《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》14、お言葉ですが

結局誕生日パーティが終わるまで、ミュリエルは戻ってこなかった。

三人の令嬢たちもそそくさと帰ってしまったが、構わない。

言いたいことを言えた高揚からか、その夜はなかなか眠れなかった。指先まで力がみなぎる気がしたのだ。

格悪くなるのも結構快適だ。

そんなふうにさえ思えた。

翌朝、お父様と食堂で顔を合わせるまでは。

次の日。

「……おはようございます」

いつものように食堂を訪れた私は、父とミュリエルがすでに座っていることに驚いた。

「おはようございます、お姉様」

「おはよう、ミュリエル」

普段はもっと遅い時間に朝食を摂る二人なのに。

すぐ後に現れたお兄様も、同じことに驚いたのだろう。しうわずった聲で挨拶をした。

「おはようございます」

「お兄様! おはようございまぁす」

ミュリエルが甘えた聲を出す。

そこに父が口を挾んだ。

「シェイマスはいつアカデミーに戻るんだ?」

お兄様は著席しながら答えた。

「もうすぐです」

トーマスが卵料理とスープを給仕し、一見和やかに朝食が始まった。

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昨夜の疲れが殘っていた私は、果だけなんとかいただきながら、父と兄の會話を聞いていた。

「卒業は問題ないか」

「當たり前ですよ」

卒業後、お兄様はしばらくの間文として宮廷で働くことになっている。

本來なら父の片腕として公爵家で采配を振るうべきなのだが、本人の強い希でイリルの補佐としてまずは見聞を広めるのだ。

ーーイリル、元気かしら。まだ國境よね。

イリルのことを思い出した私は、自然と優しい気持ちになった。

「クリスティナ、昨日のパーティは盛況だったな」

「お父様のおかげですわ」

父に話しかけられても、微笑んで答えることができた。

昨夜の父は天鵞絨の深い緑の上著を著ていた。目にするたびに冷めた気持ちになったが、今さらそれを言うつもりはなかった。

「クリスティナ」

なのに、父の聲がし低くなった。

條件反で私のは固くなる。

「なんでしょうか?」

それでも返事はしなくてはいけない。黙っていると余計に怒られるから。

「姑息な手を使うんじゃない」

「え?」

「しらばっくれて」

本気でなんのことかわからない。父はため息をついた。

「友人の令嬢たちを使って、よってたかってミュリエルをめただろ?」

「それは!」

誤解だと言いたかったが、父はさらに続けた。

「ミュリエルが令嬢たちに囲まれていたところを、パーリックが見ていたんだ。ミュリエルに確かめたら、お前もいたと。怖かったと泣いていたぞ」

パーリックとは使用人のことだ。

昨日、どこからか一部始終を見ていたのだろう。

そしてそれをミュリエルが利用した。

しは年長者としての自覚を持ったらどうだ。姉として妹を守らなければいけないのに」

ミュリエルに目をやると、泣きそうな顔で呟いた。

「仕方ありませんわ……私なんてつまらない者ですもの。お姉様に大嫌いと言われても當然です」

を知らないお兄様は、怪訝な顔で私とミュリエルを互に見ている。

最悪だ。

あまりに一方的な叱責に、私は息を深く吸い込んだ。

「お父様、そのことですがーー」

「本當に、アルバニーナそっくりだな。可げがないのなら、せめて気立てだけでもよかったらいいものを」

それを聞いた瞬間、言い返す気力が失われた。

何を言っても、父の中の私が変わることはないのだ。

私が母の娘である限り。

「お父様、お願い。そんなきつく言わないで……お姉様だって反省していらっしゃるはずよ」

涙ぐんでわずかに肩を震わせるミュリエルは、本當に可憐だった。

「ミュリエルが天使みたいでよかったな。早く謝りなさい」

父がそう言ったとき、ミュリエルは勝ち誇ったような瞳で、一瞬私を見た。

「……」

すべてがめんどくさくなった私は、ただ黙っていた。すると。

ガシャン!

父が暴にテーブルを叩いた。

何枚かのお皿が跳ねる。

再び、私はを震わせた。

「都合が悪くなると黙るんだな! どこまでもアルバニーナにそっくりだ」

「そ、そんなこと……」

おどおどした目をしてしまった。

怖かったのだ。

この場をやり過ごすために、謝った方がいいのかと思っていたくらいだったが。

「お言葉ですが、父上」

お兄様が唐突に口を挾んだ。

そんなことは初めてだった。

私も、父も、ミュリエルも、一斉にお兄様を見つめた。

「クリスティナがミュリエルになにかするところをはっきり見たのですか?」

「いや、はっきりではないが、あの母にしてこの娘ありだ」

「だからですよ」

私はぎゅっと目をつぶった。本當は耳も塞ぎたかった。

だが、私の予想に反して、お兄様はいつものように飄々として言った。

「母上もクリスティナも完璧な淑です。そんなことするはずありません」

ガシャン!!

父が苛立ったように、テーブルを再度叩いた。

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