と同じのドレスにしたいの

「心配ありません、やや熱がありますが、安靜にしていれば下がるでしょう」

ルシーンが連れてきてれたお醫者様は、私をそう診斷して帰っていった。

「ごめんなさい、ルシーン、心配かけて」

大人しく寢臺に橫になりながら私は、濡れた布で額を冷やしてくれるルシーンを見つめた。

「何をおっしゃるのです。それが私の仕事ですわ」

當たり前のようにルシーンがそう微笑む、この幸せを噛み締める。

ルシーンは私より五歳年上だ。

私が小さいときからこの屋敷で働いており、私がイリルと結婚しても付いてきてくれる予定だった。

だから、あんなふうに離れるなんて考えもしなかった。

「どうされたのですか?」

そんな言葉にしない私の気持ちまで誰よりも早く察してくれるのが、ルシーンだ。

「なんでもないわ」

誤魔化しても通じない。

「いいえ、何かあるはずです。おっしゃってください」

「じゃあ……」

私は照れを隠しながら言った。

「もうしだけ、ここにいてくれる?」

「まあ」

ルシーンは目を丸くした。

今までの私は、そんなことを言ったことがなかった。

そんな子供のようなこと、今さら。

でも今日は別だ。

そばにいてほしかった。ルシーンはここにいる。こっちが現実だと、本當に巻き戻ったのだと信じたかった。

「もちろんですわ。眠るまでおそばにおりますので、どうぞおやすみください」

ルシーンはらかい聲で応じてくれた。

「ありがとう……」

素直に目を閉じながら、私は思う。

あのとき、ルシーンに背を向けたこと。

きっと何度も思い出すだろう。夢に見るだろう。

ーーだから、二度とは繰り返さない。

そんなことを考えながら、やはり疲れていたのかうとうとと、私は眠りにりかけた。

けれど訪れるはずの睡は、その一歩手前で臺無しにされた。

「お姉様!! 合が悪いと聞きましたわ! 大丈夫ですか!!」

ミュリエルの大聲のせいで。

ルシーンの厳しい聲が、かぶさるように聞こえる。

「ミュリエル様、どうぞお靜かに。クリスティナ様は今お眠りになっております」

「でも、お顔を見るくらい、いいでしょう?」

「また今度にしてくださいませ」

「わからない人ね、あなたに言っていないわ。私は今、お姉様の顔を見たいのよ」

相変わらずのわがままぶりに呆れながらも、思った以上に冷靜な自分に驚いた。

次にミュリエルに會うときは、恐怖でけなくなるか、怒りに我を忘れて怒鳴りつけるかと思っていたのに。

私は半を起こして、し髪を整えた。

「いいわ、ルシーン、こっちへ案して」

顔を見ればどうじるか、さらに知りたくなったのだ。

「お姉様! お目覚めでしたのね」

すぐに、苦蟲を噛み潰したような顔をしたルシーンと、はしゃいだミュリエルが寢臺のそばに來た。

「お姉様! よかった! お元気そうだわ。ルシーンったら、意地悪を言うんですよ」

ああ、私の知っている、いつものミュリエルだ。

ーー私が十五になる直前ということは、まだ十三。

公爵家に引き取られて三年。わがままが目に余るようになってきたとは言え、まだ無邪気に見える、あの頃のミュリエルだ。

「あのね、お姉様、お願いがあるの」

ほら來た。

そんなところまで変わらない。

「なあに?」

「今度のお姉様のお誕生日パーティー、私もお姉様と同じ、紫のドレスにしたいの」

ーーああ、そんなこともあった。

十五歳の誕生日、私は薄い紫のドレスを仕立てた。

婚約者のイリルが贈ってくれたアメジストのネックレスと耳飾りに合わせたのだ。

それを知ったミュリエルは、自分も同じのドレスを著たいと駄々をこねたのだ。

思い出をなぞるように、ミュリエルは同じ言葉を口にする。

「ね? いいでしょう? お父様は、お姉様がいいとおっしゃったら作っていいって」

「ですが、それはさすがに……クリスティナ様のお誕生日ですので、同じだと紛らわしいのでは」

ルシーンが水を差す。これも以前と同じだった。

そして過去の私は、心穏やかでないものをじながらも、ここでミュリエルの言うことを聞いたのだ。

なぜなら。

「だって、お姉様と同じにしたら、私も家族の一員になれた気がして、嬉しいの」

ミュリエルが、そんなことを理由にしたからだ。

ミュリエルはらしい顔で、私を見つめた。

「もちろん主役はお姉様よ? だからわたしは暗い紫にするわ。お姉様を引き立てるつもり! ね? それならいいでしょう?」

懐かしく思い出した私はついつい笑みを浮かべた。

それを見たミュリエルは、さらに勢い込んだ。

「パーティーの間はもちろん大人しくしているわ。それまでにマナーももう一度勉強し直す。だからお姉様、いいでしょう?」

私はミュリエルに向かって笑顔を作り、ゆっくりと言った。

「駄目よ」

「え?」

「あなたは、そうね、桃にしましょう」

私に斷られたことのないミュリエルは、混したようにまばたきを繰り返した。

「え、でも、お姉様?」

「あなたはまだ、デビュタントもしていない子供ですもの。一緒だと紛らわしいわ」

もちろん、私に譲る気はなかった。

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