《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》6、誤解させてしまったかもしれません

明るい金髪に、青空のように澄んだ青い瞳。

父とミュリエルは、本當によく似た容貌だ。

違いと言えば、目のだろうか。

やや垂れ目のミュリエルは甘えた雰囲気で相手を見つめるが、公爵家當主である父は、さすがの鋭い目つきで人を圧する。

今も、その強い眼差しを惜しみ無く私に向けていた。

「クリスティナ、答えろ。どういうことだ」

オフラハーティ公爵家で、父の言うことは絶対だった。

「だんまりか? まったく、そういうところはアルバニーナそっくりだ。子供のくせに生意気な」

アルバニーナとは、私と兄の母のことだ。私が六歳のときに、三十歳の若さで亡くなった。

政略結婚でがなかったのか、父は母の名前を決していい意味では出さない。

そのため、私と兄にとって母の名前は、ほろ苦いを呼び起こすものでもある。

いい子でいなければ。

母のために。

公爵家のために。

かわいそうなミュリエルのために。

そう思ってしまうのだ。

ーー「前回」までは。

「お言葉ですが、お父様」

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だけどもう、同じことを繰り返すわけにはいかない。

「私はもう、子供ではありませんわ。次の誕生日で十五です」

立ち上がった私は、正面から父と向き合った。

「ふん、何を言うかと思えば、當たり前のことを」

不機嫌そうに父は続ける。

「だから、その誕生日パーティでお前がミュリエルをーー」

「ですから!」

私は生まれて初めて父の言葉を遮った。

「な……?!」

驚いている隙に、言葉を足す。

「父親とはいえ、ノックもせずに扉を開けるのは控えてくださいませ」

父のがわなわなと震えた。

「私に指図するつもりか?」

「……お願いを申しております」

「何様のつもりだ! 私は父親だぞ! この家の主人でもある!」

「もちろんですわお父様。ですが、ご覧ください」

私はテーブルの上のスープ皿に目線を移す。

「今は食事中でしたからまだよかったものの、もうし後でしたら、私、著替えていましたわ。どうかこれからは、きちんとノックをしてくださいませ」

凜として、背筋をばして、私は父を見つめた。

こんなこと、大した主張ではない。貴族の家では當然守られるべきマナーだ。

私は正しい主張をしている。

なのに、けないことに。

ーーどうしようもなく手が震えた。

誤魔化すためにも、思い切り拳を握りしめた。

張り詰めた空気に、上手く息が吸えない。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

もし今父に怒鳴られたら、私はび出すかもしれない。どうしよう。

高まった張に押し潰されそうになった私を救ってれたのは、

「僭越ながら、よろしいでしょうか、旦那様」

父に向かってお辭儀をしながらそう言った、ルシーンだった。

「なんだ、ルシーン」

ルシーンが父に口を挾むのは珍しいことだった。

だが、堂々と告げた。

「クリスティナ様は最近特に一生懸命、第二王子妃としての振る舞いを學ばれています。ここはクリスティナ様が長なさったと思って、譲っていただけないでしょうか」

父は、しばらく私とルシーンを互に睨みつけていたが、やがて、

「ふん、まあいい。確かにさっきのは私が不調法だったな」

と、こちらの言い分を認めた。

ーーお父様に言い返せた!

力が抜けそうだったが、急いで、ありがとうございます、とお辭儀をした。ルシーンもそれに倣う。

「だが」

それでもまだ父は言う。

「ミュリエルを家族扱いしなかったことは聞き逃せないぞ?」

「そのことなのですが、お父様」

ルシーンのおかげで落ち著けた私は、わざと困した表を作って言った。

「私、ミュリエルを誤解させてしまったかもしれません」

「誤解だと?」

「はい。ミュリエルは自分も家族の一員と思えるように、同じのドレスを作りたいと言ってました」

父はしみじみと頷いた。

「その通りだ。それをお前に斷られ、あまつさえ、家族ではないと言い切られ、悲しかったと泣いていたぞ。いくら優秀でも、妹に優しく出來ないとはけない」

言い返したいことは山ほどあったが、とりあえず我慢した。

「ああ、やっぱり……きっと、私の言い方が悪かったのでしょうね」

こちらも負けないくらい悲しそうな顔を作る。

「お父様、私が言いたかったのは……同じのドレスなど著なくても、ミュリエルは私たちの家族なのだということなのです」

「なんと?」

「説明したつもりなのに、通じていなかったのは私の不徳の致すところですわ。私、後でミュリエルにきちんと謝っておきます」

父は納得したようだった。

「そうか。ミュリエルも勘違いしたのかもしれないな、だが、ドレスのはどうする? 誤解なら同じにしてもいいんじゃないか」

しつこいな、と思いながらも私は困した表を続けた。

「それが……今回のドレスのは、イリル様が贈って下さった寶石に合わせてのこと。なのにミュリエルも同じだと、イリル様に申し訳が立ちませんわ」

「そういうものか? しかしーー」

「そうだ! お父様! 私、いい考えが浮かびました」

いかにもいいことを思い付いたかのように、私ははしゃいだ聲を出した。

「な、なんだ?」

そんな私は初めてなので、父はかなり戸った様子だ。そのまま押し切る。

「同じでないと家族ではないというのなら、ミュリエルとお父様の上著のをお揃いにしてはいかがでしょうか? 桃など、どうですか? ミュリエルにぴったりです」

「つまり、私も桃か!?」

「ええ。それならミュリエルだって寂しい思いはしないのではないでしょうか? お父様とミュリエルも、家族ですもの」

の上著を著た公爵様を想像した私は、笑いたくなるのを我慢した。

父は突然聲のトーンを落とした。

「うん……まあ、ミュリエルには違うでも家族は家族だとわかってもらう方がいいかもしれないな」

「前向きにご検討くださいませ」

「食事の途中だったな、続けなさい」

そして、そそくさと出ていった。

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