《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》12、こんなことは「前回」はなかった
ミュリエルの涙が止まった。
「は? 何それ」
好戦的な目付きで私を見る。
ーーあらあら、そんなすぐに顔に出しちゃ駄目よ。
心で諌めながらも、私は握った手を離さない。
「わかるわ、ミュリエル、あなた、不安なのね。でも大丈夫よ、私の真似をしなくても、あなたはあなたで可らしいから」
ーーああ、私ったら本當に格悪いわ。
「ーー素晴らしいわ、クリスティナ様」
案の定、そんな聲が飛んできて、私は驚いたような演技で聲の主を見る。
社界の花と呼ばれるケイトリン・ギャラハー伯爵夫人が私に向かって微笑んでいた。
「ギャラハー伯爵夫人、失禮いたしました。お見苦しいところをお見せしましたわ」
「いいえ、私、しましたの。クリスティナ様は本當にお優しい方ね」
そんな、と困したふりをする私にミュリエルがいち早く勢を立て直す。
「お姉様……困らせてごめんなさい」
この切り替えの良さは長所かもしれない。ミュリエルは天使のように微笑んだ。
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「私、著替えて參りますわ」
私も負けじと微笑む。
「いい子ね、じゃあ誰か人を」
「いえ、一人でいけます。パーティーの邪魔をして申し訳ありませんでした」
形勢が悪くなったと察したのか、あれほどドレスにこだわっていたミュリエルは、あっさりと出て行った。
「重ねて失禮しました」
私はギャラハー伯爵夫人に向き直る。ギャラハー伯爵夫人は首を振った。
「いいえ、お気になさらないで。姉妹の仲が良さそうで結構だわ」
どこをどう見たらそうなるのかと思うが、私は黙ることで肯定した。
社界の花であるギャラハー伯爵夫人は、社界を取り仕切る報通でもある。逆らうと面倒くさいことになるので曖昧に笑っていると、音楽が始まった。
「クリスティナ、踴らないか」
お兄様が出してくれた助け船に、全力で乗る。
「お願いしますわ」
い頃から練習相手として、お互いの踴りに慣れている二人だ。が勝手にく。
おかげで考え事がはかどった。
ーーそもそも、お父様は何をしているのよ? あれだけミュリエルのことを可がっておきながら、こういうときは知らんぷりなのね。
どうせ、自分が桃の上著にするのが嫌で、ミュリエルのドレス作りを許したのだ。
ーー自分のことしか考えていないものね。
父は外面だけはいい。つまりずる賢いのだ。
そしてそれは宮廷で存分に活かされているらしい。表向きの父の評判は悪くなかった。
ーーでも、家族は部下じゃないわ。
ダンスが終わるとまた、人に囲まれた。
挨拶に次ぐ挨拶、お祝いの言葉にそのお禮、初めて會う人の紹介。
それらをこなしながら、私はふと思う。
「遅いわ」
ミュリエルが戻ってこないのだ。お兄様も頷く。
「ああ、僕も気になっていた」
「私、見てきます」
「クリスティナは主役だろ。僕が行くよ」
だが、この場を離れたかった私は、
「しかいけない場所もありますから」
と、半ば強引にそこを離れた。
ーー気にるまで、何度も著替え直しているのかしら。
オフラハーティ家の広大な敷地がこんなときは仇になる。王都では、宮廷の次に広いと言われているくらいだ。どこにいくのも時間がかかる。
「ここじゃないのね」
ミュリエルは、自室にはいなかった。
私は外の空気を吸うついでに中庭を通る。すると、數人の令嬢たちがパーティーにも出ず、つる薔薇のアーチの下に集まっているのを見かけた。
ーー何をしているのかしら。
私はそっと近付いた。
と、ミュリエルのイライラとした聲が飛んでくる。
「だから、何が言いたいの?!」
びっくりしてさらに近付くと、桃のドレスに著替えたミュリエルを、令嬢たち三人が取り囲んでいた。
「平民のくせに、生意気なことはやめなさいってことよ」
一人が言う。
「あなたたちには関係ないでしょ」
「クリスティナ様が困ってらしたじゃない」
ミュリエルはムッとした顔をする。
「お姉様のさしがね? お上品な顔してやり方が汚いわ」
別の令嬢がせせら笑う。
「下品な人には理解できないのね」
「なんですって?」
「だってそうでしょう? 平民だもの。たまたま母親が死んだからここに引き取られたんじゃない」
こんなことは「前回」はなかった。
しいミュリエルをギャラハー伯爵夫人は可がったし、ミュリエルに手出しをする令嬢なんてひとりもいなかった。それがますます彼を我儘にした。
あ、もしかして。
そこで私は思い當たる。
ーーズレてきている?
好ましいことなのかわからないが、「前回」と変わってきているのは確かだ。
「クリスティナ様はお優しい方だから、代わりに言ってあげるわ。あなたもあなたの母親も、公爵家に相応しくないの。あなたの母親が捨てられたように、いつかあなたも捨てられるわ」
驚いたことにミュリエルは、そのことについては何も言い返さなかった。
ーーどうして黙っているのよ?
「前回」も今も、私はミュリエルが大嫌いだ。恐ろしいくらいに私のものを何でもしがる妹を、好きな姉なんて多分いない。なのに私は。
気づけば、アーチの下に飛び出していった。
「あなたたち! なにをしているの!」
「え? クリスティナ様?」
「どうしてここに?」
令嬢たちは突然私が現れたことに驚いた様子だった。
何を勘違いしたのか、誇らしげに報告する。
「私たち、代わりにミュリエルさんに教えてあげていたんです」
「貴族の禮儀を」
「頼んでないわ」
「え」
私はあっさり切り捨てる。
「勘違いしているようだけど、ミュリエルもれっきとした公爵家の人間です」
ミュリエルまで目を丸くしてるのには、なぜか腹が立った。
私だって放っておきたかったんだから! 勝手にと口がいてしまうのよ!
ーー君が淑の鑑を止めるのは無理じゃない?
イリルの聲が頭の中で蘇る。
だけどこんなこと、許せない。
「よくも私の妹に、噓ばっかり言ってくれたものね」
こんなことしてたらますますミュリエルを調子づかせてしまうだろうと思いながら、私の口は止まらなかった。
「ミュリエルを捨てるなんてありえないわ! 二度とそんなこと言わないで!」
‡
同じ頃。
そんなことが起こっていると想像もしていない、イリル第二王子は、
「これはなんだ?」
ドーンフォルトとの國境近くの村で、奇妙なものを見つけて首をひねっていた。
「お墓、かな?」
【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、女醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄光のラポルト16」と呼ばれるまで~
【第2章完結済】 連載再開します! ※簡単なあらすじ 人型兵器で戦った僕はその代償で動けなくなってしまう。治すには、醫務室でセーラー服に白衣著たあの子と「あんなこと」しなきゃならない! なんで!? ※あらすじ 「この戦艦を、みんなを、僕が守るんだ!」 14歳の少年が、その思いを胸に戦い、「能力」を使った代償は、ヒロインとの「醫務室での秘め事」だった? 近未來。世界がサジタウイルスという未知の病禍に見舞われて50年後の世界。ここ絋國では「女ばかりが生まれ男性出生率が低い」というウイルスの置き土産に苦しんでいた。あり余る女性達は就職や結婚に難儀し、その社會的価値を喪失してしまう。そんな女性の尊厳が毀損した、生きづらさを抱えた世界。 最新鋭空中戦艦の「ふれあい體験乗艦」に選ばれた1人の男子と15人の女子。全員中學2年生。大人のいない中女子達を守るべく人型兵器で戦う暖斗だが、彼の持つ特殊能力で戦った代償として後遺癥で動けなくなってしまう。そんな彼を醫務室で白セーラーに白衣のコートを羽織り待ち続ける少女、愛依。暖斗の後遺癥を治す為に彼女がその手に持つ物は、なんと!? これは、女性の価値が暴落した世界でそれでも健気に、ひたむきに生きる女性達と、それを見守る1人の男子の物語――。 醫務室で絆を深めるふたり。旅路の果てに、ふたりの見る景色は? * * * 「二択です暖斗くん。わたしに『ほ乳瓶でミルクをもらう』のと、『はい、あ~ん♡』されるのとどっちがいい? どちらか選ばないと後遺癥治らないよ? ふふ」 「うう‥‥愛依。‥‥その設問は卑怯だよ? 『ほ乳瓶』斷固拒否‥‥いやしかし」 ※作者はアホです。「誰もやってない事」が大好きです。 「ベイビーアサルト 第一部」と、「第二部 ベイビーアサルト・マギアス」を同時進行。第一部での伏線を第二部で回収、またはその逆、もあるという、ちょっと特殊な構成です。 【舊題名】ベイビーアサルト~14才の撃墜王(エース)君は15人の同級生(ヒロイン)に、赤ちゃん扱いされたくない!! 「皆を守るんだ!」と戦った代償は、セーラー服に白衣ヒロインとの「強制赤ちゃんプレイ」だった?~ ※カクヨム様にて 1萬文字短編バージョンを掲載中。 題名変更するかもですが「ベイビーアサルト」の文言は必ず殘します。
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