《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》23、ウタツグミが羽を休めている
「帝國はどんなところなのですか?」
何となく、これ以上ミュリエルの話題を続けたくなくて、ドゥリスコル伯爵にそう聞いた。
「興味がありますか?」
「もちろんですわ。クジェ帝國と言えば、流行の中心でもありますもの。ねえ、ギャラハー伯爵夫人」
「ええ! 本當にそうですわ! 帝國で流行っているものは、常に社界で話題ですもの」
イリルも自然に會話に加わる。
「ご婦人たちの熱意には負けるかもしれませんが、私もぜひ帝國のお話を伺いたいですね。気候や食べも全然違うとか」
深く頷いて、私は言った。
「クジェ帝國の冬は、カハル王國の春のように暖かいと聞きますが、本當ですか?」
カハル王國の冬は長い。
長いだけではない。
フレイア様の生まれ故郷、エルディーノ王國や、クジェ帝國に比べると、寒すぎるくらい寒いらしい。
ここにきて最初の冬をフレイア様は隨分苦労して過ごしたそうだ。
帝國はどうなのだろう?
好奇心に満ちて、ドゥリスコル伯爵を見つめると、
Advertisement
「帝國は、そうですね……ここよりは暖かいですね」
ドゥリスコル伯爵は、赤い瞳を細めた。端正な顔立ちにらかさが加わる。
ギャラハー伯爵夫人は、そんなドゥリスコル伯爵の橫顔をぽーっと見つめていた。その様子にし違和を覚える。夫人らしくないのだ。
ーーでも、そういうものかしら?
判斷つきかねていると、
「ああそうだ」
と、ドゥリスコル伯爵が言った。
「そういえば最近、いや、もうかなり前になりますかね。帝都に大きな劇場が出來たんですよ。そこに音楽家や聲楽家を呼んで、皇帝は毎日オペラ三昧です」
「まあ、素敵ね」
皇帝陛下ともあろう方がそんな暇があるのかしらと思ったけれど、ドゥリスコル伯爵がそう言うならそうなのだろう。
イリルが質問した。
「大聖堂ができたとも聞いていますが、やはり建築には工夫を凝らしているのですか?」
「そうね、私もぜひ聞きたいわ、アラナン」
帝都にそれはそれは見事な大聖堂が出來たとは噂で聞いていた。大聖堂に通うため、みんなとても信心深くなったとか。
ドゥリスコル伯爵はあいまいに笑う。
「私はとても不真面目なのでね。大聖堂の素晴らしさは語れません」
「まあ、アラナンったらご謙遜」
ギャラハー伯爵夫人は頬を染めて笑い、私は顔には出さずにがっかりした。
ーー殘念。大聖堂のお話、聞きたかったわ。
カハル王國にはそれほどの、大聖堂はまだない。
そういえば、海の町、ペルラの修道院も冬がとても辛かったのを、思い出した。それでもさすが、修道たちは文句も言わない。末な服と食事で楽しげに暮らしていた。だが、そこまで思い返して私は気付く。
ーー違う。これ、前回の記憶だわ。
今回の私はまだ、ペルラの修道院には行ったことがない。
気を付けなくちゃ。周りを混させてしまうわ。
気を引き締め直す。
と、ドゥリスコル伯爵は、唐突にギャラハー伯爵夫人の髪を一房って言った。
「いつまでもお話ししていたいところだけど、ケイトリン、そろそろ戻らなくては」
人目を憚らないその仕草に、飛び上がるほど驚いた私だが、淑のお辭儀をさっとした。
「それでは、私たちもこれで失禮します」
「またお會いできるのを楽しみにしてますよ」
しばらく歩いて振り返ると、二人の姿は見えなくなっていた。
ようやく小さく、息を吐く。
「ギャラハー伯爵夫人ってあんな方だったかしら?」
さっきから思っていたことを呟くと、イリルも頷いた。
「うーん、確かに夫人らしくないけど……でもまあ、してるのなら、そういうものかもしれない」
「そうね……」
そんなことを話していると、宮廷の中でも木々の多い散策道にった。ウタツグミがクロハンノキで羽を休めているのが見える。
「僕たちも、し休もうか」
イリルがハンカチを広げてくれたので、ベンチに腰を下ろした。
アカバナルリハコベが足元で花を開いていた。この花はしでも曇れば花を閉じてしまうので、お天気を知るのにとてもいい。
ーーあら? ここ、もしかして。
私は不意に思い出した。
ーーさっきから、「前回」の記憶が鮮やかに出てくるけど、この近くに來たからかもしれない。
ここは、私にとってもイリルにとっても、思い出深い場所だった。
ただし、「前回」の。
黙って辺りを見回す私を、イリルは不思議そうな顔で見つめた。
「イリル」
その瞳を捕らえて、私は前置きなく言った。
「メイヴ様の最近のお加減はどう?」
巻き戻る前から、メイヴ様の話題は慎重にならなければいけないことのひとつだった。でも、この場所に助けられる形で、私はすっと聞いてしまった。
「クリスティナ?」
イリルが緑の瞳を見開いた。それを正面から覗き込んで、よく似ていると私は思う。
一度しかお會いしたことはないけど、その瞳も、赤銅の髪も実母であるメイヴ様と、よく似ている。
メイヴ様は、側妃だ。
王妃のルイザ様がすでにレイナン王太子殿下を産んでいることからも、常に控えめに行する方だった。
ゆえに、あまり表に出てこない。最近ではずっとを悪くして、別邸にこもりきりになっているそうだ。
「余計な口出しをするつもりはないの。イリルも立場があるでしょうし、お見舞いにも行きにくいとは思うのだけど」
ルイザ様もレイナン様も、イリルのことを本當に可がっておられる。
レイナン様の補佐としても、イリルは重要視されていることは確かだ。
だから、私がそんなことを言うのは本當に差し出がましい。
だけど、控え目すぎるメイヴ様と、そんなメイヴ様にほとんど顔も見せにいかないイリルの、ぎこちない関係が私はずっと気になっていたのだ。
「前回」から。
出過ぎたことを言ってしまうのが怖くて、何も言えなかった前回の私がいるからこそ、今回は、あえて口を挾んだ。
なぜなら、メイヴ様は私たちの結婚を機に隠居してしまうからだ。
「前回」はそこまでしか知り得なかったけれど、おそらく、かなり調がお悪いんじゃないだろうか。
「ねえ、イリル、本當にお節介なことだとは思うのだけど、會いたい人には、會えるうちに會った方がいいと思うの」
何があったのかはわからないが、前回、十七歳になった私にイリルが珍しく自嘲気味に言ったのだ。
ーー僕でいいのかな。淑の鑑みたいに完璧なクリスティナの隣に立つのが。ただの第二王子なのに。
この場所で。
今よりもっと寒い季節だった。アカバナルリハコベは咲いていなかった。
イリルのそんな弱音は初めてだった。
私はイリルをそっと抱きしめ、第二王子とか淑とか関係なく、イリルのことが好きだと耳元で囁いた。
大きな聲で言えば、イリルが壊れてしまいそうに思えたのだ。
イリルはありがとう、と答えてくれた。
そこから私はイリルのことを名前で呼ぶようになった。
名前で呼ぶと、イリルのことが特別だと、イリルにわかってもらえるような気がして嬉しかった。
イリルが弱さを見せたのはそのときだけ。それ以外はいつもの屈託ない第二王子として振る舞っている。
どちらのイリルもイリルだ。
「イリル、私にとってイリルは昔も今も、ずっと大事な人よ」
もどかしい気持ちで私は言う。脈絡がないのはわかっている。
ーー前回はいつでも理路整然と話せたものだけど。
だけど、イリルは笑った。
「唐突すぎてよくわからないけれど、心配してくれているんだね、ありがとう」
「気持ちをうまく言葉にできなくて、ごめんなさい」
イリルはし考えてから言った。
「以前の君も好きだったけど、今のうまく喋れない君の方が、なぜか距離を近くじるよ」
なんだかそれはとても嬉しいことの気がして、なんとお禮を言おうか考えていたら、
「イリル様」
ブライアンがイリルを呼びに來たので、その日はそこで散策が終わってしまった。
そのときばかりは、ブライアンを恨めしい目で見てしまったかもしれない。
包帯の下の君は誰よりも可愛い 〜いじめられてた包帯少女を助けたら包帯の下は美少女で、そんな彼女からえっちで甘々に迫られる高校生活が始まります〜
雛倉晴の通っていた小學校には、包帯で顔を覆った女の子――ユキがいた。小學校に通う誰もが一度もユキの素顔を見た事がなく、周囲の子供達は包帯で顔を覆うユキの姿を気味悪がって陰濕ないじめを繰り返す。そんな彼女を晴が助けたその日から二人の関係は始まった。 ユキにとって初めての友達になった晴。周囲のいじめからユキを守り、ユキも晴を頼ってとても良く懐いた。晴とユキは毎日のように遊び、次第に二人の間には戀心が芽生えていく。けれど、別れの日は突然やってくる。ユキの治療が出來る病院が見つかって、それは遠い海外にあるのだという。 晴とユキは再會を誓い合い、離れ離れになっても互いを想い続けた。そして數年後、二人は遂に再會を果たす。高校への入學式の日、包帯を外して晴の前に現れたユキ。 彼女の包帯の下は、初めて見る彼女の素顔は――まるで天使のように美しかった。 そして離れ離れになっていた數年間で、ユキの想いがどれだけ強くなっていたのかを晴は思い知る事になる。彼女からの恩返しという名の、とろけた蜜のように甘く迫られる日々によって。 キャラクターデザイン:raru。(@waiwararu) 背景:歩夢 ※イラストの無斷転載、自作発言、二次利用などを固く禁じます。 ※日間/週間ランキング1位、月間ランキング3位(現実世界/戀愛)ありがとうございました。
8 95【書籍化】ループ中の虐げられ令嬢だった私、今世は最強聖女なうえに溺愛モードみたいです(WEB版)
◆角川ビーンズ文庫様より発売中◆ 「マーティン様。私たちの婚約を解消いたしましょう」「ま、まままま待て。僕がしているのはそういう話ではない」「そのセリフは握ったままの妹の手を放してからお願いします」 異母妹と継母に虐げられて暮らすセレスティア。ある日、今回の人生が5回目で、しかも毎回好きになった人に殺されてきたことを思い出す。いつも通りの婚約破棄にはもううんざり。今回こそは絶対に死なないし、縋ってくる家族や元婚約者にも関わらず幸せになります! ループを重ねたせいで比類なき聖女の力を授かったセレスティアの前に現れたのは、1回目の人生でも會った眉目秀麗な王弟殿下。「一方的に想うだけならいいだろう。君は好きにならなければいい」ってそんなの無理です!好きになりたくないのに、彼のペースに巻き込まれていく。 すっかり吹っ切れたセレスティアに好感を持つのは、周囲も同じだったようで…!?
8 67サモナーさんが行く
リハビリがてらで。 説明を碌に読まずにゲーム始める人っていますか? 私はそんな傾向が強いです。 βテストを終え本スタートを開始したVRMMOに參加した主人公。 ただ流されるままにゲーム世界をへろへろと楽しむことに。 そんなゲーマーのプレイレポートです。
8 175【最終章開始!】 ベイビーアサルト ~撃墜王の僕と、女醫見習いの君と、空飛ぶ戦艦の醫務室。僕ら中學生16人が「救國の英雄 栄光のラポルト16」と呼ばれるまで~
【第2章完結済】 連載再開します! ※簡単なあらすじ 人型兵器で戦った僕はその代償で動けなくなってしまう。治すには、醫務室でセーラー服に白衣著たあの子と「あんなこと」しなきゃならない! なんで!? ※あらすじ 「この戦艦を、みんなを、僕が守るんだ!」 14歳の少年が、その思いを胸に戦い、「能力」を使った代償は、ヒロインとの「醫務室での秘め事」だった? 近未來。世界がサジタウイルスという未知の病禍に見舞われて50年後の世界。ここ絋國では「女ばかりが生まれ男性出生率が低い」というウイルスの置き土産に苦しんでいた。あり余る女性達は就職や結婚に難儀し、その社會的価値を喪失してしまう。そんな女性の尊厳が毀損した、生きづらさを抱えた世界。 最新鋭空中戦艦の「ふれあい體験乗艦」に選ばれた1人の男子と15人の女子。全員中學2年生。大人のいない中女子達を守るべく人型兵器で戦う暖斗だが、彼の持つ特殊能力で戦った代償として後遺癥で動けなくなってしまう。そんな彼を醫務室で白セーラーに白衣のコートを羽織り待ち続ける少女、愛依。暖斗の後遺癥を治す為に彼女がその手に持つ物は、なんと!? これは、女性の価値が暴落した世界でそれでも健気に、ひたむきに生きる女性達と、それを見守る1人の男子の物語――。 醫務室で絆を深めるふたり。旅路の果てに、ふたりの見る景色は? * * * 「二択です暖斗くん。わたしに『ほ乳瓶でミルクをもらう』のと、『はい、あ~ん♡』されるのとどっちがいい? どちらか選ばないと後遺癥治らないよ? ふふ」 「うう‥‥愛依。‥‥その設問は卑怯だよ? 『ほ乳瓶』斷固拒否‥‥いやしかし」 ※作者はアホです。「誰もやってない事」が大好きです。 「ベイビーアサルト 第一部」と、「第二部 ベイビーアサルト・マギアス」を同時進行。第一部での伏線を第二部で回収、またはその逆、もあるという、ちょっと特殊な構成です。 【舊題名】ベイビーアサルト~14才の撃墜王(エース)君は15人の同級生(ヒロイン)に、赤ちゃん扱いされたくない!! 「皆を守るんだ!」と戦った代償は、セーラー服に白衣ヒロインとの「強制赤ちゃんプレイ」だった?~ ※カクヨム様にて 1萬文字短編バージョンを掲載中。 題名変更するかもですが「ベイビーアサルト」の文言は必ず殘します。
8 80名探偵の推理日記零〜哀情のブラッドジュエル〜
突如圭介のもとに送りつけられた怪盜からの挑戦狀。そこには亜美の友人である赤澤美琴の父、赤澤勉が海上に建設した神志山ホテルに展示されたブラッドジュエルを盜ると記されていた。寶石を守るため、鳥羽警部と共にホテルに出向く圭介だったが、その前にテロリストが現れる。2つの脅威から圭介は寶石を、そして大切な人を守りきれるのか? 〜登場人物〜(隨時更新していきます。) 松本 圭介 名張 亜美 鳥羽 勇 城ノ口警部補 赤澤 勉 赤澤 美琴 建田 俊樹 藤島 修斗 三井 照之 周防 大吾 怪盜クロウ カグツチ イワ ネク ツツ ヒヤ タケ
8 98異世界転生者〜バケモノ級ダンジョンの攻略〜
pv【12000】越え! 私こと、佐賀 花蓮が地球で、建設途中だったビルの近くを歩いてる時に上から降ってきた柱に押しつぶされて死に、世界最強の2人、賢王マーリンと剣王アーサーにカレンとして転生してすぐに拾われた。そこから、厳しい訓練という試練が始まり、あらゆるものを吸収していったカレンが最後の試練だと言われ、世界最難関のダンジョンに挑む、異世界転生ダンジョン攻略物語である。
8 159