《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》18、あっさり手のひらを返した

一週間も必要なかった。

聞いているこちらが恥ずかしくなるぐらい、父はあっさり態度を変えた。

「まあ、宮廷でお仕えするのも悪いことではないかもしれないな」

王太子妃殿下が、私を強く希してくださったからだ。父の外面のよさを見越して、お兄様に回しをお願いした結果だった。

この人はいつもこうだ。権威が大好きなのだ。だから自分より大きな権威に対しては逆らわないし、自分の権威も心置きなく振りかざす。

——手のひらを返すとはこのことね。

私が苦く笑っているのも知りもせず、父は言う。

「王太子妃殿下も他國から嫁いで來たばかりで、寂しいのだろう。話し相手になるのも悪いことではないかもしれないな」

王太子妃殿下がこちらへ來たのは一年以上前なのだけど、もちろんそんなことは言わずに私はお辭儀をした。

「公爵家の名に恥じぬよう一杯努めます」

「がんばりなさい」

そのお兄様は、一足先にアカデミーに戻ってしまった。父は留守だったので、私と使用人たちで見送った。

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「本當に、いろいろありがとうございます」

アカデミーの制服にを包んだお兄様は、なんだかとても凜々しかった。

「向こうで會うこともあるだろうけど、とにかく無理はするなよ」

「はい。お兄様も」

馬車の前でそんな話をしていたら、ミュリエルが駆けてきた。

「お兄様! よかった、間に合って」

ミュリエルははあはあと息を切らしながら、ハンカチを差し出す。

「これ、使ってくださいませ! 徹夜で刺しましたの」

見ると、オフラハーティ家の紋章が見事に刺繍されていた。

私もお兄様も目を丸くする。

「すごいな!」

「まあ、本當、とても上手よ」

ミュリエルは目を潤ませて、お兄様を見上げる。

「私、こんなことしかできなくて……お兄様、また帰ってきてくださいね」

お兄様はありがとう、と微笑んだ。

そしてアカデミーに戻っていった。

私たちは馬車が小さくなるまで、お兄様を見送った。

「それではみんな、持ち場にもどるように」

トーマスがそう聲をかけて、それぞれがき出した。

私も荷造りの最終點検を行おうと部屋に向かいかけたら、

「お姉様、聞きたいことがあるんですけど」

いつの間にかそばに來ていたミュリエルが、先程とは別人のようなイライラした聲でそう言った。

「なにかしら?」

「家を出るって本當なの?」

「ああ、そのことね」

私は頷く。

萬が一邪魔されると困るので、ミュリエルにはギリギリまで言わずにいたのだ。

「本當よ。王太子妃殿下のお話相手として宮廷に行くの」

「ひどい!」

ミュリエルは、間髪いれず私を批難した。

「なにがひどいの?」

「宮廷で贅沢するんでしょう?! ずるい! お姉様ばかり」

そこはきちんと否定する。

「贅沢なんてしません。お話し相手になるだけよ。妃殿下にも失禮な発言ですから、おやめなさい」

ミュリエルはぷっと膨れた。

「そうやって私のこと馬鹿にしてるんでしょう。平民出でなにも知らないからって」

「話すのが遅くなったのは悪かったけれど、その理由は違うわ」

「いいえ! きっとそうなのよ! お姉様はいつもそうやって私を馬鹿にするの! ひどい、ひどいわ」

ミュリエルと話していると、話の主題ずれていくことがよくあった。

父もそうだ。見た目が似ているこの二人は、しゃべり方まで似ているのだろうか。

「ミュリエル」

これ以上話を橫道にそらさないために、真剣な顔でミュリエルを見つめた。

「よく聞いて。馬鹿になんてしていない」

「ひどぉい……」

「どうしてひどいの?」

「お姉様、意地悪だもの。めてくれない」

いつもなら、ここで言葉を盡くして説明するのだけど、ふと、思い付いたことを言ってみた。

「寂しいの?」

ミュリエルは口をぽかんと開けた。そして——。

「あっはっはっは! なにそれ」

大笑いした。

「そんなことあるわけないじゃない」

強がっている様子もなかったので、私は話を切り上げる。

「じゃあ、別にいいでしょ? 悪いけどもう行くわね。することがたくさんあるの」

けれと、ミュリエルは、私の前に立って両手を広げた。

「駄目よ! 行かせない」

「なぜ?」

「お姉様がそんな勝手なことするからよ。私許してないもの」

「いいのよ別に。許してもらわなくても、私のすることは私が決めるから」

「なにそれ! なにそれ! ずるい! 私は特別な子なのよ?! 特別に扱ってよ」

もう扱ってもらってるじゃない、とはわざと言わなかった。

——ほんと、格が悪いわね、私。

言いたくなかったのだ。

わざわざ、言葉で認めるようなこと。

「待たせたわね、行きましょう」

私は離れたところで待っていたルシーンたちに聲をかけ、部屋に戻った。

「クリスティナ・リアナック・オフラハーティです。至らないところもございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」

出仕初日。

カハル王國の王太子殿下と王太子妃殿下の前で、あらためてそう挨拶した。

「そんなにかしこまらなくていいわよ、クリスティナ」

そう笑うのは妃殿下であるフレイア様。

「クリスティナが來てくれて助かるよ。フレイアのいい話し相手になってくれ」

イリルのお兄様でもある王太子殿下、レイナン様も頷く。

「本當よ。來てくれて嬉しいわ、クリスティナ」

「もったいないお言葉です」

友好國のエルディーノ王國の王様だったフレイア様とは、王子妃教育で宮廷に來る度に親しくさせていただいた。

私と二歳しか違わないのに、すでに未來の王妃様の貫祿があった。

「そうだ、クリスティナ、明日お出かけしましょう!」

でも、子供みたいに突然無邪気にそんなことを言ったりもする。

「お出かけですか? 明日?」

「ええ! 一緒におめかしして観劇でもしたいわ! いいでしょ? レイナン」

王太子殿下は優しく笑う。

「わかってるくせに。クリスティナを理由にしても、突然そんなことは無理だよ。何人警備をかさなきゃいけないか」

フレイア様はおとなしく引き下がる。が。

「わかりました……じゃあ、クリスティナにドレスをプレゼントしていい?」

レイナン様は苦笑いする。

「最初からそれが目的だったね? そう言えばいいのに」

「観劇もしたいのよ。計畫してね」

「わかったよ」

私は、そこでやっと口を挾んだ。

「あの、私のドレスですか? いくつか持ってきておりますが」

一応公爵令嬢として、ドレスなら持っている。しかしフレイア様は首を振る。

「だって、クリスティナ、あなたいつも地味なドレスじゃない?」

「フレイア、失禮だよ」

「違うのよ、レイナン。クリスティナは人でスタイルもいいから、どんなドレスも著こなせているわ。でも、もっと似合うデザインがあるはずなのよ。オフラハーティ公爵は、ご自分は灑落た上をいつも著てるのに、ご令嬢には保守的なデザインばかり著せるのねって思ってたの」

「鋭いですね……」

その通りだった。

「前回」も今回も、父は流行に則ったようなドレスをひどく嫌がり、野暮ったいくらいのものを私に勧める。

「地味なドレスが必要なときもあるけど、メリハリも大事だわ。ついでに髪型もし変えて、お灑落を楽しみましょう」

フレイア様は嬉しそうに手を合わせた。

「私以上にフレイア様が楽しんでくださっている気がします」

「役得よ」

私はし笑ってから、お辭儀をした。

「ぜひお願いします」

率直に言って、わくわくした。

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