《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》21、ドレス談義
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フレイア様が作ってくださったドレスが完した。
お針子のマレードが自ら屆けてくれたそれを、私の部屋でみんなが囲む。
「わあ!素敵」
流行を取りれた新しいデザインのドレス。見てるだけでわくわくした。
「いいだわ。地味になるかと思ったけど、そんなことなさそうね」
フレイア様が言い、マレードがお辭儀する。
「ありがとうございます」
薄い緑をベースに、ところどころ濃い緑でアクセントをつけたドレスは洗練されたデザインだった。レースも刺繍もふんだんに使われているのに、派手すぎない。
「確認のために、今から著てみましょうか。クリスティナ」
「それはもちろんですが……フレイア様、お忙しいのでは」
フレイア様の時間を取らせてしまうことに気が引けて、ついそんなことを言ってしまう。
しかしフレイア様は、そんな私のためらいを蹴飛ばすくらいの、明るい笑顔でおっしゃった。
「いいの。だって見たいもの! 素敵なドレスを著た素敵なクリスティナを!」
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「……恐れります」
全力で言われて、思わず赤くなる。
「それでは失禮ながらお手伝いしますね」
マレードとルシーン、宮廷で新たに私に付いたメイドのニナに手伝ってもらい、袖を通す。
「わあ……素敵です」
「ありがとう、ニナ」
新しいドレスを著た、新しい私がそこにいた。
「いかがですか」
マレードは、作品の仕上がりに誇りを持つ職人の顔で微笑む。
私は謝の気持ちを込めて、頷いた。
「ええ、どこも完璧よ。丁度いいわ」
強いて言えば、元が開き過ぎていないかだけ気になったが、フレイア様もマレードも、この方が絶対いいと力説する。
「前々からクリスティナには、元がすっきりと開いたデザインが似合うと思っていたのよ。スタイルの良さを生かせるわ」
「わ、わかりました」
そういうものかと納得した私は、別のことに気が付く。
「このドレス、ウェストをあんまり締め付けていないのに、今までより細く見える気がするわ」
マレードが説明する。
「スカートにひだを大きくいれて膨らませているんですよ。帝國の流行だとか」
フレイア様が得意気に笑う。
「私がマレードに取りれさせたのよ」
「きっとこちらでも流行りますよ。妃殿下もお召しになりますし」
それは本當にそうだろう。一度でもこれを見た人は自分も同じものを著たくなるに違いない。
私は思わずフレイア様を見つめてしまった。
「なあに? クリスティナ」
「どうして……こんなに優しくしてくださるのですか?」
出仕したばかりで、まだなんのお役にも立てていないのに。
フレイア様は、さあ、と首を傾げる。
「わからないわ」
「そうなのですか?」
「強いて言うなら、あなたが自分から出仕したいと言ってくれた記念かしら」
「そんなこと……こちらからお願いしたことですのに」
「だって初めてじゃない? あなたが自分のために何かしようとしたの」
私はまばたきを繰り返した。
「宮廷でも、サロンでも、使用人相手でも、あなたはいつでも変わらずに一生懸命向き合ってきてたけど、自分に対しては大人しくて、ちょっと足りなかったのよね。でも、やっと自分にもその一生懸命さを向けるのかと思ったら、楽しくなってきて」
フレイア様は面白そうに私を見つめる。
「私が楽しんでるだけだから、遠慮せずけ取りなさい」
「ありがとうございます……私、そんなふうに思われていたのですか?」
「気づかなかったでしょう」
「はい、まったく」
フレイア様は目元だけで笑った。
「もうすぐシェイマスとイリルの卒業パーティーがあるでしょう? そのときに著て行きなさい」
「あ……」
すっかり忘れていた。
アカデミーの卒業式が終わった後、婚約者や家族などを招くパーティーが開催されるのだ。
「いいんですか?」
「もちろんよ。イリルにはアクセサリーを贈らせましょう。そうだ、マレード。似たようなデザインで、もうし普段に著ていけるものも作りたいわ。それから私にもこの流行のデザインでいくつか」
「かしこまりました。では素材を変えていきましょうか」
「そうね」
楽しいドレス談義はなかなか終わらなかった
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「本當に本當だ」
「何がですか?」
「本當にクリスティナが宮廷にいる。やっと実できた」
數日後。
あのときマレードが持ってきてくれた、別のドレスを著て私はイリルに會った。
手紙で近況は知らせてあるとは言え、イリルは宮廷にいる私にかなり驚いたようだった。
「歩こうか」
「はい」
日傘を差す私と並んで歩く。
宮廷の中を散策する程度だけど、充分楽しかった。
橫顔をちらりと拝見しようと思ったら、すぐに目が合う。
「その格好もいいね、ドレスのことはよくわからないけど、クリスティナによく似合ってる」
久しぶりに會うだけでもがいっぱいなのに、そんなことまで言ってくれるので、心臓がずっとうるさかった。
「派手すぎないですか?」
「いや、そんなことはないよ」
視察を終えてから會うのは初めてで、とにかくイリルの目に映る自分が一番よいものであるように願って準備した。
ルシーンやニナ、フレイア様はとてもかわいいと言ってくれたけど、イリルがどう思うか心配だった。でも。
「久しぶりだからか、照れて直視出來ないくらいかわいい」
思わず立ち止まって赤面する。
ところが。
日傘越しに覗くと、イリルも耳を赤らめてそっぽを向いている。
「本當に照れていらっしゃるんですね?」
「言ったじゃないか」
言葉通りなのでし笑ってしまった。
そこから、和やかに散策を楽しんだ。
「ーーえ? ミュリエルもフレイア様のお話相手を希しているんですか?」
久しぶりに妹の名前を聞くまでは。
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